さっきなんとなくカルナガチャで十連一回したら、カレスコ二枚同時に当たった。カルナガチャはカレスコガチャだった……?
「――――ああ、懐かしい。まさか、君と再び会いまみえることになろうとは」
恍惚とした声色で吐き出すは、歓喜の音。
男は、目の前の少女――マリー・アントワネットに語り掛ける。
「ええ、私も忘れたことはありませんわ。本当に、懐かしい――ねぇ、サンソン」
マリーは、目の前の男――シャルル=アンリ・サンソンにそう返す。
彼の者は、嘗てフランス革命において王権の終焉を、ギロチンと言う断頭台を以て飾った処刑人である。
「僕達はやはり、運命で結ばれているんだね。ああ、二度も同じ人間を処刑できるなんて、そうとしか言いようがない」
「…………」
悪辣で狂気的な発言を前に、マリーは閉口する。
しかしそれは臆した故のものではなく、ただあまりにも――目の前の青年に掛ける言葉が見つからなかったからである。
マリーは、嘗て自らを処刑した青年に対して、同情していた。
「あの男が君の傍らに居る、というのが不愉快で仕方ないが……あの男の相手は同じ音楽に狂った奴がするようだし、これで二人きりだ」
「ええ、そうね」
「処刑とは、慈悲だ。一撃の下命を散らしてこそ、処刑としての矜持が成り立つ。だから――暴れないでくれ。僕に、マリーの命の価値を冒涜させないでくれ」
サンソンは処刑人であると同時に、人間は崇高であるという考えを持つ、二律背反の存在であった。
処刑人である誇りと、悪戯に命を手に掛ける愚かさと、愛した存在をその手に掛けることを肯定できる、一種の歪みを持つ青年。
出生が、時代が、彼に過酷な運命を背負わせた。
そして同時に、マリーもまた、そんな運命を辿ったサンソンに処刑されたことに関して、一切の恨みを持ってはいなかった。
彼女自身、処刑された結果に関して納得しているし、それが不条理だとは思っていない。それ故に、サンソンの行いを否定しないし、恨み言を吐くつもりもない。
だからこそ――目の前にいる処刑人が、哀れに思う。
「……可哀想な人」
「ん?」
「貴方はいつだって高潔だった。死を司る人生を送りながらも、貴方は決して輝きを損なわなかった。罪人を蔑まず、肯定し、それでいてなお職務に忠実だった。そんな貴方を私は信頼していたわ。でも――今の貴方に、嘗ての輝きは微塵も感じられない」
「――何を言い出すかと思えば」
マリーの言葉を、サンソンは理解できないと言わんばかりに一笑に付す。
そんな反応を当然と受け止め、マリーは言葉を紡いでいく。
「貴方は、私を処刑することに固執し過ぎている。職務と言う領域を超えて、自らの欲を満たすためだけに人を殺めようとしている。王妃マリー・アントワネットではなく、いちサーヴァントであるマリー・アントワネットを、謂われない罪で断罪しようとしている。それは、詭弁だわ」
「それは違うよ。君が犯した罪は、確かにギロチンを以て一度は購えただろう。だけど、君が君である限り、罪の色は決して色褪せない。君がどんなに自分を王妃でないと否定しても、君は決して"王妃であるマリー・アントワネット"以外にはなり得ない。だから、僕は君を処刑する。嘗てと同じように、君に最高の快楽を以て命を絶つ権利があるのだから」
サンソンは掌で自らの表情を覆い隠し、笑う。
狂気に呑まれた笑みが隙間から窺える。マリーは、ただそれを見届ける。
「違うわ、シャルル=アンリ・サンソン。私と貴方を繋ぐ糸は、とっくに断ち切られていたのよ。他でもない、貴方自身の手によって」
「そんなことはない。こうして君と僕は再び巡り合えた。ならばそれは運命だ!!」
サンソンは叫ぶ。
どんなに愛を訴えようとも、言葉を尽くしても、マリーは揺れない。
歪んだ愛情表現だからではない。そも、歪んでいると言うのならば彼女も同類だ。
だからこそ、否定する。心の擦れ違いを終わらせるべく、言葉を刃にして。
「違うわ。これは偶然。ほんのひとつのボタンの掛け違いで起こる、その程度の関係に過ぎないの。そうでなければ――貴方と私は、アマデウスと同じく、隣り合う運命にあっただろうから」
「…………」
サンソンはその行動と結果から、善人と呼べる立ち位置にはいない。
だが、心まで悪に染まっていた訳ではないことは、この中では当人を差し置いてマリーが一番理解していた。
彼は、王権を終焉へと導き、新しい時代を開拓した英雄だと、マリーは思っている。
彼にとって望まざる結末だったとしても、彼が振り下ろした刃は、確かに未来を繋ぐ確かな光となったのだ。
故に――本来ならば、サンソンもまた、マリーの味方として召喚されるべき、正しき存在なのだ。
だけど、現実はそんな甘いものではない。
狂気に囚われ、処刑人としての側面ばかりが出ているサンソンこそ、紛れもない今の現実。
だからこそ、マリーは言葉を尽くす。
始まりは悪に侵されていようとも、その本質は異なることを知る彼女だからこそ、厳しくも誠実な言葉を紡ぐ。
彼もまた、マリーにとって愛する民の一人だから。
「貴方は、何人殺しました?この歪んだフランスで、私利私欲の為に何人殺しましたか?きっと貴方は、私の知らない内に何人もその刃で無辜の民に謂われない罪を被せて断罪している。違いますか?」
「……その通りさ。でも、何で分かったんだい?」
「――だって、貴方。とても殺しを楽しんでいる顔をしているんだもの」
「――――!!」
サンソンの目が見開かれる。
無意識に、サンソンの足が一歩後退する。
マリーもまた、それに続いて一歩距離を詰める。
全てを語るまで、決して逃がさないと。そう言い聞かせるように。
「処刑人の刃は、罪人を救うためのもの。それがただの人殺しの道具に成り下がったならば――それは最早、殺人鬼でしかないのよ」
「ち――違う!僕は、ただ君の為に腕を磨き続けただけで――」
「殺すことを目的に処刑する時点で、貴方は私の知るシャルル=アンリ・サンソンではなくなっていたのよ。そんな貴方の思いを受け止めることは出来ないわ」
「そ、それでは僕は……どうやって君に許してもらうことが……」
絶望の負荷に耐え切れず、サンソンは膝から崩れ落ちた。
ただ、マリー・アントワネットを思い続けて首を刎ねる技術を磨き続けた彼の行いが、真っ向から否定された事実は、彼にとってどんな刃よりも鋭い一撃だった。
マリーはそんなサンソンの前に立ち、零れ落ちそうだった涙をその手で拭う。
「……本当に、哀れで可愛い人。最初から私は、貴方を恨んでなんかいなかったのに」
「え――――?」
「私は、愚かな王妃だったわ。私はフランスを愛していたし、民も愛していた。だけど、それだけだった。民が私を本当に愛してくれていたかも分からないし、知ろうともしなかった。私の世界は宮殿の中で完結していて、隔絶された世界から間接的に聞こえてきた、僅かな情報だけで満足していた。だから、自分の過ちに気がつけなかったし、今も理解しているかどうか怪しい状態。だから、私は笑顔を振りまくの。愛を謳うの。それしか私が民に報いる方法を知らないから。だから――貴方は正しいの。貴方の貫いた信念は、決して屍に埋もれて終えるようなものではなかったのよ」
サンソンの頭をマリーは優しく抱き締める。
母のように、女神のように、聖女のように。慈愛で満ちた抱擁は、奇跡的に彼に植え付けられていた狂気を振り払った。
「……そう、だったんだ。僕が――間違っていたんだね、マリー」
マリーの胸の中で、サンソンは静かに涙を流す。
ただ、愛を捧げた女性に肯定された。それだけの事実が、彼にとっての何事にも変え難い幸福のカタチだった。
「ありがとう――僕は愚かだったけど、それ以上に幸せ者だったよ。だから、さよならだ」
マリーを突き飛ばしたサンソンは、間髪入れずに自らの首を自らの刃を以て斬り落とした。
狂気に呑まれた処刑人の最期は、自らの罪を受け入れて自らの罪を清算するという、皮肉に満ちたものだった。
魔力の粒子となり空に消えていく姿を、マリーはただ見上げ続ける。
「本当――馬鹿なんだから」
願わくば、次に会うときは――お互いに笑い合える関係でありたい、そんな優しい祈りを抱えながら。
とある一幕。対峙するは狂気に呑まれた演者と狂気を受け入れた音楽家。
演者の名は
互いに音楽を知る者だからこそ、互いが互いに相容れない存在であることが理解できる。
「ああ――なんて聞くに堪えない音を掻き鳴らすんだ、糞野郎。音から腐臭さえ漂ってくるぞ!!」
「然り、それが私、
「ああ、五月蠅い黙れ黙れ!なんだってよりにもよってこの組み合わせなんだ畜生。こんな糞を相手にするぐらいなら、ワイバーンの群れに突貫する方が何倍もマシだ!!」
アマデウスは耐えられないと言ったばかりに耳を塞ぎ首を横に振る。
意思疎通等と言う文明人らしいやり取りなどそこには存在せず、ただ言いたいことだけ言っているだけの愚にもつかない不毛な言葉の応酬が続いていく。
そも、互いに相手を理解する気が微塵もない以上、それも必然と言えた。
音楽性の違いとはかくも難儀なもので、それが時代に名を遺す程の偏屈者であればあるほど、妥協なんて言葉が希薄になっていく。
音楽とは、種族の壁さえ超える究極の表現技法だ。付け加えるならば、究極なまでの我の押し付けとも言える。
音楽に限らず、芸術家なんてものはそんなもので、有名著名人ならば誰も彼もが、自分が最も優れていると信じて憚らないだろう。
演者と奏者。立場こそ違えど、音楽を司る者同士。決着をつけるに相応しい舞台は、ひとつしかない。
「ああ、クリスティーヌ。姿は見えずとも、この音色だけは君に届けよう。唄え、唄え、我が天使……
醜悪で、下劣で、悪辣で、呪いに満ちたそれは、奏でる音にさえ呪いを植え付ける。
人間性を捨て、音楽に傾倒した人生を送ったアマデウスにとって、それを存在させると言うことは、己が人生を否定されることと同義。
故に、彼にとって目の前の存在は、何を犠牲にしてでも排斥すべき存在なのだ。
「公害を撒き散らそうとするな、音楽を冒涜するな!!本当の音楽を聞かせてやるよ、
叫びと共に現れるは、天使の音楽隊。
それは、生前作曲した名曲『レクイエム』とそれにまつわる伝説の具現。目の前の呪いとなって固着した怨念へと手向ける鎮魂歌。
宝具にまで昇華した音楽の究極の一が、衝撃となりぶつかり合う。
それらが重なり合うことで、音楽はただの音波兵器へと成り下がる。
そんなことも露知らず、二者はお互いの音楽をただ奏で続けた。
真紅の魔槍と蝙蝠を象った杖が交差する。
アサシンとランサー。近接戦闘において圧倒的有利を誇るランサーが苛立ちを募らせ、アサシンが余裕な表情でランサーを攻め立てる。
何故、ランサーがここまで追い込まれているかには、理由がある。
ひとつは、アサシンが常に着かず離れずを維持し、それでいて基本的に逃げの一手を取っていることにある。
アサシンからすれば、相性が最悪な相手との戦い。真っ向勝負で勝てる訳もないからこそ、ヒットアンドアウェイを絶対として行動している。
しかし、それだけでクランの猛犬と謳われたランサーを苦戦に追い遣ることは不可能。
だからこそ、それに加えて随伴してきたワイバーンが要となってくる。
圧倒的物量でランサーへと襲い掛かるワイバーン。彼にとってそれ自体は大きな脅威とはなり得ない。
だが、彼は理解している。下手に無視してアサシンに集中すれば物量で押し込まれる上に、そうでなくとも逃げの一手を貫くアサシンは、自らを囮にワイバーンを理子達のいる後方へと一気にけしかけることだろう。
マシュとジャンヌを信用していないかと言われればそうではない。ただ、あまりにも数の差がありすぎるのだ。
ましてや二人とも護りに特化したサーヴァント。広範囲殲滅の宝具も恐らく無い。故に、護るだけで精一杯の筈。
那岐が何者かの介入によって姿を消したことは、辛うじて理解していた。それはつまり、後方組の唯一と言って良い逆転のカードを失ったことに他ならない。
だからこそ、彼は歯を食い縛って耐える。
実力を知っているからこそ那岐なら大丈夫と思考停止した結果が、サーヴァントにとって許されるべきではない失態へと繋がった。
もう一人のマスターである菅野理子は、サーヴァントを従える能力こそあれど、本人は一般人に毛が生えた程度の存在。
それこそ、この戦場に於いては吹けば飛ぶような儚い命でしかない。
それでいて、この戦線を維持するには必要不可欠なピースであるならば、敵が狙わない道理はない。
だからこそ、アサシンもまた、ランサーを討つことに拘らない。試合に負けても、勝負に勝てばよいのだから。
「ちっ、やりにくいったらありゃしねえ――なっ!!」
神速とも呼べる突きの応酬は、アサシンに決して届かない。
時にはワイバーンが盾となり、攻撃に転じて体勢を崩されたり、おおよそ半分の能力も発揮できないでいた。
「あら、その程度?期待外れもいいところね」
仮面の奥に忍ばせた侮蔑の視線を、ランサーは軽く受け流す。
挑発による精神的動揺を揺さぶるなど、ランサーに通じる筈もない。
だが、そんな言葉を吐き出せる程度には、アサシンに余裕があることだけは、誰の目から見ても明らかだった。
本来、逆転の一手となる宝具も、その性質上使用不可能な状態に陥っている。
対人用にアレンジした
前者は良くて相打ち、悪くて不発のままワイバーンの餌食。後者に至っては、着弾することで炸裂弾のように敵を殲滅すると言う性質上、ワイバーンのように空を飛ぶ敵にはほぼ意味がなく、仮にアサシンを狙おうとも、空はワイバーンの領域と言う事もあり、撃つのは容易なことではない。
結果として、ジリ貧になろうとも堅実にワイバーンを殲滅していくしか出来ないのであった。
「抜かせ、アサシン風情が。テメェの浅知恵なんざ、俺の槍捌きひとつで踏み倒してやらぁ――!!」
ランサーは盛大に吠え、アサシンを打倒せんと再び槍を振るった。
「――ふむ、その鎧。どこかで見たか。生前でもなく、死後でもなく。どこかで会ったかな?」
「ああ、オレには覚えがあるぜ。直接顔を合わせたのは初めてだが、お前の名前から宝具、そして哀れな末路までしっかりと聞き及んでるぜ。――なぁ、"黒"のランサー、ヴラド三世」
「……ふむ、一方的に知られていると言うのも何と歯痒いことか。まぁ、詮無きことか。それにしても、その呼ばれ方――懐かしさを覚えるよ。ああ、そうだ。嘗て私は、そんな呼称で聖杯戦争に参加していたな」
静かに対峙するは、嘗て同じ聖杯戦争に召喚された者達。
黒のランサー、赤のセイバーと呼称されていた時の"記録"を持つ彼らは、互いに懐かしさを噛み締めていた。
だが決して、安穏とした雰囲気にはなり得ない。
根幹にある想いこそ違えど、両者は闘争を望んでいる。
ここにあるのは、僅かばかりの望郷の念と、そこから派生する嘗ての戦争の残滓から来る、闘争本能を揺さぶる恍惚とした感情のみ。
「又聞き程度の情報しか知らないオレが言うのもアレだが――随分と吹っ切れてるようじゃないか」
モードレッドの知るヴラド三世は、上に立つ者としての風格と威厳を備えた傑物だったと聞いている。
しかし、目の前のそれはどうだ?まるで、餌になら何でも喰らい付く意地汚い獣そのものではないか。
「ああ、貴様は私を知っているのだったな。嘗ての私は、随分と下らない妄執に囚われていたことだと、我が事ながら同情を禁じ得るよ。吹っ切れればこんなにも晴れやかな気持ちになるというのに。生前でさえ一度も経験したことの無い甘美な昂ぶりが、今の私を構成する絶対要素となっていることを鑑みれば、やはり私の収まるべき形は
「誇り高いと音に聞いたルーマニアの王が、随分と落ちぶれたことだ。まぁ、オレは嫌いじゃないけどな。小奇麗に纏まってお高く止まるのは、父上だけに許された特権だ」
「貴様の父上とやらは存じないが、一理ある。吸血鬼は血に塗れてこそ映えるというもの。なればこそ、目の前にある最高級の食事を逃す道理はあるまいて。それにしても――匂うぞ、悪魔の如し兜や鎧で姿を覆おうとも、その穢れのない乙女の匂いは覆い隠せないぞ」
「――――あ?」
乙女、と評価された事実が、彼女の感情に罅を入れる。
「おや、怒ったかね。何分その手の匂いには敏感でな、敵同士故謝罪する道理もないが、形だけでも誠意は見せておこうか?」
「必要ないね、お前がどんな態度を取ろうとも、オレがお前を殺すことに変わりはないからな……!」
それに続いて、ランサーもまた双刃槍の切っ先を下に向けるようにして構えた。
「そうか。ならば失礼ついでに吐露するが――貴様以上に注目している者が居てね。あの白無垢の如し穢れなき乙女の血を、今すぐにでも下品に吸い尽くしたいと――」
斬、とランサーの居た空間が赤雷を纏った銀剣が横一閃に放たれる。
ランサーは尋常じゃない殺気を瞬時に察知し、後方に飛び回避していた。
「――――殺す」
それは、獣か悪魔か。
赤雷がモードレッドを中心に空間を歪ませるほどに蓄電する。
赤雷が彼女の怒りを象徴するものであると言うのなら、その怒りは仇名すもの総てを焼き殺す裁きの雷そのものか。
目の前の節操の無い獣に、敬愛する母を
だって――母上を愛し、護り、嬲り、侵すことを許されるのは、ただ一人。モードレッドにしか許されない普遍の事象だから。
誰一人とて、その領域に踏み込む者は容赦しない。それが例え――
「良い殺気だ。ならばお見せしよう、
「磔刑になるのは――テメェだあああああああああああ!!」
怒りを孕んだ咆哮と共に、赤雷を纏いし叛逆の騎士は墜ちた吸血鬼へと突撃した。
――それは、金色の舞う舞踏会だった。
片や、幼さを残しながらも誰もが見惚れるであろう美しさを持つ少女。
片や、女であり男、男であり女として後世に語られることになるほどの美貌を備えた少女。
共にセイバーのクラスに適応した者同士が織り成す剣戟は、まるで踊っているかのように輝いていた。
しかし、現実は互いが決死で臨む命の奪い合いでしかない。
「はっ――!!」
金属の擦れ合う音が響いたのは、これで何度目だろうか。
リリィが扱う西洋剣特有の重圧的な両刃のそれは、敵方のセイバーの持つレイピアと比較して威力に優れている。
それこそ、まともに打ち合えばレイピアのような細剣が折れるのは必定。
だが、それはまともに受ければの話。
細剣特有の脆さは、剣戟に対して絶妙な角度で滑らせるように操ることで、衝撃を逃がしつつ相手の体勢を崩すと言う卓越した技量を以て補っている。
対して、リリィも負けていない。
確かに彼女は全盛期のアーサー・ペンドラゴンのそれと比べると明らかに実力不足だろう。
しかし、彼女自身が立つ場所は、いずれキングアーサーの立つ頂にまで至る、約束された栄光の欠片。
何段階とキングアーサーに劣ろうとも、決して彼女が弱者であるという証明にはならない。
寧ろ、その才能は決してキングアーサーに劣るものではない。故に――
「――っ、また、速くなった、だと……!!」
セイバーは苦虫を噛み潰したように苦悶の言葉を吐き出す。
マスターである暮宮那岐の戦いを間近で観察し、墜ちた騎士王の暴力的な強さを体験し、そして今、同等の実力を持つ剣士との尋常な立ち合いの下戦いを繰り広げたとなれば――彼女が爆発的な成長を遂げることは、その才能もあって必然とも言えた。
「はぁああああ!!」
リリィの放つ斬撃は、段階を踏むように威力と速度を上げていく。
軽さと取り回しの良さに優れた細剣での剣捌きが通用しなくなってきた現実に、セイバーは歯噛みするしかない。
一瞬の隙を突き、セイバーは一気に距離を取る。リリィはそれに追撃することはない。
自分の弱さを理解しているからこそ、蛮勇を嫌う。
互いに宝具を使用していない状況で過剰に攻め立てるのは愚かな行為である。
そんな正道な思考に、セイバーは助けられた。
「……白百合の騎士よ、貴方はさぞ名のある英雄と見た」
「花の麗人よ、貴方こそ素晴らしい剣士のようだ。こうして立ち会えたことに、不謹慎ながらも喜びを禁じ得ない」
「はは、そういってもらえると嬉しいかな。……本当、こんな召喚のされ方でもなければ、語らい合いたいぐらいには、貴方を気に入っているのに」
「…………」
セイバーの自嘲する様な言葉に対して、リリィは何も返せない。
自分達は所詮、サーヴァント。後世に名を残すほどの大英雄であろうとも、依代無くしてはカタチを保つことさえ出来ない泡沫でしかない。
リリィ達のマスターのような、良識と善性ばかりの存在は稀だ。
聖杯戦争に於いて魔術師とは、その九割が『根源』に至る為の手段として聖杯を求める。
人間的な感情を排斥した魔術師が殆どである中、そんな破綻者に召喚されたサーヴァントの扱いは、詰まる所"駒"に尽きる。
言葉の上では敬意を表そうとも、友好的な態度を示そうとも、それは英霊を御する為のプロセスでしかなく、本心であることはほぼ無い。
そしてセイバーもまた、異例の形ではあるがサーヴァントを駒として――いや、それ以下として扱うような外道に召喚された、哀れな存在。
無理矢理な方法で狂化のスキルを付与され、理性を破壊し、ただの兵器として運用する。
実際、そう上手くはいかないのがセイバーの理性的な態度が証明しているが、それは克服できた訳ではなくあくまでも何とか耐えているからに過ぎない。
英雄としての矜持が、正義であらんとする高潔さが、人としての誇りが、セイバーの理性を未だ留めているのだ。
意思の強さひとつで、理不尽を跳ね除けるその在り方は、まさしく英雄。
「……貴方のマスターを思う焦燥が羨ましい。そんな貴方を見ているだけで、己が身を呪いたくもなり、嫉妬してしまう。駄目ですね、この作戦を実行した時点で、そんな事を思うなんて許されないのに」
「――なら、何故そこまでして戦うのです?剣を重ねて、貴方が如何に高潔で誇りある英霊かを多少なりとは理解したつもりです。だからこそ、言いたい。何故、あの残虐非道を繰り返すマスターに従うのです!!」
「さぁ、ね。狂化の影響かな、私としては滅ぼすのも滅ぼされるのも一緒なんだよ。――狂っているからと言って、罪のない人間を手に掛けてしまった時点で、私は破綻したんだ。もう、どうでもいいんだ」
セイバーは笑う。
抗おうとも決して抜け出せない地獄。残った理性が、悪に墜ちて自刃するという最悪な結末を拒む。
なら、どうすることが正しかったのか。
大人しく狂えば良かったのか。それとも敗北が必定と分かりながらも竜の魔女に挑めば良かったのか。
思考が纏まらない。狂っているせいなのか、それとももっと別の要因があるのか。
何にせよ――ここまで来たからには、もう止まることは出来ない。
その手は無為な血で汚れ過ぎた。綺麗事を並べたところで、その罪は決して消えない。
ならば、最後まで悪を貫こう。
心が折れた訳ではない。セイバーは、自らが踏み台になることを良しとしたのだ。
この戦いの中で、リリィは異常な速さで成長している。それこそ、これ以上続けてもセイバーでは決して勝てない、と思わせる程度に。
だから、託すのだ。セイバー――否、シュヴァリエ・デオンの屍を踏み越えた先にある、彼の竜の魔女を滅ぼすと言う、自分には出来なかった祈りを。
「だから――来い。マスターを助けたいのならば、まずは私を乗り越えて見せろ!!」
デオンは思いの丈をその一文に乗せ、リリィを強く見据えた。
リリィもまた、それに応えるように聖剣を構える。
言葉に込められた意図を理解したのか、リリィは無言で頷き、再戦の狼煙を上げた。
Q:【悲報】マリー・アントワネット。言葉攻めで男を自殺に追い遣る
A:間違ってないけどさぁ!!
Q:サンソン死ね、マリーのちっぱいに包まれるとか死ね。
A:包んでないんだよなぁ……
Q:まさかのファントムさん。
A:原作より目立ってるんじゃね?これ
Q:兄貴戦闘地味だな
A:ゲームでも超耐久型だし……(震え声)
Q:ドスケベ公、女扱いとリリィを狙うと言う二重の地雷を踏む
A:勝ったな(確信)
Q:リリィとデオンくんちゃんのやり取りが普通過ぎてコメントに困る
A:可愛いからいいじゃない
Q:あれ、後二人英霊がいたような……
A:ワイバーンと戯れてる所を描写したところでねぇ……。