考えてみれば、話の始まりはここからなのだ。原作――この場合はガ○ラ――でも、始まりはこの姫神島から。
コレも因果というモノなのだろうか、何て考えつつ、準備完了した月村忍、高町恭也、ノエル・綺堂・エーアリヒカイトの三人を目の前に集める。
「準備は」
「いいわよ」
「戸締りは」
「ファリン――もう一人のメイドなんだけど、その子に任せてあるわ」
そういや、そんな存在もいたんだっけか。原作の考察で、イレインからパーツ取りで再構成されたんじゃないかとか、すずかの発作処理用のロールアウトだとか色々言われていたドジッ子メイドさん。
家に幼子一人残して行くとはいえ、戦闘用のメイドさんが残っているなら安心か。
「……襲撃計画の件。不安」
「――いや、すぐにウチの妹が来る。ファリンも戦闘力は一級品だ」
いざとなれば父さんの足元に逃げ込めばいい。そういう高町恭也の言葉に、とりあえず納得しておく事にする。
「じゃぁ、行く」
言いつつ立体魔法陣を展開。白い光と共に転移を実行。
「……本当に移動したわね」
そうして移動した先、ウルの転移スペースに到着して一番、そんな事を呟いた月村忍。
とりあえず、ウルに現存する未発達なネットワークを利用して蒐集した現地情報を使い、艦内システムにフィルタリングをかける。フィルタリングといっても、要するに使用言語をルーン文字から日本語に変更しただけなのだが。
この辺り、命令一つで簡単にやってくれるこの艦がどれ程バケモノじみているかと言うのが……まぁ、実感はしにくいか。
「知りたい事は、艦橋のコンソール」
言いつつその場を離れる。
「ちょ、何処へ行くのよ!?」
「……メンテナンスポッド」
正直、ギーオスを駆逐するのは早いほうがいい。そしてギーオスを駆逐する為に、先ず自らの体調を万全にしておく必要が在る。
「でも、コンソールって……っ!?」
途端、艦内に記されていた文字列がその形を変え、象形文字のようなルーンから、見慣れた日本語に書き換えられた。
……まぁ、そもそも最低限の生活スペースと艦橋、あとは殆ど防衛兵器と攻城兵器、小型戦艦と言っていいようなこのウル。迷うほど道も無いのだが。
促されるままに歩き出した三人を見送りつつ、俺は俺で起動直後に入っていたカプセルへと脚を進める。
たどり着いた部屋の中。カプセルの中でバリアジャケットを解除。真っ裸に成ってしまうが、まぁカプセルの中でくらい誰も見ていないし、問題ないだろう。
カプセル内のパネルを操作。足元から徐々に登ってくる液体。高濃度かつ高純度のマナに体を浸され、急速に回復していく己の身体。
ソレを把握しつつ、腕を動かし通信を艦橋メインモニターへと繋いだ。
『キャッ!? って、あなたか』
「……驚かせたか?」
『いえ、まぁ少しね』
とりあえず突然繋いだ事を詫び、問題のギーオスに関するデータを彼らに見せることにする。
データ自体はそもそも敵の記述という事で、艦のデータベースに確りと記載されいてた。更にソレをフィルタリングにより日本語翻訳したものをメインモニターに転載。
『……報告にあった「トリ」と同じものの様子ね』
『これが……然し、報告には数メートルとあったんだろう? 本当にこれが80メートル強にまで成長するのか?』
「それは、行ってみればわかる」
見せられた報告書。其処に記されていた失踪事件の初期報告は一ヶ月近く前。下手をすれば、既に15~20メートル程度のサイズに成長している可能性も否定できない。
「現行技術での対処、多分、そこまで」
15~20メートルレベルの敵であれば、まだ航空戦闘機での撃墜も不可能ではない。問題はそれ以上。30メートルを超えたサイズになったときだ。
ギーオスの体長が30メートルを超えると、その辺りから途端に連中の身体構造は強化されていく。例えば夜行性ギーオスが得る遮光版であり、砲弾をものともしない肉体がそれだ。
それに加え、大きさを増したギーオスはその機動力を大幅に上げる。15メートル程度では、ソレこそ航空戦力にも及ばないそれらは、成体へと近付くごとに、成層圏付近での活動をも可能としてしまうのだから。
三人に此方の持ちえる情報を渡しつつ、ギーオスの脅威を説いていると、あっという間に姫神島へと到着した。ワープを使えば一瞬の話なのだが、俺の治癒の関係でウルを使わなければならない点、現状でウルを使うと、俺が直接主管制を行なわなければワープ座標がアバウトに成ってしまう点などから断念。
海底に潜伏させていたウルへ転移し、そのまま海中を進み、漸く訪れた姫神島。
体の調整に合わせて到着したその時点。即座にポッドから身を起し、再びバリアジャケットを展開する。
艦橋に招いていた三人を、今度はポートからではなく、通常ハッチから外へ。
「気密隔壁が在るってことは、この艦宇宙船でもあるのね」
「(コクリ)」
しかも一応この艦、希望の揺り篭というのは伊達ではないらしく、単艦でも高い戦闘能力を持ち、更に対ギーオス用の様々な技術データなんかも搭載されていたり。
とりあえずこのギーオスを駆逐したら、月村家に協力してもらってそれら技術を形にするのもありかもしれない。
上部甲板に出た三人と共に、ゴムボートを使って姫神島へ上陸。そうして立ち入った先には、ボロボロに崩壊した無人の島。
「……遅かったか」
「こ、これがトリ……いえ、ギーオスによって起こった被害!? そんな、ありえないわ、こんな事ができる生物、私の知る限り人間だけよ!!」
唖然としている三人。だが、今はそういう事を言っている場合ではない。
「三人とも。すぐにウルに戻れ」
「なにを「忍……ここも危ないという事か」ちょ、恭也!?」
月村忍の反論に被せるように言う高町恭也。見れば彼は既にその手に太刀と鋼糸を用意しており、隣に立つノエル・綺堂・エーアリヒカイトも臨戦態勢といった様子だった。
「この島、ギーオスの巣。でも、餌が無い」
この姫神島は、日本と言う国の端。島の中に住んでいるのも総数で20に届かないという程度の人数しか居ない。
「……俺達は、餌の尽きた狩人の巣に迷い込んだ獲物、か」
高町恭也の言葉に首を縦に振る。
「――っ、拙い」
直感に反応。何かが此方に気付いた。
手の平に魔法陣を展開。急速に近寄る気配。崩壊した村は、島の開けた盆地に存在している。こんな場所で襲われれば、逃げ込むことも出来ない。
「跳ばす」
「ちょ、メ」
強制転移術式により、三人を強引にウルへと転移させる。これで守護対象は無く、ただ集中してギーオスの駆逐を狙える。
「……ふぅ……」
全身のマナを喚起。肉体、バリアジャケットを共に強化。何かバリアジャケットの肩当がカメの甲羅みたくなってるが気にしない。
手の平の上の白い立体魔法陣。ゆっくりと上空へと昇り行くその背後、励起された白いプラズマ火球が幾つも浮かび上がる。
準備は出来た。あとはコレを叩きつけてやればいい。
……そう思っていたのだが。
見えた敵影。――3。そのどれもが既に15メートルを超える全長まで育った個体。
「…………拙い」
今の俺は、まだ身体能力頼りの、戦闘技術に疎い、文字通りの生物兵器。戦技者ではない。
一対一であれば、15メートルクラスの相手でもまだ何とかなっただろう。二対一でも、辛うじて何とか成ったかもしれない。
……が、三対一はチョット辛い。
有り体に言えば、ピンチだった。
Side another
プロジェクトM.e.r.a支援艦ウル。無人のまま海中に身を潜めていたその艦の中、転移門のターミナルに不意に明かりがともった。
輝く粒子が溢れ、次の瞬間直前まで何も無かった空間に、三人の人影が現れていた。
「――ラっ!? って、ああもうっ!!」
突然響く女性の声。だが然し、彼女が声を掛けようとしていた相手は既にその場に無く。言葉の行き先をなくした彼女は、怒りのままその場で地団太を踏んだ。
「忍、とりあえずもう一度艦橋へ行くぞ。あそこからなら戦いをモニターできるかもしれない」
「え、ええ、そうね。ノエル?」
「はいお嬢様。先導します」
言いつつ、先頭を進むメイドの女性。その後を追うように小走りで進みだす二人。
隔壁の開くエアーのプシュッという音を耳朶に、青み掛かったいかにもSFな艦内、という廊下をまっすぐ駆け抜けていく。
そうして数分もしないうちにたどり着いた艦橋スペース。女性――月村忍が即座に端末に指を走らせると、メインモニターに大きく映し出されたのは広い青空。そしてその中で眩く輝く炎の光だった。
「もうやってる!!」
「――ッ三羽もいたのかっ!?」
モニターの中に映し出されたその姿。黒い騎士服のような姿をしたメラと、それに向かって高速で飛行する三羽のギーオスの姿だった。
「……ちょっと、何か圧されてない?」
忍はモニターの光景を見て、思わずそう零す。何せ彼曰く、彼はギーオスを狩る為のハンターだ。そのハンターが、ギーオスに圧されている。その圧倒的なサイズからも分かる脅威。そのハンターであれば、力を上回るのは当然の筈。
実際見せられたその光景。メラの放つプラズマ火球は、その速度、誘導性、威力のどれをとっても現行兵器のソレに十分対抗しうるどころか上回っているのではないかと感じさせるほどの物だ。
だというのに、肝心の対ギーオス戦の肝たる存在である筈のメラが、ギーオスに圧されている。
「三羽の連携を崩せずにいるみたいだな……」
「そんな、でも、あの子はそれの専門家なんでしょ!?」
「お嬢様、これを……」
不意にしのぶの横から、彼女のメイドであるノエルの声が響く。しのぶの横、其処に備え付けられたコンソール。それを機械的な指さばきで操作していたノエルの手元に表示されているのは、艦の行動ログだった。
「行動ログって、これがどうかしたの?」
「……彼が起動したのは、数日前です」
「「――っ!?」」
その言葉に目を剥くしのぶと恭也。それはつまり、彼は起動したての、慣らしの済んでいない自称兵器だ、ということ。
「先ず間違いなく、今の彼ではギーオスに勝てません。いえ、一対一や二対一であればまだ分りませんが、三対一では先ず不可能です」
「……戦闘経験が足りないんだろう。確かに力は持っているようだが、戦術的なものが不足していると見える」
「ちょ、ちょっと! 言ってる場合じゃないでしょ!! ノエル、何か手段は無いの!?」
「……俺が甲板に出て囮になるか? 空戦は出来なくても、地上付近なら……」
「チョット恭也、馬鹿な事言わないでよ!!」
「馬鹿とは何だ。鋼糸を使えばアレにしがみつく事だって」
「しがみついて、いざアレを殺した後は如何するのよ! 上空から真っ逆さまに落ちる心算!?」
「…………」
小太刀を抱えて覇気を放っていた恭也だが、たしかにこんな海のど真ん中では足場もないし不可能かと思い直す。
「……ありましたお嬢様。このウルには、対ギーオス戦用に幾つか武装が搭載されているとの事です」
と、ソレまでモニターに指を滑らせていたノエルが、不意に声を上げた。
「本当!?」
「はい。直ちに海面へ艦を浮上、援護攻撃に入りたいと思いますが、宜しいでしょうか」
「すぐにやりなさい!」
かしこまりました、と小さく返事をするノエル。彼女の指が小さく踊ると、ついで艦が大きく揺れた。
「な、何!?」
「ウル、浮上します」
そんなノエルの妙に冷静な声。メインスクリーンの中では、未だに激しい空戦を行なうメラと三羽のギーオスの姿が映し出された居る。ただ、心なしかその映像に映るメラとギーオスらの姿が大きくなっているように見えた。
「ふ、浮上ってまさか、ノエル、この船飛んでるの!?」
「勿論です。……お嬢様も仰られました通り、この艦は宇宙航行も可能な艦ですので」
「いや、宇宙航行が可能だからって、重力圏内での浮遊航行が可能ってどんな超理屈よっ!! スパロボじゃないのよっ!?」
「落ち着けしのぶっ!!」
声を荒げる忍の隣で、それでも冷静にパネルを操作し続けるノエル。自動人形という特性か、何故か迷い無くこの艦を操作出来ていることに本人も内心で驚きつつ、それでも指を止めることなく素早くウルのメインシステムと『対話』を進めていく。
「敵、有効射程圏内」
「ノエル、メラに通信は繋げる?」
「可能です。通信、開きます。此方ウル、ノエルです。メラ様、聞こえますか」
『……聞こえている』
システムに呼びかけるノエル。それに答えるように、端末からは画面の向うにいるメラの声が響いた。と、その声が聞こえた途端、横から割り込むようにしてしのぶがメラへと声を掛けた。
「メラ、聞こえてるわね。これからこの艦で支援するから、相手の連携が崩れた隙に一羽仕留めなさい!」
『了解した』
「ノエル」
そのしのぶの声にあわせ、ノエルの指が最後の一打を叩く。
「メインシステム・FCS正常稼動。主砲角調整、敵ターゲットロック。荷電粒子砲、発射します」
「「――って、ええっ!?」」
ノエルの言葉が終わると同時、モニターを轟音と白い光が染め上げた。
空に向かって放たれた白と金の混じる凄まじいエネルギーの濁流。ソレは空中で暴れまわる三羽の怪鳥とメラへ向かい、当に光の速度で空を駆け抜けるのだった。
※ウル
メラのクレイドル。
本来はウル級衛星無人艦。古代アルハザードで用いられていた超大型航行艦の護衛などに用いられていた、無人かつ大量生産されていた護衛艦。
システム構造がブロック化され、整備・メンテナンス、改造などが容易く、量産性・汎用性共に優れていた。
量産型であったが故、緊急時に艦橋と最低限の生活スペースを無理矢理搭載し、所謂『時の揺り篭』とされた。でっち上げられた艦ではあるが、そもそも仕様変更ドンと来いな構想の艦であるため、完成度は高い。
また対ギーオスの為の様々な技術がデータとして収められている。
一応主砲に荷電粒子砲一門、対空砲に120mmレールガンが12門、誘導ビーム砲台が42門。防御にはディストーションフィールドと次元断層バリア、因みにレールガンはリープ・レールガンにも出来るらしい。