魔法少女リリカルなのは〜復讐者の選ぶ道〜   作:びーびー

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第4話 くい違う想い

『そう、今日も網にはかからなかったのね』

「はい」

 

 いつもの巡回を終えてアースラに帰還、地球に駐留しているリンディ艦長に報告を行なう。報告も今までと変わらず「未だ発見できず」だ。蒐集は確実に行なわれているはずだがまったく網にかからない。

 

「手は尽くしているのですが・・・」

『わかっているわ。焦るなというのも難しいでしょうが無理だけはしないように。しっかり休んで体調を整えてください』

「了解です」

 

 いつもならそれで通信が終わるはずだった。これも無料ではないと考えてしまうのはレジアスさんの影響でしょうね。しかしこの日のリンディ艦長は何を思ったのか私を駐宅へと誘ってきた。この気遣いこそがリンディ艦長のやさしさの表れなのだろう。

 

『どうかしら?アースラの船内じゃあ十分に疲れは取れないでしょう?』

「いえ・・・私は・・・」

『遠慮しなくてもいいのよ?』

「いえいえ、本当に大丈夫ですから・・・」

『艦長、あまり無理をいってエリ一等空尉を困らせないで下さい』

 

 「しつこい」と思ってしまうのもしょうがないくらいに誘われて困っている私を助けたのは誰であろう執務官さんだった。いいぞ執務官、頑張れ執務官。

 

『あらクロノ、今はプライベートな時間だから堅苦しい言葉遣いはしなくて良いのよ』

『今はそういうことを言っているんじゃなくてですね・・・』

 

 そこからしばらく二人は話し合っていた。リンディ艦長が言ったようにかなりくだけた雰囲気で、だ。先ほど言ったようにこの通信も無料ではない。そういう建前で私は二人に割り込むように断りを入れて通信を終了する。そう建前、本音は・・・別にある。

 

 

 羨ましいと思ったから。

 

 同じ闇の書の被害者なのに親子で笑い会える二人が。

 

 惨めに思えたから。

 

 ディスプレイのこちら側で見ているしかできない自分が。

 

 恐怖を感じたから。

 

 醜い嫉妬を抑えることができそうになかった自分に。

 

「・・・まだまだ修行が足りないわね」

 

 切れたモニターの前で立ち尽くす私が漏らした言葉に答えるのは無言で点滅するティアーズだけだった。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく経ち守護騎士のうち鉄槌の騎士と守護獣がようやく網にかかった。私達武装隊はすぐに出動し彼らを包囲することに成功した。

 

「あなた達には捜索指定のロストロギア『闇の書』の所持、使用容疑、さらに傷害容疑などがかかっています。速やかに武器を捨てて投降してください」

 

 しかし彼らは投降の意思を見せずこちらを突破しようとする。わかりきっていたことね。今の警告は形式的なものに過ぎない。いくら危険な容疑者相手でもさすがに問答無用で撃墜するのは問題がある。でもこれで条件は整った。

 

「容疑者に抵抗の意思あり。速やかに無力化します」

「やってみやがれ!」

 

 その言葉とともにデバイスを構える守護騎士を尻目に包囲網を一段階広くする。不思議そうな顔ね。でも大丈夫、すぐにわかるわ。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」

「上だ!」

 

 私達の上空から唐突に響く声。私の幻術魔法によって隠れていたクロノ君の放たれる魔法。守護獣は良い反応をしたけどもう回避できるタイミングじゃない。

 

「ってぇ!」

「捕縛結界用意!」

 

 常に最悪を予想して動くのが部隊長として求められること。確かにクロノ君の攻撃はタイミング、威力ともに申し分ないけれど実戦に絶対はない。特に今回の相手はあの守護騎士。

念には念をいれておくのに越したことはないでしょう。

 

「ザフィーラ!」

「気にするな。この程度でどうにかなるほどやわではない」

 

 案の定、晴れた煙の向こうでは守護騎士達は立っていた。

 

「こちらチームアルファ、捕縛結界いつでも発動できます」

『了解!クロノ君!』

「あぁ。エイミイ、フェイトたちは?」

『今そっちに転送したよ!』

 

 その言葉と同時に戦場に新たに人影が現れる。しかしその手に持つデバイスの特徴的なシルエットにデバイスの持ち主も含めてその場にいたほとんどの人間が驚きを表す。

 

「カートリッジシステム・・・!?」

 

 ベルカ式に良く見られるシステムであり、カートリッジを消費することで一時的に魔力を跳ね上げることができる。私もゼストさんに見せてもらったことがあるけれど・・・

 

「あれは成長途中の子供が使って良いものじゃないわ・・・!」

 

 実際私もティアーズに組み込もうとしたがゼストさんに止められた。使用するたびに体、特にリンカーコアへの負担が激しく、体が出来上がっている大人ならまだしも成長途中の子供が使うと一歩間違えればデバイスもろとも術者の体まで破壊される諸刃の剣。断じて子供のデバイスに組み込むものではない。

 

「管理局はなにを考えているの!」

 

 エイミイが色々言っているがまるでわけがわからない。

 

 デバイスが望んだから?

 

 その程度で軽々しくつけて良いシステムではないはずだ。あるとすれば戦力増強、彼女達に恩を売る、そしてミッドチルダ式におけるカートリッジシステムのデータ収集つまりは実験台、とこんなところだろう。

 

「・・・最悪ね」

 

こんなときにいやな答えを想像してしまう自分に嫌気がさしてくる。

 

『エリさん!』

「っ!」

 

 考えるのは後だ。カートリッジシステムの使用は任意、それにカートリッジシステムを使わなくても彼女達は十分戦力になる。今は彼女達の心配よりやらなくてはならないことがある。

 

「捕縛結界、発動!」

「了解!」

 

 私の号令で周りの武装局員が結界を発動させる。

 

「そのまま結界を維持。まだ守護騎士はあと二人いるから周囲の警戒を怠らないで!」

 

 そう言って結界の周囲を飛び回る。この結界はかなり強固だ。クロノ君もいる今中から破壊するのは不可能と言っても良い。だから結界を壊すとしたら外で結界を維持している武装局員が狙われるはず・・・だった。

 

『これはっ・・・!』

「エイミイ?」

『結界頂点部に向けて高速で接近する魔力反応あり!』

「なっ!?」

 

 見上げた先を飛んでいるのは剣の騎士、その手に持つデバイスに炎を走らせ結界に向けて一閃する。

 

『結界内に侵入されました!』

「っく・・・!武装局員は結界の維持に努めて!」

 

 そう言って慌てて剣の騎士に作られた傷を修復する。

 

(執務官、申し訳ありません)

(いや、僕も中に入ってくるとは思っていなかったよ。しかし逆に好都合だ)

 

 飛んで火にいる夏の虫ということね。結界内部にはクロノ君と噂の天才2人に使い魔2匹。単純計算でも5対3、いくら相手が守護騎士とはいえ負けることはないだろう。これであと警戒すべきは湖の騎士と闇の書の主だけ。・・・のはずだったのだが結界内部では私の予想外の出来事が起きていた。

 

「一対一!?なにを馬鹿な!」

 

 これは遊びではないしスポーツの試合でもない。命がかかった実戦だ。現に過去の闇の書事件ではリンカーコア蒐集以外にも殺傷設定の魔法で殺された例は無数にある。確かに今は相手も非殺傷設定かもしれないがいつ殺傷設定に切り替えるかもわからない中で数の有利を捨てる暴挙。しかし結界の外にいる私の抗議もむなしくすでにクロノ君とタカマチさんの使い魔は結界の外に出てきてしまっている。

 

「執務官!」

「大丈夫だよ」

「それになのはは一度決めたら引きませんからね」

 

 彼らは呆れたように言ってくる。違うのだ。そんな悠長な言葉を言っていられるほど守護騎士たちは甘い存在ではない。

 

 私と彼らで何かが決定的に食い違っている。

 

「僕達は闇の書の主を探しに行く。君はどうする?」

 

 彼女達を残してこの場を離れる?本気で言っているの?

 

「私は・・・この場に残ります。もし彼女達が少しでも危機に追い込まれたらすぐに介入できるように」

 

 その言葉に頷くと二人は飛んでいってしまう。執務官が許可した以上私は彼女達の戦いには介入できない。だから私にできることはいつでも介入できるようにしながら戦いを見つめることだけだった。

 

 

 

 結論から言ってしまえば彼女達は強く、私の危惧したような事態は起こらなかった。組み込まれたばかりのカートリッジシステムを見事に使いこなし一方は誘導弾を使いこなし、もう一方はベルカ式に匹敵するクロスレンジで、その使い魔も主のようにクロスレンジで互角かそれ以上に相手を押している。が・・・

 

「まずい・・・!」

 

私の耳に聞こえてきた剣の騎士の言葉、

 

「殺さずにすます自信はない」

 

 フェイトちゃんは受けてたつつもりらしいがそんなことを許すつもりはない。たとえ無粋だろうがなんだろうがここで見ているだけのつもりはない。

 

「ティアーズ!【ティアドロップ】!」

《マルチシフト》

 

 幸いなことに相手はフェイトちゃんと距離を開けて足を止めている。手加減は必要ない。結界に突入するとともに私の周りに現れる30個ほどのスフィア。直進しかできないがその分スピードは速い。威力は数で補う。

 

「シュート!」

「「!」」

 

 不意をついたつもりだったが相手はしっかりと反応しシールドを張る。おそらくあまりダメージはないだろう。

 

「どうして!?」

「黙りなさい。私達がするべきは守護騎士の捕縛。一対一などというお遊びではありません」

 

 抗議など受け付けない。むしろ今まで黙ってみていたことをほめて欲しいくらいだ。

 

「あなたには今から私の指揮下にはいってもらいます。協力して剣の騎士を撃破後、他の二人の元へ向かいます。良いですね?」

「・・・はい」

 

 あまりいやそうにしないで欲しいわ。

 

「邪魔が入ったか・・・」

「さてもう一度言っておきます。武器を捨て速やかに投降してくだ『高魔力反応!攻撃来ます!』っ!?」

 

 次の瞬間、轟音とともに結界が破壊される。

 

「!?」

「テスタロッサ勝負は預けるぞ」

「っく・・・!逃がすか!」

 

 そう言って転移しようとする剣の騎士にバインドをかけようとするが、すでにそこに姿はなく守護騎士達は姿をくらましてしまっていた。

 

「・・・チームアルファ、総員無事か?」

 

 幸いなことにけが人はなかった。本来は喜ぶべきなのだろうが、守護騎士たちを逃がしてしまったという事実があるだけに喜べるはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

『フェイトが剣の騎士、シグナムと決着をつけられなかったことで落ち込んでいたよ』

「失礼ながら剣の騎士は非殺傷設定解除を宣言していました。介入は当然のことかと」

 

 その後、リンディ艦長宅へと向かった彼らと違い後始末に追われアースラに戻った私を待っていたのはお優しい新米おにいちゃんの愚痴だった。

 

『わかっているさ。ただもう少し彼女を信じてあげられなかったのかと・・・いやこれはただの愚痴だ。すまない』

「いえ・・・それで結局何があったのですか?」

 

 そこで聞かされた話は間違いなく過去の闇の書事件にはなかったことだった。

 

「守護騎士が・・・それは確かに私も見ていて思いました。もっと言えばなんというか人間味が出てきた、そのように見受けられました」

『多分その辺りがあの被害者の状況につながっているんだろう』

 

 確実に以前の闇の書事件のときより軽い被害の被害者達、守護騎士たちも人のように罪悪感などを感じるようになったということだろうか?

 

『それとあと一点注意すべきことがあるんだ』

「注意すべきこと・・・ですか?」

『あぁ。今回の闇の書事件には協力者がいる可能性が高い』

 

 協力者・・・?瞬間頭の中にあの日の記憶が映る。闇の書の主と守護騎士以外にあんなことをしようとする人間がいる?無意識に握り締めた手につめが食い込む。

 

『エリ一等空尉、・・・大丈夫か?』

「・・・はい」

 

 なんとか過去を振り払い返事を返す。

 

『そうか・・・とりあえずこちらからは以上だ。明日からはまた巡回の繰り返しになってしまうが・・・』

「問題・・・ありません」

『・・・そうか。』

 

 そう、問題はない。結局私にできることは巡回をして一刻も早く守護騎士、そして主を捕まえることだけだ。もちろん協力者が出てくればそいつらも捕まえる。それだけだ。

 

「執務官、ひとつよろしいでしょうか」

『どうした?』

 

 ただしこれだけは言っておかなければならない。了解をしておいてもらわなければならない。

 

「今後は一対一などということを認めるわけにはいきません。それがあなたであろうと守護騎士には多対一で当たるべきです」

 

 そのために私が、そして武装隊がいるのだ。これだけは譲るわけにはいかない。

 

『・・・わかった。彼女達にもそのように厳命しておく』

「ありがとうございます」

 

 そう言って通信は終了する。通信をする前とくらべて提案を了承してもらったことですこし気が楽になっている。まだ手遅れというわけではない。しかしいつ命が奪われるかそれはほかならぬ守護騎士たちにしかわからないことだ。今回は運がよかったが、もしかしたらフェイトちゃんの命はなかったかもしれない。

 

「訓練、するわよ」

《休まなくてもよろしいのですか?》

「えぇ」

 

 少しでも早く守護騎士を逮捕する。想いを新たに私は訓練室へと足を踏み入れる。

 


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