スクールアイドルの一存   作:クトウテン

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2日連続更新でございます。
遅れましたがUAが3万を超えました。こんなに沢山読んで頂いて感激の至りでございます。
お気に入り件数も目出度く800目前までして頂いて、作者正直開いた口が塞がりません。本当に感謝しきれないです。
エタるつもりはないので……少なくともそんなつもりはないので! ないので!(二度 ないので!(三度 これからも是非宜しくおねがいします。


第十四話 本心

んで、あの後少し時間をおいてから生徒会室に向かい、起きたのは。

 

「で、お次は一体なんのお話かしら。高坂さん」

「はい! 講堂の使用許可を頂きに来ました!」

 

と、目の前で行われるやり取りを眺めながら俺はお茶を啜っていた。

どうにかしろ。言外にそう告げてくる希さんの目は未だ冷たい光が宿っている。まだ怒ってるのかなぁ。

 

「そう……この日は新入生歓迎会の日のようですが」

「はい! 放課後にライブをやらせて頂きたいんです!」

「……あぁ」

 

考えたものだ。さては海未さんか?

そう思ってちらりと目を向けるとなんとなーく不安げにしている海未さんと目があった。あぁやっぱりそうなんですね。

 

「貴女、まだ諦めてないのね」

「まだ、というかこれからも諦めるつもりはないです!」

「…………はぁ。杉崎君、貴方ですか?」

 

うわぁこっちにまで火の手が! 生徒会長モードの絵里さんの口調がいつもの数倍は冷たい。つまり怖い。

誰か救いを! 我に救いを!

 

そんな時、穂乃果ちゃんが俺をかばうかの如く一歩前に出て言葉を放つ!

 

「け、鍵君は関係ないです! 私達が勝手に!」

「へぇ……。だそうよ? け、ん、く、ん?(ニコォ」

 

どうやら救いではなくガソリンだった模様。

より一層空気が重い。俺悪くないはずなんだけど、冷や汗しか出ない。

 

「ま、まぁ講堂の使用許可なら、いいい、一般生徒でもか、かか可能な訳ですしおすし? い、いいんじゃないでしょーかと思いますですはい」

 

足、踏んでますよね絵里さん。しかも小指だけピンポイント。

助けてよ希さん。そちらにすがるように視線をやると、あぁっ! プイってされた!

 

「もし、ですが。仮にそれを了承したとして、準備はどうなっているんです? 残りは一ヶ月を切っています。こちらとしてはお粗末な物をこんな時に見せられては困るということを、分かっていますか?」

「…………はい」

 

言い方はキツイが、これはそのとおりだ。

たかだか新入生歓迎会。されど、新入生歓迎会である。

 

「ですから、もし会長さんが下らないって、全然ダメって感じるようなら、本番手前にでも無くしていいです! 中途半端だと思ったなら! そうしてもらっても構いません! ですから!」

「もういいよ、穂乃果ちゃん。―――絵里さんも、これで構いませんよね。今言ったとおり、そう思ったならこの件はなかったことにしましょう。生徒会として俺も公私を交えずにその判断はさせてもらいますから。それで良いですよね?」

「え、えぇ……」

 

一言おいて、息を吐く。

 

「それじゃあこの話は終わりですね! 良かったね穂乃果ちゃん。俺も手伝うから、是非頑張ってくれ」

「うんっ! ありがとう鍵君! えへへ! それじゃあ練習してくるねー! 失礼しました!」

「おう、いってらっしゃい。海未さんもことりちゃんも、頑張ってね」

「はい。……ありがとうございます。失礼しました」

「うん、ありがとう杉崎君! 失礼しました」

 

一礼してから、彼女たちが順に部屋を出ていく。

流石に六人もいて部屋が狭く感じていたが半分にもなると一気に広く感じる部屋に不思議な感覚を覚えながら大きく背伸びをする。

 

「ふあー! これで丸く収まりましたね会長! 後はどうなるか、たのし……み……絵里さん?」

 

なんだか、こちらを随分とジトッとした目で見つめている。

それもマジな奴だ。なんか、すごい心が痛む感じの目で見られている。

 

「あの、絵里さん?」

「随分と仲良くなったのね」

「え、ええ。あ、まさか嫉妬して―――はい、ごめんなさい。嘘です。冗談いってごめんなさい」

「良かったわね。け、ん、く、ん? 女の子にモテモテで、随分といいご身分じゃない?」

「うわぁ絵里さんがよくある継母みたいな口調になってる。って希さん? なんで今日はずっと黙ってるんですか? そろそろお話しましょうよ」

「知らん」

「はいキャッチボール終了。ってなんですか! 俺なんかしました!?」

「その発言が既に気に触るんや! あほ!」

「語彙が大変幼いですよ!?」

「知らんもーん。鍵君なんてほんとしらんもーん。ねー、えりちー」

「そうねー。こんな変態色情魔なんて眼中に無いもの」

「…………そう、ですか」

「そうやー」

「そうよ」

「では不肖、杉崎鍵、この身を持って謝罪したく申し上げます」

『!?』

 

唐突に窓を開けて脚をかける俺に二人が急に立ち上がる。

 

「あぁ……今なら空も飛べる気がする」

「飛べへんから! 飛べたとしてもそれはもう戻ってこれへんから! あかんあかんあかん!」

「ご、ごめんなさい! 言い過ぎたのは謝るから!」

「いいんですいいんです。はは、俺なんて所詮その程度ですから。ほら、もっかい同じ事言ってくださいよ、ほら」

『なんか面倒くさい!!』

「あー! 空を飛び回りたい気分だなぁ!」

『ごめんなさいごめんなさい!』

 

再び脚をかけた俺を二人が必死の形相で止める。

 

「んー? ほら、なんですか二人共。死んで欲しくないなら言うべき言葉があるでしょう? んー? ほら。んー?」

「ぶん殴っていいかしら!?」

「自分を人質に脅しをかけるとか随分性根終わっとるな!!」

「いえいえ。俺なんてブルーチーズくらいですよ、まだいける」

『随分アウトだよ!』

 

そんなやり取りをして、とりあえず椅子に戻る。

 

「それで二人共どうしてそんな怒ってるんですか」

『…………』

 

ムスッとして押し黙る二人。

そうですかそうですか。

 

俺は黙ったまま窓際まで椅子を持って行き、そこに座り空を見上げて口ずさむ。

 

「……いまー……わ○しのー……ねがー○ごとがー……」

『ちょっとずるいなと思ってましたごめんなさい』

「大変素直でよろしい」

 

っていっても。

 

「ずるいって何がですが」

「……いいたくない」

「黙秘権や」

「次は二番歌いますけど俺テナーやるんで絵里さんソプラノで希さんアルトでおねがいします」

『ごめんなさい』

「よし」

 

なんだかんだ素直な二人である。

 

「あんなこと言っておいて……あっちに肩入れするような事言うから……なんだかむかむかしたのよ」

「えりち、わかるで……なんというか、飼い犬が別の人にすごい懐くような……なんか、こう……プライドを傷つけられるような……」

「うわぁ……俺の評価ほんとぶれないなぁ!」

 

前知弦さんにもそんな例え方をされて気がする。

 

「まぁ嫉妬っちゃ嫉妬でしょうけど……なんかジャンル違いのあれですね……割と今俺嬉しくないです。畜生」

「というか本気でやらせるつもりなの……? 正直不安しかないわよ」

「うーん、それがねえりちー。ウチが神社のお掃除とかいつも手伝ってるんは知ってるやろ?」

「まぁ……」

「うん、それでなんやけど……そこの神社に今日あの子達が来てね? ―――何故か鍵君もいた訳やけど」

「……へぇ? そんなことしてたのね?(ニコォ」

「わぁ藪蛇!」

 

う、うぅ。なんかまた空気が重くなった。

 

「まぁ、それで神社で練習してたんよ」

「どうだったの?」

「控えめに言って、目も当てられないって感じやね」

「……そう」

 

それはまぁ、確かにそうだ。まだステップ一つもままならない。何回か巡の奴が踊ってるのをTVで見たことあるが……あれに比べたらお遊戯に近い物があった。

 

「―――ねぇ、鍵」

「お、名前で読んでくれるんですか絵里さん」

「う、五月蝿いわね。あなたに遠慮してるのが馬鹿らしくなったのよ」

「えぇ。遠慮なんてしないでもっと馴れ馴れしくしましょう! 馴れ馴れしく、馴れ馴れしく……ぐへへ……ぐぴゃっ!」

 

顔面に書類の入ったファイルがぶつけられた。

 

「相変わらず煩悩にまみれてるんやね……」

「俺から煩悩と五月蝿さと無駄にハイテンションな所抜いたらもう俺じゃないでしょう」

「そうやね……完璧すぎてそれはそれで引く自信あるわ……」

「でしょ?」

「逆にすごいわよね。足りてないんじゃなくて無駄な部分が多すぎて駄目人間って……削いだら完璧なのに」

 

すごく残念な目で見られる。いや、絵里さんにそんな目で見られるというのは一種のご褒美ではないだろうか。今ならドMの気持ちが分かる。

 

「まぁ、いいわ。あなたに話しておこうと思うのよ。私が彼女達を―――いえ、アイドルっていうものを好きではない、理由を」

 

と、絵里さんは不意に神を描き上げる仕草をし、つうっとした流し目のような動きでこちらに視線を送る。何でも無い筈のその一連の動きに酷く魅入られ、ドキリと心臓が弾んだ。

 

「アイドルが……好きじゃない、理由?」

「えぇ。―――それでどう思うのか、これからどうするのかは、あなたに判断して欲しい。私ではきっと無理だから。」

 

だから、と前置きし、彼女は厳かに口を開いた。

 

「―――貴方に。鍵に、頼らせて欲しい」

「――――」

 

その言葉を聞いて、胸が熱くなる。

彼女は言った。頼らせてほしい、と。

 

それは少し前までの彼女にはあり得なかった一言だった。全てを背負うようにしていた彼女が、初めて口にするお願い。

 

それが俺だという事に、どうしようもなく嬉しくてたまらなくなる。

 

「はい! 美少女の頼みごととあればこの杉崎鍵。死んでもやり通します!」

「えぇ。頼むわよ、鍵」

 

そういって少し微笑む彼女は、いつもの厳しくも凛とした生徒会長ではなく、ただの絢瀬絵里という女の子であった。

 




読んで頂いて有難う御座いました!

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