Side Chrono Harlaown
「なんだこれはっ!? 一体何を考えているんだ連中はっ!?」
時空管理局本局の某所。先のJS事件により、軒並み上層部の首が飛んだため、急遽代役として事務処理を開始したクロノ・ハラオウン提督。
現在の彼の仕事は、本来であればXV級次元航行艦『クラウディア』の艦長であるのだが、現在クラウディアを初め、ミッドチルダにおける対イリス戦を経験したXV級は軒並み大破してしまい、現在大破した艦をニコイチにしてでものレストアや、工場をフル稼働しての増産が行なわれている最中だ。
そんな最中、先ず最初に彼の元に届いたのは、現在辺境の次元世界から本局へ向かっての出頭命令が出ているはずのオム大将が、ミッドではなく再び辺境方面へと向かったと言う話だった。
そもそも最高評議会とのつながりなどの黒い噂を持つオム大将だ。すわ反逆かと緊急会議が招聘され、喧々諤々とミッド防衛の策が練られる中、次に届いた報告に、思わずクロノは声を上げたのだった。
「如何したのですかな、クロノ提督?」
「……オム大将からの連絡です」
「なんと!?」
瞬間、会議が沸き立った。何しろ議題の中心である当の本人からの連絡だ。仮に彼の反逆が事実であったとするのであれば、それは高い確率で彼からの要求である、と誰もが考えていたのだ。
「それで、内容は?」
「……我、オム率いる船団は、このまま97管理外世界へと侵攻し、現地を制圧する不届きなテロリストの制圧を開始する、と」
「………………」
そうして放たれたクロノ・ハラオウンのその言葉に、沸き立った議会が瞬間的に凍りついた。
97管理外世界。それは現在、この時空管理局においてかなり特殊な存在と言う扱いになっている。
ソレはつまり、恐怖。
時空管理局のほぼ総力とさえ言っても差し支えない戦力で挑んだイリスと呼ばれる怪物。200メートルを超えるその怪物は、AMFの中で尚馬鹿げた威力の破壊力を行使し、尚且つ此方の魔法攻撃はそのすべてをエネルギーとして喰い散らかして見せた。
対して、地球の戦力。何処からとも無く表れ、イリスを撃退し、再び何処へとも無く撤退して入った彼ら。
管理局の認識では、地球の文明レベルはB。少なくとも、10年前まではあんな巨大ロボットが、まして異世界にまで進出できるほどの技術力・戦力は持っていなかったはずだ。
此処で更に問題となったのが、97管理外世界の情報が一切手に入らないという点。数年前から突如として往来が断絶しているのだ。
……いや、実のところ、往来が断絶して暫くは、97管理外世界との往来が断絶したという事に誰も気付かなかった。気付くのが遅れた原因は、97世界の連絡員が、97世界へのギーオス出現の退避勧告に紛れ、別世界から97世界の情報を、さも現地からであるかのように偽証していたのだ。当然彼は処分されたが、問題はそんな事ではない。
そうした事情からも、第97管理外世界の実情と言うのは、かなり謎に包まれている。そんな謎の世界から訪れた機械の巨人。
魔法の通じない怪物と、対等に渡り合ったあの兵器は、間違いなく管理局にしてみれば脅威であった。
「や、奴は何を考えているんだ!?」
誰かが、会議に参加していた誰かがそう叫んだ。
「確かに質量兵器は管理世界法違反だが、そもそもあそこは管理外世界だ、国交も無い世界に違法も糞も無いだろうがっ!!」
誰かが言ったその言葉。途端会議室に『グサッ』と言う音が幾つか響いたような気がしたが、誰も気にしたり慰めたりはしなかった。
「話はそんなレベルではないっ! 奴はよりにもよっていち世界に対して、アルカンシェルを向けているんだ。これは他世界に対する管理局への信頼に関わるぞ!?」
時空管理局。その理念は、次元世界の平和と安定を得ること。最大の仕事は、次元世界に眠る旧文明の遺産、ロストロギア。その中でも世界を滅ぼしかねない危険物を回収・封印するというものだ。
嘗てのレジアス中将の言う『陸の平和』というのは、本来管理局ではなく現地政府の治安維持部隊がやるべき仕事なのだ。確かに海が陸から戦力を吸い上げているというのは事実だろうが、しかしそれを言ってしまえば時空管理局と言う組織自体が成り立たない。なにせその本命である海の母体となる管理局発祥の地は、ほかでも無いミッドチルダなのだ。
話が逸れたが、そうした理由で多次元世界を巡回する時空管理局は、様々な世界に対して、ロストロギアを口実に介入することがある。
各政府は、多次元を往来するという時空管理局の戦力の前に、「危険なロストロギアを封印する為」という名目の元に、その横暴な行為にもとりあえず閉口して見せているのだ。
だというのに、オム大将は管理外世界に向けて一個艦隊の戦力を引き連れて向かったのだと言う。
仮に97世界を制圧できたとしても、次に起こるのは各次元世界政府からの反逆、造反、反乱、なんとでもいえるが、要するに各次元世界の政府の鉾は間違いなく管理局に向くだろう。
ただでさえ戦力を消耗している現在、残り少ない戦力の大半はあのオム大将が引き攣れ、遠い97管理外世界へと旅立ってしまっている。仮に本局に戦力が差し向けられたとして、艦隊が戻ってくるのが間に合うとは到底思えない。
まして彼らが制圧に向かったのは『97管理外世界』なのだ。XV級はイリス一匹に艦隊規模をぶつけて大敗を喫したのだ。仮にあの巨大ロボットの戦力をイリスと同等と見た場合、とてもではないが彼らが勝てるとは思えない。
「だから、それだけではないのだよっ!!」
「ど、う言う事だ?」
「まだ分らんのか!? あれはロストロギアではなく兵器である可能性が高いんだ!! 兵器と言うのはな、『誰にでも使え』て『量産が出来る』から兵器と言うのだっ!!」
その言葉に、今度こそ会議室に集まった参加者の顔色が纏めて青白く染まる。
仮に。仮にだ、あの巨大なロボットが量産されていたとしたならば。間違いなく、地球へと向かったXV級の艦隊は壊滅する。
そして更に彼らは間違いなく自分達を正義の代行者として、97管理外世界に対して宣戦布告じみた真似をするだろう。
もし彼らがそんな真似をして、もしそのまま壊滅してしまえば。攻められた地球側は、当然反撃に出る可能性が存在しているのだ。
「いっ、急ぎオムに連絡を!?」
「無理です。奴め、作戦を強行する為か通信をカットしているようで」
「そ、そんな……」
「管理局が……次元世界の平和と安定を守ってきた、時空管理局が、終わる……?」
青くなりすぎて、真っ白に顔色を変えた参加者達。其処には既に絶望しか残されておらず。
「……あの巨大な質量兵器が、量産されていない事を祈るばかり、ですか……」
誰かが呟いたその言葉。仮にあの巨大兵器が量産されていないの出るとすれば、仮にオムの艦隊が迎撃された後であれば、万に一つ講和を結ぶ事が出来るかもしれない。
その場の全員が、その小さな希望に縋りつく最中、真っ白な顔色のクロノ・ハラオウン提督は静かに手元に表示した資料のデータ画面をクローズした。
其処に表示されていたのは、機動六課――高町なのはと八神はやてが持ち帰った、EFFの人物から渡されたという地球のデータ。
本来この会議で提出される筈であったそのデータには、『地球』で『量産』されている『巨大ロボット』や『超巨大戦艦』の概要データが入っていたのだが。
流石に、この儚い希望をこの場で叩き折るほど、彼、クロノ・ハラオウンは何時までも空気が読めないままではなかった。
仮に数日、数時間後、絶望が訪れるのだとしても。今だけは、そんな儚い希望にすがり付いていてもいいのではないか。
クロノ・ハラオウンは、そう思ったのだった。
Side end
Side 地球連邦 幕僚会議
「さて、如何しますかな」
何処に有るとも知れない暗闇の会議室。見る人が見れば『何処のゼー○だ』とでも突っ込みを入れそうなその空間に、数人の人影が小さな明りに映し出されていた。
「今このタイミングであれば、我々は『異世界』に対する『ファーストコンタクト』を行なう事は可能でしょう」
「ま、予め存在を知り、仮想敵として対応していた、と言うよりは幾分ましでしょうな」
異次元世界など諧謔で済ませておきたい話ではあった。しかし、異世界文明というのは現実として存在しているのだ。
これを一切合財無視し、次元世界との往来を断ち切り、一種の鎖国にする、と言うのは、あらゆる観点から見て非合理的だ。
多次元世界に眠る新たな技術は興味深く、また多次元世界からの侵略者の可能性と言うものも十分に考慮しなければならない。実際、地球に攻め込んできたギーオスの何割かは異世界からの増援であったのだ。
「では、正式に国交を開くと?」
「開くにしても、先ずはこの状況を乗り切る必要がありますが」
秘匿部隊から伝達のあった情報。つまり、時空管理局の大型次元航行艦艦隊による、地球に対する『脅迫』じみた宣告。他国に対してテロリスト呼ばわりをし、挙句の果てに投降せねば星を焼くとまで言っているのだ、相手は。
「現物の録画はあるのだな?」
「ああ。確りと証拠は残してあるぞ。これで連中の侵略を乗り越えられれば、外交は有利に進められるだろう」
「この戦局を乗り越えられれば、だがな」
「うむ……」
そう、問題は、この管理局の『侵略』を如何乗り越えるか、なのだ。
「戦場は、再び月の裏側、なのだな?」
「はい、先日の月裏会戦の戦場とほぼ同位です。というのは、先の会戦の最中次元空間から転移によりこの世界へ侵入してきた管理局の部隊、彼らが侵入に成功したという事実からそのルートを選ぶ公算が高いという物です」
「ふむ……然しそれでは、地上へと攻め込んできた管理局の部隊、アレと同じルートというのも考えられるのではないかね?」
「それは物理的に不可能です。というのも、あのルートは事前に侵入してきたイリスが、莫大な魔力付加を加える事で次元断層フィールド発生装置をショートさせたことにより出来た『抜け穴』を使ったものです」
「まさか、もう修理が終わったと?」
「現在では近隣の基地から仮設フィールド発生装置を運び込み設置し、加え近隣のフィールド発生装置の出力を上げる事で穴を塞いでいます。正規の修復には未だ少し掛かりますが、防衛網自体は問題ないでしょう」
「なるほど」
要するに足りない部分を寄せて上げて嵩増ししているのだ。当然これだと周囲のフィールド発生装置に負荷が掛かるが、短時間であれば問題は無い。
「まぁ、要するに、戦場はほぼ確定している、と」
「だとすれば予め兵力を集中させて――」
「無理だ。現状可能な限りの兵力は火星に向かわせている」
レギオンに対する火星侵攻作戦。それは、地球から三つの軌道を使い、火星からのレギオンを封殺しつつ、火星へと攻め込む計画だ。
この作戦にはエリュシオン級を含めた地球の限界ギリギリの戦力を投入している。当然現在の地球の防衛網は、ほぼギリギリの状態なのだ。
「エリュシオン級とて現在建造中の12番艦を含めても、地球の守りには3隻しかまわせていないのだ。とてもではないが防衛戦力に余力は無いぞ!?」
「かといって、侵攻部隊から兵力を引き戻すのも……。今でこそ万全の包囲網で被害を最低限に抑えられていますが、下手に戦力を引き戻せばそれだけ損耗率が上るのは目に見えている」
そもそもとして、地球の人口は嘗てのギーオス・レギオンの二重襲来により大幅に低下しているのだ。今再び出生率は向上し始めているものの、人口が嘗ての人数に回復するまでに実に半世紀近く掛かるのではないか、などと言う話もある。
「むぅ……ならば、核……は拙いな、相転移砲は……」
「月の裏側で!? 馬鹿な、せめて惑星軌道上ならまだしも、あんな場所で使えば月裏面基地が吹っ飛ぶぞ?!」
「だよなぁ」
相転移砲、つまり相転移エンジンを用いた、指定座標で強制的に相転移……ビッグバンに近い現象を誘発させる攻撃だ。火星からのレギオン迎撃に何度か用いられたのだが、余りの威力に有効と分っていても誰もが使うのをためらう兵器であり、現在では緊急時を除けば、コロニー建設地点の最初期のデブリ撤去に使われる程度だ。
「ソーラーシステムは……L4の防衛網に設置したのだったか」
「光子魚雷は……無理か、現地への輸送部隊が足りん」
「月裏基地からグラビティーブラストの援護射撃くらいはできるだろう」
「援護射撃程度にしかならないのが問題ですが……やはり、彼らに任せるしかないのでしょうか」
その誰かが放った言葉に、幕僚会議が静かに黙り込む。彼ら――つまり、この地球連邦政府及び地球連邦軍設立の影の立役者。B&Tグループ、いや、そのトップ二人と、更にその背後に佇む彼。
「また頼らざるを得ないのか、我々は」
誰かが悔しそうに呟いたその言葉。それは小さな音ではあったものの、静かに会議室に響き渡って。
「……ええい、次こそは、連中に頼らん! 次こそは、連中が動かんで済む強い連邦に育て上げる!! ソレよりも、一つでも対策を考えんか馬鹿者共がっ!!」
沈みかけたその空気は、そんな誰かの一喝で再び息を吹き返して。
「相手は管理局なのだよな? なら、指向性AMF放射装置の設置準備を……」
「確か月基地でも次元断層フィールド発生装置を生産中だったはずだな? 転移阻害は間に合わないとしても、防御転用すれば月面への被害を阻止する事は可能な筈……」
そうして息を吹き返した議会は、自分達にできることを探し、再び紛糾し始めたのだった。
■時空管理局――絶望的状況。ただでさえ少ない戦力を勝手に動かされるわ、測定不可能な戦力を保有する未知の勢力に勝手に喧嘩を売られるわ。勝っても負けても更なる絶望的状況(管理世界の造反)に叩き込まれることは目に見えている。
因みに現在管理局中央に残っているのは、『管理局至上主義』だったり『魔導師至上主義』、『管理外世界蔑視観持ち』だったり色々思想に問題はあるものの、『管理局の危機』をしっかりと認識している『比較的』まともな局員。
■『グサッ』
例えば管理局法に従う理由が一切存在しない現地の協力者の少女に対して偉そうに説教垂れた身長の低かった務官、現提督とか。
■地球連邦政府――ついに管理局との戦争に。想定はしていたが、実際にやるとなるとちょっと。まぁ、精々被害を抑えて、戦後此方が有利になるように派手にぶちかまそう。
■機動六課――アカン!? ミッドが、ミッドが燃える?! っちゅうかウチらはミッドに帰れるんか!? かつ、公開されたデータに存在する対ギーオス用『36mm魔力素結合分解弾頭』の存在、乱発される『広域殲滅兵装(MAP兵器)』の存在に、未来を想像して絶望中。
■特務部隊ホロウ――ミッド→月→地上→月 そろそろ疲れてきた。
※正直なところ今回は閑話。