やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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好きな人の妹、その胸をむにむにしながら決意を固め復活したいろはすさん。
そんないろはすさんと比企谷兄妹がすごす、だらだらとした昼下がりのお話です。
私が上司から聞いた話や知り合いから聞いた話が元になっています。

それと後書きがちょっと長いです。四章についてお知らせもありますので、
時間があるときにでも目を通していただければ幸いです。


次は俺を褒める番だぞ

夏休み三日目、金曜日の昼過ぎ。

起きてきた小町と一色と三人で朝飯兼昼飯に、俺が作ったざる蕎麦と天ぷらを食べる。

食卓を囲み三人で蕎麦をずるずる啜っていると、一色が椎茸の天ぷらを箸でつまみ一口齧る。

 

「せんぱいっ。この天麩羅凄く美味しいです」

 

「だろ?」

 

ニヤッとして答えると、小町がうんざりした表情で俺を窘めてきた。

 

「お兄ちゃん……。そこはもう少し謙虚にって、小町は思うよ?」

 

「いいか、小町。俺は褒められることが殆どないからな。

褒められたときはここぞとばかり、俺すげぇアピールするんだ。

じゃないと次にいつ言えるかわからないしな」

 

いうと、一色はどこか諦めたようにふっと短く息をはく。

 

「まあ先輩って、そういう人ですよね」

 

おいちょっとお、いろはすさん。そういう人ってどういう意味かなー?

じとっとした視線を一色に向けるが、そんな俺を一色は見ようともせず

さつまいもの天ぷらをモグモグと食べている。

 

「揚げ具合がちょうどいいですね。なにかコツとかあるんですか?」

 

「まあ下ごしらえとか油を多めに使うとか色々あるがな。

浮いてすぐ油からあげないで、ほんの数秒、そのままにしておくんだ。

そうすっと衣がカリッとサクサクに仕上がる。ちょうどいい浮き加減っていうのかな」

 

「なるほどー。普段、周囲から浮いている先輩がいうと、説得力が違いますね!」

 

このガキ……。

つーか小町ちゃん、兄が馬鹿にされてるのに大爆笑はどうかと思うんですけど?

とはいえ、ここで反論しても相手は一色。なにを言っても暖簾に腕押し糠に釘だろう。

なのであえて一色を褒めることに。ほら女子ってよく、お互いを褒め合ってるじゃない?

 

「そのなんだ、前から思ってたんだがな。お前のご飯の食べ方、すごく綺麗だよな」

 

「へっ? な、なんですか急に」

 

俺の言葉に、一色は気恥ずかしげにモジモジしだす。うむ、掴みは上々。

 

「うちの親父が言ってたんだ。人を知るには一緒に食事を取るのが一番だってな。

例えば、『契約する前に必ず一緒に責任者と昼飯を食いに行け。

その時の店員への態度が、その人物の全てだからよく見るように』って」

 

「それでそれが良く当たるらしい。商談の席で低姿勢でも、店員にため口命令口調の奴は

仕事始めると絶対後でもめる。で、食い方とかも見た方が良いってな」

 

「肘をついてないか、ご飯食べるのにちゃんと茶碗持ってるか、箸の持ち方。

個々の勝手だと言う人もいるけど、当たり前の作法を知っているのにやらないのは

偏屈で自己中の表れなんだってな。

知らずにやってるのは、それこそビジネスパートナーとしては論外。

もちろん、友人としてもだ。

それで俺もまあ滅多にないが人とご飯をたべるとき、その手のことを良く見るようにしてる」

 

「育ちが分かるよね。その人の根っこの部分がモロに出るし」

 

これは小町の言葉。

 

「そうですね。私も男の子と遊ぶのに、食べ方が汚い人とは二度と行きませんし」

 

さすがビチはすさん。俺なんかよりその手のことに詳しいご様子。

 

「でも、褒めて貰えて嬉しいです。ありがとうございます、せんぱい」

 

「お、おう……」

 

こんなに素直にありがとうと言われると、次は俺を褒める番だぞとは言いづらい。

しかも花咲くような笑顔だし。

夕べ元気がなかったので心配していたが、もう平気のようだ。

なので俺はそれ以上なにもいわず、ご飯の残りを平らげることにした。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

夏の昼下がり。

食事を済ませた俺たちは出かけるまでの空いた時間、勉強会をすることに。

三人でテキストをこなしていると、一色が思いついたように口を開く。

 

「そういえば先輩って、小町ちゃんに小説でも漫画でも、薦めたりはしないんですか?」

 

「お兄ちゃん、たまにしてくれるよね?」

 

「そうだな。まあ以前とは、薦めるモノが違うけど」

 

いうと、一色はきょとんとした表情で首を傾げる。

その隣で小町も、同じようにしていた。

 

「薦めるモノが違う?」

 

「ああ。前は自分が楽しかったり面白かったものを薦めてたんだけどな。

小町の言葉を聞いてから、小町が好きそうなものを薦めるようにしてる」

 

「小町なんかいったっけ?」

 

「中学生の頃な小町は俺に、『小町は頭が悪いから小説を読んでも面白くないんだよ』

って言ってくれたんだ。それは俺をすごく考えさせてくれたんだよな」

 

いったものの、二人にはあまりご理解してもらえなかった様子。

ふたり揃って不思議そうな表情で、俺を見ていた。

 

「なにかを楽しむには「能力」と「労力」が必要だという話だな」

 

頭が悪いから云々。この手のことをいうのは本を読まない小町に限ったことではない。

小説などの活字の本は頭を使わないと読めなくて、頭が悪い人には楽しめないみたいなことは、

活字の本を読む“頭の良い人”からもよく出てくる。

若者の活字離れが深刻だとか、最近の若者は漫画しか読まないから心配だとか、

読書こそが想像力を養う云々かんぬん。

 

文章から、「その空間」「そこにいる人物」「そこで起こっている出来事」を

正確に想像するのは確かに大変。能力が必要だと言うのも分かるのだが。

 

「まあなんつーか当時の俺は、自分が面白いものはきっとみんなが面白いと

思ってたところがあったんだ」

 

「だから自分の大好きな漫画を『○○面白いよ!』って教えたり、好きなゲームを

『やってみなよ!』って貸したりしていたんだよな。相手の気も知らずに」

 

「それでその一つとして、自分が好きな小説を小町に薦めたんだと思う」

 

「ここで小町の言った返答がもし『小町、あんま小説を好きじゃないんだよ』とか

『面倒くさいからいいや』だったら、恐らく俺はコイツは分からないヤツなんだ

くらいにしか思わなかっただろうな。

そういう意味で、俺の考えが変わるきっかけをくれたのは小町だったのかも知れん」

 

「それで小町の言葉を聞いた俺はまあ勝手にだが、こう解釈したんだ。

自分には小説を楽しむ能力がないんだと、本来ならそれは面白いはずなのに

自分の頭が悪いせいでそれが分からないんだって。

でも小町もそれと一色も、本を読むのに慣れてないだけだと思うんだ」

 

「頭が良いから小説を楽しめる。頭が悪いから小説を楽しめない。

ここに俺は異論がある。頭というのは単純に良い悪いで語られるものではないからだ。

向いているもの、興味があるものがそれぞれ違うだけだと思う」

 

「文章から風景を思い浮かべる力だったり、単純に言葉をどれだけ知っているか

だったり、登場人物にどれだけ感情移入できるかだったりな」

 

「たかが文字の羅列からストーリーを読み取るのにはそれなりの能力が必要で

当然、俺にだって、難しくて面白さが理解できない小説はたくさんある。

だから小町が言ったことは他人事ではないんだよな」

 

「例えば「漫画」を楽しむ能力。

読める人間にはそれが当然なことだが、たかが絵を並べているだけの紙からストーリーを

読み解くには「どういう順番で読めば良いのか」を知ってなきゃならない。

子どもの頃から漫画をほとんど読んだことがないまま大人になると、

「どのコマから読めばイイの?」って人が実は結構いるらしい」

 

「例えば「ラジオ」を楽しむ能力。

ラジオで「○○に行ってきたんですよー」というフリートークを聴いて、たかが言葉から

「どこに」「誰が」「何人で」「何をしに行っているのか」を正確に把握するのは

慣れていない人には難しかったりする」

 

「つまりなんでもそうだが、なにかを楽しむにはそれぞれに合った

能力と労力が必要だってことだ」

 

「それでだな。小町も一色も、その手の事には長けてるようにみえるんだ。

だから色々なものを読んでみるのもいいんじゃねーか」

 

そこまで言うと、二人はほぁーっと口を開けていたが、しだいに納得がいったようで

うんと大きく頷いた。

 

「じゃあお兄ちゃん。小町もさ頑張るから、これからも色んなの教えてね!」

 

「せんぱいっ。わたしにも色々教えて欲しいです!」

 

聞きようによってはちょっとアレな二人の言葉に苦笑で答えると

傾いた日差しがリビングに入り込んできていた。

 

 

 

 

 




もう少しで始まる四章のお話なのですが、かなり下ネタが多いです。
それでR15だと規約に引っかかりそうなのものは、一五話中五話くらいになると思うのですが
こんな感じです。↓

「レディーファーストの新解釈」

裸で(当たり前)お風呂に入っている八幡のところに、フル装備(着衣着用)のめぐりんが襲撃。
互いに性体験がないのならここはお姉さんらしく私が先に八幡くんの裸を見るべきだということで八幡を風呂べりに座らせその目の前にめぐりんがしゃがみ込む。
そして、八幡の八幡による八幡をみる感じ。

や、やばい。やばいぞこれは……。
めぐり先輩の顔と俺のピーの距離、その距離たった三センチ。ほんとやばい。

「風使いめぐりん」

元ネタはわたしの友人が中学時代誇らしげに語ってくれた
「ドライヤーオナ〇ー」となっています。
「冷たい風と暖かい風、交互に使うとすごいんだぜ!」という
彼の言葉が忘れられない。

さわってもいい? と八幡に尋ねるめぐりん。
いや、それはちょっとマズイと止める八幡。
腫れてるの? と心配するめぐりん。
い、いや、そういうわけじゃと狼狽える八幡。
とそこで、めぐりんは八幡のピーに吐息を吹きかけ始める!
さわるのはなしって言ったじゃないですか! と八幡。
さわってないよ? と微笑むめぐりん。
確かにと納得してしまう八幡。そして―― 

「風の賢者めぐりん」

わたしの友人が大学時代誇らしげに語ってくれた
「羽のない扇風機にピーをいれるとどうなるか?」
という体験談からインスピレーションを得ました。

こんな感じなので、もう一つの拙作
「やはり俺の英語教師がめぐり先輩というのは間違っている」を
R18にして、アレなお話だけそちらに掲載するようにします。



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