IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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真面目な話。前回は完全にタイトルが思いつかなかっただけです。


#89 だって俺、魔王だし

 あんなことがあった翌日。俺は何事もなかったように全校集会に出席していた。

 とはいえ、流石に問題じゃないのか? いや、幸那が強くなっているのは個人的に嬉しいけどさ。………でも、それで襲われたら、下手すれば俺はガチで既成事実を作ってしまうかもしれない。

 

(………って言うかあのババア、俺たちが付き合っているって思ってたのかよ)

 

 もしかして何か? なんだかんだでハーレムとか言っていたから、別に楯無とも関係を持っていても不思議ではないってことか? 俺は一応、子供を作ったことで不幸にしたくないってのもあるけどさ。

 色々と混乱してきたところで、スピーカーから虚さんの声が聞こえた。

 

「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」

 

 ちなみにこの全校集会の本題は学園祭のことだ。……本当に大丈夫なんだろうか。まだ何も出し物を決めていない気がするが。

 しっかし、楯無効果ってすごいな。あっという間……ではないが、放送室にある器具の一つであるボリュームのつまみを引き下げたような感じに静かに下がる。

 

「やぁみんな。おはよう」

 

 織斑の方を見ていると、予想通り。織斑は楯無を見て驚いていた。

 

(…………まぁ、だろうと思ったけどさ)

 

 というか俺、楯無が織斑の目を塞いでいる様子を見ていたからな。あの時は何故かぼうっとしていたから、何で織斑が走っているのか知らないけど。

 

「———ふふっ」

「!!」

 

 二人だけで妙なやり取りをしているようだ。………何の内容かはわからないがな。

 

「さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったわね。私の名前は更識楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」

 

 こいつも中々こじらせているなと思ってしまった。だが俺に比べたらまだまだだろう。所詮、カッコつけ如きは真の中二病になれるわけがない。……………まぁ、下手すれば社会不適合者になるがな。というか俺は既になっている。幸い、俺はラウラや本音がクラスにいるからそうなっているようには見えないだけだ。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは―――」

 

 すると扇子を取り出した楯無は、それを横にスライドさせて空中投影ディスプレイを出した。

 

「名付けて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」

 

 すると急にそのディスプレイを囲う様に他のディスプレイが現れ、織斑の写真を浮かび上がらせる。角度を変えて生徒会がいる場所へと視線を変えると生徒会席には簪が座っていて、さっきから何かを操作していた。ちなみにこの間の取り決めの一つとして簪には生徒会に出向してもらっている。俺とラウラはその間に今後の部の方針を決めようという話なのだが、ずっと脳内に人型ロボットを作る案しか出てこない。

 

「え、えええええええええっ!!!」

 

 まさか学園のアイドルになりつつある織斑を取り合うになるとは思わなかったらしい。全員が織斑の方へと向くが、当の本人は事態を理解していなかった。それとアイデア部は巻き込まれたくなかったから辞退している。

 

「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組には部費に特別助成金が出る仕組みでしたが、今回はそれではつまらないと思い―――」

 

 要は本人が楽しみたいわけである。そうじゃなければ学年別トーナメントで賭けをしているのを黙認し、あまつさえ簪の方に生徒会長が入れるわけがないからな。

 

「織斑一夏を、一位の部活動に強制入部させましょう!」

 

 隣にいるラウラの耳を塞いだ。あ、こいつ顔が赤い。というか熱い。

 

「うおおおおおおッ!」

「素晴らしい、素晴らしいわ会長!」

「こうなったら、やってやる……やぁぁぁぁってやるわ!」

 

 そんなことより合体だろうが、馬鹿が。どうして誰も合体ロボを完成させていないことに疑問を持てよ。というかあのアニメ、まだ見てないな。某クロスオーバーでしか知らないから、今度見ようかな。

 

「今日からすぐに準備始めるわよ! 秋季大会? ほっとけ、あんなん!」

 

 ………確かあの女、ソフトボール部の奴じゃなかったっけ? 夏休みにボールが転がってきたからそれを取ったら舌打ちされたのを覚えている。

 

「……というか、俺の了承とか無いぞ……」

 

 本人は小さく言ったつもりだろうが、俺の耳にはっきり届いた。楯無は気付いた……というかアレの場合は読唇術で読んだのだろう。ウインクがウザい。

 しかしあれだな。世の中は女性優遇制度が施行されて女尊男卑になったが男に興味を持つ女もいるようだな。ただし、イケメンに限る。

 

「よしよしっ、盛り上がってきたあああ!」

「今日の放課後から集会するわよ! 意見の出し合いで多数決取るから!」

「最高で一位、最低でも一位よ!」

 

 ホント、織斑は人気だね。ここまで爆発すると逆に羨ましく感じるよ。でもまぁ、さっきから顔を赤くしているラウラの方が可愛いからどうでもいいが。

 こうして織斑に自分が賞品になることを一切知らされず、唐突に発表されたまま事態は進行した。ちなみに許可を取ろうとしたらややこしいし、いつも邪魔をしてウザいので俺がプッシュしたということも奴は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその日の放課後……じゃないな。まだ時間的には放課後ではない、一時限使ってのホームルームではカオスのことが起きた。

 事の始まりは授業開始。織斑先生の指示で学園祭のクラスの出し物を決めろってことになったのだが、それから織斑に交代。担任は仕事があると理由を付けて逃げ出したが、たぶんあれはそう言った空気に慣れていないからだろう。

 そのせいか、クラスメイト達は次々と意見を出した………のはまだいいんだろう。ただ内容が問題だった。

 

(「織斑一夏のホストクラブ」「織斑一夏とツイスター」「織斑一夏とポッキー遊び」「織斑一夏と王様ゲーム」…ここまではまだいい。だが「桂木悠夜と拷問ゲーム」「桂木悠夜の解体ショー」「桂木悠夜の紐なしバンジージャンプ」「桂木悠夜の脱出不可避ゲーム」……当然だが却下だな)

 

 どっちにしろ、「脱出不可避」が「脱出超余裕」に変わってしまう未来しか見えない。おかげで俺はさっきからラウラを膝に乗せてあやしている状態だ。本音は生徒会の仕事でここにいないんだが、アイツ、何故か昨日夜遅くまで起きていたからなぁ。声はかけたんだけど、何故か目の下にクマができていた。

 

「却下」

 

 織斑は織斑で気に入らなかったのか、無慈悲な宣告をするがクラスメイト達はブーイングした。

 

「あ、アホか! 誰が嬉しいんだ、こんなもの!」

「私は嬉しいわね。断言するわ!」

「そうだそうだ! 女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

「織斑一夏は共有財産である!」

「他のクラスから色々言われてるんだってば。部の先輩もうるさいし!」

「助けると思って!」

「メシア気取りで!」

「桂木なんかそれでいいじゃない!」

 

 というか普通に「織斑一夏と王様ゲーム」で良いんじゃね? 俺は部屋に戻ってゲームでもしておくよ。というか幸那が来るし、ラウラを含めて三人で案内でもする。

 

「山田先生、ダメですよね? こういうおかしな企画は」

「えっ!? わ、私に振るんですか!?」

 

 何であの馬鹿は未だに教員の威厳がない山田先生に助けるを求めるのだろうか。山田先生が使えないのは初日の時点でわかり切っていることだろう。その先生、俺とは別の路線の妄想癖持ちなんだから。

 

「え、えーと……うーん、わ、私はポッキーのなんかいいと思います……よ?」

 

 ほらな。大体、山田先生は下手すれば別の方で使えないんだから頼らない方が良いんだ……って、馬鹿に言ってもわからないだろうな。

 仕方ない。定番だが、こういうのにするのか。

 

「じゃあ、ベターな選択としてメイド喫茶なんかどうだ?」

「「「「「………………は?」」」」」

 

 まさか俺がそんなことを言うとは思わなかったのか、全員が俺に注目する。

 

「ちょっと待ちなさい! アンタ、それで私たちを視姦しようってんじゃないでしょうね!」

「うっわキモ! 死ねばいいのに!」

「これだからオタクなんて死んだ方がいいのよ」

 

 次々と俺に対して誹謗中傷を浴びせる。そのせいか、俺の膝に座るラウラはさっきからクラスメイトを殺そうとしているし、山田先生は突然のことに戸惑っている。たぶんあれだ。性犯罪を防止するかこの現状を止めるのかで迷っているのだろう。

 

「待てよ! 何も悠夜はそんなつもりで言ったわけじゃないだろ? な、悠夜―――」

 

 織斑が俺を庇おうとするが、元よりアレの言葉なんざ必要ない。

 

「やれやれ。これだから素人は困る。確かに、メイド喫茶というある種のいかがわしい店が未だオタクたちの間で人気を誇っているが、そもそもメイドの原点はオルコットの家にいるようなものだろう? 俺だってそれぐらいの区別はつく。大体、クラスにリアルなお嬢様がいるんだ。それを利用しない手はないだろう…………って言っても今月はキャノンボールとやらもあるし、おまけにこの学校は部活動強制参加で、そっちの仕事もある。とまぁ、その前に織斑。トイレにでも行ってろ」

「え? 何で?」

「良いから行け。そうじゃなかったら不慮の事故で明日からこの教室じゃなくて天国………いや、地獄で生活することになるぞ?」

「いや、意味がわからん」

 

 ………やれやれ。やるしかないのか。

 俺は篠ノ之を見る。性分なのかさっきまで俺を見ていたからか、バッチリと目が合ってしまったので思わず笑った。

 

「そうだ織斑。お前は馬鹿だから気付いていないが、実は篠ノ之はお前のことが―――」

 

 ———ガクッ

 

 織斑は気絶した。篠ノ之の手には木刀が握られている。

 篠ノ之にしてみれば、俺と言う敵の口から織斑を好いていることをバラされたくはない。だが俺の方へ行けばラウラが、それでなくても篠ノ之の攻撃など読みやすいのだから俺自ら抑え込んでもいい。結果的に篠ノ之はバラされることになる。

 だが、俺ではなく織斑を気絶させればどうなるか。無警戒だから余裕でダウンさせられる。

 

「ちょ、ちょっと篠ノ之さん!? 何してるんですか!!」

「ご苦労、篠ノ之。よく俺の手の上で踊ってくれた」

「貴様ぁ……」

 

 俺を睨んでくる篠ノ之だが、全然怖くない。

 

「山田先生、落ち着いてください。彼女はクラスメイトのための正義を行っただけです」

「でも、これは立派な暴力です!」

「ならば後で篠ノ之を煮るなり焼くなり好きにするがいい。だが今は黙ってろ」

「ひゃ、ひゃい」

「ちょっと待て! そこは何らかのフォローを入れるべきところだろう!?」

「別に入れてやってもいいが、今は俺のターンだ。すっこんでろ。大体、こうまでしなければならない程、奥手な貴様らが悪い。ラウラを見ろ。さっきからこうして普通に俺の膝の上に座り、離そうとすると服をしがみつく行為を繰り返す。貴様らもこれくらいのことをやってみてはどうだ。できるならな」

 

 無論、そんな恥ずかしい事ができるわけがない。女尊男卑になったことで少なからず女には妙な自信が付いたからな。どれだけ織斑のことで盛り上がろうとも、少なからずストッパーが付いているのさ。

 

「さて、続きだが。そもそもどうしてメイドという役職にいかがわしいイメージが付いたか。それは何かしら男の本能を刺激させるからだ。それにさっきも言ったが、リアルお嬢様がこのクラスにいるんだ。なぁ、オルコット、ジアン」

「え、ええ」

「お、お嬢様かどうかわからないけど………。でも、そういうことなら、桂木君から連絡した方があの子は喜ぶんじゃないかな?」

「ハハハ、ソンナワケナカロウ」

 

 まぁ、知り合いにメイドもお嬢様もいるが、前者はともかく後者だと俺の寿命が縮む。

 

「まぁ、それにだ。敢えてメイド服を着て普段と違う姿を見せれば、織斑にだって何かしら変化が起こり、恋愛関係に発展する可能性も―――」

「よし、やろう! メイド喫茶!」

「絶対に織斑君を振り向かせてやるわ!」

「待ちなさい。振り向かせるのはわたしよ!」

 

 流石は織斑効果。一瞬で騒がしくなる。

 俺は火付け役になったので、このまま仕切らせてもらおう。ラウラと筆記具を持って、教壇に立った。

 

「ラウラはこの紙に記入を頼む。メイド服は33。執事服は3着………いや、ジアンは夏休みにもしていたから、執事服は4着か」

「わかりました」

「ちょっと待って! さりげなく僕を執事にさせようって魂胆が見え見えなんだけど!」

 

 馬鹿だなぁ。そんなのは簡単な話だろう。

 

「仕方がないだろ。実際働く執事は織斑とジアン、もしくは男装した織斑先生ぐらいしかいないんだから」

「君も出ればいいじゃないか!」

「そうだな。用事が終わったら手伝ってやらなくもない」

 

 その日は丸々サボるつもりだからな。

 だってそうだろう。俺が参加したらどう考えても扱き使われる可能性が出て来るからな。

 

「それとデザイン担当はオルコットとジアン。オルコットはメイドも担当してもらおう」

「わかっているじゃありませんか。このわたくしの美貌で人を呼び寄せますわ」

「演劇部がいるなら、オルコットと相談してデザインを仕上げろ。オルコットはその出来上がったデザインのコピーを後で俺のところに持ってこい。後は鷹月、お前が決めろ。宣伝は俺とラウラ、それと鷹月、宣伝などに使えそうな集めてくれ。男の感性よりも女の方が良いだろうからな」

「………わかった」

 

 急に指名された鷹月は驚いた様子でそう返事をした。まぁ、俺たちが会話することってそうそうないからな。ちなみに俺はラウラと本音を除いた場合、彼女が一番マシだと思う。

 そして俺は未だ寝ている織斑を起こす。

 

「起きろ織斑。お前のお姉さんの結婚相手がやってきたぞ」

「何だって!?」

 

 ……………アレ? 救いようなくね?

 俺の脳内にそんな言葉が過ったが、心の片隅にでも置いておくことにした。

 

「気が付いたか」

「……あれ? 悠夜? どうして……あれ? どうして俺は倒れてるんだ?」

「持病の神経麻痺だろ。わかったら大人しく寝てろ」

 

 そう言ってやるとラウラが書き終わった紙をもらい、それを織斑に渡す。

 

「ほら、今度の出し物は奉仕系喫茶だ。担当職は鷹月に任せたから、後で相談しろ。お前はおさわり執事だ。それと、特別メニューは俺が作っておくから、料理部員でも探して相談しろよ」

「ああ、わかった。ありがとな。俺が倒れている間に色々とやってくれて」

「気にするな」

 

 すべて計画通りだから。

 そう。俺の復讐はここから始まる。手始めにこのクラスにいる俺に対して悪意を持つ奴らに精神的ダメージを負わせ、心身共に立ち直れないくらいにまで叩き折るのだから。

 

「ラウラ。メニュー開発に付き合ってくれ」

「わかりました」

 

 俺はラウラを呼び、特別メニュー開発に勤しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業が終わり、方針がまとまったのでクラスは解散。各自割り振られたこと、もしくはIS訓練のために各々行動をする。

 一夏は用紙を提出するために職員室に行こうとしたとき、一人の女生徒が一夏に声をかける。

 

「織斑君、ちょっといいかな?」

「ん? 何だ?」

「実はさっき桂木君に伝言を頼まれちゃってね、衣装の枚数に変更があるの」

「そうなのか? えっと、ちょっと待てよ」

 

 そう言って一夏は用紙とシャーペンを出す。その女子は執事服が一枚減らしてメイド服が一枚増やすことを指示した。

 それを書き換えた一夏は何の疑いもせずにそのまま職員室に向かう。その姿を見送ったその女子は顔を歪ませた。

 

「ゴミ風情がいつまでも生意気なことができると思うんじゃないわよ、桂木悠夜」

 

 そう。これは悠夜からの指示でもなんでもない。その女子がただ悠夜を痛い目に合わせるための作戦なのだ。

 そのことに気付かず、一夏はそのまま鞄を持って職員室に行ってしまった。

 

 

 だが、彼女は考えていなかった。よもやこの指示で自分はおろか、全世界の女たちが首をつりたくなる時点に発展する事態になろうとは。


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