リリカルに立ったカメの話   作:朽葉周

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19 ガンスイーパー ティアナ・ランスター 突撃大作戦

 

 

Side Teana

 

 

 

「あれ? ティアナ、センターガードしかやってないの?」

 

ある日の早朝訓練。珍しく事前に招集が掛かったかと思えば、新しく本局の技術官であるマリエル・アテンザ技術部技官と、108部隊から出向してきたギンガさんの紹介があった。

 

で、ギンガさんとスバルの、ウィングロードがグネグネ絡みあうなんとも不思議な疑似空戦を眺めた後、フォワードメンバーと隊長陣営の模擬戦が終わり、更に軽い訓練が行なわれ、さぁ朝の訓練は終了だ、と言うところで、不意にギンガさんがそんな事を言った。

 

「うん? ギンガ、如何いうこと?」

「え? いえ、ティアナがセンターガードしかやってなかったんで、フロントアタッカーの訓練はしないのかな、って……」

 

キョトンとした表情のギンガさん。そういえばギンガさんには後方支援も突撃前衛も行ける、なんて事を話したことが在るような無いような。

周囲から集まる視線に、思わず視線を横に逸らす。

 

「……ティアナ?」

「ははは、はいぃっ!?」

「ティアナって、センターガードじゃなかったの?」

「い、いえ。その、一応前の部隊ではオールラウンダーとして扱われてましたが……」

「「「「え、ええええええっ!!!???」」」」

「え、ええっと、もしかして知らなかったん、ですか?」

 

ギンガさんのそんな言葉に、コクコクと首を縦に振る高町一等空尉。

 

「言ってなかったの?」

「ええ、まぁ、聞かれる事も無かったので」

 

私は自分のポジションに関しては何も言っていない。何かを言う前に、向うで勝手に訓練メニューを決められてしまっていたので、意見するのも面倒だったのでソレに従い訓練をこなしていたのだ。

 

それに教導メニューで不足したと思った訓練は、その後の自主トレで勝手に訓練をしているし。偶にシグナム副隊長やヴィータ副隊長なんかに協力してもらって、市街地戦なんかを想定した模擬戦闘もやっている。

 

因みにオールラウンダーと呼ばれていたとはいえ、私自身としてはその呼称は身に余ると感じている。精々マルチアタッカー程度じゃないだろうか。フルバックは出力的に厳しい物があるし。一応収束も使えるが、アレは環境汚染が酷いからと使用は一応止められている。

 

それに、本職としてスーパーオールラウンダーであるキャロを日常的に見ていた身としては、私はあそこまで器用に立ち回れるとは思わない。せめてフルバックか前衛かははっきりと切り替えなければ。

 

唯一つ疑問が在るのだが、エリオと御剣二等陸士には、一応スキルと経験を告げた時に、その辺りのことは少し言っておいたと思うのだけれど。

 

――然し、なんだろうか。高町一等空尉のプレッシャーが凄い。

 

「因みに、驚いてなかった其方の方々はご存知だったんですか?」

「わっ、我々は偶にランスターの相手をしていたからな」

 

言うシグナムの言葉に、無言でぶんぶん首を縦に振るヴィータ。

その隣に立つスバルと並び、顔を真っ青にしてガクガク震えている。

 

「……ティアナ」

「は、はいっ!!」

「何で言ってくれなかったの?」

「い、いえ、聞かれませんでしたし……」

 

第一、言ったところでソレを使えるわけでもない。私が戦うのは、主にフォワードメンバー内。フォワードと言えば、技量的には少し心許ない連中がその大半を占めている。

 

オールラウンダー技能を持っているとはいえ、ソレを生かすにはある程度の技量を持ったパートナーが必要だ。例えば前衛の火力不足時、私が前に入っても違和感無く連携を繋げる程度の力量、とか。少なくともポジションチェンジを前提としてある程度の訓練を行なっておく必要が在る。

 

だが、現在この場にいる人間で、私のポジションチェンジに対応して戦闘をこなせる人間と言えば、副隊長陣営とギンガさんくらいか。隊長陣営? あの人たちは出力偏重すぎて、私とはコンビネーションなんて絶対に組めない。

 

「資料にはそんな事、一言も書いて無かったよ?」

「資料……って、どの資料ですか?」

「386のだけど……」

 

前の陸上警備部隊の資料? でもあそこって確か……。

 

「あそこの資料って、新しい信頼性の在るものを頼みましたか?」

「えっ?」

「あそこの部隊は大抵現場処理で、資料整理なんて殆どされてませんよ。私だって、自分からオールラウンダーなんて名乗ってませんし、ソレってあくまで部隊内の通称でしたし」

 

多分、一番最初、隊に配属されたとき、腕前を見せろと言われ、スバルとのコンビで戦って見せたのだ。その時に私がセンターガードだと判断されたのだろう。

 

「でも、そういうのって普通修正しない?」

「警備部って言っても結構忙しい部隊でしたから。信頼できるのは古い資料より新しい資料、新しい資料より古株の局員、です」

 

多分だが、私がオールラウンダーなんて呼ばれるように成る前から、全く資料が更新されていなかったのだろう。

前線部隊なんて大抵滅茶苦茶忙しい。私の居たところもそうだったし、報告書だって大雑把な物にしておかなければ次から次から溜まっていくような状況。たかが新人の戦闘スタイルなんて一々更新したりはしないだろうし。

なんて事を言うと、ガックリと疲れたように溜息を吐く高町空尉。

 

「……私の教導って、無駄だったのかな?」

「(うん、とはいえないし……)いえ、センターガードの訓練としては効果的であったと思いますが」

「そう? ……そっか、うん、有難う、ティアナ」

 

何か勝手に一人で納得したかの様子の高町空尉。でもなんだろう。その場に居る全員、顔色が悪いような気がするんだけど……。

 

「それじゃ、ティアナ、ちょっとティアナの前衛技能を見せて欲しいんだけど」

「は、了解しました」

「相手は――そうだね、シグナム副隊長?」

「(ビクッ!)あ、ああ。承った」

「それじゃ、フィールドはいつもの市街地フィールド。ルールはダメージを数値化した総ダメージポイント制。時間制限は有り、30分、って所かな」

「「了解!」」

 

そうしてシグナム副隊長と共にフィールドへと移動する。

 

「……ランスター、貴様高町に自分の技能について報告しておかなかったのか?」

「いえ、その……どう言うべきだったんでしょうか? 私、実は前衛も出来るんです、って?」

「……むぅ」

 

シミュレーターへ移動する最中、そんな事をシグナム副隊長と話しながら移動する。

とはいえ、私もシグナム副隊長も移動系の魔法は取得しているので、それほど時間は掛からないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

Side Other

 

「あの、本当にやるんですか、なのはさん」

「うん。出来る、って言うなら、ソレを戦術に組み込むのも考えなきゃだし、ならある程度実力を見せてもらわないとね」

 

そういいながらシミュレーターのコントロール端末を指で叩く高町なのは。そんななのはの背後、フォワードメンバーは心配そうにシミュレーターの方向を見つめていた。

 

「だがな、なのは。シグナムは制限が掛かっているとはいえ、それでも空戦S-。とてもティアナじゃ相手になるとは思え無いんだけど」

 

そう言って、なんとかこの模擬戦を止めさせようとしている御剣二等陸士。けれどもそんな事は、なのは自身も分っている事だ。

 

「大丈夫だよまもるくん。シグナムさんだってそんな事は分ってる筈だよ。それに、シグナムさんも行ってたじゃない、何度か模擬戦をしてるって」

 

その辺りの加減は本人達もちゃんと心得ているよ、となのは。そうして、まだ少し戸惑っていた御剣を押しのけるようにしてコンソールに口を寄せた。

 

『はーい、それじゃこれからシグナム副隊長VSティアナの模擬戦闘演習をはじめまーす』

 

広い広いシミュレーター空間。けれどもその場に居るのは、ティアナとシグナムの立った二人。その二人は、普段と同じくシミュレーターの中央、一番太い通りで向かい合って其々武器を構えている。

 

互いに構えるのは自らのデバイス。

シグナムはその薄桃掛かった色の騎士甲冑を身に纏い、その手にはカートリッジをロードし炎に燃えるレヴァンティンを既に装備している。

 

対するティアナは、いつもの白いバリアジャケットに身を包み、その手に持つのはハンドガンとダガーの状態に変化したファントムクロス。

 

ティアナに関しては見たことの無いその姿に若干名が驚きを感じつつ、然し大半の注目はシグナムの方へと向かっていた。

 

『ちょ、シグナムさん!?』

「行くぞ、ランスター!!」

「今日は私も突っ込みます!!」

 

完全武装どころか、カートリッジまでロードした限定解除モード。完全に殺る気のシグナムの姿に、咄嗟に制止の声を掛けようとしたなのは。けれどもその声は少し遅く、瞬間空気に溶けるようにしてシグナムとティアナの姿が消えて。

 

――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

直後、音に成らない音の衝撃波が、シミュレーター上に展開された隔離結界の中で強く響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

Side Teana

 

 

 

シグナム副隊長の戦術は、実にシンプル。あの人の行動は、『寄って斬る』の一言に集約される。というか、それ以外にない。

 

ではそれが単純かと言えばそうではない。断じて違う。その、たった一つの寄って斬るという動きには、私には数え切れないほどの年数をそれだけに繰り返してきたのであろう研鑽の重みが感じられる。

 

最初こそ此方を舐めて掛かってきていた所為か、ある程度打ち合うことは出来た。けれども、ある程度打ち合ったところからは通常の状態では全く対処できなくなる。

 

「……っちい!!」

「紫電一閃!!」

 

防御を叩き割る垂直斬り。咄嗟に魔力を乗せたコンバットナイフでカウンターを狙うが、今度は其方に剣をあわせられる。

 

剣の結び合いになれば此方に勝率は無い。即座に右手のハンドガンを乱射。全て回避されるがソレでいい。即座に距離を置き、再び此方の間合いを保ちながら機を狙う。

 

基本的に私とシグナム副隊長の技量差を考えれば、シグナム副隊長とのクロスレンジでの斬り合いは自殺行為。であれば、飽和砲撃で動きを制限しつつ、強襲による一撃離脱が理想系。

 

けれども飽和攻撃をするのは私のポリシーではない。私のポリシーは、精密射撃による一撃必殺。その前提をあわせると、最も効率的なのはカウンターによる必殺だろう。

 

「……如何したランスター。そうして距離をとっていては、何時までたっても私は仕留められんぞ」

「ええ、今仕留める手段を考えてる最中です」

 

普段から用意している対ベルカの騎士戦用プラン、基本戦術プランは先述の通りカウンターによる一撃必殺。ソレが不可能な場合は、御神流を使用した神速による加速を利用した速度による力押し。

 

けれどもシグナム副隊長の場合、カウンターに対応する技量、瞬間的に速度を上げた途端、距離をとって牽制に映る直感・判断力。突飛なレアスキルこそ無いが、この安定した完成度が途轍もなく厄介だ。

 

まだヴィータ副隊長とかなら大技の隙が狙えるのだが、シグナム副隊長にはソレが無い。訓練相手としては最高の相手なのだが、実戦でコレに当りたいとは絶対に思えない、そんな相手。

 

「はぁっ!!」

 

寄って斬る、その動作に最低限のクイックブーストで回避。即座に背後に回りこみ、バックアタックによる強襲を仕掛けるが、振り向き様に振るわれるレヴァンティンを回避するため咄嗟にしゃがみ込む。

 

跳ね上がるように真上に向けてコンバットナイフを振るうが、今度はシグナム副隊長がバックステップ。コンバットナイフは宙を斬る。

 

即座に前方にダッシュし、追撃を仕掛けるが正面から騎士に挑むのはやはり自殺行為。即座に息を吹き返したシグナム副隊長が、再び前へ踏み出しながらの一撃。コレを咄嗟にコンバットナイフで受け流すのだが、受け流した左手に強い痺れを感じる。

 

矢張り騎士にクロスレンジを挑むのは自殺行為だ、なんて考えつつ、即座に左手による攻撃案を破棄、右手のファントムクロス本体によるフラッシュバレットを連射する。

 

何発かは当るものの、元々防御力もソコソコ厚いシグナム副隊長だ。数発当った程度ではびくともしない。が、だからといって無視できるわけでもなく、再び間合いを開く事になる。

 

再びのシグナム副隊長の接近まで、予想時間約4秒。その間にファントムクロスに命じて術式展開。ブースト系術式に被せるようにして回復系術式を機動。ガタガタに成っている肉体に、元々のブーストと合わせて更なる回復処理を施す。若干ブーストの能力は落ちるが、部位に異常を抱えたままの接近戦など御免被る。

 

そうしてある程度無理の効く状態。再び接近してきたシグナム副隊長に、フラッシュバレットを打ち込みながら一気に接近。ナイフに魔力を込め、必殺の一撃を――。

 

――ガキィンッ!!

 

「……其処までにしとけ。ってか、其処までにしとかねーと、後始末が大変だぞ?」

 

不意に何かの力に振りぬこうとした左腕の一撃を止められた。見れば其処には、グラーフアイゼンを構え、私のコンバットナイフを受け止めるヴィータ副隊長の姿があった。

 

――拙い、また戦闘モードに成ってたか。

 

「シグナムも、此処までにして置いてください」

「……テスタロッサか。まぁ、致し方あるまい」

 

見ればヴィータ副隊長の向こう。ヴァルディッシュを構えるフェイト隊長に、レヴァンティンを受け止められたシグナム副隊長の姿が見えた。

 

 

 

そうして終了した模擬演習。結果としては、シグナム副隊長と私は引き分け。けれども、その事で色々と問題が発生した。

 

なんでもシグナム副隊長と引き分ける陸戦Bとかありえない。でも魔力ランクは多く見てもB+。魔力ランクがBでは、如何頑張っても陸戦A以上には届かない。何だソレは、と頭を抱える八神部隊長と高町一等空尉。

 

然し実際のところ、私が戦闘に使っている魔法といえば、補助系がメインで、後はフラッシュバレット――射撃系が殆ど。最後に不発だった魔力刃も結局不発だったし。

 

私の戦闘を支えるのは、主にソレまでの戦場で培った経験と判断力。そして未熟かつ数点のみながら教えられた御神の技だろう。

 

まぁ、部隊長達の葛藤は如何でもいい。もう一つの問題は、私とシグナム副隊長が暴れた結果、本日の昼間の間はシミュレーターを利用することが出来なくなってしまった、という点だろうか。

 

シミュレーターに負荷が掛かりすぎた結果、どうもジェネレーターが冷えるまでの一定時間、シミュレーターを使用できないらしい。偶にシグナム副隊長と模擬戦をやるときは、夜中の涼しい時間であり、終わってから朝になるまで結構な時間があった事で問題にならなかったのだろうが……。

 

幸い責任問題なんかにはならないそうだ。だってシミュレーターで訓練した結果機械が壊れました、なんて流石に無理がありすぎる。

弁償云々という方向に話が進まなかった事にだけは、思わず安堵の吐息を漏らしてしまった。

 

「……私の、私の教導の意味って……」

「あかん、これ下手すりゃ査察の理由になる。ティアナは前衛では使えへん。でも、ああ勿体無い!!」

 

ついでに、何か苦悩する二人が鬱陶しかった、と言うことだけは最後に付け加えておく。

 

 

 

 





■GSランスター突撃大作戦
タイトルネタ。

■ポジション
大体前衛、中衛、後衛の三つを更に三つに分けた六つに加え、その他番外的なポジションが幾つか。
キャロがスーパーオールラウンダーで全ての領域で対応。
ティアナは大体の事が出来るが、広範囲魔法が割と苦手。簡易回復は出来るがブースト系は不可。つまりサポートが苦手。生存能力は凄まじい。
因みになのはの扱いはMAP兵器。

■ギンガ・ナカジマ
スバルの姉。本作においてもティアナとはスバル経由で知り合っている。ティアナの休暇に起こったとある事件で、共に現場に乗り込むに当ってティアナの技能を把握していた。その縁で彼女のストライクアーツは魔改造を受けている。現在はそれをシューティングアーツに組み込むべく努力中。

■戦闘モード
一種のトランス状態。極限の集中状態。KOOLタイム。
戦闘に集中しすぎる余り、前提条件外の事にまで考えが及ばなくなる場合がある。
別に特殊能力云々ではなく、EFFの調きょ……訓練の成果。

■私の教導の意味
何処の二次創作でも言及されているが、まずその意味を教導対象に伝え、一緒になって教導を考えるべき。相談せず勝手に思い込みで行動した結果がこの様だよ!!

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