もうひとつの可能性(シャーロットss)   作:ゲキガンガー

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もうひとつの可能性④

「ごめん、待った?」

「いえ、そんな事ありません。私も来たばかりです」

 それは定番のワンシーンだった。

 駅の前、噴水の前で二人は待ち合わせる。 

 周りを見渡せば、そんなカップルが数多く見受けられる。

「・・・・・・・・それで?」

 と、友利は聞いた。

「これは一体、どういう事でしょうか?」

 全く持って解せない、という感じだった。

「だって、気になるじゃないですか」

 と柚咲。

「そうです。私も気になります」

 と、高城。この三人組は物陰から乙坂と白柳の様子を伺う。

「人の恋路を覗き見るなんて、随分と趣味が悪いですね」

 ため息混じりに友利は言う。

「友利さんは構わないんですか? 乙坂さんがこのまま他の女性とつき合っても」と、高城。

「別に・・・・・・・大体、そんな事私に関係ないじゃないですか」

「しっ、どうやら動くようです」

 乙坂と白柳の二人は動き出す。

 

 ・・・・・・・さて。

「どうしました?」 

「いや、何でもない」

 僕ーー乙坂有宇は頭を振る。尾行にもなってないような尾行だった。

 あまりにもお粗末。気づいてくださいと言っているようなものだった。

「・・・・・・・・とにかく、中に入ろうか」

「はい」 

 僕たちはあの日、二人で食べたパンケーキ屋に入る。

 

「入りましたね。私達も入りましょう」

 と、高城。

「はい!」

 と、柚咲。

「・・・・・・・だから、どうしてそうなるんですか?」

 そう、不服そうに友利。

「わー。綺麗なお店ですね」

 そう、席についた柚咲は言う。

「ご注文は何にいたしましょう?」

 そう、店員は言う。

「とりあえず、何か頼みましょうか」

「このお店はパンケーキが有名らしいですよ」と、高城。

「じゃあ、パンケーキです。パンケーキ三つお願いします」友利は指を三本たてる。

「はい、パンケーキ三つですね。少々お待ちください」

 と、店員は注文をとり厨房に戻る。

 しばらくして、パンケーキが三つ届く。

「ーーんっ! おいしいですっ!」

 と、目を輝かせるようにして柚咲。

「確かに、これは絶品ですね」と、高城。

「確かにおいしいですが・・・・・・・・これはもうパンケーキを食べたにきただけで、尾行とは程遠いですね」と、友利。

 ーーと。

 急に周りがざわめきだつ。

「ん? なんですか、急に周りがうるさうなりましたが」

 周りの客がざわざわとしている。ついには、スマートフォンをこちらに向けようとしている客もいる。

『あれ、ハロハロのゆさりんじゃね?』

『マジで?』

『いや、間違いねーって。テレビでみた通りだ』

 という会話も聞こえてくる。

「す、すみません! ハロハロのゆさりんですか?」

 と、一人の男が聞いてきた。

「え、はい。そうですけど」

「ファンなんです! サインください!」

 と、サイン色紙を差し出してきた。随分と用意の良い事だった。おまけにサインペンまである。

「だから、変装くらいしとけっての」と、毒づくように友利。

「いやー。すみません」

 と柚咲。

 

「随分と騒がしいですね。どうかしたんでしょうか?」

 と白柳さん。

「気にしないでいいよ」

 僕はそう言う。正直、あきれるより他になかった。せめて尾行を気づかれないような努力くらいはして欲しいものだった。

「・・・・・・・それより、もう大丈夫なんですか? あれから」

 遠回しな言い方で彼女は聞いてくる。遠慮をしているんだろう。

「完全に吹っ切れたわけじゃないけど・・・・・・・大分和らいではいるよ」

 当時、あれほど落ち込んでいたのに、時の流れは残酷だった。

 妹の、歩未の存在は当時あれほど大きかったのに。良くも悪くも、時間の流れはそれを忘却させていく。薄くなっていくのがわかってしまう。

「そうですか・・・・・・・よかったです」

 そう、白柳さんは言った。

「友利ーー昨日のあいつに言われたんだ。愛しい人を失った事があるのは何も僕だけじゃないって。考えてみればその通りだ。誰だって、愛しい人を失った事くらいある。今はなかったとしても、いずれは誰もが通る道なんだ。当然といえば当然の事だった。なのに僕は、その不幸が自分だけのものだと思っていた。思えば独りよがりだったんだよ僕は。なんて弱く、醜い人間なんだろうか、僕は」

「そんな事ありません。乙坂さんは強い人です。自らの弱さに気づき、それを認め、反省できる人というのは、それができない人よりもずっと強い人です」

「・・・・・・ありがとう。そう言って貰えると助かるよ」

「い、いえ。私なんて大した事言っていません。ただ、思った事を言ってるだけで・・・・・」

 

 ーーその頃。

 騒ぎが一段落した友利達のテーブルで。

「随分、いい雰囲気ですね」と、高城。

「これは、友利さん大ピンチです!」と、そう、柚咲は言う。

「いや、ちょっと待ってください。どうして私がピンチになるんですか。そもそもおかしいでしょう」と、友利。

「あっ、二人とも出るみたいです。私達もついて行きましょう」

 退店する二人を、三人組は追いかけた。


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