IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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時期が時期なので、一応。
今年度卒業のみなさん。卒業おめでとうございます。
そして来年度もしくは今年度入学もしくは入社のみなさん。入学と入社おめでとうございます。


#92 激突! 二人の男子生徒

 各所に展開されているキューブに映る数字がカウントダウンされていき、それが5秒を切る。そしてそれが0になった瞬間、一夏が飛び出した。

 

「先手必勝だぁあああああ!!」

 

 そう叫びながら一夏は飛び出す。二次移行(セカンド・シフト)した白式はさらに早くなっていたのに驚いた悠夜だが、

 

 ———ガンッ!!

 

 鈍い音がするや否や一夏は突撃していた急にコースを変え、そのまま壁に激突した。

 

「え? 何?」

「どういうこと……?」

 

 周りが驚く中、すべてを理解した悠夜はあくびをした。

 

「あ~やっぱりISに絶対防御があるって言っても顎を打ち抜けば流石に気絶するか」

 

 だがそれを否定するように一夏が煙の中から姿を現す。

 

「まだだ! まだ終わってねぇ!!」

「惜しい。せめてその白いのを金色の塗ってからもう一度その言葉を言ってくれ」

「……ふざけてるのかよ」

「ふざけてねえよ。まぁ、ふざける余裕はあるけど」

 

 そう返された一夏は傍から見ても顔を赤くする。おそらくまともに戦おうとしない悠夜に対して怒りを覚えたのだろう。

 

「それをふざけてるって言うんだろ!」

 

 一夏は第二形態に移行した際に手に入れた新たなる武装『雪羅』の形態を射撃モードへと変更。荷電粒子砲《月穿(つきうがち)》を展開する。そして悠夜に向けて撃ったが、悠夜はそれを小さな動作で回避する。

 

「このぉおおお!!」

「あ、そうか」

 

 一夏によって振られ、迫りくるエネルギー刃を回避した悠夜は何かに気付いたようだ。

 

「その機体、何かが足りないと思ってたけど、赤い要素がないんだ」

 

 そんなどうでもいいことを大声で言った悠夜。一夏はそれに腹を立て、『雪羅』をクローモードへと変形させた。

 伸びてくるように接近する二つの武装を悠夜は何かを振って防ぐ。

 

「ようやく武器を出したな」

「……………」

 

 一夏の言葉に悠夜は何も答えない。ただ、無言で二つのビームサーベル《フレアロッド》を掲げて受け止めていた。しばらくして一夏は自分の事態に気付いたようで、顔を青くして離れる。

 

「お前、これを狙って―――」

「織斑は自分の弱点をさらけ出し過ぎなんだよ。エネルギー効率が悪い機体にエネルギー武装で受け止めるのは当然だろうに」

「……何で」

 

 さも当然だと言わんばかりに語る悠夜に対して、一夏は呟くように言葉を絞り出した。

 

「何でお前は、まともに戦おうとしないんだよ!」

 

 今度は叫ぶ一夏。悠夜は盛大にため息を吐いて堂々と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「———今この学園に、黒鋼と俺が本気を出してもちゃんと勝負になる奴は何人いるんだよ」

 

 あからさまの挑発―――そして同時にそれは悠夜の本音でもあった。

 黒鋼は開発所が近いこともあってよく改修が施される。それによって機体スペックは常に上がっている。さらに悠夜にはヒトを超えた身体能力があり、さらに人体をどう攻撃すれば相手の動きを鈍らせる方法を̪知っている。それに加えて無重力間や水中、陸上や空中での戦闘をシミュレーションで鍛え続けている他、クラス対抗戦から行事で起こる不祥事は常に中心になって解決してきた。確かに一夏たちも参加したこともある。だがクラス対抗戦では箒の注意を逸らした行いの除けば三人の専用機持ちで敵機の鎮圧を行ったが、悠夜は支援があったとはいえ、外装を多少弄られてスペックが変更されなかった打鉄で、それもたった一人で鎮圧したのである。ほかには暴走したVTシステムは一人、その後の襲撃は楯無と共同だが一人撃破、福音はある程度減らされ、支援されているが実質一人で第一形態の福音を撃墜し、化け物を一人で倒し、大量のISを圧倒的なスペックを持っているとはいえ単独で撃破した他、壁を破壊し、生身でIS操縦者に殺してはいないが引導を渡してきた。

 もちろん、各機体のスペックやダークカリバーが規格外の能力を秘めているということは理由の一つでもある。が―――それは経験と蓄積し、悠夜の糧になっているのは確かである。

 

「だから俺は手加減するんだ。お前らのためじゃない。俺のためにだ。確かに入学当時の俺は戦いが嫌いだった。だが今は違う。黒鋼は俺の考えた機体だ。だから俺は自分の快楽のために、自分の身を守るために、相手を壊すために黒鋼の使う。お前のためにわざわざ腰を上げてやってんだ。感謝するならともかく、戦い方にどうこう口を挟まれる筋合いはない」

 

 堂々とそう言った悠夜は、追い討ちと言わんばかりに女たちの中央で続けて言った。

 

「だからお前はとっとと、使えない雑魚姉諸共消え失せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管制室でそれを聞いた千冬は思わず笑った。

 

「い、いくらなんでもあんなこと―――」

「いや、いい。実際、ここまでの撃墜数、そして桂木はこれまでの行事で起こった事件を解決している。ああいうのも無理はない」

「……実際のところ、織斑先生は悠夜さん相手にどれくらい持つと思っていますか?」

 

 真耶の隣に座る簪は千冬に対して尋ねる。別の場所に座る女生徒が「何を言っているのよ」と言うが、千冬は平然と言った。

 

「さぁな。そればかりはどうとも言えないさ。ただ、桂木がIS学園に入学してくれて良かったと思っている」

「それは、自分が仕事を押し付けれるから、ですか?」

「違うな」

 

 簪の言葉を否定する千冬。

 

「桂木が本気を出したら、おそらくこの学園で止められるのは私ぐらいだからだ」

 

 その発言に近くにいた女生徒が反論した。

 

「待ってください! 生徒会長があんな奴にやられると言うんですか!?」

「———もちろん」

 

 簪がそう言うと、その女生徒は簪を睨む。

 

「あなた、自分の姉が負けることをなんとも思わないの!?」

「別に。そんなことを考えていたら、IS操縦者なんてやってられないし。それにお姉ちゃんは悠夜さんの戦いに慣れても決定的な差があるから」

「決定的な差?」

 

 「わからない?」と尋ねる簪。ちなみにだが、簪が先程から話しているのは一つ上の先輩である。

 

「男と女」

「それが何よ。だったら生徒会長の方が上―――」

「認めたくないけど、お姉ちゃんは贔屓目なしによくモテる。世間での評価も高く、代表、候補生の人気投票でも常に上位。女としてのボディバランスもムカつくけど整っている」

 

 「上には上がいるけど」と簪は真耶のある部分を見たことで、全員からその部分に注目が集まる。

 

「ちょ、ちょっとなんですか!?」

 

 顔を赤らめながら胸を隠す真耶。だが簪はそんな真耶を放置して続けた。

 

「今でこそ手加減しているけど、本気を出したら悠夜さんを止めるのは例え全盛期の織斑先生でも難しい。それは先生自身も気付いていますよね?」

「ああ。桂木は元から回避能力が高いからな。それに加えて黒鋼使用時の行動力は既に国家代表レベルはあると言っても差し支えはない。それが本気を出してみろ。おそらく現3年生の操縦科所属のほとんどが挫折するぞ」

 

 そう言われた生徒は顔を引きつらせる。

 

「それに頭も回りますからね。ひっかけさせようとしても逆に倒されそうな気がしてなりません」

 

 そのコメントにとうとう泣きそうになる生徒。周りもそれを聞いて恐怖していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………悠夜」

 

 一夏は《雪片弐型》を自然と強く握る。

 

「千冬姉と戦ったことないだろ。なのに、どうしてそんなことを言えるんだよ……」

「あんな程度の知れている女など、戦うだけ無駄だから。それに経験上、あんな雑魚を相手にする価値もない。そんなにあの程度の女がいいのか? あんなババア如き、世の中に一杯―――」

 

 悠夜は迫りくる刃に気付き、回避した。一夏は荷電粒子砲《月穿》を至近距離で発射する。

 

「これ以上、千冬姉を侮辱するなぁああああああああ!!」

 

 瞬時加速で悠夜と距離を詰める一夏。悠夜は《フレアロッド》を展開して迫ってきた刃を受け止めたが、一夏は悠夜を蹴って距離を取った。

 

(学習能力が高いな。だが―――)

 

 本来なら鳩尾に入ってもおかしくはない蹴りだったが、悠夜は腕部装甲でなんとか受け止めていたためダメージは実質ないようなものだった。

 

「このぉおおおおお!!」

 

 《月穿》を連射する一夏。悠夜はそれを着弾しても被爆しない距離に移動して回避する。

 

「当たれ! 当たれ! 当たれ!」

「地形適応Sをあまり舐めないでもらおうか」

 

 上空からの攻撃を着弾するであろう位置を計算して回避し、攻撃をすぐに行える場所へと移動する。すると一夏は学び始めたのか、先を予想して撃った。

 それに気づいた悠夜は無茶な軌道をとったことで体に急激なGを襲うことも構わずに回避する。

 

(やはり学習能力が高い。経験が生かされているのか?)

 

 ———だとしたら好都合だ

 

 悠夜にとって今ではライバルと呼べるものはISでは簪ぐらいだ。ラウラは自分の妹と言う立ち位置が強いが簪の場合は自分を本気にさせた相手ということもあって、(本人はたまに忘れかけているが)付き合っていると言っても本気で戦える相手である。

 だが、それでは物足りないと常々思っていた。

 

(しかし、この戦いでは成長しないだろうな)

 

 そう思った悠夜は回避から攻めに転じた。

 

「当たれ!」

「無理な相談だな、それは」

 

 悠夜は回避と同時に距離を詰め、パイルバンカー《リヴォルヴ・ハウンド》を展開、攻撃する。それが鳩尾だったことで食らう衝撃が感度と言う面に置いて倍増される。

 そして爆発的な加速―――瞬時加速と同じレベルの加速をして距離を詰めた。

 

「伊達や酔狂でこんなヘッドギアをしているわけではないぞ!」

「え―――」

 

 まさか一夏もそのまま頭突きを食らうことになるとは思わなかったようだ。そのまま食らってしまうが、さらに一夏にもう一つの痛覚が襲う。

 

「あ、熱い!?」

「だったら逃げろよ。まぁ―――」

 

 瞬間、《デストロイ》が起動してエネルギーが収束する。

 

「———無理だがな」

 

 エネルギーが飛び出し、それらが一夏に直撃した。

 

「………来たな」

 

 悠夜は笑みを浮かべる。それは本人が意識して出したものではなく、心からの本性だった。

 次第に煙が晴れ、一夏がいるであろう場所の全貌が現れる。

 

「…………桂木、貴様はどこまで腐っているな」

「待っていたぞ、篠ノ之。そしてその様子から見て、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)か」

 

 黒鋼のハイパーセンサーにはその説明があり、悠夜はそれを読む。

 

「絢爛舞踏………なるほど。貴様らは永遠に俺のサンドバッグとなるだけのものか」

「ほざけ。貴様など、この私が成敗する!」

「やれるものならやってみろ」

 

 途端に観客席が湧く。すべてが箒を応援―――もしくは悠夜を罵倒するものだったが、本人はそれを聞いてもなお笑みを崩さない。

 

「待てよ、箒! どうしてこんなことを――――」

「そんなものは些細な問題だぞ、織斑。今は楽しめ」

 

 ———俺はとっくに楽しんでいるのだからな

 

 すると観客にいた生徒たちが静まり返る。だがそれはある意味仕方がないことだ。むしろ、簪はその様子を見て納得していた。

 

「待ってください! 今すぐ止めるべきです!」

 

 真耶は千冬に向かってそう言うが、それを簪が否定した。

 

「その必要はありません」

「ど、どうして―――」

「じゃああなたは、敵と戦っているのに別の敵が現れて「ちょっと待ってください」とでも言うつもりですか?」

 

 その言葉に真耶は口を閉ざす。当然だが、簪の言葉は的を射ていた。

 今、悠夜に起こった状態はまさしくそれであり、この場で試合を止めれば周りは「悠夜が逃げた」と言い始める人間が現れる可能性もある。

 

「で、でもこれはあくまでも試合です!」

「本人がこちらに介入を求めているわけでもあるまい。それにこれを機会にわからせる必要もあるだろう」

 

 千冬は依然として続けさせる気でいるらしくそう言った。

 

「そんなの酷すぎます!」

「いざとなれば私も出ますが……むしろここは自ら負けに出た篠ノ之さんを心配するべきでしょう」

 

 そう言いながら簪は未だ黄金に輝く箒を見る。

 

(……馬鹿な人。今のあなたは悠夜さんのサンドバッグぐらいにしかならないのに)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィールド内に入った箒は箒で驚きを見せていた。

 

(また発現した。模擬戦の時は全くできなかったのに………まさか)

 

 そう思いながら一夏を見る箒。彼女は紅椿の単一仕様能力の使用条件に気付いたようだ。そう、「絢爛舞踏」を発現するには一夏を思う心が必要なのだ。

 それに気づいた箒は常に思い続け、常に発動させる。伊達に5年間も思い続けたわけではないようで、まったく途切れさせることはなかった。

 

「お前を倒すぞ、桂木!」

 

 箒はそう言って悠夜に接近、至近距離から《雨月》の刺突でのビーム攻撃を行おうとするが、それを軽くいなした悠夜は箒を殴った。

 しかもそれは普通のパンチではない。両手首に装備されたパイルドライバーから放出される電撃付きであり、その威力は普通のパンチを大きく凌ぐ。それが頭に食らえば、流石の一夏も黙って見ていられなかった。

 

「悠夜ぁああああああッ!!」

 

 絢爛舞踏で回復していたエネルギーを使って接近する一夏。それに気づいた悠夜は吹き飛びかけている箒を掴み、一夏の方に投げる。

 それを受け止めた一夏はすぐに近くに置いて悠夜を探すが、既に一夏の後ろに回っていた悠夜は《デストロイ》の同時射撃と《サーヴァント》8基を分離、移動させつつ時間差射撃を行う。

 

「人質なんて卑怯よ!」

「正々堂々戦いなさいよ! この外道!」

 

 フィールドを囲う壁のふちに立った悠夜にそんな罵倒が飛んでくるが、それを聞いた悠夜はニヤリと笑った。

 

「逃がすか!」

 

 一夏が先に復帰しており、零落白夜を使用した状態で悠夜の方に突っ込む。だがそれが着くよりも早く、悠夜は黒鋼を飛行形態に変形させ、迎え撃つと言わんばかりに突っ込んだ。

 

「そんな状態なんて、じめ―――」

 

 《サーヴァント》で妨害させる悠夜はそのまま一夏にぶつかる。そして先端を下げて白式を地面につけ、一夏を壁にぶつけるまで引きずるように移動する。そしてぶつけると同時に通常形態へと戻り、至近距離で《デストロイ》の集束熱線を浴びせた。

 

【白式、戦闘不能】

「一夏ぁああ!!」

 

 箒が一夏の方に来るのを見た悠夜はまるで獲物を狩る野獣のように舌なめずりをした。

 

「正々堂々か………笑わせる」

 

 この時、簪は今の悠夜の状態を察した。

 

「取るに足らない有象無象のゴミ溜め程度でしかない雑兵如きが、数々の異名を取った()を相手にするから、こうなるのだよ!!」

 

 逆手に《蒼竜》を展開した悠夜は下から上へと振り抜く。すると具現化した斬刃が箒に向かって一直線に飛んでいく。

 

「そんな見え透いた攻撃など―――」

「どうかな?」

 

 ———ガンッ!!

 

 左から再び拳を食らう箒。さっきと同じで《ジェット・ケルベロス》を展開しているため、箒に電流が流れる。

 

「まだだ。例え一夏が無事なら、何度でも―――」

「絢爛舞踏で回復するか。それもいいだろう―――お前の精神が持てばなぁあああああ!!!」

 

 まるでその叫びに呼応するかのように黒鋼が黒く光る。

 

「さぁ、紅椿………第四世代である貴様はこの状態の黒鋼にどこまで耐えられる?」

 

 瞬間、黒鋼が箒の前から消えた―――と思う前に紅椿の装甲の一部が吹き飛ぶ。それにより展開装甲の一部が吹き飛んだ。

 

「な、なに―――」

 

 事態に気が付く前にさらに装甲が吹き飛んだ。

 

「い、一体―――」

「———どこを見ている」

 

 ———ドンッ!!

 

 後ろからの衝撃に耐えきれず、集中力が途切れて絢爛舞踏が切れる。その後ろで何かが弾けるような音がした。

 

「な、何―――」

 

 《蒼竜》の刀身が黒い光を放っており、悠夜はそれを容赦なく振るった。それを箒は《空裂》で防ごうとするも、《空裂》ごと装甲を、そしてシールドエネルギーをぶった切られる。

 爆発が起こる中、無慈悲に機械音声が箒の敗北を告げる【紅椿、戦闘不能。よって勝者、桂木悠夜】と。




ということで、大半の方の予想通りになりましたね。まぁ、ある意味ネタが出てこないというのもありましたが。
本当は訓練機を開放して四方八方から攻められる状況にしようかなと思ったんですが、そうなったら色々と面倒なことになるので止めました。というかラボの人間が過労死します(ここ重要)。


次回予定

蓋を開けてみれば圧倒的な勝利を見せた悠夜。だが生徒たちは認めないつもりか悠夜を罵倒し続けた。
だがそれを鼻で笑い、一蹴する。

自称策士は自重しない 第93話

「調子に乗って何が悪い」

少年はまだ、自重している方である。

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