これからも、今まで通りのテイストで今作を書いていくつもりですので、今後ともよろしくお願いします
前回のクーデリアの『絶望峠』までの護衛依頼……いや、ロロナが参加した時点で3人でのただの冒険になったから、護衛って感じは全く無かったんだけど…
まあ、それを終えてアーランドの街まで無事帰還できた
『青の農村』も、僕がいなかった間も何も問題無かったようで、みんな元気にしていた
僕が心配していたトトリちゃんも、僕らが帰還してから数日経ったころに街へ到着したようだったので、僕の杞憂に終わったようでひと安心だった
そんなある日の事……
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***ロロナのアトリエ***
ロロナが『王宮依頼』を受けていたことからの習慣で、『ロロナのアトリエ』におすそわけを持ってきたのだけど、扉をノックする前に中が何やら騒がしいことに気づき、何事かと慌てて中に入った。するとそこには……
「もう、どうしてパイになっちゃうんですかー!」
「な、なんでだろうね…。あっ、でもこれ、実はすごいことかも!?」
錬金釜の前で何か騒いでいるのは、このアトリエの主とそのお弟子さん……2人の錬金術士だ
トトリちゃんが少し怒り気味に声を張り上げ、ロロナが困ったように笑いながら手に持つ『パイ』を
「わたしとトトリちゃんが一緒に調合したら、なんでもパイにできちゃうっていう…」
「パイができたらダメなんです!もう、先生はジャマだから手伝わないでください!」
「がーん!そ、そんなぁ…」
トトリちゃんの言葉に、ガックシと肩を落として「ううぅ~…」と涙目になるロロナ
うーん、おかしいな…?トトリちゃんが師匠で、ロロナが弟子だったっけ?この構図を見ると、どうしてもそう考えてしまう
…と、そんなことを考えていると、錬金釜の前にいたトトリちゃんが アトリエに入ってきていた僕に気がついたようで、コッチを見て少し驚いたような顔をした
「マイスさん!?えっと、いつからそこに…?」
「ついさっきだよ。なんだかいつもより騒がしかったから、何かあったのかと思って入ったんだけど」
「あははは…、ごめんなさい。ちょっと色々あって……」
どういうべき迷っているのであろう、トトリちゃんは困ったように笑いながら小首をかしげていた。
そして、ロロナの方はというと……
「マイスく~ん!トトリちゃんがぁ~」ガシッ!
僕に泣きついてきた。…もう、本当にどっちが師匠でどっちが弟子なのか…いや、どっちが年上なのかもわからなくなってきた。
「もう、ロロナったら
「うぅ~…グスンッ」
ポーチからハンカチを取り出して、こっちをむいたロロナの顔を拭いてあげる。すると、それをジイーっと見ていたトトリちゃんが口を開いた
「…なんていうか、マイスさんって先生の扱いに慣れてるんですね」
「はははっ、それでもまだ
僕がそう言うと、トトリちゃんは「そうですよねー…」と諦め半分なようすで呟いていた
「まあ、ロロナの扱いっていうなら、僕よりもクーデリアが上手いんじゃないかな」
「クーデリアさんですか?」
「付き合いが長いっていうのもあるだろうけど、知っての通りクーデリアは言うところはビシバシ言うからね。…とは言っても、それと同じくらい甘やかしたりもするから……アメとムチが上手い、とでも言うべきかも?」
「へぇー、そうなんですか?私、先生とクーデリアさんが一緒にいるところを まだ見たことがないから、なんていうか想像できないというか…」
「それもそうかぁ。でも、ふたりが仲が良いのは見たらすぐにわかるはずだよ」
僕の言葉を聞いたトトリちゃんが「あのクーデリアさんと先生が…」と呟きながら何かを想像しているようだったが、それよりも復活したロロナの方に気を向けた
「それで?ロロナは、今日は何をしちゃったの?」
「うぇえっ!?マイス君、ヒドイ!まるでわたしがいっつも失敗してるみたいに言った!」
「それじゃあ、今日のは失敗じゃなかったんだね?」
僕がそう言うと、ロロナは言葉を詰まらせた。そしてその目は泳いでしまっていた。…うん、ロロナは相変わらず嘘をつけないみたいだ
「べ、別に失敗じゃ…ない、わけでもないけど…あれは…ね?」
「「ね?」って言われても…」
これじゃあ話が進まないなぁ、と少し困っている僕に助け舟を出してくれたのはトトリちゃんだった
「その、実は……」
―――――――――
「…ってことがあって」
「なるほど…」
トトリちゃんの話をまとめると、こうだった
トトリちゃんが仕事に必要なものを調合しようとした時に「わたしが見ててあげるね!」と言ってそばまで来て見学を開始。しかし、そんな近くで師であるロロナが見ているとなると、トトリちゃんは調合に集中できるはずがなかった
「緊張しちゃうんで…」とトトリちゃんが言うものの、ロロナが「ええー?気にしなくていいのにー」と拒否(?)したそうだ。
…そして、そこでロロナのいつもの思い付きが発動したらしかった
「あっ、そうだ!ふたりで一緒に調合してみよー?」
それはひとつの錬金釜での調合を2人でかき混ぜてみるというものだったらしく、トトリちゃんも興味があり承諾したそうだ
でも、問題はそれからだったらしい
というのも、薬でも何でも調合しようとしたものは、結果的に全部『パイ』になってしまったそうだ
「それで、仕事の調合が進まないトトリちゃんが怒っちゃった、と」
「はい…」
僕の言葉をトトリちゃんは肯定した。
それを聞いていたロロナにも後ろめたさは少なからずあったのだろう、申し訳なさそうに顔を伏せがちにしていた。だけど、すぐに顔をパッと上げいつもの明るい調子で口を開いた。
「でもねでもね、これってとっても凄いことだと思うんだ!」
「凄いかどうかよりも、まず受けている仕事を優先しようよ。『パイ』はその後で良いじゃない」
「うぅ…はぁーい…」
ションボリと肩を落とすロロナに少し呆れながらも「ああ、いつものロロナっぽいなぁー」なんて思いながら、僕はここからどうフォローを入れるかを考えてみた。
…と、そんな中、ロロナがまた顔をパッと上げて「そうだ!」と手をポンと叩いて微笑んだ。
「せっかくだし、マイス君もトトリちゃんと一緒に調合してみようよ!」
「「えっ」」
ロロナの提案に、僕とトトリちゃんがつい声をあげてしまった。いやだって、仕事のための調合を急ぐべきだろうって話をした直後にこの提案なんだから、それは驚きもするだろう。
「ロロナ、さっきの話聞いて…」
「でも、面白そうかも…」
…トトリちゃんは何を言っているんだろうか…?
この時あることに気づいた。さっきあったっていう騒動も なんだかんだ言ってロロナの提案を受け入れてノッていったトトリちゃんにも非があるような気がすることに…
「そうだよ!やってみよう!ね?」
「はい!きっとマイスさんなら大丈夫な気がします!」
はしゃぐロロナとそれにのるトトリちゃん。…しかも、なんだかハードルが上がった気がしてならない
でも、この空気の中で断ってしまえるものだろうか…。いや、無理だろう…。でも断りたい…
「…わかったよ。ただ一回だけだからね?」
そう言いながら僕は『秘密バッグ』からまずは調合用の杖を引っ張りだす。そして、素材を入れているコンテナに繋がっているもう一つの『秘密バッグ』を取り出す
「それで、トトリちゃんは最初何を調合しようとしてたの?」
「えっとですね、高品質の『中和剤』をつくろうかと思って」
「なるほど、確かに品質の高い『中和剤』があれば、これから先つくる調合品の品質の底上げができるからね。…それじゃあ、調合素材にはこのあたりがいいかな?」
僕は『秘密バッグ』から素材をいくらか出して、品質や特性を確かめ選別して調合に使うものを選びだした。そしてそれらを錬金釜のほうまで持って行く
「えっ!?マイスさん!?素材をこんなには貰うのはちょっと…」
「いいよいいよ、気にしないで。ロロナとの調合で『パイ』になっちゃった分が帰ってきたと思ってくれたらいいからさ。受け取ってよ!」
「な、なら…」
トトリちゃんは僕から素材を受け取り、そのうちのいくつかを錬金釜の中へと入れた。そして杖を持ち、僕の方へと向きなおってきた
「それじゃあ、やってみましょうか!」
「うん!わかった」
そう言って、トトリちゃんと僕は錬金釜の前に立ち、並んでそれぞれの杖で釜の中をかき混ぜはじめた
ロロナはと言うと、僕らから少し離れた位置からコッチをジィーっと見てきていた。そして、少し頬を膨らませながら僕らに言ってきた
「なんで「ぐーるぐーる」って言わないのー?」
「いや、元から僕は調合の時にそんなことを言ったりしてないからね…?」
「先生、調合中に話しかけて集中を乱れさせないでください!」
「がーん!なんだか、今日はトトリちゃんが冷たいよぉ…」
クスンッと涙目になりながら数歩下がり膝を抱えて床に座りこむロロナ…。
……なお、トトリちゃんは調合のほうに集中しているようで気づいていないようだったが、ロロナは時折こちらをチラッチラッっと見てきては「よよよ…」と何真似をして気を引こうとしていた……もう一度言うけど、トトリちゃんは気づいていなかった
トトリちゃんと2人で釜を混ぜ続けること十数分……
ポフンッ
錬金釜の中から音が聞こえた。どうやら無事調合が終わったようだった
杖を釜から出したトトリちゃんと僕、そして膝を抱えて座っていたロロナが駆け寄って来て、3人そろって釜の中を覗きこんだ
そして、調合で出来上がったモノを僕が掴みあげてみせた
「……マイスさん、それ『中和剤』じゃないですよね、どう見ても」
「いちおう『パイ』でもないけどね」
「マイス君…それって」
ロロナの言葉に僕は頷いて、これが何なのかをハッキリと口にする
「『種』…『アクティブシード』だね」
そう、僕としては馴染の深い『種』だ。それも
「でも、なんだか見た目が違うような…」
「一言で『アクティブシード』って言っても色んな種類があるからね。…でも、コレは僕も見たことが無いなぁ…」
「そうなんですか?」と少し驚くトトリちゃん。そんなトトリちゃんにロロナが首をかしげながら聞いていた。
「あれ?トトリちゃん、あくてぃぶしーどのこと知ってたの?」
「前にマイスさんが見せてくれて。その時はハスライダーっていう…」
そんな2人を見ながら、僕はこの『アクティブシード』がいったいどういうものか確かめるために、手に持つ種をポイッと床に落してみることにした
そして、そこからあらわれたのは……
直径1メートル弱の皿のようになった葉、その中央には花のツボミのようなものがついていた
その見た目に、僕は少し覚えがあった
「これは『水場草』?」
『水場草』というのは、いつでもどこでも綺麗な水が湧きだしてくる『アクティブシード』だ。今、目の前にあるものはソレに似ていた
違いがあるとすれば……色合いが濃くなっていることと…本来水が溜まっているはずの刃の皿に何も溜まっていないことだろう
「やっぱりハスライダーとは違った感じですね」
…と、トトリちゃん。そしてロロナはといえば、ツボミのような部分をチョンチョンと指でつついている
「わあ!?何か
「本当だ…なんだろこれ?」
「『水場草』と同じ感じだけど……水じゃなさそうだ?」
溢れ出してきている薄緑色の液体をよく観察してみる…
「「ええっ!?」」
「ふぇ?トトリちゃんもマイス君も、いきなりどうしたの?」
僕が『アクティブシード』から湧き出しているものに気がつくのとほぼ同時に、トトリちゃんも同じことに気がついたようで、同じタイミングで声をあげてしまった
「ま、マイスさん。これって…!」
「うん……湧いてきてるの、全部『中和剤』みたい。それもかなり高品質の」
いうなれば『中和剤版水場草』といったところだろうか
そんなこんなで、結果的にトトリちゃんは調合しようとしていた『中和剤』を思う存分入手することができたのだった……