それでは気を取り直して。どうも、山石悠です。今回は記念すべき第十話ですね!
引っ越しの作業のあいまに執筆を頑張りました。
それでは今回のお話について。
今回は貴大君がマジギレです。心が折れそうにもなりますが、立ち直ってキレて燃えます。な、何があったんだ!? と思う方はぜひ、本編でお確かめください。
それではお楽しみいただければ幸いです。
[怒] 業火の怒り
鈴坂町 礼音通り
貴大は未だ見ることのなかったあるものを見てしまった。それはあまりにも衝撃的で彼を“怒り”に導くのは簡単だ。だが、普通ならおかしくなりそうなのに、それすらも通り越して逆に冷静でいられる。では、その彼が今見ているのは何か。
……それは“使心獣”に“ココロ”を喰われた人だ。その瞳には何の輝きもなく、その顔は人形のように凍りついている。そこには“恐怖”もなく、“絶望”すらもない。おそらく“喜び”も“悲しみ”も“愛”もない。
どうしてこんな状況になったのか。それを詳しく話すには時間をさかのぼる必要があるのだろう。
鈴原町 三坂貴大宅
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん? どうしたんだ?」
このうちで暮らしている小学生の少年、中森翔逸が話しかけた。基本的にこの三坂家の家事全般は彼の担当だ。もともと自分でしていたこともあり、今までほとんど家事なんてしたことがない貴大に比べればプロ級といっても構わないだろう。
「実は公園に遊びに行くんだけど、小鳥に餌をあげようということになったんだ。それで餌になるものを探してるんだけど、何がいいのか分からないんだ」
「ああ、そうなんだ。鳥の餌だろ。パンの耳とかでいいんじゃないのか?」
……相変わらず、どうしてそんな話になるかわからない。小学生が公園に行けば、野球するとか鬼ごっこするとかではないだろうか? 小鳥に餌やりなんて小学生のすることじゃない気がするのは当たり前ではないだろうか。
「そうなんだ。ありがとう。じゃあ、パンの耳を持っていくよ。……あ、お兄ちゃんも行く? 友達を紹介したいんだ」
「ええ、行かなきゃだめか?」
「駄目だよ。お兄ちゃん、ずっと家で寝てるでしょう。たまには外に出ないと」
完璧な正論が貴大の胸に刺さる。いかないとだめそうだな、と貴大は諦めて立ち上がる。
「分かった、いくよ。準備して来るから待っててくれ」
「うん、分かった」
鈴坂町 鈴音第三公園
この公園はは鈴音第三公園といって鈴音市でも指折りの大きさである公園だ。
「おーい、翔逸!」
「あ! タク!」
ベンチの近くから男の子が声をかけてくる。翔逸の反応を見れば、あれが公園で遊ぶのを約束した友人だろうと予想がつく。
「ごめん、タク。ちょっと遅れちゃって」
「ああ、大丈夫。まだ間に合ってるからな。……それで、そこにいる人は?」
「ん? ああ、お兄ちゃんか。この人はね、三坂貴大さん。僕が今お世話になってる人」
「そうか、この人か。……はじめまして、俺は羽水拓海です」
「俺は、三坂貴大。君が羽水君ね」
今自己紹介した少年、拓海は以前、翔逸と友達になったという少年だ。……それにしても、本当にどうして小鳥の餌やりをすることになったのか、貴大には疑問だ。
「じゃあ、餌は用意したから早速始めようか」
「おう。それじゃあ、あのベンチにしようぜ」
そういって拓海が指したベンチは比較的小鳥が多く、隣りのベンチでは優しそうなお爺さんが餌やりをしている。三人はゆっくり(小鳥を刺激しないためだ)移動して、ベンチに座って餌をまき始めた。隣のお爺さんは少し意外そうにしていたがすぐに餌やりに戻った。
「ちっちゃくてかわいいね」
「ああ、そうだな」
二人は楽しそうに餌やりをする。貴大はじっくり小鳥を観察する。すると、一羽の小鳥が彼の眼に着いた。おそらく、雀だと思われるのだが、他の鳥とは違う気がするのだ。じっと見ていると、その雀も貴大のことに気がついた。その雀は彼の方を見て、驚くような動きをしたと思ったら、今度は何か考えているようなしぐさを始めた。あまりにもおかしいので貴大は餌やりしている二人に聞いてみることにした。
「なあ、あの雀ってなんかおかしくないか?」
「え? どれ? ……あんまりよく分かんないよ」
「ああ、おかしい奴なんていない気がするけど」
「……そうか」
貴大が気のせいかと思っていると、あの雀が明らかに彼に敵意を見せてきた。その時、彼は以前緑のいっていたことを思い出した。それは“使心獣”とは“怪人体”以外に“人間体”と“原獣体”になれる、という内容だったはずだ。
ハッ! まさか! と、貴大が気づく。そして、彼はドライバーを拓海に見られないように出し、雀に見せる。案の定、雀はドライバーを見て驚き、敵意以上のおそらく殺気と呼ばれるであろうものを貴大に向けて、お爺さんの方に近づく。彼はとっさに叫んだ。
「危ない!」
「遅いよ、仮面ライダー」
どこからともなく、ではなくあの雀から声が聞こえたとたん、雀が“怪人体”になってお爺さんを気絶させ人質に取った。ポケットのケータイからは“Hサーチャー”が反応してうるさくなっている。
「ぎゃあ!! ば、化物だ!! に、逃げろ!!」
「お兄ちゃん!! 緑さんたち呼んでくるから!!」
拓海と翔逸はこの場から離れた。それにこの公園にいた人もみんな慌てて逃げて行った。おかげで貴大はこの場で変身ができるようになった。
「おい! お前、雀の“使心獣”だろ! お爺さんを離せ!」
「そうさ、僕はNo45雀の“Passer montanus”さ。それと、このお爺さんからは“ココロ”をいただかないとね。何しろずっと狙ってたんだから」
「ふざけんな! 今すぐ離せ!」
貴大が強い口調でいうと雀は仕方ないな、という顔をして言った。
「仕方ないな。離してあげよう。……ただし“ココロ”をいただいてからね」
そういうと雀はお爺さんの胸のあたりにくちばしを当てた。お爺さんが人質に取られている以上貴大は動けない。すると、奴のくちばしとお爺さんの胸のあたりが光りだした。それはとても優しい光だったが少しずつ弱くなっていく。どれだけの時間がたったかは分からないが、しばらくして光が無くなるとお爺さんが目を覚ました。……だが、目を覚ましたお爺さんは先ほどとは違った。
なぜなら、そこには感情がなかったのだ。何も感じていない、というよりも何も感じれないのだろう。貴大は初めてではあったがすぐに分かった、分かってしまった。お爺さんは“ココロ”を喰われた。お爺さんはこれから一生、死ぬまで何も感じないままなのだ。
「な、なんで………」
彼の口から出せた言葉はこれだけだった。あとはもう、言葉にならなかった。ただ、頭だけが冷静に物事を処理していく。彼の中にある何かが無くなっていく感覚を感じながら、俺は淡々とドライバーをつけ、チップを入れて言った。
「……変身」
「
そして彼の周りには彼の“ココロ”で作られた装甲が現れる。それがガチャガチャと機械的な音を立てて装備される。その工程が終了したと同時に声が聞こえてきた。
「連れてきたよ!!」
「仮面ライダー!!」
「おい!! 相手はどうだ!!」
それは翔逸や緑、勇介だった。俺は淡々と今の状況を言った。
「……そこのお爺さんが“ココロ”を喰われました」
彼がそう言うと三人はお爺さんを見てショックを受けた。翔一は叫んで、緑や勇介は茫然としていた。
「……あ、あ、ああああああ!!!!!!!」
「……そんな、これが……」
「これが……。どうして……」
彼は雀のほうを向いて、構えてから三人と雀に言った。
「すぐに倒します」
この一言に一人だけ、緑が反応して叫んだ。
「貴大君!! あなた、あのお爺さん見て何にも思わないの!! 喰われたのよ!! 分かる? “ココロ”を喰われたの!! あなたは守れなかったの!! あのお爺さんの“ココロ”を!! あなたは本当にこのことを何も感じないの? ねえ、何か言ってごらんなさい!!」
この一言で貴大の中の何かが帰ってくる感じがした。そして彼はいつもの自分に戻り始めたのだろう。すると、少しずつ彼の中に熱く燃える感情が湧きおこる。そして彼は叫びだした。
「感じないわけないでしょう!! 目の前で喰われたんだ!! 見てることしかできなかった!!」
言いたいことを言い始めると落ち着いてきたようだった。彼は少し落ち着くのを待って続きを言った。
「……今、ものすごく熱いものがこみ上げてくるんです。これはきっと“怒り”なんでしょうね。あの、お爺さんの“ココロ”を喰った雀に対する。そして、それを見ていることしかできなかった自分に対する“怒り”なんですよ!!」
最後まで言うのと同時にカッと体が熱くなり、炎が見える。それはすべてを焼き尽くそうと燃え上がる。彼はその感情に任せてその炎が出てくる“H”のホルダーからチップをとりだしてブチ込んだ。
「
“
「……赤い」
「姿が変わった……」
緑と勇介の声が聞こえる。彼は自分の姿を確認する。今の彼は赤を基調とした姿に変わり、体全体が少しごつくなっていた。機動力は落ちているかもしれないが一撃、一撃の威力はかなりのものだろう。
「へぇ~。真っ赤になったね。それで僕が倒せるって言うのかい?」
「当り前だ。さっさとお前をぶちのめしてやるよ!!」
「上等だよ! やれるもんならやってみなって!」
そういうと雀は羽を広げて少し飛んで貴大へ突っ込んでくる。彼は一撃で決めるために二つのチップをとりだす。
「覚悟しろ!! 雀野郎!!」
「“
右の拳に“ココロ”をためる。“ココロ”は、“
「や、やめろ! そんなの耐えきれない!」
「当り前だ!! 耐えきれないのをぶち込むんだからな!! お爺さんの分の一撃を受け取れ!!」
炎に包まれた右の拳を振り上げながら必殺技の名前を考える。そして、それをすぐに決めてから叫びながら振り落とす。
「燃やせ怒気を! “
拳を全力で雀にぶち込む。ぶち込んだ瞬間、拳から炎が上がったのが見えた。雀は一撃が入ったと同時に爆発した。彼はそれに巻き込まれはしたが、特にダメージもなく済んだ。ふぅ~、っと息を吐き出して変身を解除する。そして、みんながやってくる。翔逸は気を失っていた。
「貴大君お疲れ。それにしても、真っ赤になるなんて聞いてないぞ」
「そうよ、私も初めて聞いたわ。貴大君、なんのチップを使ったの?」
「俺も初めてだったんで、多分今さっき使えるようになったと思います。……それで新しいチップ“
彼が取り出した“
「スペックオーバーしたチップね。“
緑はいろいろと考えているが、貴大はあのお爺さんのことが頭から離れない。あのお爺さんはさっきの必殺技の威力で気絶してしまったが、起きたとしても二度と何も感じられないはずだ。彼は何もできなかった。そればかりか心がだめになりかけていた。
「……もう、俺の目の前で“ココロ”なんて喰わせねえ。絶対にみんなの“ココロ”を守って見せる!!」
今回、貴大は初めて被害者を見た。彼は何もできなかった。これは何をしたとしても変わらないだろうし、どうしようもないことだ。では、彼にできることは何だろうか。それは、これ以上の被害者を出さないことだ。
彼は新しい力を得た。今ある力を使って必ず、守る。彼は今回のことを忘れず、生かしていかないとだめなんだと、思っていた。
??? ???研究所
『燃やせ怒気を! “
真っ暗な部屋で大きな画面で貴大の戦う映像を見て「面白い」と、とある科学者が一人つぶやく。
「あの高畑があんなものを創り出したことも面白いが、その高畑やこの私すら驚かせてくれるあの少年が面白い!」
一人である科学者の部屋に何者かがやってくる。それは白衣を着た若い青年のようだったがすぐにその姿が変化する。
「ドクター。No48が脱走しました。始末しますか?」
「……いや、始末はするな。だが、監視を一体つけておくように。……そうだなNo29にでもさせておけ」
「分かりました。No29に伝えておきます」
明らかに人間ではないと分かる異形と話した彼はまた一人でつぶやく。
「君と会えるのもそう遠くはないだろう。先輩達の息子、三坂貴大君」
どうでしたでしょうか。
今回から“レイジフォーム”の登場です。このフォームで炎が出たのは僕の怒りという感情に対するイメージからです。まあ、基本的に“H”のチップはみんなそうですけど。
それと、気がついた方は多いかと思いますが二つお知らせです。
まずは、今回から正式に三人称視点にしました。こちらの方がいいという感じだったので。それと、今までのものを変更することはありません。そのまま一人称です。
二つ目は読み方です。英語のところにルビを振りました。自信はありませんが。それとこちらも“使心獣”の名乗りに出てくる学名は読めないものがあり(英語はともかくラテン語なんか知るか!)、そのままです。すいませんが、これは無視するか頑張って調べるかのどちらか、皆さん個々で決めてください。ちなみに僕は無視派です。
それでは長くはなりましたが、これで終了です。次回の[慾]の回もみていただければ幸いです。
それでは。
See you next time!