魔法少女リリカルなのは〜復讐者の選ぶ道〜   作:びーびー

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第12話 分かたれた道

「あんまり近づいてこないでよ・・・この子を無事に助け出したいならね?」

 

 最初は劇を見る上での注意事項を伝える。当然ね。この子がいなければ私なんてすぐに捕まっちゃう。

 

「殺傷設定・・・正気か!」

 

 みんな少し呆然としていたみたいだけど最初に声をかけてきたのはやっぱりクロノ君。

 フェイトちゃんはまだ信じられないって顔ね。

 リンディさんはディスプレイの向こうで怖い顔。

 守護騎士達は・・・まぁ当然のごとくはやてちゃんに夢中ね。

 

「正気よ・・・と言いたいところだけれど、どうかしらね?どう思う?」

《マスターは目標達成の為に論理的思考により行動を決定しています》

「だそうよ」

 

 そういいながらクロノ君に向けて微笑む。

 

「これが・・・八神はやてを連れ出して、こんなメッセージを残すことが正気の人間のすることか!?」

 

 そう言うクロノ君の手には確かに私が書いたメッセージが握られていた。

場所、時間、そして間に合わなければこの子がどうなっても知らないという我ながら陳腐な脅迫メッセージ。

 

「えぇこの子にはいろいろとやってもらいたい事があるの」

「やってもらいたいこと・・・ですか?」

 

 クロノ君とのおしゃべりの間に復活してきたらしいフェイトちゃんがおずおずと聞いてくる。毎回思うのだけどそのバリアジャケットはどうなのかしら?風紀の乱れとか色々と。

 

「えぇ。現に今は餌となってあなた達を誘い出してくれたし、この瞬間も人質としてあなた達の攻撃から私を守ってくれているじゃない。まぁ他にもいくつかね」

「テメー、はやてに何しやがった!」

 

 あいかわらず鉄槌の騎士は口が悪いのね。私の機嫌を損ねたらどうなるのかわかっているのかしら?それとも・・・そんなことも考えられないくらい動揺している?

 

「眠ってもらっているだけよ。暴れられたら厄介だしね」

「テメーっ、はやてを離「ヴィータ!」っんだよシグナム!?」

「主はやては彼女の手の中にある、あまりうかつな行動をとるな!」

「っく・・・」

 

 剣の騎士、意外に冷静・・・ってわけでもないみたいね。レヴァンテインを握る手が震えているわよ。それと湖の騎士、わからないと思っているんでしょうけど、見えてるわよ。

 

「あまり妙な動きをしないで欲しいわね。この子を無事に取り返したいのならね」

 

 そう言いながら生み出したスフィアをこの子の周りで回転させる。無論、殺傷設定でだ。

 

「っ・・・!?」

「シャマル、落ち着け!」

 

 そうそうそうやっておとなしくしておいて欲しいわ。そうじゃないと・・・ねぇ?

 

『エリ・キタザワ一等空尉、あなたの行為は管理局法に反しています。保護すべき民間人を無断で連れ出し追跡してきた執務官及び嘱託魔導師等を攻撃。殺傷設定の使用。どれも許されることではないわ』

「だから直ちに抵抗をやめて投降しなさい?」

『・・・えぇ、その通りです。これ以上罪を重ねる必要はあり「あるのよ」っ・・・』

 

 そう。舞台の幕はもう上がっている。後戻りはできないしするつもりもない。

 

「あなたならわかっているでしょう?リンディさん?」

『やはりあなたはまだ11年前のことを・・・』

 

 その言葉に守護騎士達の顔が曇る。逃れられない過去が今こうして最愛の主に牙を向いているんですものね。傍から見ていても悔やんで、苦しんでいるのがよくわかるわ。

 

 本当に最っ高の気分よ。

 

「だが夜天の書のバグは消滅した!もう闇の書はどこにもない!闇の書事件は終わったんだ!」

 

 えぇ、そうね。闇の書はもうどこにもない。

 

「だから君が復讐する相手はもういない。僕たちは・・・乗り越えなきゃいけないんだ!」

 

 ・・・あぁ、わかっていない。

 彼は何もわかっていない。

 リンディさんも、おそらくグレアム提督もわかっていない。

 自分の顔が歪むのがわかる。今までにないほど歪んでいく。傍からみたらさぞかし不気味だろう。それくらい歪んでいく。

 

「わかってない、わかってない。あなた達はなにもわかってない。わかった気になっているだけ。ねぇ、ティアーズ?」

《肯定します》

 

 さすが私のデバイス。お父さんからのプレゼント。私のことは全てわかってくれている。何もかも、全て。

 でもわからなくても大丈夫。私は優しいからわからない子には順を追って教えてあげるわ。

 

「始めに闇の書事件の管轄であるアースラに武装隊として着任したときは、私情は二の次にして管理局員として頑張ろうって思ったわ。それが約束だったし、クロノ君とも誓いあったしね」

 

 ここから先は私の語り。

 邪魔はしないで欲しいって心配したけど、みんな黙って聞いてくれるみたいね。

 まぁはやてちゃんの周りには相変わらずスフィアが回転してるし当然といえば当然ね。

 

「実際しっかりできていたと思うわ。まぁ後手後手だったし、フェイトちゃんも蒐集されちゃったけど感情的になることもなく指示にも従っていた、そうですよね艦長?」

『・・・そうね。あなたはすばらしい管理局員でした』

 

 私の確認にリンディさんは頷いてくれる。今にして思えばよくやったと自分でもほめたいくらいね。

 

「最初に違和感を感じたのは・・・そう、はやてちゃんが闇の書の防衛プログラムを切り離して守護騎士達を復活させたとき」

 

 あの時から歯車がずれ始めた。いえずっと前から存在した歯車のずれを認識し始めたと言ったほうが正しいのかしら。

 

「あなた、鉄槌の騎士」

「・・・なんだ」

「あなたこの子に泣きながら抱きついてたわよね「な、泣いてなんかっ!」」

 

 顔を真っ赤にして暴れだそうとするのを剣の騎士に止められる鉄槌の騎士。まるで子供ね。

 

「そのときにね、思ったの。あれ?ってね」

 

 周りはみんな安堵の空気を出していた中で私だけが首をひねっていた。周りの空気になじめていなかった。

 

「それで暴走した防衛プログラムをアルカンシェルで消滅させることができて、なのはちゃんやフェイトちゃん、はやてちゃんや守護騎士、それにリンディさんやクロノ君まで一件落着みたいな空気をだしているところでもあれ?って思ったわ」

 

 闇の書事件は終わったらしい。

 全て良い方向に片付いたらしい。

 らしい、らしい、らしい、らしい。そればかりが繰り返され何一つ実感が湧かなかった。私の中では闇の書事件は終わってなんかいなかった。

 

「すべてがはっきりわかったのは本局でのこと」

「本局・・・?」

 

 あぁまだわからないの、クロノ君?そんなんじゃ執務官としてやっていけないわよ。

 

「そ。はやてちゃんたちの今後についてクロノ君が休憩スペースで話していたでしょう?」

「はやては保護観察で、シグナムたちは私のときと同じように管理局に無償奉仕と保護観察・・・ですよね?」

「正解よ、フェイトちゃん」

 

 無償奉仕、そして保護観察。あの時は耳を疑ったわね。いくら戦力確保や教会との関係の為とはいえそれを実行しようとするハラオウン親子の、そして受け入れることを決めた管理局の正気を疑ったわ。制限はあるが懲役で牢に入るわけでもなく全うに生きていればいずれは解放される。

 

『そしてはやてちゃんは自分が管理局入りすることを条件に守護騎士の減刑を嘆願』

「そうですね、艦長。そして・・・ティアーズ」

《音声再生します》

 

『家族の罪は家族全員で償わなあかん』

 

 あの時無意識に録音されたはやてちゃんの声。

 

 家族、ね。家族家族家族家族・・・

 

 ・・・なんて羨ましいのかしら。

 

 

 

 

 ・・・そして、なんて妬ましいのかしら。

 

 

 

「私の家族は守護騎士に奪われた。

 

それなのになんで守護騎士に家族がいるの?」

 

・・・ お父さんもお母さんも、私の目の前で奪われた。

 

「私のお父さんはもう私を抱きしめてくれない。

 

それなのになんであなた達は抱きしめあっているの?」

 

・・・私からあの温もりを奪ったのに。

 

「お母さんはもう笑ってくれない。

 

なのになんであなた達は笑いあっているの?」

 

私はあの笑顔も奪われたのに・・・

 

「ねぇなんで?どうして?」

 

 罪を償うといっても管理局で働いていればごく普通の生活を送れる。

 家族で助け合って・・・笑いあって・・・

 

「それでも!だからといってこんなことをして良いことにはならない!過去を振り返っても、復讐なんてしても死者はよみがえらない!」

 

 死者はよみがえらない。そんなことはわかっている。私が言いたいのはそんなことじゃない。

 

「お父さんとお母さんを殺した、それ以外にもたくさんの人を殺した。再起不能になった人だっている。心に傷を抱えた人だっている。みんな苦しんでいるのにその加害者がのうのうと家族と仲良く暮らせると思っているの!?」

 

こんなこと誰が納得するというの?

 

『同じ闇の書の被害者としてあなたの気持ちはわかります。しかし私達は法の守護者です。法がそれを許すのならば私達は認めるしかありません。・・・そしてエリさん、あなたのしていることは許されないことです』

 

 同じ被害者?

 そうかもしれないが、あなた達と私達は違う。

 

 法が許す?

 あなた達がそうなるように走り回ったのは知っている。

 

 気持ちはわかる?

 ずいぶんと面白いことを言ってくれる。あなた達にはわかるわけがない。

 

そう・・・

 

「わかるわけがないでしょ!」

『「「「「「「!?」」」」」」』

 

 先ほどまでの落ち着いた様子と一変した私の変わりようにみんな息を呑んでいる。でも私は止まらない。止まるわけにはいかない。

 

「えぇわかるわけがないわ。特にあなた達ハラオウン家やグレアム提督には絶対にわからない。だからこんなにも簡単に彼らを許せるのよ」

『どういう・・・ことかしら?』

 

 本当にわかっていないの?

 

 ここまで説明してまだわからないの?

 

 なら教えてあげるわ。

 

「夜天の書を闇の書としていたバグはアルカンシェルによって消滅した。他ならぬリンディ艦長あなたの手でね」

『・・・えぇ』

「そしてクロノ君も防衛プログラムの破壊に参加した。グレアム提督から受け取ったデバイスとともに」

「・・・あぁ」

 

 もう気づいているんでしょう?

 

「つまりあなた達は今回の事件で結果として愛する夫であり、父であり、部下だったクライド・ハラオウンの仇をとったのよ。任務の上で!法に則ってね!」

 

 そう、彼らは11年前の闇の書の暴走によってクライド・ハラオウン亡くした。しかし彼を奪った闇の書の暴走の原因であるバグはリンディ・ハラオウンの手により消滅。彼らの仇はこの世のどこにもいない。

 

「でも私は違う!私の両親を奪った相手はそこにいる!」

 

 あの日のことを忘れたことなど一度もない。お父さんの懇願を切り捨て、お母さんの願いを叩き潰し、殺した相手は私の目の前にいる。のうのうと罪に苦しむこともなく!

 

「忘れているというなら、わからないというのなら聞かせてあげるわ!」

 

思い出しなさい、あの惨状を・・・

 

あの地獄を・・・

 

「ティアーズ!」

《再生開始》

 

『頼む・・・カリーヌとエリだけは見逃してくれ・・・!』

『・・・我が主は少しでも多くの魔力をお望みだ』

『テメーラは運がなかったんだよ』

『があぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁ!?』

『あなた!?』

『お願いです!この子だけは・・・『シャマル』っ!』

『えぇ、クラールヴィント』

『あぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあ・・・』

『お母さん!?ねぇお母さん、お母さん!』

『二人で一ページもいかねえのか。だめだめだな』

『・・・』

『あ・・・う・・・』

『お父さん・・・お母さん・・・』

『あっ・・・』

 

 

 映像を止める。

 これはお父さんのデバイスが記録していた映像。

 

 この映像が私の原動力だった。

 

 ハラオウン家は悔やむかのようにきつく目を閉じている。

 フェイトちゃんは顔面蒼白になってしまった。

 剣の騎士と守護獣はハラオウン家と同じように、悔やむかのように目を閉じている。

 湖の騎士は泣いている。

 鉄槌の騎士は自らの言動に青褪めている。

 あぁ・・・いいわ。

 そうよ、そういう反応を待っていたの。

 もっと苦しんで、悔やんで、悲しんで、そして・・・絶望して。

 

 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。

 

「主の命令だったなんて言い訳は聞きたくないわ。あなた達は今回、はやてちゃんの命令を破って蒐集していたんですもの」

 

 そう言い訳などいらない。

 

「謝罪も必要ないわ。謝ってもらっても死者は帰ってこないもの」

 

 ねぇ?クロノ君?

 

「私が求めるのは唯一つ・・・」

 

 そう唯一つ。難しいことではない。

 

「あなた達の絶望に歪む顔だけよ」

 


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