***男の武具屋***
『
「おやじさん!頼まれてた物 調達してきましたよ!」
僕が少し声を張り上げ気味に話しかけて やっと僕に気がついたようで、おやじさんはキリのいいところで手を止めて槌を置いて こちらに向きなおった
「おお、相変わらず仕事が早くて助かるぜ!」
「この麻袋の中に入れてますから、確認をお願いします」
「おうよ!ちょいと待ってろよ」
僕が渡した麻袋を受け取ったおやじさんは、麻袋の口を開き 中の鉱石系アイテムたちを確認していった
そして、一通り確認し終えたおやじさんが僕のほうに向きなおり、軽快な笑顔をして頷いた
「頼んでたとおりのモンだったぜ!ありがとよ、ボウズ」
「いえ、おやじさんには相談にのってもらったりしてますから。お互い様ですよ」
「そうか?んじゃあ、また 何か俺にできることがあったら相談してくれよな。コッチもまた頼むからよ」
「はい!その時はよろしくお願いします!」
僕が返事を返すと、おやじさんも「おうよ!」と力強い返事を返してきてくれた
「しっかし まあ、このレベルのモンの調達を頼むとなると、やれそうな『冒険者』あんまりいなくてよ。実力も目利きも良いボウズに頼むのが一番でな」
「あはは、そう言ってもらえるなら嬉しいです」
「おっと、『冒険者』といやあ、嬢ちゃんの弟子の嬢ちゃんが ウチに来るようになってよ。最近は また嬢ちゃんの事やってたみたいに、嬢ちゃんやその友達の武器や防具をオーダーメイドで作るようになったんだ。そういや、嬢ちゃんに初めて会ったのは今から ちょうど1年くらい前になるっけか…」
「嬢ちゃん」が乱立して、どっちの嬢ちゃんが どっちの事なのかが わかりにくいが……おそらくは、ロロナの弟子のトトリちゃんが『男の武具屋』に武具を作ってもらいに来るようになった…って話だろう
口が回り始めた おやじさんは中々止まらないことを思い出して「どうしようかなぁ…?」と思ったけど、よくよく考えると今日は別に急ぐ用事も無い事に気づいた。なので、そのまま おやじさんの話に付き合ってみることにしたのだった…
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***職人通り***
「また来いよ!」
「はい!それじゃあ 失礼しましたー」
店から出て 扉を閉め切る前に店内から聞こえてきたおやじさんの声に返事をして、改めて扉を閉める
「ふぅ…結局1時間くらい喋っちゃったなぁ」
おかげで『男の武具屋』内の熱気に慣れてしまった身体が、夏へとさしかかろうとしはじめた街の風を冷たく感じてしまっている
「さて…と」
それじゃあ帰ろうか…と、街の出口である門がある場所へ行くための道のほうを向いた ちょうどその時のことだった
ガチャ
開いたのは『男の武具屋』の隣……『ロロナのアトリエ』の扉だった。そしてそこから出てきたのは……
「ふう、これでひと段落。あとはー……あっー!マイス君だー!!」
「ロ、ロロ…ロロナぁ!?」
ここ数年、旅に出たまま 街に全然帰ってきていなかった友達…ロロナだった
満面の笑みを浮かべたロロナは、こちらに駆け寄って来て、来て、来て……え?
ガシィ!
「えへへぇーマイス君 久しぶり~!元気にしてたー?」ギューッ
「ちょ、ロ…ロナ、苦し……!」
思いっきり抱きついてきたうえに、ガッシリ掴んできて、それでもって
苦しいやら、恥ずかしいやら……幸い周りに誰もいなかったからよかったものの、これはいかがなものだろうか?…って、なんだよく考えてみると「いつものロロナ」じゃないか
「それ でも、苦し…いもの は苦しいん…だけど、ね…」
「ふぇ?…あっ、ごめんねマイス君!久しぶりに会えたのが嬉しくて…」
僕が苦しがっているのに気がついてくれたロロナは、ホールドを解いてくれた
「ふぅ…助かった。…それに「久しぶり会えた」って、会えなかったのは ロロナが全然帰って来なかったからなんだけど?」
「えへへ…それはー」
笑って誤魔化そうとするロロナに対し 目を細めると、ロロナはズーンっといった雰囲気になり「…ゴメンナサイ」と謝った
うん、こういう素直なところもロロナらしい
「それで、いつの間に帰ってきたの」
「ついさっきだよ。ちょっとやることができてね」
ついさっき…まあ、そうだとは思った。なぜなら、僕は『男の武具屋』に行く前に一度『ロロナのアトリエ』の様子を見に行っていた、そしてその時 アトリエに誰もいないことは確認していた
ということは、僕が『男の武具屋』でおやじさんと喋っていた約1時間の間に帰ってきたのだろう
おやじさんの話に付き合って良かったと心底感じた。だって、あの時すぐに帰っていたら こうして帰ってきたロロナに会うことは出来なかっただろうから
「そうだ!立ち話もなんだから アトリエに寄っていってよ!」
ロロナの提案に、僕は断る理由も無かったから 頷き、ロロナに手を引かれてアトリエへと入った…
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***ロロナのアトリエ***
「一応 途中までは掃除したけど…まだ散らかってるけどゴメンね?」
「…いや、いたっていつも通りだと思うけど…?」
「それって 私のアトリエがいつも散らかってるってこと!?」
「うーん…否定できない」
「そんなぁ!?」
涙目になるロロナを「まあまあ」と苦労しながらも ひとまず落ち着かせた
そして、アトリエの一角に置いてあるソファーに並んで腰をおろした
「ねぇ、さっき「やることができた」って言ってたけど…?」
先程、アトリエの外で話していた時に聞いた内容のことを尋ねると、ロロナは「そうなんだぁ」といつも通りのノンビリした調子で話しだした
「前に話したことあったよね?わたしが『錬金術』を教えたトトリちゃんって弟子の娘のこと。そのトトリちゃんに久しぶりに会ったんだけど…」
「トトリちゃん?
「そうそう!トトリちゃん、わたしが知らないうちに『冒険者』になっちゃってて……って、え?手伝ってる?」
ポカンと口を開けて呆けた顔をするロロナに、トトリちゃんと会い、手伝うようになった経緯を簡単に説明する
「トトリちゃんが免許取得更新か何かでギルドに来た時にクーデリアが「何か困った時はコイツに頼ってみるといいわよ」って紹介したらしくて、それでウチに来たんだ。…で、実は僕、前に『アランヤ村』に行ったことがあって、その時トトリちゃんにも会ってて……そんな縁で最近時々だけど手伝ってるんだ」
「へぇ、そうだったんだ…!それじゃあ、トトリちゃんがお母さんを探してるってことも?」
「うん。知ってるし、トトリちゃんのお母さんには会ったこともあるよ。……今、どこにいるかまでは知らないけどね」
…ロロナに「トトリちゃんのお母さんは外洋に向かった」っていう話をしようか迷った。けれど、グイードさんからの口止めの件もあるし……ロロナは嘘はつけない、隠せないタイプだから、話さないほうがいいだろうと判断した
それにしても、トトリちゃんの話が出てきたってことは、ロロナが言ってた「やること」って、もしかして……
「あのね、わたし、トトリちゃんのお母さんを探すの、手伝おうと思うの!」
「そっか。トトリちゃんも先生のロロナが一緒だと心強いだろうね」
「そのうえ、マイス君が一緒ならさらに安心だね!!」
胸を張って誇らしげに言うロロナを横目に見ていると……少し、罪悪感があった。でも、ここで本当の事を話したら……
「……どうかしたの?マイス君?」
「ん?ううん、いや、なんでもないよ」
そうだ。僕はグイードさんから話を聞いた時に決めたんだ。「ギゼラさんの事を信じる」って。だから、トトリちゃんのお仕事を…一人前の『冒険者』そして『錬金術士』になるためのお手伝いをするって
僕はもう一度心の中でそれを誓い、心を切り替えた
「それでね、今さっき帰って来てから、トトリちゃんのお手伝いの下準備するためにアトリエを片付けてて…あっ!そうだ!」
ロロナがいきなりポンッと手を叩いたから何事かと思ったんだけど、その顔を見てみるとあからさまに「良い事思いついた!」という笑顔だった
「今度は何を思いついたの?」
「えっとね、わたしがいない間にトトリちゃんがこのアトリエ借りてたんでしょ?だったら、これからの事考えたら『錬金釜』がもうひとつあったほうがいいかなーって!」
「ああ、なるほど。ロロナ用とトトリちゃん用にってことだね」
確かに、ふたりでひとつの釜を使うのは無理があるだろう。別々のモノを作りたかったりすることがほとんどなわけだから、ふたつ用意するのは至極当然だろう
「じゃあ、そのふたつ目の釜を置く場所を確保するためにも、アトリエの中をしっかり片付けないとね!僕も手伝うよ!」
「本当!?それじゃあ、まずはー…」
その後、片付けの最中にたまたまアトリエ前を通りかかったクーデリアが、ロロナが帰ってきているのに気がついてちょっと騒がしくなったりもした…
でもまあ、長い間帰って来なかったんだから、クーデリアから説教をされるのも当然だよね