結構ダイジェストな感じです
今回で、マイス君とミミちゃんの過去話が全て終わる……わけではありませんが、一応は終わりです
あとは、ミミちゃん視点での話が必要となりますが、それはまたの機会で…ということで
「あの……おかあさまがげんきになるおくすり ください…!」
「えっ…?」
いきなりのことでよく頭が回らず、どういうことなのかが理解できなかった
…とりあえず、順を追って頭の中で整理していく
まず、ミミちゃんっていう女の子の用件は、どうやら病気か何かで体調を崩しているお母さんに元気になってほしいから、薬が欲しいようだ
……けど、なんで街の門で待ち伏せしてまで僕に頼みに来たのだろうか?
そういえば「ぶとーたいかいに出てたマイスさんですか」って言ってたよね…?
いやまあ、最近認知度が上がったのは『武闘大会』に出たからなんだけど…何か引っかかる気が…
「あのー…?」
ひとり考えに浸っていると、いつの間にかミミちゃんが、どうかしたのかと不安そうに僕の顔を覗きこんできていた
「僕はお医者さんじゃないから、そういうのは……」
「でも、おくすりのちょーごーもできるって…」
…いったい、この子は何処でそんな話を聞いてきたんだろうか?いやまあ確かに薬の調合はできるんだけど、病気を治すとかそういう話になると別問題になる
「そういうことは、僕じゃなくて専門の人に頼んだほうが…」
僕はそう言って諭そうとしたんだけど、その途中から女の子の眉間のにシワが寄り、眉がヘニャリと歪み、目をウルウルと潤ませだしてしまった
…そんな悲しそうな顔をされると、放っておけなくなっちゃうよ
「……と、とりあえず、どんな風に元気が無いのかわからないといけないかなー?」
――――――――――――
***シュヴァルツラング家***
ミミちゃんに連れられて訪れたシュヴァルツラング家のお屋敷は、『貴族』の家としては申し分ないくらい立派なお屋敷だった。
その屋敷の中をミミちゃんに手を引かれながら、ミミちゃんのお母さんのいる部屋まで案内してもらう
その途中に出会った数人の屋敷のお手伝いさんは、何故かみんな驚いた顔をしていた
とある一室の扉の前でミミちゃんは立ち止まり、そしてその扉を開けはなった
「おかあさまー!」
「あら、ミミちゃん?おかえりなさい」
その部屋にいたのは、ミミちゃんとよく似た綺麗な黒髪をふんわりと束ねた女性
…ただその女の人は、部屋の一角…上質なベッドの上で上体を起こしている状態。顔も柔らかな笑みを浮かべてはいたけど、お世辞にも顔色が良いとは言えないくらいだった
「ただいま!」
お母さんに元気に返事をしながら、ベッドのほうへと駆け寄るミミちゃん
僕は「お邪魔します」と
すると女性は、自分のそばに来た
「ねえ、ミミちゃん。お母さん、少しお水が飲みたくなっちゃったんだけど…」
「うん!ミミ、できるよ!まっててね おかあさま!」
元気よく返事をしたミミちゃんは、先程入ってきたばかりの扉から飛び出すようにして出て行ってしまった
「あの、そこにあるのって…」
僕がベッドそばの台に置かれている水の入った容器とグラスを指差すと、女性は「ふふっ」と笑いをこぼした
「少しイタズラしてしまいましたね。…ただ、
「はい、そうです」
まだ自己紹介もしていないのに、何故僕の名前を知っているのか驚きつつも、ミミちゃんが言っていたのと同じように『武闘大会』の一件で既に知っていたのだろう…と、自分の中で結論づけた
「申し訳ありません」
「えっ」
ミミちゃんのお母さんが、僕にむかっていきなり頭を下げてきた
「前に娘が言ってました、「すごいおくすり作れるマイスってひとに、おかあさまがげんきになれるおくすり作ってもらう!」と。…あの時、私からしっかりと言っていれば、こうして時間を取らせてしまうことには…」
「いえいえ!僕が好きで来ただけですから、そんな気にしないで下さい。でも…」
僕が言葉に詰まると、ミミちゃんのお母さんは「わかっています」と頷いてきた
「自分の身体のことは、一番わかっているつもりですから…。もう、そう長くないことも」
「…ごめんなさい」
「それこそ、マイスくんが気にすることではありませんよ?」
そう言いながらミミちゃんのお母さんは優しい微笑みを僕に向けてくれた
「……むしろ、少し感謝しているくらいです」
「……?」
「娘が…ミミがあんなにいい笑顔で帰ってくるのは、本当に久しぶりでした。それに、私が体調を崩して、ふたりで行くと約束していた『王国祭』にミミひとりに行かせてしまった時、そのミミを笑顔にしてくれたのは、彼方の活躍だったそうですから」
「でも…」
何もできない僕は、今からその笑顔を奪ってしまう。そう考えると、気が気でない
……実際、帰る時にミミちゃんにポコポコ叩かれ……たくさん泣かせてしまった
――――――――――――
その後 僕は、
ある人…アストリッドさんを見つけ、今回の件を相談した
「お人好しなことは知っていたが、「大」がつくほどだとはな」
呆れ気味に言うそのアストリッドさんの顔を、僕はよく憶えている
「キミを元いた世界に帰すのとは別の意味で、そのご婦人を救うのは無理な話だ。怪我や流行り病ならまだしも、これまで長年付き合わざるをえない持病ほどのものとなると……仮に、天才である私が本腰をいれたとしても、何年かかるかわからん。タイムリミットのほうが確実に早いな」
アストリッドさんの言った「タイムリミット」という言葉が、やけに重く感じてしまう
「…もう極力、その女の子とも会わないように注意をした方が良い。どうであれ、優しすぎるキミには、この手の話は辛いだけだ」
――――――――――――
アストリッドさんに言われた僕は……それでも数日後に、再びシュヴァルツラング家へと訪れていた
いや、正確には それから何度も、街に行くたびに立ち寄るようになってた
ある日は果物を持って、また別の時は野菜を持ってお邪魔した
そして、時にはミミちゃんやそのお母さんに冒険のお話をしたりもした
ある時はキッチンを借りて、ミミちゃんのお母さんの身体に気遣った料理を振るまったりもした
最初に再び訪れた時は、ミミちゃんのお母さんは驚いていたし、ミミちゃんはかなり不機嫌になっていた
けど、何度も行っているうちに、そんなことも無くなった
そのうち、僕が何かするとなるとミミちゃんもやろうとするようになった
…というのも、ミミちゃんのお母さんが調子が良い時に、食べれるようにと果物を切っていると「ミミがおかあさまのためにするの!」と、頑張ろうとするのだ
ミミちゃんは大好きなお母さんに、自分も何かしてあげたいという想いが強いんだろう
ただ、幼いこともあり やっぱり危なっかしいので、そういう時は僕がつきっきりで教えながらミミちゃんにやってもらうことにした
そうやって、ミミちゃんが頑張って切った果物や作った『おかゆ』を、ミミちゃんのお母さんはうれしそうに食べ、笑顔で「ありがとうね、ミミちゃん」と頭を撫でていた。当然、ミミちゃんも笑顔だった
途中、思いつきから実行された『アランヤ村』への旅行などもあって行けない時もあったが、僕はそうやって何度もシュヴァルツラング家に訪れた
そして、僕がミミちゃんとそのお母さんに初めて会ってから3年もの月日が経とうとしていた頃……僕はある事を実行することとなる
――――――――――――
「『春の野菜コンテスト』ですか?」
「はい!今度、以前話した僕が村長をしている村で、初めてのお祭りを開催するんです。村の農家が自慢の野菜を持ち寄って競うイベントがメインになりますが、良かったら来てみませんか?」
「お祭り…!?行きたい!ねぇお母さま、行こう!」
「でも……」
3年の月日で少し成長したミミちゃんに言い寄られながらも、申し訳なさそうにするミミちゃんのお母さん
「大丈夫ですよ!街から村までの道のりは僕が用意している馬車がありますし、村の中での移動も車椅子を用意してます。…それに、少し恥ずかしいですけど、小さな村の初めてのお祭りですから、人が多くて困ったりすることもありません」
「……それなら、お邪魔させていただこうかしら?ねっ?ミミちゃん」
「うん!」
第一回『春の野菜コンテスト』当日
幸いなことに、ミミちゃんのお母さんも体調が良かったようで、ミミちゃんと一緒に出品されている野菜を見て回ったり、村に出ていた様々な露店をめぐる事が出来た
ミミちゃんも、お母さんも、楽しそうにしていた…
そして、その帰り道の馬車
はしゃぎ疲れたのか、お母さんの膝枕で寝ているミミちゃん。ミミちゃんのお母さんも、身体の負担を減らすために座席に取り付けておいたクッションが良かったのか、穏やかな顔をしているのが業者席の後ろにある小窓からうかがえた
「マイスくん……いいえ、マイスさん」
不意にミミちゃんのお母さんから、声をかけられた
「どうかしましたか?」
「いえ……お礼を言いたくて」
ひと息ついた後、ミミちゃんのお母さんのお母さんが改めて口を開いた
「『武闘大会』のあった『王国祭』…あの最後の王国祭の時、私は体調を崩してミミと一緒に行く約束を破ってしまった…、その話は以前にしましたよね」
「…はい」
「あの時 私は、ひとりで屋敷を出て行くミミに「
ミミちゃんのお母さんは、膝の上にある 寝ているミミちゃんの髪を優しく撫でながら言った
「あの『王国祭』が最後の王国祭になると知っていた訳ではありません。…でも、あの時、私はお医者様に「もう、1年も持つまい」と言われてたんです。なのに、あるはずのない「次」を約束してしまったんです」
僕は振り返り、小窓越しにミミちゃんのお母さんの顔を見る…
「でも、彼方がその「次」を……いえ、それ以外にもミミとの時間を、思い出を、笑顔をくれました。…私は感謝してもしきれません」
ミミちゃんのお母さんの頬には幾筋もの涙の後ができていた
…実際のところ、僕の存在によって、行動によって、ミミちゃんのお母さんの余命が伸びたという確証は無い
そもそも、これまでずっと色々とやってきたのは、僕の個人的な感情だ
「……てほしかったんです」
「えっ…?」
「ミミちゃんには、沢山の…たーくさんの大好きなお母さんとの楽しい思い出を持っていてほしかったんです。…本当に僕の勝手な気持ちなんですけどね」
本当に勝手な気持ちだった
『親』
原因不明の記憶喪失になってからは、僕には
いることも、『変身ベルト』のことを教えてくれたことぐらいは思い出しはした。でも、その顔はハッキリとは思い出せず、どっちが人間で、どっちがモンスターだったのかすら思い出せない。…もちろん、名前なんかも思い出せなかった
そして、『シアレンス』にすら帰れなくなっている今となっては、二度と会うこともできないであろう存在だ
……だから、例え もう短い時間しか残されていないのだとしても、ミミちゃんには『親』との思い出を…記憶を大切にして欲しかった
出会って間もない女の子に対して そんな気持ちを押し付けるだなんて、僕ながら本当に…本当に自分勝手だと思う
「…僕のワガママに付き合わせて、本当にすみません」
「ふふっ…どうしてマイスさんが謝るんですか?そんなこと必要ありませんよ?」
そう言いながらも、ミミちゃんのお母さんは「でも…」と言葉を続けた
「できれば、私がいなくなった後も……少しだけでもいいので、ミミの事を気にかけていただけませんか?」
「…はい!初めからそのつもりです。ミミちゃんが「嫌」と言うまでは絶対に」
視線を前に戻しながら、僕は答えた
「だって、大切な友達ですから」
…ミミちゃんのお母さんがミミちゃんに看取られながら最期をむかえたのは、それから3ヶ月後のことだった