IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#96 垣間見えるそれぞれ

(これが、あの人の………)

 

 ジュールは未だに暴走しつつある自分の主に突っ込みを入れる男性IS操縦者を観察する。敢えて放出した殺気に画像のみだが見たことがあるダークカリバーを瞬時に展開したことを高く評価していた。噂に違わぬ猛者かもしれない、と。

 

(だが、話によれば今までは一般人として過ごしていた。……ならば一体、どうやって現在の能力を得たんだ?)

 

 さらに思考をめぐらすジュールだが、次第にそのスピードを落として止めた。

 

(いや。あの一族に我々の常識など通用しないな)

 

 そう結論付けたジュールは、対峙する悠夜をもう一度観察する。

 今、この場にリゼットはいない。彼女はジュールの目的が何かはわからないが、とりあえずは彼を信じて男二人だけにしたのである。最も、彼女は少し離れた場所で二人が喧嘩をしないか心配だったので双眼鏡で観察しているのだが。

 

「単刀直入に聞かせてもらうが、君は私のことを覚えているか?」

「……………いえ、全然」

「……そうか」

 

 ―――やはり、な

 

 この時ジュールは、自身が今の悠夜よりも10年前の悠夜のことを知っていると確信した。というのも最初は彼も驚いたのだ。マフィアの血筋でもなんでもない中学生がキレた程度で数十人はいた裏の人間を怒りだけで潰せるのかと。

 だが調べていくうちに、ジュールは自身の過去すらも遡ったのである。結果、彼は「桂木悠夜」という男がどういう存在かを理解した。

 先程の殺気は確認であり、それ以上は何も感じない。

 

「アンタは俺に……あなたは私の何かを知っているのですか?」

「別に敬語にしなくても構いませんよ。いずれ「旦那様」と呼ぶ相手なのですから」

「………あの発言は本気で忘れてください」

 

 悠夜は顔を赤くしつつも、一つ疑問を感じた。

 

(……リゼットのことが、大事じゃないのか?)

 

 さっきから自分の主が変態になった原因が目の前にいるというのに、文句の一つや二つ言ってもおかしくはないはずだ。

 

「……お嬢様の変化のことを触れた方がいいでしょうか?」

「あなたも、俺相手に敬語を使わなくていいですよ」

 

 悠夜の言葉にジュールは「なら、お言葉に甘えさせていただきましょうか」と言う。

 

「生憎だが、私自身、彼女のことはどうでもいいと思っているのでね」

「……はい?」

「ジュールは元々、母のアネットに対して復讐するためにデュノア家の執事になったんですの」

 

 急に話に入ってきたリゼット。まさか急に重い話がされるなどとは思わなかった悠夜は唖然とした。

 リゼットの言う通り、元々ジュールはアネットに復讐するためにデュノア家に入った。

 そもそも彼は日本人男性とフランス人女性の間にできたハーフであり、中学までは日本に住んでいた。フランスに移住したのは父親がまともに働かず、すぐに暴力を振るう男だったのでジュールがフランスに移住することを強く勧めたのである。結果、母親が親権が渡る形で離婚し、母子はフランスに移住した。だがちょうどフランスの景気が下がったことで母親は仕事に就けなかった。

 その時、母の友人だったアネットが手を差し伸べた―――のだが、実際させられたのはとても高校生の息子がいるとは思えないほどの容姿を使って篭絡させるための駒としてだったのである。ジュール自身がすべてを知ったのは病気で死んだ後だったのだ。

 そのことを知らない悠夜は冷静になって突っ込んだ。

 

「……普通、それを知ったらクビにしない?」

「それは困りますの。彼には私の代わりに会社を運営していただかないといけませんのに。永遠に」

「………この始末だからな」

「………ドンマイ、ですね」

 

 もっとも、その元凶は悠夜であり、そう答えた本人もそれは十分理解している。

 

「気にしていないさ。そういう意味ではあの女を倒してもらったのは感謝している。よくやってくれた」

「…………」

 

 複雑な感情を持ち始める悠夜。あの時は八つ当たりが大半を占めていたので感謝されて気持ちがモヤモヤし始めたようだ。

 それを感じたらしいジュールは励ますように言った。

 

「あまり細かいことを考えないで。君がしたことは結果的に我々の得となったというだけだ」

「今頃は男性の囚人に様々なことをされているでしょう。まだ死亡報告を受けていないので、少なくとも生きているようですが、あのような存在はもっと早く芽を摘むべきですわ」

 

 「私のように改心するならともかく」と続けるリゼットはまた悠夜に抱き着いた。

 

「……今晩、あなたに指令を出します。指定する場所に来てくださいね」

 

 そう言ってリゼットはその場から離れる。姿が見えなくなったのを確認したジュールが言った。

 

「あのお嬢様も君と出会ったことで変わった。………変わりすぎとも思うが、結果としてはマシになっただろう。だからこそ言うが、あの娘を見捨てないでくれないか?」

「………意外ですね。復讐するために入ったなら、普通見捨てません?」

「確かに、な。だがあの娘が女尊男卑を捨て、別の道を歩もうとするならばわざわざそれを潰す必要はない。君も思うだろう?」

「……ええ」

 

 そう返事が満足だったのか、ジュールは悠夜に背を向ける。

 

「まぁ、精々幸せにしてやってくれ。私はこれで失礼する」

 

 去っていくジュールを見て悠夜は内心思う。あの人、本当は敵に左手で止めを刺したかったのではないか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ラウラは突然変異した元部下から逃げていた。

 

(一体どうしたと言うんだ、クラリッサは)

 

 文句の一つも言われる―――それを甘んじて受けようと思っていたラウラは付いていったが実際はそうではなく、急に飛び込んで来たので思わず回避したが、暴走が本格化してしまったのである。

 

(雨鋼を使うわけにもいかない……だが)

 

 条約違反は覚悟の上だが、ラウラはすぐに雨鋼を使いたかった。それほど今のクラリッサはおかしくなっている。

 

「いただきまーす!」

「させるか!」

 

 ―――ドゴッ!

 

 唐突に何かが現れ、クラリッサの顔面を蹴り飛ばす。その人物がラウラと倒れたクラリッサの間に割って入る。

 

「大丈夫かの、ラウラ」

「し、師匠!?」

 

 そう、陽子である。

 クラリッサはまるで壊れた人形が何かに操られて立ち上がるかのように不気味に立ち上がる。瞳は金色へと変化していた。

 

「その瞳は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)じゃな。なるほど、黒ウサギか」

「どうして軍の機密を……なるほど。私の可愛いラウラから尋問して聞き出したか……殺す!」

「殺す……か」

 

 陽子が笑った瞬間、辺りの空間が歪んだ。

 

「見せてもらうぞ。お主ごときの実力とやらをの」

 

 瞬間、クラリッサは現実に引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更衣室として借りている空き教室で女装した俺は、黒い布を着ている変態……もとい、織斑先生を見つけた。

 

「織斑先生、こんなところで何を……あぁ、変態行為という名の婚活ですか」

「おい桂木、勝手な憶測は止め……誰…だ…お前は」

 

 一瞬ばれたかと思ったが、どうやらこの人でも俺が女装すればわからないらしい。

 急に腕を伸ばされた俺はそれを掴もうとしたが、避けるのが精いっぱいだった。どうやら今の本気だったらしい。

 

「見たことない奴だが、何者だ?」

「そんなことよりも―――」

 

 黒い布をひったくって全貌を露わにしようと思ったが、思いのほか強く握られていた。

 

「………何をしている?」

「いやぁ、ちょっと着替えのお手伝いをしようかなと思っただけですよ」

「……………お前の名前は「風間」か?」

 

 そんなことを聞かれた俺は首をかしげる?

 

「誰ですか、それは」

「………そうか。あの男の関係者ではないのか」

 

 すると殺気を出した織斑先生は俺に攻撃を仕掛ける。

 

「なら、遠慮はいらな―――」

「みなさーん! 織斑先生のメイド服姿、本日大公開ですよ!」

「なっ!?」

 

 一瞬だった。一瞬で近くにいた人間がこっちに注目する。俺は動揺した瞬間に黒い布を取ると、そこには本当にメイド服姿があった。

 

「………律儀ですね。まさか本当にあの子との約束を守るなんて」

「絶対許さんぞ、貴様ぁ!!」

「はめられたと思うなら、自分の頭の弱さを恨みなさい」

 

 そう言って俺はそこから去る。途中で誰かと肩がぶつかった。

 

「ごめんなさい。それと、この辺りから逃げた方がいいですよ」

 

 しかし今時珍しいな。緑色の髪に青い瞳って。……まぁ、ここには様々な色の髪の女がいるけどさ。

 そんなことを思っていると、後ろから鬼神が追いかけてきた。

 

「やれやれ……ね!」

 

 窓から飛び降りる。3階からのダイブは耐性がないと危ないので止めましょう。

 スカートからパンツが見えないように……なんて心遣いは不要だ。中に女性用のショートパンツを履いているから、遠慮なくスカートの中を見せつつ、着地前に一回転して着地する。だが、織斑先生は中々降りてこない。

 俺はその隙に校舎の中に入り、織斑先生のところに向かう。

 

「見つけたぞ!」

「会いに来てあげたんですよ。感謝してくださいよね。せんせ!」

 

 二階であったので、俺はそのまま三階に向かうために階段に向かう。人が通るのでそれを避けつつ、当たらないように気を遣いながら移動した。そして三回近くで姿を見せつつ、人混みに紛れる。

 

「どこだ! どこに行った! 山田先生!」

 

 どうやら応援を呼んだらしい。

 俺はワイヤーを展開して織斑先生を拘束。一年一組の教室への教室にぶち込んだ。

 

「さぁさぁ! みなさんご清聴! こちらにいますはかの有名なIS操縦者、織斑千冬! 今日はなんと、部下の山田真耶先生と共にメイド服で接客をしてくださるとのことです! ちなみに写真撮影は―――」

「殺す」

「ということで撮影はNG! 割とシャレにならなさそうなので、命が大事な方は止めておきましょう! ただし、お二人とも時間制限があるため、接客はこれより30分のみとなります! さらに、これより二人にはくじを引いていただき、廊下か教室かとなりますが、あらかじめご了承ください!」

 

 割と譲歩した条件を無理やり了承させた俺は、くじ引きを渡した。ちなみにこれはどっちにしろ織斑先生が先に引くことを考えてあらかじめ作っておいたので、メイド服の中に忍ばせていたのだ。

 

「ほら、織斑先生。ハリーハリー」

「……絶対許さんぞ、貴様」

「じゃあこれで」

 

 そう言って俺は「廊下」と書かれているくじを引いて渡す。案の定、やはり廊下と書かれていて、それを発表した。

 

「なんと織斑先生は廊下担当。さぁ織斑先生。その魅惑的(でもない)体にお嬢様方を癒しましょう!」

 

 俺は鎖で縛っている織斑先生を廊下に並ぶ人らの真ん中にぶち込む。

 

「あの、織斑先生!」

「さぁ山田先生。あなたはこっちで接客です。どうせ大して使い道がないその肉体で、玉の輿にでも乗ろうと頑張っては如何でしょう?」

「し、失礼ですよ!」

「まぁまぁ、早く早く!」

 

 そう言って山田先生を中に入れると、俺はそこから逃げようとする。

 

「待て!」

 

 いつの間に木刀を出したのか、篠ノ之がメイド服姿で俺の道を塞ぐ。

 

「退いてくれるかしら、篠ノ之さん。私には広報の仕事があるのだけど?」

「ふざけるな! こんなことをして一体何になるというのだ!」

「学園祭のクラスの部の優勝賞品であるもの。それが私の企みよ」

「……優勝賞品……まさか!?」

 

 篠ノ之は思い出したようだ。

 そう。部活間の優勝賞品が織斑一夏であるように。クラスでの優勝賞品はデザート無料券半年分と、さらに特別賞としてある商品が設定されている。

 

「ヒントは以上よ。じゃあ、精々頑張ってね」

「おい待て!」

 

 俺は廊下と教室の反響具合を確認してから、篠ノ之から逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってください、師匠」

 

 陽子の前にラウラが入る。それに驚きを見せた陽子だが、ラウラは構わず言った。

 

「すみません。あの人は私の部下だった者です。私の手で決着をつけさせてください」

「………良いじゃろう」

「ありがとうございます」

 

 ラウラはお辞儀をし、クラリッサに近づく。それに気づいたクラリッサはラウラに確認すると再び飛び込んだ。

 

「ラウラたん!」

「……たん?」

 

 何のことかわからなかったラウラだが、クラリッサは構わずラウラに飛び込む。

 

「―――ふんっ!」

 

 すぐに自分のポジションに移動したラウラはクラリッサに触れると同時に地面に叩きつけた。数秒するとクラリッサは上半身だけを起き上がらせる。

 その顔は涙でグチャグチャになっている。22歳になる女性がマジ泣きをしていた。

 

「どうしてこんなことをするんですか~!!」

「……すまん。つい怖くて……」

「……こわ……い?」

「娘よ。お主の所業、確かに何も知らぬものが見れば単なる恐怖でしかないと思うがの」

 

 別の声が聞こえたことでクラリッサはそっちを向く。どうやら暴走状態は止まっているようだ。

 陽子を見たクラリッサは何気なく質問した。

 

「………あなたは?」

「わしは桂木陽子。気づいたと思うが―――」

 

 だが再びクラリッサにスイッチが入る。

 全身から闘気が溢れ、場を支配する。

 

「………やはり、桂木悠夜を殺すべきですね」

「何? 兄様を殺すだと!?」

「………まさか」

 

 何かに気づいたらしい陽子はぶりっ子のようにウインクをすると、クラリッサは盛大に鼻血をぶちまけて倒れた。

 

「……くっ。この程度の鼻血、大事の前の小事に過ぎません」

「………ラウラ、上目遣いを娘にしてみるのじゃ」

「……はぁ」

 

 言われたラウラは練習のつもりでクラリッサを上目遣いで見ると、再びクラリッサは鼻血をぶちまける。おそらくもうそろそろ輸血が必要だろう。

 どうやら限界が来たようで、クラリッサは気絶した。

 

「………やはりな」

「あの、何かわかったのですか?」

「うむ。この娘、おぬしの容姿に惚れていたようじゃ」

 

 ドストレートに言われたラウラは、最初は何を言われているのか理解できずに機能停止していたが、段々と理解が進んで改めて鼻血で貧血になったクラリッサを観察する。

 

「それにワシにも反応したということは、低身長の女子が元々の好みなんじゃろう。そしてひょんなことから自分の元に帰ってこないと知り、暴走したのじゃろう」

「……暴走、ですか」

 

 あの光景を暴走で済ませて良いのかと思うラウラは、変態だった元部下にどういう視線を向ければいいのかわからなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんがいないね?」

「うん。広報担当だから他で宣伝してるかもしれない」

 

 ラウラがクラリッサのことで戸惑っている時、朱音と一緒に簪はいた。本当は晴美が朱音と一緒にいるはずだったのだが、ある理由で席をはずしているのである。

 その理由を知る簪は、自分のクラスがIS関連のレポートパネルでの発表・案内だけ、さらに言えば簪は調べたので一日自由となったのである。この後にとある理由から飛び回ることになるのだが、それまでは自由だった。

 

「……お兄ちゃんと回りたいなぁ」

 

 簪がいるというのにこの言葉はどうかと思うが、簪も同じ気持ちだった。

 できるなら、簪だって悠夜と回りたい。だけど当の本人は進んで広報担当となって今もなお客引きを行っている。朱音ちゃんを連れていくという名目で会おうかなと思い始める簪だが―――

 

「………あれ? お兄ちゃん?」

 

 それよりも早く朱音が悠夜を見つけた。

 正しくは女装しているので悠子の方だが、簪はそれはそれで驚く。

 

「……悠夜さんの顔、知ってるの?」

「うん。一緒にお風呂に入った時に見ちゃったんだ」

 

 満面な笑みでそう言った朱音だが、その発言を簪は深く捉えていた。

 

(……一緒に、お風呂?)

 

 本当は長期間風呂に入っていないから半ば無理やりぶち込まれたあのことなのだが、簪はそれを俗に言われる「一緒の方」を想像してしまった。

 そんな時、悠子は二人に気付いて素早い動きで二人のところへ飛んできた。

 

「奇遇ね、二人とも」

「あ、おに……お姉ちゃん」

 

 空気を読んで言い直す朱音を撫でる悠子は、ふと何かに気付いたのか辺りを見回す。どうやら十蔵からの襲撃を警戒しているようだった。

 

「………変態」

「…はい?」

 

 自分のことを棚に上げて簪がそう言うと、悠子は首をかしげるのだった。




学園祭というイベントで色々な問題が解決していく。
そんな中、楯無は別のイベントを起こすために一年の専用機持ちを集めてこう言った。

「ねぇみんな、劇に出てみない?」

自称策士は自重しない 第97話

「戦え舞えや灰被り姫」

「………何で俺、楯無にばれたんだ?」







ということで第96話、いかがでしたでしょうか?
次回はとうとう5章の山場となるシンデレラ……の始動編。その前にクラリッサ編(結)と亡国の会話編を入れるつもりなので、実際始まるとしたら最後辺りとなります。

今確信した。5章終わるときに全体の百話を超えている、と。

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