「夜天の書・・・ですか?」
「あぁ。それが闇の書の本当の名前らしい」
アースラのシュミレーションルームで連携確認を行なっているとクロノ執務官がやってきた。重要な話らしいので会議室に向かい話を聞くと出てきたのがその名前だった。本来は研究用の魔導書だったが歴代の主の手によって改悪され無限の転生と永遠の再生能力を持ち破滅と悲劇を撒き散らす闇の書となってしまったらしい。
「破壊もできず、主による制御も困難ということですか?」
「あぁ。封印・停止の方法についてはユーノ、スクライアの少年が無限書庫で捜索中だ」
つまりまだ見つかっていないということね。
「おそらくだが守護騎士達はこのことを知らないと思われる。そして闇の書が完成してしまえば・・・一つの世界が消えるかもしれない」
「結局のところ方針としては闇の書の主、及び守護騎士の確保ということで変わらないのですね。」
「あぁ。あとどれくらい完成までにあるのかはわからないが一刻も早く闇の書を確保しなければならない。今まで以上に厳しいスケジュールでの巡回となるが・・・」
「わかっています。必ず完成前に闇の書を押さえましょう」
そう言って私達は強く頷きあう。管理局の誇りにかけて闇の書事件を終わらせる。私達の歩む道は同じだった。
あれからかなりの時間が経った。私達も必死の捜索をしているが守護騎士たちも闇の書の主もまだ見つかってはいない。いつ闇の書が完成して暴走を始めるかわからないという事もあり眠れない日々をすごしていた。そして地球の暦で12月24日、ついに怖れていた事態が発生した。
「リンディ艦長、エイミイ!」
緊急アラートに叩き起こされた私は急いでアースラの艦橋へと飛び込む。モニターにはタカマチさんとフェイトちゃん、アルフさん、ユーノくん、そして銀の髪をなびかせ四人を相手に圧倒する女性が映し出されていた。
「武装隊はすぐに現地へ跳んでください!事態は一刻を争います!」
「了解!」
その命令にすぐさま踵を返す。一から十まで聞く必要はなかった。いつものんびりとした艦長の切羽詰った声がすべてを物語っている。
「闇の書が・・・完成した!」
間に合わなかったという無力感を噛み潰し私は転送ポートに集結していた武装隊とともに海鳴へと跳んだ。
「エイミイ、状況は!?」
『あんまり良くないよ!なのはちゃんの攻撃もフェイトちゃんの攻撃もまったく効いてないの!ユーノ君たちのバインドもすぐに振りほどいちゃうし・・・!』
あの二人のデータは見せてもらったが、あれらをものともせずにさらにバインドを軽く振りほどく、ね。正直そんな化け物がいるとは思わなかったわ。
「執務官は!?」
『エリ一等空尉、クロノ執務官はただいま特殊任務中ゆえに現場を離れています。戻ってくるのにそう時間はかからないでしょうが今はあなたが指揮を執ってください』
「っ!?了解!」
こんなときに!?今は1人でも戦力が欲しいというのに。状況は限りなくこちらに不利。そして次に飛び込んできた報告はさらに悪い報告だった。
『闇の書、なのはちゃんのスターライトブレイカーを撃とうとしています!って、エリさん!スターライトブレイカーの射線上に二人組みの民間人らしき姿が!』
「っ位置情報を!」
送られてきた位置へと全速で飛ぶ。交戦地点では馬鹿らしいほどの魔力がチャージされているのが見える。
「っ!あれか!」
視界の先にはコートを着た民間人が二人と彼女達を砲撃から守ろうとする二人の少女がいた。
「総員、管理局の誇りにかけて彼女達を守りとおせ!」
「「「「「了解!」」」」」
その返事と同時に彼女達の目の前に滑り込むように着地する。
「「エリさん!?」」
「あわせなさい!」
《フルプロテクション》
今この瞬間、自分にできる全力でシールドを張る。もちろんそれは私だけでなくほかの隊員もそうだしナノハさんやフェイトちゃんもだ。
「くうっ・・・!?押されてる!?」
これだけの人数で張ったシールドでも押されているということに驚愕する。
「カートリッジ」「ロード!」
瞬間、ナノハさんとフェイトちゃんの声が響きデバイスから薬莢が吐き出される。カートリッジによって増幅された魔力がシールドの強度を跳ね上げ、そこでようやく砲撃が終わる。正直カートリッジシステムがなければ今ので終わっていたかもしれない。
「エリさん・・・あのっ!」
「ごめんねタカマチさん、話は後で。今はこの子達を結界の外の安全な場所に。」
そう言って民間人の少女二人を招き寄せる。何か色々といっているがこちらとしてもそこまで余裕があるわけでもないので申し訳ないが今はスルーだ。
「エイミイ、この子達を結界の外に。できるわよね?」
『任せてよ!』
その言葉からすぐに二人の民間人の少女の足元に魔方陣が発生する。
「エリさん、アルフさんとユーノくんも一緒に転移してもらって良いですか?アリサちゃんたちを守ってもらいたいんです」
「エイミイ」
『ほいほーい』
こうして四人は転移魔法によって結界の外へと送られた。しかしまだ油断はできない。彼女達のように結界に巻き込まれた人がいるかもしれないからだ。
「チームアルファ、ベータは二手に分かれて結界内に取り残された人がいないか捜索を。ただし常に闇の書からの攻撃に注意しなさい」
了解という返事とともに武装局員は散っていく。
「私達は闇の書をなんとかします。といっても現状これといって対策があるわけでもありませんが、それでもやらなければなりません。いいですか?」
「「はいっ!」」
とは言っても本当にどうすれば良いのかわからない。止める方法も破壊する方法もまだ見つかってはいない。
「あのっ!」
「どうしましたタカマチさん?」
「時間を稼ぐなら私あの子とお話がしたいです!」
お話・・・?この緊急時に何を言っているんだろうか?
「あの子は多分色々誤解しちゃってるだけで、だからその誤解を解けば・・・!」
正直何が闇の書に対して効果があるかわからない今、試せるものはなんでも試しておきたい。それは間違いない。もしこの子の言う「お話」が成功したら?闇の書は止まるだろう。会話だけで止められるならそのほうが良いに決まっている。ではもしだめだったら?さほど現状と変わらない。むしろ話に気をとられて少しでも時間が稼げるならそちらのほうが良いだろうか?
私は考え、そして決断を下す。
後にして思えば我ながら良くこんなことを許したと思う。今、私の目の前ではナノハさんとフェイトちゃんが必死に呼びかけをしている。どうやら彼女達と闇の書の主は知り合いだったらしい。闇の書は時折攻撃してくるものの会話には乗ってきており予想以上に時間は稼げているはず。私はというとあまりすることもないため彼女が言葉を届けるために飛んでくる攻撃を防いだり触手を切り払ったりと援護をしている。
「順調・・・いえ順調すぎるかしら?」
これならば少なくとも武装隊が集結するまでは時間を稼げそうだと思ったのもつかの間、激昂したフェイトちゃんがバリアジャケットを脱いで闇の書に切りかかってしまう。
「フェイトちゃん!?」
「っ!?」
フェイトちゃんが飛び出した瞬間私も彼女の後を追う。彼女の攻撃が受け止められたのを見て、カウンターを食らう前に引き戻そうとフェイトちゃんの肩をつかんだと思ったとき、
「眠れ」
その言葉とともに私の意識は闇へと落ちていった。