多少手違いがございましたが……どうぞ(目逸し
世の中にはモーニングコールというものがある。
可愛い女の子が、主に幼馴染や義妹が優しく、それはもう優しく寝ている自分を起こしてくれるというアレだ。
誰が何と言うとこれは男の夢である。
確かに俺も寝ている時飛鳥という幼馴染という称号を持った人非人から耳元で俺の悪口を囁き続けるという鬼畜行為を受けたり林檎という義妹から耳元で飛鳥に教えられたであろう『お兄ちゃんのって小さいんだね? 情けなぁーい。あはは、こんなんじゃ役に立たないね?』と満面の笑みで言われたり。
最近では火神という名前の後輩からのモーニングコール、もとい悪魔の通達が俺を目覚めさせてくれる事も多々あるがこれらは全て別ジャンル。
モーニングコールとは言わない。
寧ろ永久的に眠らせるタイプのやつだ。認めません。
可愛いからって何でも許されると思うなよ。
まぁなんでそんな話をしたかといえば今。
ピピピピピ、と手の中でバイブレーションと共にそんな音が聞こえるのを知覚しながら、画面を見る。
そこには電話のマークと穂乃果ちゃんの文字。
モーニングコール、である。
即座に通話ボタンを押す。
『もしもし! 鍵君おっはよぉー!』
「あぁ、おはよう穂乃果ちゃん……。まさか可愛い女の子からモーニングコールを受ける日が来るなんて……俺もう死んでもいいかもな」
『か、可愛いだなんて照れるよー!』
「ははは、お陰ですげー目が醒めた! んでこんな朝早くにどうしたの? 穂乃果ちゃん」
耳ともに当てたスマホを一度離し画面を見るとそこには6時の文字。とてもじゃないが早すぎる。
『うん! それがね―――』
その話の後、結局俺は簡単に準備を済ませて出掛けることになる。
ケータイに送られてきたMAP情報を見ながら、そこへと向かう。
神社と書かれている、その場所に。
◆
「はい! そのペースを崩さずに後3セットです!」
「ひぃー! 後3セットもやるのぉ~? 無理だよぅ」
「ほ、穂乃果ちゃん……が、頑張ろ?」
「うー、ことりちゃぁん。ぎゅうー!」
「わぷっ! ほ、穂乃果ちゃぁーん!」
「……随分と余裕そうですね、穂乃果。2セット追加です」
「いやー!」
そんな楽しげな声が耳に届く。
ちらりと目をやれば階段の中腹当たりで穂乃果ちゃんが絶望したポーズを取っていた。
随分と楽しげである。ことりちゃんもなんだかんだ頬を緩めているし、海未さんなんかもその様子を見て飽きれたようにしているが楽しそうなものだ。
なのに……。
「なんっで、俺だけ、こんなことしてんだぁー!」
「ええやん、この時期一人で掃除するの大変なんよ」
一生懸命竹箒で草や砂、落ち葉をかき集める。
そう。本来なら俺もあそこに混じってキャッキャウフフする筈だった。するつもりだった。
「なんで希さんがここに居るんですかねぇ……。まぁ、巫女服見れたからいいですけど」
「知り合いの神社なんよここ。だからこうしてバイトも兼ねて、ね」
「そして何故か俺も手伝わされてる、と」
「あら、不満なん?」
そう言って少し胸を持ち上げるように腕を組む。
「……そういえば和服では下着をつけないと聞いた事があるんですが……そこん所どうなんでしょうか」
「ふふ。ご想像にお任せするんよ」
「うぉっしゃあ!!! ノーパンノーブラじゃあ!!!」
「ほんと都合よく考えるんやね……」
「見直しました?」
「下方修正やけどね。……でも大丈夫なん?」
「はい? 何がです?」
唐突に心配そうに眉を寄せてそう問いかけて来た希さんに笑顔で言葉を返す。
「生徒会もやって、こっちでもフォローして。大変なんやないの?」
「あー。心配してくれてたんですね。ほんと希さんってそういうところ可愛いですよね。でも俺なら全然余裕っすよ! 元々美少女の為にこうやって手伝うのが生き甲斐みたいなもんですから。むしろやればやるだけ元気でちゃいますよ!」
「……ほんっと鍵君って馬鹿やね」
「えぇ、よく言われます。まぁそんな自分を割と気に入ってるんですがね」
「うん……私も嫌いやないよ。そんな鍵君」
「え? なんか言いました?」
一瞬竹箒の音で聞こえなかったよ。ってあれ?
「―――馬鹿」
凄いジトッとした目で貶された! なんで!?
「ってあぁ! なんでそっち行っちゃうんですか! 掃除終わりなんですか!? え、えっ!? 箒だけ無言で持ってかないで下さいよ! 希さーん!? 希さーーーん!?」
なんだか生徒会が始まるまでその日はずっとそんな態度でした。
なんかしたっけなぁ俺。
◆
その日の放課後。もちろん行く先は生徒会室。ってあれ?
廊下を歩いているとそこには目新しい手作り感満載の箱と張り紙がある。
「“私達のグループ名募集”って……うわぁ」
正直どん引きした。いや、有効な手だとは思うけどな。
すげぇ丸投げしてらっしゃる。ことりちゃんとか考えつきそうなもんだけどな。
まぁいいや、そういうことなら俺も手伝おう。
そこにおいてあった紙に、胸ポケットからペンを取り出して書き始める。
「えーっと……“
「……杉崎君も、きょ、興味あるの?」
「うおわっ!?」
「きゃっ!?」
急に後ろからかけられた声に思わず飛び退く。
「か、かよちゃん? あぁびっくりした」
「ひ、す、すいませんっ! む、昔っからど、どんくさくて、あの、あのっ」
「あぁ大丈夫落ち着いて落ち着いて。よしよし」
勝手にあぷあぷしてる小泉さんの姿に思わず頭を撫でてしまう。庇護欲を誘う子だなぁ。
「あ、あわわ……うぅ」
なんかこれはこれで照れてるようだが、まぁ耐えてほしい。ナデナデしてたいから(本音)
「ふぅ。驚かしちゃってごめんね。というかかよちゃんも興味あるの? これ」
「えっと……昔から……アイドル、す、好きで……へ、変だよね」
「そうかぁ? 良いんじゃないかな。俺はいいと思うよ。ファンに愛されて嬉しくないアイドルはいないし。俺の知ってるアイドルでも巡っていう―――」
「巡って星野巡ちゃんですか!?」
「え」
なんか、カチって音が聞こえた気がしなくもない。
「良いですよね星野巡ちゃん! 歌とか上手くないですしお世辞にもダンスとかも他のアイドルグループより旨いとは言えないですけどいつでも笑顔でいて魅力的ですし最近では色々なバラエティー番組でも大きく取り上げられてファンも増えているんです! いつでも全力で色んな事に打ち込んで笑顔を与えている姿を見て私もう本当に巡ちゃん大好きなんですよ!」
「お、おう、せやな」
思わず一歩引いてしまった。何だこの子。オンオフが激しいぞ。
「ぁ……す、すいませんっ! わ、私、アイドルの事になると本当に……本当に……!」
「あ、あはは……そういう所も可愛いと思うよ」
それにしてもあいつ、頑張ってたんだな……。最近じゃテレビ見る余裕も時間もないからあいつの活躍見れてないけど……。
そっか。あいつこんなに良いファンがいたのか。
「かよちゃん」
「な、なんでしょうか……」
「これからもあいつのファンで居てやってくれ。そしたら巡の奴すげー喜ぶからさ」
「は、はいっ!」
なんだか胸が熱くなってきた。嬉しくて、嬉しくてたまらない。
なんだか目頭も熱くなってきた気がする。
流石に女の子の前で泣きたくはないからさっさと立ち去って生徒会に行こう。
「んじゃ、俺はもう行くかな。あ、それとかよちゃん」
「は、はい」
「よかったらまた話し聞かせてくれよ。―――それと、かよちゃんもすげー可愛いから、アイドルになってみてもいいと思うぞ?」
「え、あ、あ、ありがと、う?」
そんなやり取りを軽くしてから立ち去っていく。
ただ最後完全に姿が見えなくなったところで、
「あ、あれ……杉崎君って巡ちゃんの事知ってたのかな……仲良さそうな言い方だったけど……うーん」
「かーよちんみーつけた!!」
「ふにゃ!? 凛ちゃん!?」
「ほーら陸上部行こうよりーくじょーぶぅー!」
「はわわ、引っ張らないでぇ~!」
なんて、そんな声が聞こえた気がした。
本当にすいませんでした。お読みいただいて有難う御座いました。