スクールアイドルの一存   作:クトウテン

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第四話 繋がり始まる物語

廃校。

 

早朝、学校に来てみれば廊下中にはられた張り紙にはでかでかとそう書かれていた。

 

「ついにか……」

 

理事長も覚悟を決めたらしい。

 

「へ、あ……は、廃校……?」

 

そんなことを考えていると、隣からそんな声が聞こえた。

チラリと目を向けるとそこにいるのは茶色の片結びの髪をひょこひょこと揺らしながらまるで世界の破滅を見たかのような顔をする女子生徒だ。

 

「ど、どうしよう……これじゃあ私の……あ、あわわ……ふにゅぅ」

 

その言葉を最後に彼女の体から力が抜ける。

 

「うえぇ!?」

 

気絶するほどショック!?

いや突っ込んでる場合じゃねぇ!

 

もはや脊髄反射の如き動きで後ろに倒れこむ彼女の頭に手を差し入れひとまず倒れても頭は打たないようにする。

 

いや、なんかすげぇいい匂いする! 女の子の匂いだ! ふひひっ!

おっと違う。

 

中途半端な体制から動いたせいか倒れるのを阻止することは出来ずに―――そのまま彼女ごと地面に倒れこむ。

 

「う―――お、ぉ」

 

ドスンッ。

 

結果、彼女の頭を抱え込むようにして地面に倒れ込み―――押し倒すような形で彼女は無事に済んだ。

 

「ふぅ、あっぶねー! いやー助かってよかったよかった」

 

んーと、とりあえずどうしようかこれ。

保健室に運ぶか。

 

「ほのかー? どこにいったんで……す…………か」

「ほのかちゃーん? ……わ、わぁ」

 

そして声が後ろから聞こえた。

可憐な声だ。少し生真面目そうなきらいがあるが、透き通る美声と、幼げの残る、ほんわりと包み込むようなソプラノの声にそちらを見る。

 

目が合う。

 

そこにいたのは声によくマッチした青い髪を長く伸ばした女子生徒と、あれ? なんかどこか出会ったことのあるような顔の女子生徒だった。

そんな可愛い彼女達は、俺の現状―――つまり女子生徒を押し倒している現場を見て硬直している。

 

「……貴方、ほのかに一体何をしたんですか……」

 

聞こえてくるのはまるで地の底から這い出てきた怨霊の様な低い声だった。

 

さすがにビビらざる負えない。

 

「いや、待て待て待て! 俺は倒れた彼女を助けて! つまり俺は無ざ」

「問ッ答ッ無用ォ!」

「ばるさんっ!」

 

思いっきりふっ飛ばされて宙を舞い数回バウンドして地面へと着地。

 

……あ、あれ? ここ碧陽じゃないんだよな? なんでだろう、すごいデジャブしか……な……い。

 

そこで俺の意識は一旦途切れた。

 

 

 

 

「本当に申し訳ありませんっ!」

 

で、目が覚めたら。

 

目の前で美少女が平謝りしてきた。あ、というか先輩だったんですね。

 

どうやら俺があの女の子を助けた場面を見ていた人が居たらしく後に話を聞いて、という事らしい。

 

「い、いや分かってくれたんならそれでいいですそれで! というかあれは勘違いしても仕方ないですから!」

「いえ! そういうわけには行きません! あんな酷いことをして何もなしには引き下がれません! なんでも、何でも構わないので是非私に罰を下さい!」

「い、いやいやいや! 何いってんすか先輩!本人がもういいって言ってるんですから!」

 

というか女の子がそうホイホイ何でもとか罰とか言っちゃダメでしょうが!

 

「それでは私の気がすまないんです……何でもいいんです。何でもいいから何かしてください!」

 

もはや狙ってるんじゃないだろうか。

こう、美少女になんでもしてと涙目の上目遣いで強請られる機会なんてたぶんもうないよなぁ。

あれ? 言質は取ってあるし……。

いい? もうゴールしていい?

 

「分かりました……何でもいいんですね?」

「……! えぇ」

「それじゃあ、目、瞑ってください」

「……は、はいぃ」

「いきますよ?」

「…………!」

 

なでなでなでなで。

 

「ふぇ!?」

「あー。美少女の頭撫で撫ですんの最高だなぁ!」

「美、美少女!? からかわないで下さい!」

「いえ! からかってませんよ! 先輩みたいな人をなでなで出来て俺もうホント幸せっす!」

「……で、でもそんなんじゃ!」

「あー、なら俺と友達になってくれませんか? 俺まだ転入してきたばっかで右も左もわかんないんですよ」

「あ、貴方が噂の転入生だったんですか!? な、なら尚更申し訳ない事をして……!」

「何という藪蛇! いや、もういいんですって! 先輩は友達になってくれるんですか!? だめなんですか!?」

 

もうここは多少強引に行こう。この人はその……少し面倒臭いタイプだ。

 

「え、いや! なります!」

「はい、ならよろしくお願いします。俺の名前は杉崎鍵って言います」

「わ、私は園田海未と申します」

「じゃあこれで友達なんですから、もう罰とか気にしなくて良いですよね?」

「!! ……貴方はズルいですね」

「というより海未さんはもう少し自分が美少女なの理解してください。ダメっすよ。そんな簡単に何でもとか言ったら」

 

少し咎めるようにそういう。全く、俺じゃなかったどうなっていた事か。

 

……うるせぇヘタレで悪かったなこんちくしょう! いいんだよ! 俺はフェミニストを貫くハーレムキングだから! ハーレムキングだから!

 

「そいじゃ、美少女と仲良くなれて元気も百倍なんで授業に行きますね!」

「えっ、あっ! ……行っちゃいました」

 

遠ざかる足音に罪悪感を感じるも、当人からの言葉を無碍にするわけにもいかず心の中で自戒する。

 

「変な人ですね……杉崎君」

 

自分でも彼にどんな感情を抱いているのかわからない。悪いものではないと思うが、はっきりとはしない。

モヤモヤとした、形にすらまだならない感情だった。

 

でも。

 

「よろしくお願いします」

 

誰に言うわけでもないその言葉が一先ずの答えなんじゃないのだろうか。

 

 

 

 

「おーい杉崎! 今日一緒にカラオケ行かね?」

「あー、悪い本間。俺今日から生徒会行く事になっててなぁ」

「えー? 杉崎君生徒会入ったのー? こんな時期に?」

 

放課後、皆が支度を整え教室から足早に去っていく中そんな会話がひとつあった。

 

「何言ってんだよ斉藤さん。こういう時期、だからだろ?」

「でももう無理だよー。部活だってなんだってこの学校目立つ所なんてないしぃ」

「ないなら作ればいいさ。それとも斉藤さんはこの学校なくなって欲しいの?」

「それは嫌だよ! でもぉ」

「ほら、嫌なんだろ? ならその夢を叶えるのがハーレムキングこと杉崎鍵。俺だからな! まぁ皆も要望とかなんかあったら言ってくれよ! 俺が掛けあって見るからさ!」

「きゃー杉崎くんかっこいいー!」

「ふははは、もっと褒めるがいい! 俺は褒めたら伸びる子だ!」

 

なんて。そんなことを言い合ってから皆と別れ、いよいよ生徒会へと向かう準備をする。

 

「ねぇねぇ杉崎君杉崎君?」

 

そんな時だ。後ろから声が掛かった。

 

「うおっ、びっくりするなぁ。―――どうしたの? 星空さんと小泉さん」

 

それは幸運な事に話しかけてきたのはこのクラスの中でも上位の美少女。星空凛ちゃんと小泉花陽ちゃんだった。

 

星空さんはショートカットの燈色の髪を持ついかにも快活そうな美少女。

小泉さんはいつも星空さんといてフルフルした感じの、例えるなら子犬みたいな愛らしさを持つ可愛い女の子だ。

 

「ありゃ? 私達ってお話した事あったかにゃー?」

「いや? でもかわいい美少女の名前なんて覚えておくの当然だろ?」

「あぁー! かよちんは可愛いからねぇ。そっかぁ一緒にいるりんのことも一緒にって感じかにゃ?」

「いや、星空さんも小泉さんもすげーかわいいから覚えたんだけど」

「はにゃっ!? い、いやいやいや! りんは可愛くないよぉ。男の子っぽい髪型だし! 女の子っぽくないし! かよちんはすっごい女の子っぽいし!」

「そうか? 俺からしたら星空さんも十分女の子らしくて可愛いと思うよ。たしかに髪は短いけど今時ショートカットの女の子なんて割といるし星空さんは顔も整ってるから、というかむしろこんなに可愛いのに男っぽいとか無理があるって」

 

あははは。と笑いながらそう言うと星空さんは俯いて肩を震わせていた。あれ?

 

「う」

「う?」

「うにゃーーーー!」

「おわっ!」

 

何があったのかわからないが突然声を上げながら教室を出て行った。……どうしたんだ?

 

「あ、あの、り、凛ちゃん……あぁ見えて恥ずかしがり屋さん、ですから……」

「あ、ようやく話してくれたね小泉さん」

「ひうっ」

 

えぇ……。話すだけで怖がられるのまた。

 

「えっと、まぁ同じクラスだしさ。これからも宜しく」

「え、えぇ、は、はひっ。よろしくおねがいしまひゅっ! ……は、はぅ」

「……抱きしめていい?」

「ふぇ!?」

 

あ、しまった本音が。

 

「何だこの小動物的可愛さは! ふるふる震えた感じがたまらん! あぁほんとかわいいなぁ畜生! ぜひ抱きしめさせてくれ小泉……いや、かよちゃん!」

「ふ、ふぇぇ! りんちゃんまってよぉぉぉ……!」

 

どうやら熱弁を振るっている途中に逃げ始めていたらしく、俺が聞き取れたのはそんな言葉とてッてってとあまり早いとは言えないが聞こえる走っているであろう足音だけだった。

 

ひゅううう。

 

中途半端に開けられていた窓から入る隙間風がやけに今の俺にはぴったり来ていた。

 

誰もいない教室で、俺はしばらく一人で硬直していた。




ありがとうございました!

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