サブタイトルに名前が出ている人たちはモブ。
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、句読点、行間……
***ロウとティファの雑貨店***
アーランドの職人通りにある店のひとつ、日用品等を扱う『ロウとティファの雑貨店』。
今日もここは『ある意味』賑やかだ。
「今日はまだティファナちゃんは出てきてくれてない……」
「いや、逆に考えるんだ! 今日、ティファナちゃんからお釣りを渡してもらう初めての男になれるんだ!」
「おぉ! だけど、俺に奥にいるティファナちゃんを呼ぶのは荷が重い……」
「俺も」
「オレは……いや、やはり無理だっ!」
「うーむ……」
商品はそっちのけで店主であるティファナを見に来る男三人。
グレン、ヒューイ、バーニィ、いい歳した大の大人。
この雑貨屋に 美人の未亡人 ティファナ目的で来る客が数多くいる中、毎日のように入り浸る猛者たちである。
そんな猛者であっても、ティファナを呼ぶのは まさに勇者のごとき所業であり中々できることではなく、こうしてティファナが自ら出てくるか誰かが呼ぶのをただ待つのが彼らの日常である。
まあ、出てきたら特別何をするわけでもなく、ティファナを見て癒されて、たまに買い物をして釣り銭を受け取って満足する程度だ。
ティファナが出てきてくれるのはまだかまだかと三人が待ち続けていると、「カランッカランッ」と店の出入り口に取り付けられた鈴が鳴る。新たな客が来たのだ。
その来店客はカゴを持った小柄な少年だった。彼が両手で大事そうに持ち手を持っているカゴからは、綺麗に咲き誇る花が顔をのぞかせていた。
「彼は初めて見る顔じゃないか?」
「んー? いや、あの童顔……一回見たことがある、はずだ」
「そうか? あの変わった服は一度見たら忘れないだろう? 俺は新顔だと思う」
本当は彼ら三人が
でも、実際のところ三人は少年が初顔でも何でもよくて、ティファナが出てくるかどうかが重要であるため、少年に対する話は早々に切り上げ 三人とも視線をある一点に移す。
その視線の先は、カウンターの超えた向こう側の扉、いつもティファナが出てくる扉だ。
出入り口の鈴の音で出てきてくれないかと期待していたのだが、扉が開く気配はしない。
「また待つしかないか」と半ば諦めた三人だったが――
「ティファナさん、おはようございまーす!」
元気の良い挨拶が発せられた。
叫んでいるわけでもないのによく通る声。その声の主はもちろん、カウンターそばまで移動していた新顔の少年だった。
三人は最初こそ驚いていたが、すぐに――
「「「よくやったぞ、少年!」」」
――と、口をそろえて呟いていた。
それから、そう時間の経たないうちに扉が開き、彼ら待望のこの雑貨屋の店主:ティファナ・ヒルデブランドが姿を見せた。
「おおぉ! 今日も一段と美しい……」
「ティファナちゃん、日に日に美しくなってるように感じるよ」
「やはり、ティファナちゃんを見ないと一日が始まらないなぁ」
これこそ至福の時と言わんばかりの表情でおのおのティファナを眺めはじめる。
そんな三人をよそに、ティファナと少年――マイスはお喋りしだした。
「いらっしゃい、マイスくん」
「おはようございます、ティファナさん!」
「ふふっ、元気そうでなによりねぇ」
挨拶を交わした二人は互いに微笑む。
こうして話すのはほんの三度目だったのだが、特に何事も無く互いを受け入れることができ、ある程度は自然と会話が弾むようになる仲となっていた。
「新しいお家には慣れて、しっかり眠れてるのね」
「はい! おかげで朝からすっきりしてます。……けど、最近陽気が良くて 予定に無い昼寝をしてしまって、時々夜眠れなくなることがあって」
「あらあら、天気が良くて気持ちがいいのはわかるけど、夜眠れなくなるのはダメよ」
「いけないわねぇ」といった感じではあるが、あまり叱っている様子ではない。むしろ、先程よりもいっそう微笑んでいる。
「なんて言っても、さっきマイス君が呼んでくれるまでうたた寝しちゃってた私が言えることじゃないわよね……ふふっ」
「あっ! もしかして僕、お邪魔しちゃってましたか……?」
「気にしなくていいのよ? 営業時間なんだから。それに、今日は普段よりも調子も良いの」
楽しそうに話をする二人。
ふと、ティファナの視線がマイスの手元のカゴに移る。
「あら。お花、とっても綺麗に咲いてるわね」
ティファナの言葉から彼女の視線に気がついたマイスは、カゴをカウンターの上に置いた。
「はい、ココで買った種で咲きました。まだ、成長の早いこの二種類だけですけど、他のもしっかり育ってますよ」
「順調そうでなによりだわ。それじゃあ 全部買い取りでいいのかしら?」
「はい、お願いします」
カゴの中の花を確認しだすティファナ。
それを見た入り浸り男三人は相変わらずの様子であった。
「あぁ、なんて可憐なんだ……」
「花を持つティファナちゃん……美しい」
「もはや芸術の域だ」
お金の受け渡しを終えたティファナとマイス。ティファナは買い取った花のいくつかを手に取り、手近にあった花瓶に生けカウンターの一角に置いた。
「それにしても、本当に綺麗に咲いてるわ。私がプランターで育てたときよりも綺麗。元気も良くて長持ちしそうね」
「ティファナさんにそう言ってもらえると嬉しいです!」
「ふふふっ、ありがとう。そんなマイス君にプレゼントがあるの」
そう言ってティファナはカウンター下をあさりだし、そこから引っ張り出してきた物をマイスの前にだした。
「これは……野菜の種ですか!?」
「この前欲しがってたでしょう? 仕入れ先の人に種が余っていたりしてないか聞いてみたら、余りの種があって 譲ってもらったの。そんなに数も種類もないけど、よかったら使ってくれないかしら」
「本当ですか!? これくらいあれば、育てていけば種はドンドン増やせます! ……えっと、お代は何コールですか?」
「お代はいらないわ。さっき言ったとおりこれはプレゼントよ、一人暮らしを始めたマイス君へのお祝いなんだから」
ティファナはマイスの手を取りその手に野菜の種の入った袋を乗せ握らせた。
「そんな……本当にありがとうございます! 大切に育てますね!」
「がんばってね。それと、何か困ったことがあったら遠慮しないで相談しに来ていいのよ?」
「はい! でも、ティファナさんも何かあったら言ってくださいね。僕、なんでもしますから!」
「そうねぇ、それじゃあその時はお願いしようかしら? よろしくね、マイス君」
そう言いながらマイスの頭を優しく撫でるティファナ。
撫でられたマイスはといえば 最初は嬉しそうに受け入れていたが、ふと気恥ずかしそうに顔を赤くし、一歩さがった。
「ごめんなさいね。嫌だったかしら?」
「いえ!? 大丈夫です! そ、それじゃあ、また来ますね」
自分のカゴと貰った種を持ち一度礼をした後、駆け足で店を出るマイス。それを見ながらティファナは「あらあら」と微笑んで見送る。
なお、入り浸り男三人は――
「身長か!?身長なのかっ!?」
「いや!年齢だろう!違いない!」
「ティファナちゃんの優しさの…全てが溢れ出ていた……」
「「「う、うらやましい…!」」」
――今日も彼らはひそやかに賑やかだった。
マイスがほとんど子供扱い。仕方ないね、かわいいから。