リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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32 稀人の船

 

Side other

 

機動六課前線拠点・L級次元航行艦アースラ、その改造艦であるアースラR2。

ミッドチルダから飛び立ち、地球へ向けて航行するこの艦であったが、ミッドチルダを離れ、漸くたどり着いた地球――管理外世界97番が存在するはずの地点、その周辺次元海域に停泊していた。

 

「この辺り、の筈なんやけどな」

 

腕を汲み呟くのは、機動六課部隊長・八神はやて二等陸佐。地球出身の魔導師である彼女にしてみれば、この渡航は一種の里帰りになる。のだ。

 

「ええ。でも矢張り、通常空間への転移は不可能なようです」

「なんでかわかったか?」

「計測結果でました。詳細は不明ですが、何等かのフィールドが実層世界と次元世界の間に壁を形成しているみたいです」

 

八神はやてのそんな疑問の言葉に、通信士とメカニックを兼任しているシャリオ・フィニーノ一等陸士がそう答える。

彼女の言葉と共に、アースラのメインスクリーンに映し出される巨大な映像。其処には、ボコボコと多数の球体の寄せ集め出出来たような奇妙なオブジェクトが表示されていた。

 

「なんやこれは」

「これはですね、次元断層――要するにこの次元世界からの侵入を拒んでいる壁、その壁を視覚化した映像データです」

「これは――壁っていうより、囲い? ううん、覆いつくしてる?」

「そう、そうなんですよ」

 

映像を見て、ポツリと呟くフェイト・T・ハラオウン執務官。その言葉に、まさに我が意を得たりと興奮して声を上げるフィニーノ一等陸士。

再び彼女が何かの数値を打ち込むと、今度はそのデコボコのオブジェクト、半透明のソレの中に、青い球体が一つ、少し小さな球体が一つ出現した。

 

「……これって、もしかして地球なの!?」

「そうなんです。この次元断層、ちょうど地球とその周辺をすっぽり覆うようにして展開されてるんです!」

 

 

――まるで、外からの侵入を拒むようにして、意図的に作られたみたいに。

 

 

付け加えられたフィニーノ一等陸士の言葉に、その映像を見ていた機動六課隊員から小さなざわめきが零れる。

次元世界を渡るという技術は、いわば次元世界の平和を守るという次元管理局の根本的な部分を司る技術の一つと言ってもいい。

 

何せ次元世界を渡る事ができるからこそ、次元世界同士の接続が、近隣世界に影響を及ぼしあうからこそ、次元管理局は次元世界の平和と安定の為という名目により各世界へと干渉の手を伸ばしているのだ。

 

ところが、この地球という惑星。此処は、自らその航路を閉ざしたと言う。

ソレはつまり、次元世界との接続を断っている、という事なのだ。

 

少なくとも、管理局にはそんな、自らの存在を根本から揺るがすような技術は存在しない。“ありえない”技術なのだ。

 

「……ま、地球が無くなって行けへんなっとったわけやなかったんや。その次元断層? とかゆうのを意図的に発生させる技術っちゅうんは気になるけど、今の問題はそこやない」

 

凍りつく周囲。そんな中で、ある意味空気を読まずにそんなことを言い放つはやて。その余りにも普段と変わらない様子の彼女に、周囲も少しずつ平静を取り戻していく。

 

そう、彼女達の任務は、あくまでも97番の調査。そういう技術があるかもしれない、という事を知れただけでも成果の一つとしては順調な出だしなのだから。

 

「で、地球への侵入方法は見つかったんか?」

「いえ、断層に隙間が無いかと調べてたんですが、地球上のありとあらゆる場所はこの断層で覆われていました」

「まさに猫の子一匹入り込む隙間も無いわけか」

 

呆れたように呟く八神はやてに、今度こそブリッジにつめていた面々が言葉を失った。

 

「……うん? 如何かしたんですかスバルさん?」

「え、あ、ううん、なんでもないよ!!」

 

と、そんな最中。不意にエリオが何処か挙動不審になっていたスバルに声を掛けた。

声を掛けられたスバルは、けれども手を振りながら何も無いというのだが、その様子は誰が如何見ても“何か隠しています”と言っている様なもので。

 

「どうしたのスバル? 気になることがあるなら言ってくれればいいよ?」

「あー、やー、その……本筋に関係したことじゃなく手ですね」

 

と、そんなスバルの様子を見て、そばにいた高町なのはがスバルにそう声を掛けた。

 

「ただ、その……地球って、月が一つなんだなー……って」

 

ばつの悪そうにそういうスバルに、けれども周囲は苦笑しながらも首を縦に振った。

 

「そういえば、スバルはミッドの地上部隊だったから、他次元世界ってあんまり関係ないんだよね」

「そっかー、スバルはミッド育ちだもんね!」

 

ミッドチルダの月は二つあるり、それも地球の白銀の月とは違い、青と緑の月なのだ。

これがなのは達のような、次元世界を駆け巡る“海”、本局所属局員であれば“違う世界への感慨”というモノにある程度の慣れはあるのだろう。

しかし此処に居るスバル・ナカジマは、管理局員でこそあれど、その所属は主にミッドチルダの治安維持を担う地上部隊の所属であった。

 

ミッドチルダとは違う、白い月。グラフィックに映し出されるソレを見て、改めてミッドとは違うのだ、とスバルは頷いていたのだった。

 

「……あれ? でも、月まではこのオブジェクトに覆われてないんですね」

「うん? あぁ、確かに……」

「……って、ちょ、ちょっとシャーリー!」

「ど、どうかしましたかなのはさん!?」

 

と、そんな中、不意に声を上げた高町なのはに、慌てたようにシャーリーが答える。

 

「月! 月だよ!!」

「月がどうかしたんかなのはちゃん」

「月からなら、っていうか、宇宙からなら地球にいけるんじゃないかな!?」

その言葉に、不意に周囲が沸き立った。

「た、確かに、この次元断層に覆われていない外なら、実層空間への転移は可能です」

「月から地球か。生身では出来ひん、アースラ持ってきたからならではの方法やな……まぁ、地上に降りる方法とかは別途考えなあかんねんけど、とりあえず試すだけ試してみるか」

 

言って、周囲を見回す八神部隊長。その顔を見返す六課部隊員達。

その全員が力強く頷きを返したのを確認して、八神はやては艦長席から力強く立ち上がった。

 

「それではコレよりアースラは、97管理外世界地球、その第一衛星“月”に向けて出発する。地球は現在全く状況不明の謎の土地になってしもとる。各員、各々注意するように!!」

 

アースラ艦内に響き渡る八神はやての声に、全員が確りと頷いたのを確認して。

 

「それでは――アースラ、発進!!」

 

腕を振るう八神はやて。その言葉に合わせるようにして、アースラの主機が唸りを上げ、月へと向けて発進するのだった 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻。地球―月のL2、つまりは月の裏側にて。

現在其処は、火星から襲来するレギオンに対する絶対防衛網の最前線となっていた。

 

『くっ、種の第三派、来たぞ!!』

『弾ける前に叩き落せっ!!』

 

火星のスウィング・バイ――引力加速により凄まじい加速を持って地球へ向かってくるレギオンの大群。正確には、レギオンを包む種(シード)の大群。

月の裏側に展開した部隊は、必死になってそれらを迎撃していた。

 

当初、絶対防衛網旗艦・エリュシオン級による相転移砲の一撃で、火星から襲来したレギオンの第一波を掃討。これにより士気の高まった地球連邦軍であったが、それを嘲笑うように火星からの第二派が襲来。

 

再びエリュシオンにより相転移砲が発射されるも、この殲滅網をシードから分離したマザークラスレギオンが突破。惑星間航行船の役割を果たしていたシードすら上回る速度で強襲を仕掛けてきたレギオンにより、前線は混乱。その隙を突かれ、最前線はまさに混戦といった様相を呈してしまった。

 

こうなってしまえばエリュシオン級の相転移砲は使えない。相転移砲は確かに高火力の空間殲滅兵器ではあるが、当然攻撃の敵味方識別など出来る筈も無く、敵と味方が混ざり合った戦場においてはほぼ無用の長物となってしまうのだ。

とはいえ最新鋭の旗艦であるエリュシオン級。艦側面に装備された無数の大口径ホーミングレーザーにより、なおも続くシードの強襲を迎撃し続ける辺り、そのふざけた高性能っぷりは伊達ではない。

 

 

 

 

そんな戦場、その最前線に、メラ率いる機動特務部隊ホロウは陣を張っていた。

 

「如何だティアナ、ストレイドの調子は」

『機動力、火力、防御力と、全体的に高い水準で纏まっている上に、反応速度もかなり高くて扱いやすいです』

「うん、問題がある様なら即座にウルに戻れよ」

『了解です』

 

前線に立つティアナにそう声を掛けるメラ。そんなメラの視線の先に映るのは、黒鉄の巨体に青い鬣をたなびかせた巨人の姿だ。

デモンベイン・ストレイド。ミッドの対イリス戦においてメラが駆ったその機体。今はティアナがパイロットを引き継ぎ、こうしてレギオン戦の最前線に立っていた。

 

『メラくん、随分ティアナちゃんを気にするよね』

 

と、そんなメラの通信回線に不意に割り込んでくる声が一つ。

 

「別に変な意味は無いぞ? 鈍ってる状態で俺達について前線につれてきたんだ。ある程度は気にかけるさ」

『ホントにそれだけ?』

「無論」

 

通信の相手――すずかは、金色の瞳をどこかギラギラと燃やしながら通信機越しに問い掛ける。そんなすずかに内心若干びびりつつも、けれども自分に後ろめたいところは無いとはっきりと言い切るメラ。

 

『大丈夫よすずか。メラにそんな甲斐性は無いわよ。あったらとっくに私を――』

「げふん。さて、アリサも大分腕を上げたみたいだが」

『あらそう?ま、積極的に前線を回ってたものね』

『っていうか、なんで名誉中将のアリサちゃんが頻繁に戦場に出てるの……』

 

わざとらしく咳をして話を逸らすメラに、苦笑しながらもそれに乗るアリサとすずか。

アリサにしてもすずかにしても、互いに公認しているのだからあとはメラ次第なのだが、本人がヘタレな所為か今一つ先に進まない。とはいえ性急に事を進める積もりも無い二人は、いつものように苦笑を浮かべて。

 

と、前線でレギオンシードを迎撃しつつ、そんな会話をしている最中の事だった。不意に通信機から音が鳴り、メラはソレを即座にキャッチ。

 

「如何したキャロ」

『右翼の防衛網がダメージを受けているので、ホロウは其処に増援に行って欲しい、と本部からの指令です』

「了解。俺達が先行するから、ウルは後から着いて来てくれ」

『了解です』

 

通信先のキャロの返事を確認して、即座に送られてきた座標に向けて加速を開始する。

 

「……でも、キャロは通信士も出来たんだな」

『何せスーパーオールラウンダーですから!』

 

モニターの向こうでその小さな胸を張るキャロに苦笑して。白亜の一角獣――ユニコーンを目標地点に向けて加速させる。

 

その背後に続くジェネシック・ガオガイガー、グレート・ゼオライマー、デモンベイン・ストレイドの三機を確認しつつ、目標地点――苦戦していると言う右翼防衛網のデータを参照する。

 

右翼は開戦後特に敵の攻撃が分厚かった部分らしく、最も消耗の激しい場所であったらしい。

また同時に、右翼が最も激しい攻撃を受けたからといって、別の場所が攻撃を受けていなかったわけではない。左翼こそ全体的に攻撃は薄かった物の、中央は相当数のマザーレギオンが襲撃をかけてきたのだから。

 

「……増援が足りてないのか」

『見たいです。全体にプレッシャーをかけられてた所為で、左翼からも中々増援を送りにくかったみたいで』

『だからこそワタシ達が増援に送られるわけね』

 

それはホロウという部隊の機動特務部隊という性質から来る事だ。

特務部隊に分類されるホロウは、実はその統帥権がEFF本部に無いのだ。そもそもホロウはB&Tの私兵という面も有る為にそんな無茶が通っているのだが、それゆえにホロウはEFFの正規の戦力計算からは外れているのだ。

 

つまり、軍内部においてもほぼフリーランス。元々計算に無い戦力なのだから、何処にあろうと自由、と言うことになるのだ。

 

「……っと、見つけた! けど、おいおい」

思わず、といった様子で声を上げたメラ。その視線の先に映るのは、陣の中央でその側面から被弾したのか爆炎を吹かしているEFFの戦艦の姿だった。

 

「此方特務部隊ホロウのメラだ。そこの艦、無事か!?」

『此方XL級のスクルド、レギオンのマイクロ波シェルで縮退炉を一機失った!! 幸い航行は可能だが、出力不足でフィールドが脆弱化してる。本陣からの交代艦がくるまでの支援を頼む!!』

「了解した。もし避難要員がいるなら、うちの艦で引き取るが?」

『なら負傷者だけ其方で受け取ってくれ。ランチと護衛は此方が出す!』

『了解。それでは此方は直衛に入る』

 

言いつつ加速していたメラのユニコーンは、即座に混戦中の右翼戦線に向けてビームライフルを一発発射する。被弾し爆炎を上げるマザーレギオンを視界に捉えつつ改めて後続の三機と並び陣を組む。

 

「と言うわけで、次の任務はこの場の死守だ。とはいえ、自分が死んでは意味がないことも――お前等には言わずとも、かな?」

『まさに、言われずとも分ってるわよ、ね!』

『メラ君の背中は私がちゃんと守るよ!』

『……まぁ、適度に頑張りますよ』

「まぁ、死なない程度にな。――それじゃ、ホロウ、行くぞ!!」

 

そうして白い噴炎を吐出す四機の機体は、周辺のレギオンを蹴散らしながら戦線へと突っ込んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side MERA

 

 

 

『ちょっと、何かさっきからレギオンの数が増えてきてない!?』

 

通信機から響くアリサの声に、思わず視線を三次元レーダーに移す。確かに、レーダーの察知範囲に居るレギオンの数は、先程よりも密度を増しているように感じる。

 

「キャロ、分るか?」

『えっと……左翼、中央のレギオンがかなり減ってます。何か、右翼に集まってきている……?』

『連中、先に面倒な敵であるホロウを叩く心算かしら?』

「虫の連中にそこまでの知能があるのか如何か」

 

そんな事を呟きつつも、然し実際レギオンの戦力がこのフィールドに集中しだしている事実は否定しようが無い。

幸いにして、俺を含むホロウの面子の乗る機体と、各員の操縦技術は、既にレギオンを狩れる程度の腕は十分にある。

 

問題は、この背に護衛対象を抱えたまま延々とこの場に踏みとどまらなければならないという点。いっその事スクルドを下がらせようかとも考えたが、残念ながらウルにはスクルドのカバーを出来るほどの火力は搭載されていない。ウルはあくまで俺のホームでしかないのだ。でかいけど。

 

『メラ、そっち行ったわよ!』

「了解」

 

ユニコーンの戦闘パターンは実に簡単だ。

ユニコーンは分類としてはSR機になるのだが、MSのサイズはSRよりもTSFに近い。つまり、マザーレギオンとのサイズ差は大人と赤子程、いやそれ以上はあるのだ。

 

だが然し、このユニコーンはSR機。その火力は他のSR機に劣るものではない。ビームマグナムは背後からならその甲殻を容易く貫くし、サイコフレームモドキにより伝達されたマナの影響でバケモノ染みた機動力と反応速度を誇るこの機体。

暴風のようにレギオンを刈り取っていくのだが、けれども徐々にレギオンを捌ききれなくなっていく。

 

と、そんな最中。レギオン目掛けて放ったビームライフルが、レギオンの展開したマイクロ波バリアに弾かれてしまった。

弾かれたビームライフルは、明後日の方向に飛んで行き、そのまま何匹かのレギオンを巻き込んで消えていった。それはいい。問題は目標のレギオンをしとめそこなったこと。

 

「拙いっ!!」

 

即座に追撃をかけるが、レギオンは既にマイクロ波シェルの発射準備に入っていて。その目標は――スクルド。

 

背後からビームライフルで追撃をかけようとするのだが、そんなときに限って横から邪魔が入る。ビームサーベルで邪魔なレギオンを至近距離から真っ二つにして、今度こそレギオンにビームライフルで狙いをつけて。

 

「墜ちろっ!!」

 

桜色の光が宇宙を走り、レギオンを背後から貫く。途端爆発するレギオンに、何とか間に合ったかと息をつこうとして。

そんな視線の先、爆発の中から飛び出す光の本流に、思わず背筋に冷たいものが走るのを感じて。

最後っ屁の一撃。やられたと感じながら、奥歯を噛み締めてその光の先に視線をやって。

 

その光がスクルドに直撃する直前、その光は、スクルドの手前で何かにぶつかり、その何かが派手に爆炎を上げた。

 

「……え?」

『な、何!? 何!?』

『落ち着きなさいすずか。キャロ』

『はい。レギオンのマイクロ波シェルがスクルドに直撃する直前に、スクルドとマイクロ波シェルの間に何者かがワープアウト……次元転移してきたみたいです』

「次元転移?」

 

言われた言葉に思わず首を傾げる。次元転移? こんな月の裏の更に端っこに? 一体誰が、と首をかしげて、不意にすずかから入った通信をキャッチして。

 

『め、メラくん、あれ……』

 

言われて、すずかから送られてきた望遠光学映像を見て、思わず口元が引き攣るのを感じた。

 

『何よすずか、アレを知ってるの?』

『知ってるも何も……』

 

レギオンのマイクロ波シェルをスクルドの代わりに受けて爆炎をあげるその艦。

それは、次元管理局機動六課の前線拠点、L級次元航行艦アースラ、ソレそのものに間違いなかった。

 

「なんでアレが此処に――いや、まさか次元断層の保護領域範囲に気付いたのか?」

 

次元断層フィールド、要する次元空間からの転移を拒絶する為、地球全域に展開した空間結界系の魔術の事なのだが、これには当然有効範囲が設定されている。それが地球を中心とし宇宙空間を含めた、広大な球形の空間だ。

 

これはそもそもギーオスによる次元転移侵攻を防ぐ為の物として建造されたのだが、同時に次元空間から密入国を行なう様々な存在の往来をも禁止する事を可能とした。

 

だが然し、そのフィールドを維持することにも当然エネルギーが必要と成る。幾ら光子炉や縮退炉によって莫大なエネルギーを生産できるとは言え、ソレを管理すること事態にもまたエネルギーを有するのだ。

 

結果、次元断層フィールドの展開範囲は月には及んでおらず、この月周辺ならば、次元転移による転移が可能なのだ。

とはいえ、当然ながら生身での転移などすれば真空の宇宙では即死は必須。少なくとも転移機能を備えた中型クラスの航行艦が必須となるのだが。

 

『あ、アースラ!? ってことはアレ、機動六課ですか!?』

『ティアナさんご存知なんですか?』

『アタシのミッドでの職場よ』

『なんでミッドチルダの人がこの世界に?』

「多分、この世界にコンタクトを取る為に行動してたんだろう。ミッドチルダの技術なら、専門の装置を使えば次元転移を阻む『何か』の存在くらいには気付ける筈だ」

 

ティアナとキャロの会話に割り込む形で部隊内に言葉を伝える。そう、ミッドチルダの専門の技術装置さえあれば、“何かが存在している”という事は分るだろう。ただ、“何が”あるのかまでは理解できないだろうが。

 

『フーン、で、機動六課って?』

『管理局のロストロギアを回収する特殊部隊で、JS事件の間はレリックって赤い魔力結晶体を扱ってたんですけど……確かに、コンタクトを取りたいとは聞いてましたけど』

『それが、どうやってかフィールドの範囲外を割り出して、いざ実層世界へ転移してみれば、其処はなんと戦場の真っ只中でしたって? バッカじゃないの?』

『ちょ、ちょっと待って! アレが機動六課なら、もしかしてあそこになのはちゃんやフェイトちゃんも居るの?!』

『(ナチュラルにはやてをとばしたわねこの子……)って、ええっ!?』

 

モニターの中、艦側面に大穴を明けた姿で宇宙を漂う球形のUFO(アンノウンフライングオブジェクト)。その側面は、如何見ても内部空間に至るまで大きな穴を開けており。

 

「……管理局の次元航行艦って、宇宙活動も想定されてたっけ?」

『……一応活動可能にはなっていた筈ですけど、さすがに地球製の戦艦とは比較にならないと思います』

 

一瞬の空白。

 

「アギト! すぐにウルをあの船に寄せて、無人ランチで救助活動を。キャロは全体周波数であの船に呼びかけを。すずか、アリサ、ティアナ。最悪な事にウルの支援砲火が期待できないまま、お荷物が増えた」

『正直なところ、復帰直後には遠慮したいロケーションなんですけど……』

『フフン! このくらい丁度いいハンディーキャップよ!』

『ふふ……うふふふ…………ふーっふっふっふっふ…………ついに、このグレートゼオライマーの全能力をフルに発揮するその時が来たのね……』

『『「………………』』」

 

何か妙な声が入ったような気がするのだけれども、それに突っ込みを入れられる勇者は誰一人として存在していない。俺だって祟る神の区別くらいは付く。

 

「ま、まぁ、とりあえず。各員――全員で生き残るぞ」

『『『了解!』』』

 

結局、そんな当たり障りの無いいつもの掛け声をむねに、いつものように怪獣の跋扈する戦場へと飛び込むのだった。

 

 

 

 




※ウチのすずかは忍の妹

■稀人の船
要するにUFOの事。管理局の次元航行艦は一般的な地球人から見れば新種の宇宙戦艦かUFOだろうjk。
■レギオン・シード/シード
レギオンの宇宙航行船にして惑星降下艇。
一種の隕石のような形をしたもの。
プラントから打ち出された種で、スウィング・バイで加速した後、新天地へと移動する。

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