リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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39 対『管理局』決戦前

 

 

 

指定空域に到着した特務部隊ホロウが、先ず最初に行った事。それは、敵の予測侵攻ルート上に多数の自立起動型ミサイルや宇宙爆雷を設置することであった。

戦力的に見て、敵の戦力は圧倒的。いや、キルレンシオだけで見るのであれば、ほぼ同等といっても問題はあるまい。

 

しかし最大の難点は、相手のXV級が保有する魔導砲・アルカンシェルである。ウルC4であればアルカンシェルの熱量程度は次元断層障壁で防ぎきれるが、ソレを連発されれば少し心許ない。ましてSR機では範囲攻撃を回避しきれるとも限らないのだ。

 

機動兵器でアルカンシェルを防ぐ方法は二つ。一つ、アルカンシェルの発射そのものを防ぐ。二つ、アルカンシェルの起爆点を潰す。

アルカンシェル発射自体の阻止は、一隻や二隻程度ならば可能だろう。然し、艦隊が分散して配置されていた場合、少なくとも数発のアルカンシェルが放たれる可能性は存在している。

 

次にアルカンシェルの起爆点を潰す。これはいわば博打技、知っている人間ならば『アンチフレイヤシステム(笑』などとでも言うのだろう。

 

結論を言ってしまうのであれば、圧倒的に『数』が足りていないのだ。

然し、だからといって諦める様な人間であれば、地球はとっくにレギオン、もしくはギーオスに制圧されていた事であろう。

 

つまり、数が足りないのであれば戦術で補えばいいのだ。

爆雷は誰でも知っているとは思うが、要するに触れれば爆発する接触式爆弾であり、自立起動型のミサイルというのは、センサーに反応があった時点で墳進を開始し、対象に向けて自動的に攻撃を開始するというモノだ。要するに『ナタルさんのアレ』だ。

 

「ウチが普通の、もう少し正規よりの部隊であれば、もう少し手を打てたんだけどな」

 

小さくメラがそう零す。本来であれば彼はコレに加え、無人兵器による奇襲部隊を設置したいと考えていたのだ。が、メラ率いるホロウは特務部隊。一騎当千を率いて暗躍するのが彼らだ。一応無人機は搭載しているものの、それらは機体や艦を整備する為のオートマトンが大半であった。

 

「ま、何とか成るわよ。コッチにはアタシも居ればすずかもいる。ティアナやキャロ、アギトにイクスもいるんだしね!」

「そうだよ。それにメラ君も、アレはとどいたんでしょ?」

「アレか」

 

月裏基地からレーザー推進で送られてきた『アレ』。外見はメガバズーカランチャーに似ているのだが、最大の特徴はその砲の側面に取り付けられた4枚の折り畳み羽。広げるとソレは、『X』の字を描いていた。

 

「サテライトキャノン……まだ残ってたんだな……」

 

サテライトキャノン。MS規格で開発された、戦略兵器。元ネタではコロニーを砲撃で撃ち落すトンデモ兵器であったが、ソレを再現して開発されたコレは、レギオンを殲滅するために開発された超兵器だ。

 

主に火星侵攻部隊に多数配備されたこの機体は、エリュシオン級から放たれる莫大なマイクロウェーブを地上で受信、そのまま大地に蔓延るレギオンを薙ぎ払うことを目的として開発されたのだ。

 

何しろ現在のE.F.Fの火力は、全体的に加減が効かなさ過ぎる。光子魚雷だとか重力波砲だとか縮退砲だとか相転移砲だとか。特に無人スーパーロボット軍団は、場合によっては一恒星系をも消滅させられる超兵器持ちも居るので、下手に運用する事が出来ないのだ。

 

そんなやりすぎた火力を調整するために開発されたのが、MS規格のXシリーズだ。まぁXのサテライトキャノンも十分やりすぎではあるのだが、少なくとも惑星が消滅するような事態にはならない上、火星であれば余計な被害が出ることも先ず無い。

 

そしてこのメラの手元に届いた代物。『メガサテライトランチャー』と呼ばれる代物は、巡航形態と発射形態の2形態を使い分けることが出来、更に接続するMSないしSR機、エネルギー供給システムを有する艦船からのエネルギー供給、または月面のエネルギー供給システムからのエネルギー供給により、とんでもないレベルの面制圧砲撃を可能とするのだ。

 

「……まぁ、烈メイオー攻撃には届かんのだろうが」

「そのかわり射程はそっちのほうが長いんだよ?」

「私にしてみれば全員ぶっ飛んでるんですけどね」

「あはは……」

「そういえばメラ、あの子達の部隊にはどう行動させるのよ」

「あいつ等か?」

 

アリサの言葉に考え込むメラ。あの子達、と言うのはつまり、無人スーパーロボット軍団、俗称スーパーロボっ娘軍団の事だ。俗称が長すぎる上に呼ぶのが恥ずかしいという理由で『あの子達』と言う風に呼ばれることのほうが多かった。

 

「んー、此方が注意を引いている間に、旗艦含むアルカンシェル搭載艦を殲滅、後に全体に向けて投降勧告、かな?」

「やりすぎると後がこじれるし、妥当なところじゃないかしら」

「問題はアルカンシェルの発射を如何防ぐかだよね。ティアナちゃん、アルカンシェルの充填時間ってどのくらいか分る?」

「平時からの発射であれば三分、転移直後からだったら15分って所でしょうか」

「如何いうこと?」

すずかの問いに答えたティアナだったが、その返答にメラは少し首をかしげた。

「XV級は最新型の次元航行艦ですが、だからといってアルカンシェルをデフォルトで発射できる設計で開発されたわけではないんです。あのアルカンシェルは管理局にとっても最終手段ですからね」

 

ティアナ曰く、アルカンシェルに回るエネルギーは、あくまで次元航行艦のメインジェネレーターから供給されるものであって、アルカンシェルの充填様に独自のジェネレーターが用意されているわけではないのだという。

 

「つまり、航行用のエネルギーとアルカンシェル発射用のエネルギーは共用されている、と?」

「そういうことです。だからこそ、転移直後のキャパシタがダウンしている状況からであれば、ある程度の時間が得られるはずなんです」

「それが15分……まぁ、転移後宣戦布告から考えれば10分程度か。十分だな」

 

そうして最後に呟かれたメラの言葉に、ティアナは思わず苦笑を零してしまう。彼が言っているのはつまり、XV級12隻を初めとしたXL級32隻、、L級11隻、CL級64隻、計119隻もの艦隊を、たった4機の機動兵器と一隻の母艦だけで、それもたった10分で完封してみせると言うのだ。

 

これがティアナの嘗て属していた機動六課であれば、何を戯言をと思っていただろう。然し彼女が今属しているのは、このE.F.F、地球連邦軍統帥本部直属、機動特務部隊ホロウなのだ。自分達ならば出来る。そう確信する何かが其処には有った。

 

「よし、キャロ、機雷分布図、ならびに作戦概要をあっちに転送しておいてくれ。連中が引っかかったところで毛ほども気にはしないだろうが、間違いなく後から集られる」

「あ、あはは……りょーかいです。機雷分布図並び作戦概要をアイゼンメテオールに転送しました」

「よし、それじゃ……あとは作戦に備えて少し休んでおくか」

小さく息を吐きながら言うメラ。その言葉に、ウルのブリッジに集まっていた全員が小さく息を吐いて。

「よし、それじゃ食堂行きましょう」

「あっ、そうだ、今日はアギトちゃんとイクスちゃんが何か作ってくれるんだって」

「アギトちゃんは意外と家庭的ですから」

「キャロ、アンタ……」

「あっ、無し! 今の無しですよティアナさんっ!!」

 

と、少しに賑やかに、全員揃って艦内の食堂へ向けて移動を開始するのだった。

 

 

――宣告時刻まで残り四時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「技術部、次元断層障壁システムの配備状況は!!」

「現在96%です。定刻の一時間前には予備システム含め完成する予定です」

「作戦部、懸案事項は」

「特にありませんが、強いて言うのであれば支援用のレーザーシステムですか。試射が出来ていませんので、確実に討てるのはさん、いえ二発が限界かと」

「情報部、敵・時空管理局次元航行艦艦隊の状況に変化は」

「特にありません。相変らず次元世界から走査端子を飛ばし続けていますよ。即座に魔力が拡散してますんで余り意味はなさそうですが」

「それでも連続して飛ばしてくる、という事は走査端子拡散までの短時間でも、ある程度の情報は収集できていると見るべきだろう。タチキ、これでいいのか?」

「ああ、問題ない。とりあえずはこんな所だろう」

 

地球連邦軍宇宙・月基地方面軍月基地。其処では現在、大急ぎでの対管理局戦に備えた、大規模な基地システムの改良が施されていた。

絶対とは言わないが、十分に堅牢と呼べるほどの守りを築いた地球と言う惑星。しかし今現在地球はシステムの隙を晒してしまった。それが月の裏側、つまり次元断層フィールドの境界であった。

 

これが火星軌道、あるいは水星軌道上にフィールド発生装置が設置されていなかった為、と言うのであればまだ理解は出来る。幾ら規模が大きくなろうと、宇宙の全てを掌握するのは無理と言うものだ。

 

然し問題は月の裏側。月といえば地球の衛星であり、次元世界を渡航できるほどの技術があるのであれば、月からであれば地球は十分に行動範囲に入るだろう此処。更に月の裏側――つまり地球から直接観測出来ないというのも拙い。

月の裏側というのは、地球にとっての絶対の死角なのだ。ソレゆえのシャロン宇宙望遠鏡基地でもあるし、月裏基地でもある。

 

仮に現在の状況で月裏に異世界から戦力が送り込まれたとしても、月裏基地はそれに気付き、即座に迎撃の戦力を送り出す事はできる。が、月の裏側と言う地形では、他L点からの支援攻撃というのは先ず期待できない。

 

L3であれば、L4やL5、L4やL5はL1とL3と月から、其々に支援を得られる位置を持っているのだ。が、事L2、月の裏側だけはそれができない。

そんな、地球圏の中でも特に孤立した位置にある月の裏側、L2点。だからこそ狙われやすいその地点を強化すべく、現在月の裏側では急ピッチでの強化工事が行われていたのだ。

 

「ヤマグチ君、マイクロビーム照射装置とレーザーシステムの状況は如何だ」

「現在設置自体は完了しています。ジェネレーターからのエネルギーバイパスも繋がっていますが、何分パーツ事態がMSやSRからの流用品ですので、連射は不可能でしょう」

「予備パーツの確保は可能か?」

「技術的には可能です。しかしパーツを集めるには既存のMSやSRを解体する必要があり……」

「待ってください!? 現時点でも月の保安戦力は限界ぎりぎりなんですよ!? ここも戦闘に晒される以上、最低限の戦力を保持するのは必須です!!」

「ミツイシくん、戦力の再編は無理かね」

「現状では不可能といわざるを得ません。幾ら無人機を生産できるとは言え、時間も無ければ、そもそもソレを指揮する中枢ユニット、操縦する人間の絶対数が完全に不足しています!!」

 

ミツイシと呼ばれた女性の言葉に、タチキと呼ばれた黒尽くめにサングラスの怪しい男性は小さく「ふむ」と言葉を零す。

 

「やはり、現状で支援にまわせる手はこれが限界か」

「残念ながらそのようだな。我々に出来る事はただ神に祈る事くらいか」

「ソレは違うぞキヨカワ。我々が祈るべきは神ではなく、その戦場で戦う彼らに対してだ」

 

そういったタチキの言葉に、キヨカワと呼ばれた白髪の老人は思わず彼を見返して。

 

「……悪役声でなんという台詞を」

「声は言うな。お前も似たような物だろう。キヨカワ、お前は表側の基地へ行け」

「貴様は如何する心算だ?」

「私は此処に残る。それが責任者の仕事と言うものだ」

「だから悪役声でそういう台詞を」

「それはもういい」

 

そうしてじゃれるオッサンとジジイの二人。そんな二人の掛け合いの様子に、司令室で檄を飛ばしていた面々は少しだけリラックスして。

そんな司令室の様子を一人俯瞰して眺めるヤマグチは、本来あの二人がやっていること――つまり現場をリラックスさせたり、部下のケアをするはずの作戦本部長であり、今だにあばばばと年齢も考えずに口走る彼女を見て思わず額に手を当てたのだった。

 

 

 

 

 

――宣告時刻まで残り二時間。

 

 

 

 

そうして、物語の針は進み始めるのだった。終焉へと向かって。

 




・アンチフレイヤシステム(藁
アルカンシェルはその砲弾を飛ばす実弾型の砲撃ではなく、指定座標に飛ばした術式とエネルギーを使って相転移現象を誘発、この熱量と空間歪曲を以って対象を蒸発させるもの。
そこで考案されたのが、この飛来する術式とエネルギーが結合し、相転移現象を起す前に術式とエネルギーを相互に分解してしまおうというもの。
結局現実味が薄いという事で、高強度AMFで術式を不安定化させた後、時空断層フィールドで防御するという方針が選択された。

・サテライトキャノン
地球連邦軍及びB&Tが火星レギオン攻略作戦用に開発したMS規格の殲滅兵器。
広大な宇宙からの侵略者であるレギオンと戦う地球連邦軍の火力は、基本的に宇宙戦闘を想定されている為、その攻撃力を下手に惑星上で使用してしまうと、惑星が割れる可能性すらあるという超兵器がずらりと揃っている。
加減ともいえない加減を行なう為、新規に設計されたMS規格に搭載できる量産型の殲滅兵装を開発する必要があり、それに際して開発されたのがこのサテライトキャノンを搭載したGX、及びGビット。MS本体に搭載された動力に加え、エリュシオン級から送信されるマイクロウェーブを受信する事で脅威の殲滅力を誇るサテライトキャノンを稼動させることが出来る。
生産個体の大半が各エリュシオン級に搭載され、火星地表のレギオン浄化作戦に投入されたが、機体の幾つかとサテライトキャノンの砲身自体が対管理局防衛戦に投入された。

・メガサテライトランチャー
上記サテライトキャノンを改造し、専用MSによる運用から汎用型MSでの運用を可能とした物。モデルは百式のメガバズーカランチャー。

・スーパーロボっ娘軍団
言わずと知れた『あの娘達』。開発にはB&Tの最高責任者二人とメラ、更に副代表のメイドがかかわっている。
各機システム的にはある程度互換性を保っている物の、基本ワンオフであり、其々が少なくとも一点において古代兵器であるメラを圧倒。殲滅力においては星団規模を誇る個体まで存在し、メラ以上にヤバい存在。
製作者というか親であるメラの希望により、ロボット三原則ではなく普通の倫理コードが教え込まれている。

・意外と家庭的なアギト
そのワイルドな口調に反して家庭料理の得意なアギト。ツンデレ娘なのに普通に美味しい料理を出す上に、薬膳なんかにも詳しい。
逆にキャロはサバイバル生活に馴染み深い出自かつ軍所属なので、兎を捌いて丸焼きを出して『料理』と言っちゃったりする。

・月裏面司令部
月の裏側に存在する軍事基地。本来はレギオンの侵攻を観測する為のシャロン電波望遠鏡及び月面天文台を中心とした地球衛星軌道防衛ラインの要。
最高司令官は髭面グラサンの怪しい悪役面のオッサンで、副指令は萎びた電柱。技術部はマッドな金髪(偽)で、作戦部はビア樽。でも基本良い人。

※もうすぐこの作品も一先ず終わり。この終わり方で良いのか悩む。

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