「すまなかった」
唐突に謝罪の言葉が発せられる。そうね、あなたならそう言って来るんでしょうね、剣の騎士。
「謝罪は必要ないといったでしょう?」
「それでも、だ。謝って許されることではないとわかってはいるが、それでも・・・すまなかった」
すまなかった・・・ね。
「いったいなんなのかしら」
「許されたいの?」
許すとでも思っているのかしら・
「楽になりたいの?」
言葉にすれば気持ちは軽くなるでしょうね?
あなたがどんなつもりかは知らないけど私からすれば、
「それは単なる自己満足の一方的な気持ちの押し付け」
とっても無意味で、無価値で、それでいてとっても・・・ムカツク。
「あぁ不愉快だわ。そう、とってもいらいらする」
《ショートダガー》
無意識に私はティアーズに魔力刃を発生させていた。無論、殺傷設定だ。
「殺したくなるほどに・・・」
言葉とともにティアーズは振り上げられ、
「なっ・・・よせっ「ねっ!!」」
眠り姫の腕に振り下ろされ、突き刺さる。
血しぶきが私とこの子を汚していく。
「はやて(さん)(ちゃん)!!!」
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
そうよ、そういう顔を待ってたの。はやてちゃんの悲鳴があがればもっと良い顔をしてくれたんでしょうけど、まぁ今はこれでいいでしょう。
「いいわぁ・・・その顔。もっと絶望して」
「待て!待ってくれ!」
もちろん待つわ、待ってあげる。だって私は優しいから。
「お前の仇は私達のはずだ!主はやては関係ない!私達はどうなってもいいから主はやてだけは・・・」
「私達はどうなってもいいですから、どうかお願いします!」
見事に予想通りね。そう言うと思っていたわ。
「はやてちゃんは関係ない、ねぇ?」
「頼む!」
「俺達はどうなってもかまわない」
はやてちゃんは関係ない。
自分達はどうなっても良い。
なんて涙を誘う展開なのかしら。闇の書の守護騎士とは思えない言葉ね。
そうまるで家族を心配する本物の人間みたい。
だからこそ、
「関係なくなんてないわ。」
関係ないはずがないのよ。
「ただの闇の書の守護騎士という『プログラム』、つまりは『機械』ね。それを八神はやての家族という『人間』にしたのはまぎれもなくこの子だもの。だから私はこの子に感謝している」
「感謝・・・だと?」
そう。私は間違いなく八神はやてに感謝している。
「『機械』には復讐しても意味がないわ。苦しまないし、悲しまない。怒りもしないし絶望に顔をゆがめることもない。でも『人間』は違う。苦しんで、悲しんで、怒って、絶望する。だから復讐の相手は人間じゃないと意味がない」
あぁまた顔が歪んでいく。それに比例するかのように強張って、引きつっていくみんなの顔を見るのはとっても、とっっっっっっっっっても愉しいわ。
「それに私は家族を殺されたの。だったら同じことをやり返すのが筋でしょう?」
目には目を、歯には歯を。良い言葉だわ。
「この子がいたからあなたたちに家族を奪われる気持ちを、痛みを、悲しみを、絶望を教えてあげられる」
だから私はこの子に感謝している。
「運が悪かったのよ、この子は。そうでしょう、鉄槌の騎士?」
「っ・・・!」
絶句する騎士たちを尻目にさらにスフィアの数を増やしていく。この数が全部当たったら塵も残らないわね。この子も・・・そして私も。
「待ってくれ!頼む!」
「はやてちゃん!」
「やめてくれよ!あたしらはどうなってもいいから・・・!」
「エリさん!」
「やめるんだエリ一等空尉!」
『だめよ!』
あぁ、なんて楽しいんだろうか。間違いなくあの日以降の人生で最高の時間だ。
でも残念なことに楽しい時間ももう終わる。
「つき合わせてごめんなさい、ティアーズ」
《問題ありません。私は常にマスターのおそばに》
本当に良い子だ。私につき合わせるのがもったいないくらいだ。
でも劇は遂にクライマックスを迎える。
だから始めよう。
「ティアーズ、シグナルオン。カウントダウン開始」
《了解。シグナルオン。カウントダウン、30・29・28・27・・・》
さあ謡おう。
彼女らを縛る呪いを。
「守護騎士、あなた達さえいなければこんなことにはならなかった」
一生その身を苛む呪いを。
「何が守護?何が騎士?あなた達は何も守れない。人のリンカーコアを奪う薄汚い強盗」
さぁ悔いなさい。自らを呪いなさい。
「あなた達がいなければ、お父さんもお母さんも死なずにすんだ。多くの人が不幸にならなかった。・・・・もちろんはやてちゃんもね」
《ティアドロップ・デストロイシフト》
生きながら地獄を彷徨え!
「シュートッ!!!!」
「はやてぇ!!!!」
声とともに殺傷設定の威力を重視したスフィアが私達の体に突き刺さる。
そう『私達』だ。
結局私はあの日から人として壊れていた。それを理性で隠していただけだった。
そしてその理性も今回の事件の間に壊れていって、守護騎士たちの処遇を聞き完全に壊れてしまった。
もう何もわからない。
何もわかりたくない。
生きていてどうするのだ。生きる意味があるのか。
生きていたいのだろうか?
そう考えたとき結末は決まっていたのだと思う。
「・・・ごめ・・ん・・・なさい」
消えていく意識の片隅でお父さんとお母さんが泣いている気がした。