魔法少女リリカルなのは〜復讐者の選ぶ道〜   作:びーびー

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第5話 繰り返される悲劇

 守護騎士との初戦闘から数日が経った。

 

 未だに守護騎士達は1人も捕まっておらず、主の捜索も進んでいない。クロノ執務官は調査指示や上層部との打ち合わせで、リンディ艦長はアースラへのアルカンシェル取り付けの立会いで不在。私達武装隊の拠点であるアースラも今は本局なのだが全員が本局へと戻るわけにもいかない。そこで私は三人の女性隊員とともにこうしてリンディ艦長の駐宅にご厄介になっている。まぁフェイトちゃんとタカマチさんとは一度しっかりと話しておいたほうが良いと思っていたので都合が良いといえば都合が良い。

 

「というわけですのでこの事件にかかわるつもりがあるのなら一対一などと言う無謀なまねは絶対にしないでください」

「でも・・・」

「でもではありませんよ、タカマチさん。現に剣の騎士はフェイトさんに対して殺傷設定を使おうとしています」

 

 このナノハ・タカマチと言う少女はなかなかに頑固だ。渋々だが同意したフェイトちゃんに対してこの子は一対一で話し合いたいと言って譲らない。

 

「タカマチさん、あなたは確かに才能がある。努力もしているし力もある。鉄槌の騎士と互角に渡り合えるかもしれません。スポーツや模擬戦ならばそれでも良いでしょう。ですがこれは実戦です。今までも腕利きと言われる魔導師が何人も撃墜され・・・殺されています」

 

 9歳の少女に話す内容ではないかもしれない。しかし私は心を鬼にして言う。言わなければならない。何かあってからでは遅いのだから。

 

「もちろん1人でなくてもそのようなことは起こるかも知れません。しかし仲間がフォローしてくれる分1人よりは確実に安全です」

「・・・」

 

 まだ納得しているとは言いがたいわね。どれだけ頑固なのかしら。此処まで来たのなら仕方がないわね。

 

「もし、万が一あなたがこの命令を破った場合、命令違反によりあなたを拘束、デバイスを取り上げます」

「そんなっ!」

「クロノ執務官とリンディ艦長が居られない今総指揮権はエイミイ執務官補佐の下にありますが、現場の指揮権は私にあります。当然命令に従えないならそれなりの処置をさせていただきます」

 

 そんなってことは命令を破ろうとしてたのかしら?とんでもない子ね・・・

 

「私の命令は単純です。一対一での戦闘はやめてください。これだけです。いいですね」

「・・・はい」

 

 頷くのを確認し私はリビングを後にする。ちょっと強く言い過ぎたかもしれないが、とりあえずエイミイをフェイトちゃんにあとは任せると念話を送っておいたから大丈夫でしょう。

 

 

 

 

 

「剣の騎士と守護獣ね」

「うん。こっちは鉄槌の騎士・・・ヴィータちゃんだっけ?」

 

 あれからしばらくしてエイミイが再び守護騎士たちを補足することに成功した。彼らは別れて蒐集を行なっているようで今は剣の騎士と守護騎士が、そして鉄槌の騎士が1人で行動していた。

 

「湖の騎士はどこにいるかわかる?」

「う~ん・・・ちょっとわからないかなぁ。でも考えてみると今までも彼女だけは前線に出てきてないよね」

「確かにそうね。湖の騎士はサポートに特化しているようだからあまり前には出て来れないのかもしれないわね」

 

 二人で軽く分析をしているとモニターの中では剣の騎士が一瞬の隙をつかれ砂の中から現れた触手に捕らわれてしまった。それを見たフェイトちゃんが子犬形態のアルフさんを抱えて焦ったように駆け寄ってくる。

 

「あ、あの!早く向かったほうがいいんじゃないでしょうか?」

「そうね。確かに今がチャンスね」

 

 剣の騎士は砂竜に捕らわれその拘束から抜け出せていない。今のうちに守護獣を捕らえればそのままの戦力を拘束されている剣の騎士に向けられる。鉄槌の騎士も蒐集後で消耗している、タカマチさんとサポート役に局員を1人つければ十分勝機はあるだろう。

 

「エイミイ、いいかしら?」

「うん。編成はエリさんに任せるよ」

「なら・・・」

 

 そう言いながら振り向くとそこには準備万端という表情でフェイトちゃんとタカマチさんが立っていた。そんなに懇願するような目で見なくてもわかっているわよ。

 

「タカマチさん」

「はい!」

「あなたは鉄槌の騎士のところへ向かってください」

「わかりま「ただし!」」

 

 そう言いながら一人の武装局員を手招きして呼び寄せる。

 

「彼女、リンの指示に従ってもらいます。聞けばあなたは有能な支援型魔導師とともに先のジュエルシード事件において活躍したとか。リンもまた優秀な支援型魔導師ですから彼女とともに鉄槌の騎士を逮捕してください」

「よろしくね、なのはちゃん」

「はい、リンさん!」

 

 そう言って彼女達は駆け足で転送装置へと向かう。彼女は少々お茶目だが腕、人格共に確かなので上手くタカマチさんのサポートをしてくれるでしょう。

 

「さてフェイトさん、アルフさん、そしてシルヴィアと私は守護獣を逮捕後、剣の騎士のもとへと向かいます。フェイトさん、正面から勝負したいというあなたの気持ちもわからなくはないですが、管理局員として行動する以上は剣の騎士が弱るまであのまま放置します。いいですね?」

「・・・はい」

 

 我ながら血も涙もない判断だがしかたないでしょうね。彼女がこれからも管理局の中で働くのなら慣れておいてもらわなければならないこと。

 

「リリーは予備戦力として待機ね。投入時期、場所はエイミイに任せるわ。それとエイミイ本局に応援要請、よろしくね」

「了解です」

「わかったよ~!」

 

 返事を聞きながら私たちも転送装置へと向かう。

 

「ここで終わりにするわよ!」

 

 

 

 

 

 基本戦術は単純なものだ。私の幻術魔法で作り出した分身と誘導弾、そしてシルヴィアのバインドで隙を作りアルフさんとフェイトちゃんのヒット&アウェイによってクロスレンジからの強烈な一撃を叩き込む。王道中の王道のような戦法だがそれゆえに実力があるものが用いれば強い。さらに数にして四対一、負けるはずがない戦い。こちらが絶対的に有利な戦い。・・・だからこそ、

 

「よくもつわね・・・」

「さすがは楯の守護獣といったところですね」

 

 そう。だからこそこちらが圧倒的に有利にもかかわらずまだ墜ちない守護獣の強さがわかると言うものだ。上手く楯を使いこなし直撃こそあれど戦闘において致命的な攻撃はまだ与えられていない。

 

「でもあまり時間をかけるわけにもいかないわ」

 

 そうなれば剣の騎士が拘束から脱出してしまうかもしれない。死んでしまうかもしれない。もちろん守護騎士はプログラム生命体なので闇の書と主がいれば復活は可能だ。それでは逃げられてしまう。

 

「だから・・・次で決めますよ、フェイトさん」

「はい・・・!」

 

 私達の周りに流れる緊迫感。それを破ったのは私でもなくフェイトさんでもなくエイミイだった。

 

『エリさん!仮面の男がシグナムさんを助けちゃったよ!』

「何ですって!?それで剣の騎士は?」

『そっちに向かってるよ!到着まであんまり時間はないかも』

 

 消耗した剣の騎士に守護獣、相手にして負けることはないだろうけれど、それでも合流されるのは面倒ね。さらに向こうにはクロノ執務官でさえ苦戦した仮面の男・・・どうする。

 

「私が足止めをします!」

「っ・・・!フェイトさん!?」

 

 止める間もなく行かないで欲しいわ!いろいろと言いたいことはあるけれどとりあえずフェイトちゃんを追わないと!

 

「アルフさんとシルヴィアは今のままここをお願いします!危なくなったら無理はしないで良いですから!」

「わかったよ!」

「了解です!」

 

 このままならおそらく問題はない。幸い守護獣も剣の騎士も消耗している、問題は仮面の男・・・

 

「エイミイ、仮面の男もこっちに向かっているの?」

『それが今度はなのはちゃんのほうに現れちゃったんだよ!?』

「大丈夫なの?」

『大丈夫かなぁ。細かいことは省くけど今交戦中だよ。でもヴィータちゃんには逃げられちゃいそう・・・』

 

 長距離転移・・・!?相当な使い手みたいね。

 

「二人には無理をしないように伝えて。最悪仮面の男は放置でかまわないわ」

『了解!』

「それと援軍を・・・」

『リリーさんにはなのはちゃんたちのほうへ向かってもらったよ。エリさんのほうにももうすぐ本局から・・・dふぁdfs・・・sfsdf』

「エイミイ!?」

 

 ジャミング?いや違う、これは・・・

 

「邪魔だ」

《マスター!?》

「グッ・・・!?」

 

 強い衝撃を感じ、次の瞬間、私の体は地面へと叩きつけられる。幸い下が砂だったので衝撃は多少吸収されるがそれでもバリアジャケットを透過した衝撃に眩暈がする。

 

「少し寝ていろ」

 

 声の主はそう言って転移していく。

 

「ガハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」

《マスター、あまり無理に動かないで下さい!》

 

 何が起きた?いやそれはわかっている。仮面の男に襲撃されたのだ。おそらくは私の背後から。しかし私にもティアーズにも気づかれずに?そんなことが可能なの?いや、今はそれより・・・

 

「フェイトちゃん・・・!」

《マスター!?》

 

 あの男が蒐集に協力していると言うのなら今此処にいるメンバーの中で一番魔力が多く1人で行動している彼女が一番危険なはず。いくら彼女でも剣の騎士と仮面の男が相手では勝ち目はない。

 

「ぐっ・・・!?」

 

 立ち上がるために右腕を動かそうとするとに激痛が走る。

 

《おそらくですが右肩が外れています。すでにシルヴィアさんに向けて緊急信号は出しています。マスターはおとなしくしていてください》

「そういうわけにもいかないでしょ!あれ、やるわよ!」

《・・・わかりました》

 

 あれとは簡単なことだ。以前ゼストさんに習った。脱臼をした場合、骨をもとの位置に戻す必要がある。肩の場合、本来ならそれを自分で行なうのは難しい。だから固定のために腕に何箇所もバインドをかけ体自体をそこに押し付けるように動かすと、

 

「っ~~くっ!・・・はぁ・・・はぁ」

《完了しました》

 

 とりあえず肩はもとの位置にもどった。あまり薦められたことではないが緊急時の応急処置としては十分だ。

 

「・・・急ぐわよ」

 

 飛ぶ。ただひたすらにティアーズが指し示す方角に飛ぶ。

 

 

 

 

 

 許さない。

 

 自分の手が届く範囲では絶対に・・・

 

 蒐集などさせてなるものか・・・!

 

 それは決意。

 

 今回の闇の書事件の捜査に参加するにあたって自分に課した誓い。

 

 あの日の何もできなかった弱い自分とは違う。

 

 強くなったはずだ。

 

 守り通せるはずだ。

 

 ・・・・・・そう、思っていた。

 

 想いはたやすく切り裂かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめて・・・」

 

 彼女のもとへたどり着いた私を待っていたのは・・・

 

「やめてよ・・・」

 

 倒れた金の髪の少女と・・・

 

「いやだ・・・いやだ・・・いやだ・・・」

 

 桃色の髪の剣士と・・・

 

「ああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁあ」

 

 役目を終えた一冊の本だった・・・

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで無防備に、何の警戒もせず倒れた少女のもとに飛ぶ私を確認し、剣の騎士は去っていく。

 

「すまなかった」

 

 追わない。いや追うということを思いつかなかった。

 

「フェイトちゃん・・・フェイトちゃん、フェイトちゃん、フェイトちゃん!」

《マスター!》

「違う、違う違う違う!こんな・・・こんなはずじゃない!」

《マスター!》

「っ!」

 

 今までにないティアーズの剣幕に一瞬思考がもとに戻る。

 

《彼女は無事です》

「無・・・事・・・?」

 

 そこに放り込まれる希望という名の糸。

 

《いえ、正確にはすぐに病院に運べばなんの問題もないということです。大変なのは彼女なのですからあなたが取り乱している暇はありません》

「っ!」

 

 ティアーズの言葉に頭が完全ではないが冷静さを取り戻す。

 

 うろたえるのはあとで良い。

 

 悲しむのもあとで良い。

 

 今すべきことを冷静に考え実行する。指揮官の初歩だ。

 

「ありがとうティアーズ」

《いえ、問題ありません》

 

 今すべきこと、それはフェイトちゃんを病院へ運ぶこと。これが最優先事項だ。守護騎士の逮捕も、仮面の男もすべて二の次で良い。だから私は今すべきことをしなければならない。

 

(シルヴィア!)

(隊長!緊急信号を受信しましたが大丈夫ですか!?)

(それはあとで、フェイトさんが蒐集されたわ。急いで撤退するわよ!)

(わかり(フェイト!フェイトは無事なのかい!?))

(命に危険はないわ。でもすぐに病院に搬送しないと!エイミイとはつながらないの!?)

『エリさん!』

 

 通信が復旧したのか慌てた様子でエイミイが私を呼ぶ。

 

「エイミイ、詳しい話は後にして。フェイトさんが蒐集されたわ。今すぐ本局に転移して!」

『えぇ!?っと・・・転移ですね!了解です!』

 

 さすがにこの年で執務官補佐をしているだけあってエイミイは優秀だった。突然のことに一瞬動揺するもすぐに建て直し最善を尽くす。すぐに私達の周りには転移用魔方陣が展開され、私達は本局の病院に搬送された。

 


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