「こんな・・・だって・・・ちがうちがうちがう・・・」
あの後どうやってかはしらないが私は自宅に帰ってきていた。乱れに乱れた思考はこどものように両親を求めたのかもしれない。
「だって捕まえたわ・・・守護騎士は逮捕した・・・お父さんとお母さんの仇は討った・・・!」
最終決戦後のアースラの中で守護騎士に手錠をはめたのは間違いなく私とクロノ執務官だったはずだ。守護騎士は逮捕し、闇の書は消えた。それ以外に私にできる仇討ちは何もない。後は司法にまかせれば全て上手くいくはずだった。仇は討てるはずだった。
「なのに・・・こんな・・・!?こんなのって・・・!」
司法が下した決定は保護観察に無償奉仕。ほぼ無罪のようなものだ。
「ちゃんと、ちゃんと管理局員として・・・!ちゃんとやったのに・・・!」
いつしか両の目からは涙が溢れだし頬を、服をそして握り締められた両手を濡らす。
はたから見れば駄々っ子のようだったかもしれない。それでも止めることなどできなかった。
「こんなはずじゃないの!こんなはずじゃない!」
こんな結末など認められるはずがなかった。
「いやだ・・・いやだ・・・こんなのいやだよぅ・・・」
室内には泣き声だけが響く。
どれくらい泣いていただろうか。いつしか涙もかれ、喉もかれ室内にはぼそぼそという呟きしか聞こえなくなる。
「こんなの違う。仇なんて討ててない。こんなの認めない」
ただただ繰り返す。何度同じことを繰り返しただろう。しかしそれも終わりを告げる。
「こんなのおかしい、絶対におかしい。・・・間違ってる!」
そう呟いたその瞬間頭の中のもやが一気に晴れる。
「そうよ、間違ってるのよ。あいつらを許そうとする全てが間違っているのよ!」
なぜこんな単純なことに気づかなかったんだろう?答えがでれば単純なことだった。
「管理局もクロノ君もリンディさんも・・・それに前までの私もぜんぶ間違ってるのよ!」
管理局も、クロノ君も、リンディさんも全てが守護騎士を許そうとしている。管理局員だった私ならそれに従うしかない。でも私は彼らが間違っていると気づいてしまった。
管理局が、クロノ君が、リンディさんが、世界が許すといっても私は許さなければいい。
管理局が、クロノ君が、リンディさんが、世界が守護騎士を裁かないなら私が裁けば良い。
本当に簡単なことだった。
だから私は今宣言しよう。
あの日の憎悪を、悲しみをこめて。
闇の書事件が始まるときと同じ言葉を、まったく違う意味で。
「さぁ、復讐を始めよう」
・ ・ ・
あれからしばらくしてクロノのもとにはエリから連絡が来た。はやてとの約束もあり、どうにか彼女と連絡を取ろうとしていたが彼女自身に連絡しても「しばらく1人にしておいてくれ」とティアーズに断られ、保護者であるゲイズ家にも帰っていないということからもはや待つしかなかったクロノにとってその連絡は待ち望んだものだった。
「ハヤテ・ヤガミと一対一で話し合いたいの」
開口一番そう言ってくる彼女に驚いたがもう大丈夫だという本人の言葉をクロノは信じた。モニター越しではあったが声は落ち着いており表情も穏やかで落ち着いていて、なにより事件の間もしっかりと自分を律していた彼女ならはやてに会わせても問題ないように彼には思えた。
「・・・一対一というのはおそらく無理だ。多分誰か局員がつくことになる」
「そう・・・できればあまり聞かれたくない話だから1人くらいにして欲しいわ。あと守護騎士はやめて」
確かに当時のことを話すのならあまり人には聞かれたくないだろうし、守護騎士がいたら彼女を不安定にするだけかもしれない。クロノはその条件に頷き、話せる機会を待ち望んでいたはやてにそのことを伝えた。
「うん。いきなりは確かにあかんかもしれへんな」
守護騎士が同席できないのを残念がってはいたがまずは少しずつということではやてはこれを了承。ミッドチルダにて局員が1人付き添い両者の話し合いがもたれることになった。本来ならクロノ自身が付き添いたかったが忙しさのため付き添えず、しかし闇の書事件の真実には緘口令が敷かれていたため普通の管理局員では参加できない。よって今回の事件に参加した武装隊から1人が付き添い話し合いは行なわれた。
そして八神はやてはエリ・キタザワに拉致された。