スクールアイドルの一存   作:クトウテン

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第二話 俺達の学園はまだまだこれからだ!(フラグ

「杉崎君。あなたの転入にあたって言わせていただくのだけれど」

 

転入した次の日、俺は授業の終わりに理事長室へと呼び出されていた。

そこは清楚感のある空間だ。モダンな雰囲気のある、なんというか、テンプレートな理事長室だった。

 

そこに腰掛けるのは勿論理事長であるが――なんとそれは妙齢の美女だった!

いやまぁ知ってたんですけどね。この俺が美少女リサーチなんてしとかないわけ無いだろ。

落ち着きのある雰囲気と、纏うスーツのメリハリが、その大人な雰囲気を増幅させる。

そしてその美しいとも言える顔と、ほのかに部屋を満たす女性特有の匂い。

 

それをわかって、ニヒルに笑みをこぼしながら言葉を紡ぐ。

 

「えぇ勿論です。―――式はどこで挙げましょうか」

「え?」

「あ、すいません。あまりに心地よい美女との空間にトリップしてました」

 

あっぶねぇ。本音が出ちまう。何だこの美女は。

いいのか? これはエロゲーで鍛えたシチュエーション力を試すときなのだろうか?

 

「あらあら。ずいぶんと嬉しいお世辞を言ってくれますね」

「ふふふ。この杉崎鍵、美しい女性にお世辞なんていう真似はしませんよ理事長! 俺が言うのは全て本音だけです!」

「あ、あらあら……」

 

ちくしょう! 少し赤くなってやがる!

大人なだけじゃなくて初なところもあるとかどんだけこっちのハートを奪えば気が済むんだよ!

 

「こ、コホン。話を戻します」

「はい」

 

スッと眼が冷静なものに切り替わる。それは理事長としての、責任者としてのものだった。流石にふざけるわけにも行かなくこちらも真面目に対応する。

 

「生徒会長にはもう教えてあるのだけれど―――この学院はこのままだと廃校となります」

「……そう、ですか」

「驚かないんですか?」

「はい、薄々とですけど」

 

校舎に見合わない人の人数。

学年ごとに減少するクラスの数。

そしてあまり聞かない学校名。

 

それらが導き出す答えは酷く簡単で残酷な答えだ。

 

「そうですか」

「……あの、こう言っちゃなんですが、なんでその事を俺に?」

 

そう言うと理事長はクスリと薄く口紅をひいた口から笑みを零す。

と言ってもそれは俺の求めるような幸せそうな笑みではなくて、空虚で、疲れたような、そんな笑みだったが。

 

「貴方だから、ですよ。まだ今なら転入をなかったことにしてあちらに戻ることも可能です。―――あなたの前の学校でのことは調べさせてもらいましたよ杉崎君。成績優秀で生徒会の副会長をこなしながらも周りの生徒とも仲が良く先生からの信頼も厚い、と。家庭の事情でこちらに来たわけでもなさそうですし学校間の問題があったわけでもない。言ってしまえばあまりにも不自然。正直こんな生徒、他に見たことはありません」

「…………」

 

なかなか鋭い事を言う人だ。

でもその報告は間違っている、というより、大事なものが足りていない。

 

「でも、その情報色々言ってない事ありますよね?」

 

そう一言言うと、理事長は一瞬顔をきょとんとしてから溜息をひとつ吐き、言葉を続けた。

 

「―――優秀ではあるが、女子生徒への過剰な求愛行動とサル並みの煩悩を抱えた問題児、と」

「うっほい。想像以上にボロクソに言われてやがるこんにゃろう」

「……えぇと、嘘、なのよね?」

「いえ。美少女のハーレム築いてずっと美少女に囲まれながらキャッキャウフフでR18な生活をするのが俺の夢です。ですから理事長俺とぜひ付き合ってください幸せにしますから」

「送り返そうかしら」

「あれ!? 今一気に好感度下がりました!?」

 

告げた途端悩みだすように頭を抱えてぼそっとつぶやきはじめる理事長。

 

「と、ともかく! このままではあなたは不幸な目に合うわ。このまま行けばどう頑張ってもこの学院は―――」

「それはいけません」

 

ぴしゃりと、俺は言い放つ。

 

「え……?」

「その言葉を、あなたは言ってはいけないはずだ理事長。正直まだ俺はここに来て日が浅いし、どこに何の教室あるのかもまともに把握はしてません。―――でも、この学校で生きてる生徒たちの顔は見てきましたよ。皆楽しそうでした。代わり映えのない、当たり前の毎日。普通ならもう飽きちゃいますよ。つまらないと思うことだってある筈です。でも―――あんなに楽しそうに笑っているんです。好きなんですよ、ここが。わかりますか? それを作ってるのは、間違いなく貴方なんですよ、理事長」

「!!」

「そしてそんな笑顔を作れる理事長が、この学院を愛していないはずが無い! きっとずっと誰よりも! この学院を深く思っている筈だ!」

「…………」

「俺だってそうです。あの学校が、誰よりも好きな自信がある。失いたくない。自身を持ってそう言える。……だから理事長もそんなこと言っちゃダメですよ。まだ幾らでも可能性なんてあります。―――『私たち人間には、無限の可能性があるのよ!』……だっけな。受け売りですけど」

「……ふふ、そうね。ごめんなさい。学校の長でありながら一生徒に大変不甲斐ない所を見せてしまったわ。愚かでした」

「あ、いえ! や、頭なんか下げないでください! その、気持ちわかるんです! だからこそって言うか、なんていうか……あぁもうなんて言えばいいんだ!」

 

一人で頭を抱えたりしていたりすると、クスクスと声が聞こえると同時に前に座っていた理事長が肩を震わせていた。

 

「ふふ、あんなこと言うから心配したけどあなたは優しい子ね。とっても不器用で、優しくて、分かりやすくて、可愛いわ」

「んなっ!? 可愛いのは理事長です! 俺のハーレムにぜひ入ってください!」

 

そんなやり取りをしていると先ほどまで空気はいつの間にか霧散していたようで、緩やかな空気が流れ始める。

 

「あぁそれとさっきの答えですけど、俺はここに残りますよ」

「……どうしてもなの?」

「えぇ。まだ入って一日とはいえ、俺はこの学校の、音ノ木坂の生徒ですから。まだやれることは沢山あります。絶望するのはそれを全部やった後からでいい」

 

目を逸らさずに、理事長の目を見ながらそういうとやがて折れたのか、はぁぁぁー、と大きくため息をついて瞑目した。

 

「もう、どうして貴方達(・・・)はそんなに頑固なのかしら

「達?」

「えぇ。さっきも言ったでしょう? 生徒会長にだけは言ってあるって―――そうだわ」

 

そこまで言うと閃いたように手を合わせこちらに視線を送ってくる。な、何という熱視線。これはゴーサインだな!?

 

「え、付き合ってくれるんですか!?」

「どうしてそうなるのよ! ……っていけないわ。えぇと、話を戻しますが杉崎君」

「はい?」

「貴方―――生徒会に入ってみる気、ない?」

 

ニッコリ、今日初めて見た笑顔は先程までのものとは違ってそれはそれは楽しそうな笑みだった。

 

……断れるわけないじゃねぇか、こんな美女の頼みなんて。




ありがとうございました。

※10/1 修正。

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