「今回は私がついていながらこのようなことになってしまい申し訳ありませんでした」
今回の戦いでフェイトちゃんが蒐集の被害にあった。私がもっとしっかりしていれば、私にもっと力があったら、そう思わずにはいられない。そんな中私はアルカンシェルの換装作業を終えたリンディ艦長に頭を下げる。
「エリ一等空尉、頭を上げてください」
「はっ!」
頭を上げた私の目に映ったのは予想していたよりも柔らかい表情のリンディ艦長だった。
「戦闘データを見させてもらいましたが、今回の件あなたの指揮、行動に問題点はありませんでした。幸いフェイトさんもリンカーコア以外の損傷はひどくないのですぐに回復できるでしょう」
「そうですか・・・!」
安堵の感情が湧き上がってくる。ティアーズから大丈夫だとは保障されていたが改めて聞くと肩の力が抜けるのを感じる。とりあえずフェイトちゃんにはあとでお見舞いと独断専行のお説教ね。
「ところでエリ一等空尉、あなたは大丈夫でしたか?身体的損傷で言ったらあなたのほうがひどいと言う報告でしたが」
「問題ありません。いつでも捜査に戻れます。」
こんなところで休んでいるわけにはいかない。もうあんなことを許すわけにはいかないのだ。リンディさん達は心配そうに私を見ていたが私が揺るがないのを見て仕方ないと言うようにクロノ君が話を進める。
「ただ・・・問題もある」
「あの仮面の男ですね」
なにが目的かは知らないが蒐集に協力するという暴挙を行なっている凄腕の魔導師。許すことはできないわ。
「えぇ。なのはちゃんの砲撃を防ぎ、リンさんでも届かない距離からいともたやすく長距離バインドを決めそしてすぐに長距離転移」
「それでエリさんを襲撃して、フェイトちゃんとシグナムさんに気づかれないで完全な不意打ち。なんというか人間離れしてるよね~」
リンディ艦長にエイミイが続ける。なぜかクロノ執務官は難しい顔をして黙り込んでいる。
「クロノ執務官?」
「ん・・・あぁ、いや。とりあえず現状の方針に変わりはない。守護騎士及び主の逮捕に仮面の男の拘束だ。フェイトも蒐集されてしまい闇の書のページも埋まりつつあるはずだから今まで以上に気をつけてくれ。艦長・・・」
「えぇ。私からは特にありません。各員いっそう気を引き締めて捜査に当たってください」
艦橋での会議はそこで解散となった。
「隊長!」
「リン?」
アースラ艦内を歩いている私のところにリンが近づいてくる。
「隊長、もう大丈夫なんですか?」
「えぇ。問題ないわ。あなたのほうこそ大変だったみたいね」
「まぁ、そうですね。私もバインドには自信がありましたけどまさかあの距離からとは・・・」
落ち込むのも無理はないわね。まぁあんなでたらめな相手と比べるほうが間違っているんでしょうけど。
「っと忘れるところでした。隊長、今お時間よろしいですか?」
「どうしたの?」
「いえ今回の戦闘データの報告をと思いまして」
「あぁ。それじゃあここじゃまずいからとりあえず会議室に行きましょう」
そう言って私達は会議室に場所を移す。
「で、ですね・・・とりあえず今からデータをモニターに映しますが、えっと彼女も良かれと思っての行動ですし、まだ子供ですのであんまり怒らないであげてくださいね」
「・・・それは映像を見てから決めるわ」
・・・またタカマチさんは何かやったのかしら。素直に指示通り動いて欲しいわね。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・
・
「・・・と言うことなんですけど」
「・・・」
あまりのことに声も出ないわね。
「あの・・・隊長?」
「・・・艦長のところに行ってくるわ」
「は、はい!了解です!」
さっき別れたばかりなのにまた艦橋に行く羽目になるとは・・・それにしてもフェイトさんといいタカマチさんといいどうしてこうも頑固と言うか自分勝手というか。
「リンディ艦長!」
「エリさん?」
リンディ艦長は驚いた表情で私を見る。それも当然か。先ほど別れたばかりの私が血相変えて飛び込んできたのだから。だが今の私はそんなことに構っていられない。
「今回の戦闘でのナノハ・タカマチのデータをご覧になりましたか?」
「え、えぇ。一応全て目を通したわ。一体どうしたのかしら?」
目を通したのならわかるはずでしょ!?どれだけ甘いのよ。そう内心で叫び、該当箇所をモニターに表示する。映像の中ではリンが鉄槌の騎士に降伏勧告を行い、それを無視して逃亡を図ったところをナノハ・タカマチが呼び止めて説得を行なうところが映っていた。
『話を聞きたいんだ』
『もしかしたら手伝えることがあるかもしれない』
『私は民間協力者だから・・・』
最初の話を聞きたいというのは良いだろう。それにより鉄槌の騎士も足を止めた。
しかし次の言葉はなんだ?手伝えること?管理局と敵対している守護騎士を手伝うということはすなわち管理局と敵対することを意味しているとわかっているのだろうか。
そして最後に自身が管理局員でないことを宣言している。翻意があると捉えられても仕方がない。
「さすがにこれは見逃せません。もし彼女が守護騎士、もしくは主に同情してしまったら管理局に敵対する可能性もあります。直ちにデバイスを取り上げ事件から外すべきだと思います」
しかし艦長は私の提案に対してあまり良い顔をしていない。この人もクロノ執務官も彼女やフェイトちゃんに甘すぎる。確かに彼女達の力は心強いがそれはしっかりと組織立って動けるという前提があってこそだ。フェイトちゃんも危ういがナノハ・タカマチは少しかって過ぎる。
「確かに彼女は貴重な戦力ですが裏切るかもしれない相手に背中を預けることはできません」
「・・・そうね、わかったわ」
やっと決断してくれた。
そう思った私が馬鹿だったのかもしれない。
「彼女を今回の闇の書事件の間一時的に嘱託魔導師として管理局の指揮系統に組み込みます」
「・・・どういうことですか?」
「民間協力者と違って嘱託魔導師ならば私達の命令に従う義務が発生します。もちろんそれに反すればそれなりの処罰もあります。これらのことをなのはさんにはしっかりと言い聞かせておくということでどうでしょう」
正直なところ私が思うに、もしそのときがきてしまったら彼女はおそらく処罰を怖れずに命令を無視するだろう。それほど彼女は頑固だ。だが理論としては間違っていない。艦長は一般的には正しい対策を施した。それを不満として反対していれば上官の指示に従わないのは私となり下手をすれば今回の事件からはずされてしまう。
「・・・わかりました」
だからこの提案に乗るしかない。
「えぇ。それでは彼女には私から正式に辞令を出しておきます。よろしいですね」
「はい。失礼いたしました」
「はい。それとエリさん」
退室しようとしたところを呼び止められる。呼び方に階級がついていないと言うことはおそらくプライベートな内容なのだろう。
「なんでしょうか?」
「先ほどフェイトさんが目を覚ましました。そしてあなたに会いたがっていましたよ」
フェイトちゃんが?いったいどうしたのだろうか。
「わかりました。今から行ってみます。」
そう言い残し艦橋を出る。
「フェイトちゃん、入りますよ」
部屋に入った私を見てフェイトちゃんの顔が申し訳なさそうなものになる。
「あの・・・勝手な行動をしてすいませんでした」
そんな泣きそうに言われると私が悪いことをいているみたいな気分になるわね。
「そのねぇ・・・フェイトも悪気があったわけじゃないんだよ。だからデバイスを取り上げるのは勘弁してもらえないかい?」
「お願いします!」
デバイスを取り上げる?あぁそういえば出撃前にそんな話をしたわね。
「フェイトさん今回はあなたの行動で守護騎士を逮捕するチャンスを逃し、あなたが蒐集されてしまいました。もちろん仮面の男の登場もありましたがせめて二人一組で動いていたらこんなことにはならなかったかもしれません」
もちろんIFの話だから確証はないし仮面の男と剣の騎士を相手にして勝てたかどうかはわからない。それでも上官として、先輩として私は彼女に厳しく言っておかなければならない。
「今回のことでわかったでしょう。管理局は組織でありそこに所属する限り私達は組織で動きます。いくら力があるからといってワンマンプレーは周りを危険にさらします」
「・・・はい」
「ですからルールを破ったものにはそれなりの処罰が与えられなければなりません。わかりますね?」
「・・・っ!」
これは彼女がこれからも管理局員として生きていくなら言わなければならないことだ。だから心が痛いが私もそれなりの処罰を与えなければならない。
「ということなのでフェイトさんのデバイス、バルディッシュはクロノ執務官に預けます。もちろん期間が明けるまでは返さないように言い含めてです」
執務官がいくらフェイトちゃんに甘いといってもさすがにこれは破らないでしょう。
「あの・・・どれくらいの期間になりますか?」
「そうですね・・・今回は初めてですし、十分に反省も見られますから・・・」
私もそれなりに甘いのかもしれない。
「あなたが健康体に戻るまで、ですね」
そう言って私は医務室を後にする。向けられた私の背中には彼女の感謝の声がしっかり届いていた。