アラガミ生活   作:gurasan

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No Way Back

 サクヤの部屋。そこではリンドウが貰った配給ビールをその場で空けて寛ぐという暴挙が行われていた。しかし、二人の関係を考えればそれほどのことでもないのかもしれない。

「そういえば今日は総司とチームだったよな?」

「ええ。あれ以来こっちまで復旧作業か防衛に回されてたから久々の遠征で不安もあったけど、特に問題なかったわよ」

「……問題無い、か」

 それは本来ならありえないことだ。サクヤの腕が良いというのもあるかもしれないが、それでもリンドウから見ればサクヤはまだベテランとは言い難い。それでなにも問題が無いというのも妙だ。

「おまえから見たあいつの評価はどうだ?」

「そうね。たしかに新人にしてはそつがなさすぎる気もするわね。たしか、あの事件の時が初の実戦だったわよね?」

「そのはずだ。ただ俺が二人を拾った時には既にヴァジュラと鬼ごっこしてたからな」

「あれは驚いたわね。ゴッドイーターでもないのにあの身体能力」

「……マーナガルム実験か」

 リンドウはサクヤに聞こえない程度の小声で呟いた。

 彼の脳裏に浮かんだのはとある計画を追う内に知った一つの実験と一人の同僚の姿。

 マーナガルム計画とはいわばオラクル細胞を胎児に埋め込むというもの。そうやって生まれた人間は一般的なゴッドイーター達と違い、ハーデスという腕輪がなくとも自分自身で偏食因子を創り出すことができる。

 しかし、とある事件が起こり、マーナガルム計画は凍結となった。実験が開始されたのが2053年で凍結されたのも同年のこと。

 二人の新人総司と葉月は自分達にもオラクル細胞のようなものが組み込まれていると言っていたが、二人の年齢を考慮すると2050年にはマーナガルム実験のような実験が行われていたことになる。

 それともハーデス無しでオラクル細胞を組み込む技術があるのか?

 それに、もしかしたら支部長が行おうとしている計画とも関係があるのかもしれない。

「……ちょいと訊いてみないとな」

 リンドウがそう呟いた時、警報が鳴り響いた。

「警報?」

「またか!」

 リンドウとサクヤはすぐさま部屋を出てエントランスへ向かった。

 

 

 

 

 一方、総司と葉月はエントランスではなく、新型神機の研究開発が行われている研究区へ向かっていた。

「なんでこっちなんだ?」

「まだ理性が残っているとして、竜馬が真っ先に狙う場所は十中八九出撃ゲートです。なんといったってあそこには神機がありますから。ゴッドイーターも神機がなければ運動能力が高いだけの人間です」

 原作でもオウガテイルの侵入を許しているが、侵入自体が稀のためそもそも入口に近いのだ。

 そして、そこに安置されている神機はゴッドイーターの生命線。

 神機は武器や盾になるだけというわけではない。たしかに神機がなくともある程度の身体能力はある。ベテランのゴッドイーターなどは引退後でも鉄骨を投げることが出来るほど。

 しかし、神機を接続すればそれ以上に身体能力も上がるのだ。なぜならばそもそも身体能力を上げているのが、神機から送られる偏食因子の力によるものだからである。そして、多くのアラガミを捕食し、強化された神機の方が身体能力の上げ幅も大きい。ようは最前線で戦い続けたリンドウのブラッドサージやイヴェイダーとペーペーの新人が持つナイフや汎用シールドでは偏食因子の質が違うのだ。

 ガードをしなくとも装甲を強化すれば防御力が上がるというのはこういうわけである。ヴァジュラの装甲を使い、その偏食因子を受け取っている状態なら、当然ヴァジュラの電撃にも耐性がつく。ソーマの言っていた予防接種という言葉はそういう意味でも的を射ているかもしれない。

 他にもスキルなどは神機依存。ゲームと違って回復錠やOアンプルなどの薬物を投与する場合も神機から取り込めば静脈注射よりも早く、即座に効果を発現させることが出来る。特に強制解放剤は神機から取り込み、ハーデスを通して投与しないとかなり危険な薬だった。

 このように攻撃手段以外にも多くの恩恵を与えてくれるのが神機である。

 つまり、神機が使えないという状況になった場合、その時点で詰みといっても過言ではない。

「だったら出撃ゲートに向かうべきじゃないのか?」

「そんなの警報が鳴った時点で手遅れだと思いますよ。それに出撃ゲートの次は通路とエレベーターだと思います。そうなると出撃ゲートに置かれてない神機を回収するのが先です」

 時間が経てば経つほど、竜馬とおそらくいるであろうザイゴート達は移動手段を潰していく。そうやって相手の行動を制限した上で潰すのが竜馬のやり方。

だからこそ総司は動ける内に神機を回収しようと考えた。神機さえあればいざというとき壁を壊して移動できる。むしろなかった場合は閉じ込められた上に毒ガス地獄なんて事態になりかねない。

「なんにせよ色々と手遅れになる前に急ぎましょう」

「というか相手が竜馬なのは確定なんだな」

 放送で流れたのはアナグラ内にアラガミが複数侵入という情報だけだった。信号の弱い発信機といい、精度に欠ける観測隊といい、どうにもこの時代、この世界の人間側は情報収集が弱い。

「装甲壁に被害なく、直接アナグラを攻めてくるアラガミなんていませんよ」

 総司や葉月からすればアラガミ装甲壁にアラガミが近づいた時点で知らせて欲しいものだと常々思っていた。ヨハネスは軍隊を旧人類と言っていたが、兵站に関しては確実に退化している。正直いえば神機でさえ兵器としては欠陥品だ。ゴッドイーターでなくとも使えるという点で唯一及第点なのがアルダノーヴァ。しかし、死後アラガミ化することを考えるとこれも欠陥品の枠を出ない。どれもこれも汎用性が低すぎる。

 それらの問題をゲームだからといって済ませられるほどの余裕は総司達にない。だからこそ葉月の力が必要なのだと総司は考え、一刻も早く立ち直って貰いたかった。

 あわよくばこの事件を機に、と考える打算的な自分に総司は心中で溜息を吐いた。

 

 

 

 

 総司の予想通り、リンドウとサクヤ、それに加えてソーマなど他のゴッドイーター達がエントランスに集まった時には既に出撃ゲートとそこへ繋がる通路は瓦礫の山に埋もれ、出撃ゲートへ繋がるエレベーターも停止していた。それでも神機整備兵であるリッカの機転で、神機を壊される前に収納できただけまだマシな方といえる。

「どうすんだよ! 神機がなきゃ戦えねえぞ!」

 シュンが言った。

「……蹴り飛ばすぐらいは出来るだろ」

「それはお前ぐらいだと思うぞ」

 無茶を言うソーマにリンドウが煙草をふかしながら返した。リンドウは余裕そうに見えて、実はそれなりに焦りつつも考えを巡らせている。

 状況は極めて悪い。ザイゴートの毒とアナグラの相性が悪いことは前回の襲撃でも分かっている。ゴッドイーターならまだしも一般人では毒で即死しかねない。それほど進化を遂げたアラガミの毒は強力だ。

「ともかく非戦闘員の避難が最優先だ。特に地下にいる奴らは上に移動させとけ。後、神機をメンテナンスに出してる奴はいるか?」

「俺だ」

「わ、私もです」

 リンドウの問いにメンテナンスはマメに行うブレンダンとカノンが名乗り出る。

「よし。なら二人はすぐに神機を取りに行け。他の奴らは非戦闘員の誘導。敵に相対した場合は時間を稼げ、だが決して無理はするな。分かったか?」

 リンドウの言葉に全員が頷き、即座に動き始める。

「随分とリーダーらしくなったな」

 ツバキがリンドウに言った。実は先日ツバキが引退した時にリーダーを引き継いだのである。

「姉さんも引退したとはいえ、神機はまだ使えるんだろ? それならちょっと手伝ってくれると有り難いんだが」

「当然だ。それともう教官だ。姉さんはよせ」

「へいへい」

 軽口を交わした後、ツバキはまだ引継ぎが完了していない元自分の神機を取りに向かった。

「そういや新人の二人はどこ行ってる?」

「そういえば見てないわね」

「ちょっと待ってください」

 リンドウとサクヤの言葉を受けてヒバリが機械を操作し始める。するとそこへタイミング良く葉月から連絡が入った。

「あっ、葉月さん。今はどこに……、新型二つを回収した所? はい、こちらは今、非戦闘員の避難と誘導を始めました。後は出撃ゲートに置かれていない神機の回収も。それで、総司さんは? えっ! オウガテイル特異種との戦闘に向かった!?」

「一人でか?」

 思わずリンドウが口を挟んだ。

「えっ? あれ? 葉月さん?」

 しかし、そこで葉月からの通信は途切れる。通信障害が発生したわけでも、電源が落ちたわけでもない。急いだ様子の葉月が通信を切ったのだ。

 そして、最後に残された言葉はオウガテイル特異種との戦闘に手出しは無用という忠告じみた言葉だけだった。

 

 

 

 

 総司は回収した神機で壁を壊して外へと飛び出した。

 そこは地上何十メートルという高さだったが、ゴッドイーターとなった総司には関係ない。落下しながらもポケットから一つのケースを取り出し、宙へ放ったそれを捕食形態に移行した神機で捕食する。

 そのケースに入っていたのは体力増強剤、スタミナ増強剤、Oバイアルがそれぞれ三錠ずつと超視界錠が一錠。その名の通り体力とスタミナとオラクルパワーを底上げするための薬とアラガミを感知するための薬。いわゆるドーピングである。しかし、この世界にドーピング禁止なんていう甘っちょろいルールは存在しない。まさしく食うか食われるかの世界。だからこそ総司は任務開始時すぐに使うこのケースと、他にも別の種類の薬をまとめたケースを常に複数携帯している。

 着地した総司はすぐさま竜馬の気配が感じられる方向へ走る。総司の神機はショートブレードだが、ゲームとは違ってアドバンスドステップなどと言うものはこの世界に存在しない。ただ単純に軽くて小さい分、移動と取り回しが楽というだけである。使えないと思うかもしれないが隙が小さく、使いやすいというのはリアルな戦闘の場合、決して馬鹿に出来ない。一方、リーチの問題もあるのだが、そこは新型なので銃形態を使えばいいと総司は考えていた。

 しかし、葉月の神機はバスターにブラストである。基本的に運が良い彼女はロマン武器の方が逆に効率が良かったりするのだ。それがゲームであれ、現実であれ。

 そんな彼女はアナグラ内でザイゴートの討伐に追われていた。超視界錠で場所を割出し、すぐさま現場に向かう。連絡を切ったのも外から壁を壊して入ってきたザイゴートが、近くまで侵入してきていることが分かったからだった。

 総司の予想だと竜馬が二人と戦いたくない場合は、二人の内どちらかが竜馬の前に出てきた時点で逃げるとされている。そして、竜馬が退けばザイゴード達も退くと考えられ、実際にその通りだった。

 竜馬の元へ急行した総司だったが、竜馬は気配を感じるや否やすぐさまアナグラを飛び出て、装甲壁の向こうへと走り出す。

 ここでアナグラ外から先回りしていたこととドーピングを行っていたことが功を奏し、とうとう総司は壁外で竜馬と対峙することに成功した。

「……竜馬」

 総司が呼びかけるも返事はなく、竜馬は総司に背を、いや尾を向けた状態で首を僅かに捻り、総司の様子を伺っている。その姿は写真に載っていたのと同じで、身体のほとんどは神機の捕食形態に似た黒い触手に浸食されていた。そして、口にはサリエルのスカートを模した神機を咥えている。

 なにも返さない竜馬に焦れた総司は神機を構えず、だらりと手に下げたまま竜馬に近づいた。一歩、二歩と歩み寄り、三歩目の足を地に付けようとしたところで竜馬が動きだした。

 勢いよく振り返り、咥えた神機を横凪ぎに振るう。総司が咄嗟にもう一本の足で後ろへ跳んでなければ、頭が胴体と泣き別れをしていたことだろう。

 ただ、動きを見てから避けることが出来る程度の攻撃だった。それが意味することを総司は感じ取る。

「……決別、ってことね」

 距離を取った総司は沈痛な面持ちで神機を構えた。

「前にふざけて戦おうって言ったけど、実際そんな風に思ってたわけじゃないんだけどな。竜馬だってそうでしょ?」

 当然だと言わんばかりに竜馬は短い唸り声を上げる。でもそれだけ。歩み寄りはしない。

「葉月さんならその神機を戻せるかもよ?」

 その問いに竜馬は答えない。

「……もう遅いか」

 お互い既に立場が違う。そしてお互いの仲間が被害を受けた以上引き返せないところまで来ている。竜馬からすれば二人を信用することが出来ても他を信用することが出来ないし、二人以外が竜馬を信用することもないだろう。

 種族の差はとてつもなく大きい。人種でさえ揉めるのだから当然だ。話が通じなければ力づくしかない。

 公に総司と葉月がこのアラガミは良いアラガミなんですと言ったところで動物園かペットレベルの扱いにするのが精一杯だろう。それならば隠すしかないが、今の二人にそんなコネと余裕はない。なによりそれは拾ったネコを隠れて飼うのに近いもの。そんなのは人の扱いじゃないと総司は考える。

「葉月さんだったらそれでも諦めないんだろうけど」

 だから竜馬を追うのはよそうと言ったのにと総司はもしもの可能性に思いを馳せて、考えるのを止めた。

 難しい問題はともかく、匿うにしろ、野放しにするにしろ今のいつ暴走するともしれない状態で放置するわけにはいかない。選択を誤れば多くの人の死にも直結する。

 だからこそ無理矢理にでも竜馬を葉月に引き渡し、その身体を調べなければならない。ただそれを竜馬が了承することはないだろう。今の竜馬には他に優先することがある。そのことを総司は分かっていた。そして、竜馬自身が相当追い詰められていることも。

 理性は残っているのだろう。ある程度は。

 しかし、予断を許さないほど不安定であることも総司は見抜いていた。

「……はぁ、竜馬と喧嘩するのは小学校以来だっけ」

 溜息を吐きつつ総司が取り出したのは先程とは違い、強敵限定の戦闘開始直前用ケース。その中身は筋力増強錠、体躯増強錠、そして強制解放剤。前二つはそれぞれ攻撃力と防御力を上げ、後者はスーパーサイヤ人の如きバースト状態になれる薬だ。その代償として体力がほとんど削られる。ただしゲームと違って効果が切れたらの話。効果がある間はむしろどんなに体力が低くても動き続けることができる。

 放り投げたそれを神機で捕食すると、すぐさま体中をエネルギーが駆け巡り、力が湧いてくる。まるで全身を流れる血液が沸騰し、脈打つ心臓の音が外にまで聞こえてくるような錯覚とともに途方もない昂揚感をもたらす。血湧き肉踊るとはまさにこの状態を指すのだろうと総司は思った。

 総司がその身に持つキュアオールの維持する特性により、薬の効果は下がる。しかし、その分持続時間は長い。スキルでいうならアイテム効果減少とアイテム効果持続増加が常に付加されているのと同じ。

 よって薬の恩恵を受けていられる時間は約二分間。その間に決着を付けられなければ、薬の副作用でほぼ総司の負けが決まる。

「まあ、仕方ない」

 総司と竜馬は同時に大地を蹴った。

 




 この時点での総司君の装備

剣:ナイフ改
銃:ファルコン
装甲:回避バックラー
制御ユニット:プロトタイプ
強化パーツ:なし

 補足

 竜馬君は入り口から侵入したが、ザイゴート達はあらゆる所から壁を壊して中に入り、暴れまわっている。それに応対しているのが、葉月、ブレンダン、カノン、ツバキさんの四人。リッカさんは原作のように神機を収納しつつ、その後瓦礫に埋もれたものの生存中。
 そして、竜馬君の状態はそれなりに危険。
 いまだにメディとの意思疎通は出来ず、一方通行。
 過労気味の竜馬君を労わって、メディが捕食で得たエネルギーのほとんどを触手伝いに竜馬に明け渡し、それでは神機の進化が進まないことから竜馬君がより一層頑張り、そうするとメディがそれをカバーするため、より一層神機からの侵蝕が進むという悪循環。全ては意思疎通が出来ないのが原因。
 今の竜馬君はキュアオールのおかげで起きている時は理性が残っているものの、アラガミ化しつつあったリンドウさんの如く、意識が途切れることがたまにあり、それが気にならないというレベル。もう言葉と文字の関連付けが出来ないため、筆談も不可。
 つまり、かなりヤバいがシオに会えばワンチャン。

 ちなみに薬を捕喰で摂取するのは総司君達が来てから始まった。薬ってそんなに早く効かなくね?
 という疑問を解消するための捏造設定。そして、空中ジャンプもオラクルパワーを使うという設定。じゃあ、二回以上跳べるじゃんとなるが、はい、跳べます。この二次ではね。ただし水の上を走るバジリスク並みの頑張りが必要。
 

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