評価してくださった皆様方も誠にありがとうございます。それを糧に頑張らせて頂きますいただきます。
あと最近ネタが尽きてきました。
ギャグの難しさに戦慄しっぱなしです。
ではどうぞ!
「杉崎くん……」
声が、耳に届いた。
綺麗な声だ。そして何故か、今はその声に艶かしさが交わり、囁くように届いたその声は俺の脳に響くと同時にゾクゾクとしたこそばゆさを与える。
「う、海未さん……こ、こんなところでま、まずいですって……」
「ふふ、私もう我慢できないんです……ほら、もうこんなに……」
「う、海未さん……!」
頬を赤く火照らせた海未さんがまた、耳元で囁く。
その一言一言ずつで、俺は形のない自分の中に存在する何かがガリガリと削り取られていくのが知覚できた。
あぁ―――。
「ですから―――杉崎君……」
「は、はい……」
海未さんはその瑞々しい唇を耳に寄せて、最後に言った。
俺も覚悟はできていたのだ。
ここまで来て、もう止めることは、出来なかった。
喩えそこに居る穂乃果ちゃんもことりちゃんも。
これから行われる事が分かっていて。不安そうでいながら、どことなく好奇心のある表情でこちらを見ることしか出来ないのだから。
だから―――。
「―――正座、して下さい」
「うぃっす」
俺はおとなしくその言葉に従うのだった。
◆
「ねぇなんですかこの名前。なんですか“sugisaki lovers”って。この名前の意味教えてくださいますか? ほら、大きな声で、どうぞ?」
「ま、待ってください海未さん! 確かに俺は杉崎ですけどこの学校に俺しか杉崎しかいないというのは早計では? もしかしたら杉崎という海未さん達のことが好きな他の人がいるかもしれないじゃないですか!」
「……そんな頭の悪い言い訳を―――」
「恋愛とは得てして頭の良いことではないのです海未さん。その杉崎さんはもしかしたら気力を振り絞って、なけなしの勇気でこの一票を投じたのかもしれません……。いいんですか? そんな勇気を、あなたは馬鹿にするのですか海未さん!」
「うっ……そ、そう言われてしまうと……」
俺の熱弁に若干海未さんが後ずさる。それから一人で考え始める海未さんに真面目で可愛いなぁと思いながら、
「まぁ勿論出したのは俺なんですけどね!」
「海未ちゃんまって! まって! その石をとりあえず地面において! スクールアイドルじゃなくてプリズンアイドルすることになるから! なるから!」
「離して下さい穂乃果! あの男は私が倒さなきゃいけないんです! そういう運命に導かれてることに今気付きました!」
「う、海未ちゃんが変な病気に掛かったぁーーーー!」
正座しながら眼の前で繰り広げられる三人のやり取りに愛らしい物を感じる。可愛いなぁ。海未さんも素直でほんとうに―――。
ヒュゴッ。
「本当にごめんなさい調子乗りました許してくださいもう二度とふざけたマネはいたしませんのでなにとぞ私からこのちっぽけな命を奪わないでくださいお願いいたします」
『切り替えはやっ!?』
流石に海未さんが投げた石が俺の顔の真横を掠めてその後地面に陥没してる様を見たら土下座もしたくなるよ。
それからなんとか事なきを得て、落ち着いて話し合いをすることが出来た。
とりあえず海未さんは敵に回すべきじゃない事を今日思い知ったね。二度としない。
◆
「みゅーずぅ?」
「そうなの! 私達の名前! “μ's”って言うの!」
「薬用―――あっ、ごめんなさい海未様。靴をなめさせて頂くのでどうかご慈悲を」
「私ってそんなキャラなんですか!? ねぇ杉崎君っ! ねぇ杉崎君っ!」
「あわわわ……う、海未ちゃんそんなガクンガクン揺すったら……」
「あ、あははは……」
そんなやり取りが朝の神社では繰り広げられる。
「でもなんで書いた人もμ'sって名前にしたんだろうな」
「えぇ。私の方でも調べてみましたがミューズ、という読みではギリシャ神話に登場する九人の女神の事のようですが……今の所三人ですし……それ以外となると」
「なると?」
「薬用のアレです」
「ういっす」
深く追求したら負けだと思う。
「でも、これで土台は決まりですね。名前も決まったし」
「うんっ。衣装も決めてあるんだ!」
「おっ、ことりちゃんは仕事早いねぇ。ってすげぇ! な、なんと言うかプロ顔負けじゃないかな……」
「え、えへへ。そ、そうかなぁ?」
「あぁ! これを着てる三人を早く見たいよ!」
その言葉に三人が顔を赤くする。
「う、うぅ。杉崎君はほんと、恥ずかしい事ストレートに言うよね……」
ことりちゃんが若干俯きながらそう言う。もちろんその顔は赤く染まっている。
「え、えぇ? そうかなぁ」
思い返してみても恥ずかしいと思われる発言が見当たらないぞ? うーむ。
「あのですねぇ! 貴方は共学で女性にも慣れているのかもしれませんが生憎とこちらは男性の方に対して免疫はないんですっ」
「って言ってもここも共学じゃないですか」
「二年前から共学になった有名でもない学校に男の人なんて早々いると思いますか?」
「あぁ……」
納得した。確かにそうだ。今のクラスも男なんて数人しかいないし、海未さん達2年に限っては共学から一年。そりゃ男も少ないわけだ。
「と、ともかくあなたのその女性に対する破廉恥な発言は控えるべきですっ」
「でも可愛い人は可愛いですよね? 海未さんだって見た目はキレイ系なのにふとした瞬間に見せる愛らしさがギャップですげー可愛いし穂乃果ちゃんだって天真爛漫でこっちも元気もらえるような所が可愛いしことりちゃんだってほんわかしてる口調とか雰囲気とか、一緒にいて落ち着く感じの愛らしさがすげー可愛いじゃないですか」
「あぅ」「はぅ」「うぅ」
ほぼ同じタイミングで三人が唸った。
やがて真っ赤な顔を少し恨めしげに歪めた海未さんがこちらを向いてつぶやく。
「……貴方みたいな人をたらしと言うんですね……よく分かりました」
「いやいやいや。よく分かりました、じゃないですって! そんなつもりじゃないですし! 可愛いもんは可愛いって思うでしょう? 綺麗なもんは綺麗ですし。別に隠す事じゃないですよ」
「うー、鍵君もう分かったからぁ」
「そうだよぉ、もうわかったよぅ」
「え!? 俺の気持ちわかってくれたの!? じゃあ二人共俺と付き合ってくれるの!? いよっしゃぁあ!!!」
『なんか変な誤解してる!?』
「え、誤解ですか? あぁ! 海未さんもですもんね! よっしゃぁ! 可愛い美少女三人娶ったどー!!!」
『更なる曲解!? やーめーてぇ!』
わちゃわちゃと騒ぎながら、そんな騒がしい朝の練習は終わる。
「さってと……これも勿論えりちには報告やね……」
……若干の不安の種を残しながら。
◆
キーンコーンカーンコーン。
もはや聞き慣れも慣れた授業の終わる音が耳に届いたのを確認した教師が授業の終わりを告げ教室を出て行くのを見送った後、大きく伸びをし机の上のノートをしまい始める。
「♪~~♪……違う、こうじゃない……」
その時、隣からそんな声が聞こえた。
それはとても小さな声で、耳に届いたのは運が良かったのだろう。
聞こえた先は俺の横の席、真っ赤な髪を持つ女子生徒からだった。
「真姫ちゃんどうしたんだい?」
「うるさい静かにして」
「…………」
「なんで急に泣き始めるの!?」
だ、だって真姫ちゃんからそんな態度取られるとは思ってなかったから……うぅ。
「だ、大丈夫……し、静かにできるから……」
「ほ、本当よね?」
「おう、まかせろ。『声殺し泣きのケン』とは俺の事だ」
「できれば聞きたくなかったわその情報」
その言葉を最後に作業らしきものに戻る真姫ちゃん。その表情は至って真面目だ。
「……ぅ……ぐ……ひっぐ……ぅぅ……ズズッ……」
「………………」
「……ぐ……ぇっぐ……ひ……ぐ……ズピィーーーーーーーー!」
「にゃーーーーー!」
「いたいいたい! 教科書で叩くなよ真姫ちゃん! いたいいたい!」
「アンタに絡まれた時点で諦めなかったあたしが悪かったわよ! もう!」
「おう、そうだな」
「……」
「いたいいたい! 辞典で殴るのはダメだって! まじで! まじで!」
なんとか宥めて早速真姫ちゃんの向かいに座る。
うわすごい嫌そうな顔をされた。
「で、なにやってんの真姫ちゃん」
「見たらわかるでしょ。楽譜書いてんのよ」
たしかにそこにあるのは楽譜だ。下三行くらいはまだ五線譜しかない状態だがそれ以外はよくわからない音符や記号で埋まっている。
「へぇー。おお、すげぇな」
「別に凄くないわよ。やれば出来るわ」
「そりゃそうだ。俺は出来る事に言ったんじゃなくてそれをやってる真姫ちゃんに今の言葉言ったんだから」
「……ふん」
「なんで怒るんだよ!?」
「お、怒ってないわよ! このバカ」
「理不尽! ……てかの曲はなんのために書いてんの?」
「書きたいからよ……別に誰かさんに頼まれたから仕方なく書いてる訳じゃないんだから!」
「オーケー把握。しっかしまぁぼっちコミュ症の真姫ちゃんが人の為に曲を書くなんてなぁ」
「うっさいわね! というかその体で話を進めないでよ!」
だってそうなんだろう? なんて聞くまでもない。そういう事なんだろう。真姫ちゃんが、人と関わらろうとしないこの真姫ちゃんが、頼まれたとはいえ自分の意志で曲を作っている。
「――うなー!」
「んなっ!?」
その事に、なんだか嬉しくなってしまって。つい彼女の頭に手をおいてわしゃわしゃと頭を撫でてしまう。あぁ髪の毛やーわかい。
「な、な、なにしゅんのよ!」
「可愛くて撫でました」
「うっさい!」
「ぶがっ!?」
殴られた! 女子って皆手が早いの!?
凄くいいアッパーなんですけど!
「まぁ、いいんじゃないか? 真姫ちゃんなら誰とでも仲良くなれるさ。だから怖がらないで人と仲良くなってみようぜ? なんかあったら俺を頼れ。なんとかしてやるからさ」
「……わかった」
「おうっ」
放課後教室では、そんなやり取りがひとつ交わされていた。
◆
『野次馬達の放課後』
「ねぇなんか凄いいい雰囲気じゃないあの二人?」
「クソ、なんでだ……なんで杉崎だけあんなに可愛い子と……!」
「まぁあんたには無理ね。諦めなさい本田」
「本間だっ! ……てかお前は何だっけ」
「渡辺よっ!」
『……はぁ』
二人揃って溜息を吐く。お互い思うところがあるのだろう。キャラの薄さとかに関して。
「なんかあの二人共お似合いよねー」
「そうだなー。なんだかんだで上手くやっていきそうだな」
「でも杉崎くんって生徒会長とも書記さんとも仲いいし二年生の……ほら、スクールアイドルの人達とも仲いいんでしょ?」
「……ちょっと、トイレ行ってくるわ。なぁに、汚物を少し消してくるだけだから」
「嫉妬に狂う男ほど醜いものはないわね……」
「うるせいやいっ! こんな肩身の狭いはずの空間で何あいつはハーレムしてやがんだよ! ゆるせねぇ! 杉崎許すまじ!」
「つってもあんたもそこまで不人気なわけではないわよ?」
「……え? まじで?」
「うん、まずこのクラスに杉崎くん以外の男子は認識されてないし」
「斜め下の解釈っ! 不人気も人気も認知されてねぇじゃねぇか!」
「キャラと顔の薄さがねぇ」
「人格と人相の否定!」
「まぁいいじゃない。ほら、連絡交換しましょ?」
「え、あ、お、おう……」
「何照れてんのよ」
「て、照れてねぇよっ」
「そ、じゃあ私帰るわ。んじゃね」
「あ、おう。その、また明日」
「ん。明日ね」
「…………お前もがんばれよ、杉崎」
そんなやり取りも、あったとか無いとか。
「杉崎くん……(お前良くもあんな名前書いてくれたなワレゴラァ)」
声が、耳に届いた。(死神の)
綺麗な声だ。そして何故か、今はその声に艶かしさが交わり、囁くように届いたその声は俺の脳に響くと同時にゾクゾクとしたこそばゆさを与える。(間違いなく殺気)
「う、海未さん……こ、こんなところでま、まずいですって……(仮にも神聖な土地で人殺しはご法度)」
「ふふ、私もう我慢できないんです……ほら、もうこんなに……(手が怒りで震えてる)」
「う、海未さん……!(これはアカン死んだ)」
頬を赤く火照らせた(怒りで)海未さんがまた、耳元で囁く。
その一言一言ずつで、俺は形のない自分の中に存在する何かがガリガリと削り取られていくのが知覚できた。(寿命)
あぁ―――。(\(^o^)/)
「ですから―――杉崎君……」
「は、はい……」
海未さんはその瑞々しい唇を耳に寄せて、最後に言った。
俺も覚悟はできていたのだ。
ここまで来て、もう止めることは、出来なかった。
喩えそこに居る穂乃果ちゃんもことりちゃんも。
これから行われる事が分かっていて。不安そうでいながら、どことなく好奇心のある表情でこちらを見ることしか出来ないのだから。(自業自得感)
だから―――。
「―――正座、して下さい」
「うぃっす」
俺はおとなしくその言葉に従うのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
まぁ、こんな感じです。ニホンゴムツカシイネ!(片言感