「では皆様。柚咲は帰り道がこちらですのでこちらで失礼します」
「私もこっちですので失礼します」
二人は別れる。
「あいつ等二人にして大丈夫か?」
僕は聞いた。
「まあ、大丈夫なんじゃないでしょうか。柚咲さんの事です。いざとなれば美砂さんが出てくる事でしょうし」
「それもそうだが・・・・・・・」
「それに、高城君にとって、柚咲さんは貴音の花でしょうから。恋愛感情が湧くとは思えません」
「・・・・・・・まあ、それをいったらそうだが」
「それに、男女二人組は私達も同じですから。身の危険を感じます」
「いや、お前相手だと透明化されてボコボコにされるの僕だから」
「・・・・・・・まあ、それでもそうですね。とにかく帰りましょうか」
ーーと。
偶然にしてはできすぎた、ある種の運命のいたずらのようだった。
「え? ・・・・・・・あっ、あなたはーー」
目に付いたのは長く、黒い髪。前に僕が通っていた学校の制服。品の良さそうな顔立ち。
間違いようもない。僕が前に、「五秒間だけ相手に乗り移れる」能力を使い、卑怯にも近づいた相手。そして、わざわざ僕の家を訪れてくれたにも関わらず、無作法にも追い払った相手ーー白柳弓さんだ。
「誰っすか?」
友利は聞く。
「ああ、前にいた学校のーーそう。白柳さんだ」
「ふーん。そうですか」
あまり興味のない風に友利は言う。
「あ・・・・・・あの、その」
この前冷たく追い払ったんだ。普通に考えれば顔もみたくないはずだ。
ただ、偶然にもここで再会できたのは、ある意味では幸運だったのかもしれない。
「・・・・・・あの、白柳さん」
「え?・・・・・はい」
「この前はすみませんでした。わざわざ、心配をして家まできてくれたのに」
そう、頭を下げる。謝罪の機会ができたのは幸運だったと言えるかもしれない。心に傷を負っているからと言って、人の心を傷つけていい理由にはならない。そんな当たり前の事すら、当時の僕にはわからなかった。
「いえ、そんな事ありません。こちらこそ、心に傷を負っている乙坂さんに対して、出来過ぎた真似をしたと思い、反省していたところです。その節は申し訳ありませんでした」
「いや、謝らないでほしい。白柳さん。悪いのは僕なんだ」
「・・・・・・・こほん。そろそろいいですか。往来の中でやる事とは思えません」
友利は咳払いをする。
「す、すみません」
と、白柳さん。
「あ、あの。不躾な質問をしてもよろしいでしょうか?」
「なんすか?」
と、友利。
「お二人はおつき合いをされているのでしょうか?」
「マジで不躾ですね。お答えしますがつき合ってません。これでよろしいでしょうか?」
「そうですか。お答え頂きありがとうございます。では、これから私が乙坂さんを食事に誘ったところで差し支えはありませんね?」
「つき合ってもないのにそんな事に干渉したらおかしいでしょう。ご自由にどうぞ、としか言いようがありませんね」
と、友利。友利は続ける。
「だ、そうですけど、あなたはどう返答をするんですか?」
「それは・・・・・・・」
僕と友利はつき合ってるわけでもない。そして白柳さんは間違いなく美人だし、性格もいいし。健全な男子学生なら断る理由が見あたらない。
断るのも失礼な話だ。
「白柳さんがそれでいいなら、特に断る理由はない」
「よかったー。じゃあ、今度の日曜日に待ち合わせしましょう。待ち合わせ場所はケータイで連絡しますね」
と、白柳さん。
「夜も遅くなるのでそろそろ失礼します」
と、白柳さんは帰って行った。
「・・・・・・よかったじゃないですか。カンニング魔さん」
と友利。
「うるさい。なんとでも言え」
僕はそう返す。
もしかしたら、僕たちの距離はこのまま縮まらないのかもしれない。
そんな予感さえ抱かせる一連の出来事だった。