そんなどうでもいい近況報告と共に、これを投稿します。
日本の風物詩の一つである夏祭り。今日、アイデア部のメンバーで篠ノ之神社に来ていた。
ちなみにラウラはダークペガスとその他諸々を受け取った後で帰ってきた。しかもレゾナンスに行っていたらしく、そこで逃亡した強盗騒ぎに巻き込まれたらしいが、勇敢な市民のおかげで逮捕に繋がったらしい。ちなみにその勇敢な市民は銃を持つ強盗たちをオーバーキル気味に倒したらしく、一部警察車両を潰したそうだ。……心当たりが物凄くあるよ、そんな馬鹿なことをするのは。
などと少し常識外れな無双っぷりがあったが、俺たちは平凡な毎日を送っていた。
「ねぇねぇゆうやん、どうして今日のお祭りは一緒に来たの?」
「………あの子の護衛?」
そう言いながら簪とラウラの二人と一緒にリンゴ飴をかじる少女―――朱音ちゃんを見ていた。
IS学園を出て4日目、俺が起きた時には異常が起きていた。
一体どういう方法で入ったのかはわからないが、朱音ちゃんが隣で寝ていたのである。本来ならそこは幸那のポジションだったはずなのだが、その幸那はラウラと一緒にババアの所で修行しているのだ。というのもラウラは自らの向上心のため、幸那の場合は俺の味方になった以上、身の危険があるためそれから守る、という意味も含めてらしい。まぁ、そのために山で修行しているんだが、勉強とかは大丈夫なのだろうか?
(いざとなればドロシーも動くだろうし、幸那の安全は保証してくれていると思うが……)
一人暮らしなのか、それともババアとギルベルトさんがいてくれるのかが重要だな。いざとなればババア一人が戦って、ギルベルトさんが幸那が脱出ってこともできる。強くなるのはあくまで保険としか思っていない。
そして朱音ちゃんなのだが、十蔵さんに頼んでしばらく滞在するらしい。メールも来ていて、「手を殺する」と書かれてあったが、つまり「手を出したら殺す」ということだろう。流石に中学生に手を出すような変態じゃないよ、俺は。
それで買い物に出たりして、篠ノ之神社で祭りが行われることを知った俺たちはこうして繰り出しているわけだ。幸か不幸か未だに篠ノ之とばったり会っていない。
(……まぁ、織斑も来そうだからその辺りはきっちりと警戒するべきだ)
絶対にないが、万が一………万が一もし朱音ちゃんが俺たちの機体を作ったことを知ったら「俺のも見てくれ」と言われそう。朱音ちゃんにとってプラスかもしれないから見せた方がいいかもしれないが、そんなことになったら俺が嫌だ。
すると急に人が移動を始める。
「何かあるのか?」
「ん~、そう言えば掲示板には舞いがどうのこうのって書かれてたよ~」
「舞いか。興味ないな」
日本の文化って、個人的にはあまり興味がなかったりする。どっちかと言えば破壊系とか、そう言う方が好みだから。
「それにしても、一学期だけで色々あったな」
「ホントだねぇ~」
俺たち二人はベンチに腰掛けながら三人が仲良く食べる姿を見る。
考えてみれば、ここ数か月色々あった。
俺がISを動かしたこともそうだが、そのほかにも襲われたり、暴走したり、襲われたりしてルシフェリオンを手に入れ、どうしてか俺の身体能力は急激に上がった。
(いや、いくらなんでも色々ありすぎだろ!)
考えてみれば異常なんだけど、主に俺の身体能力。
今まで現実逃避をしてきたが、俺の身体能力は急激に上がったと言える。
(というか、原因って絶対にあの時だよな?)
隣にいる本音を助けようとした時、そしてルシフェリオンを手に入れてからだ。
あの時から既に俺の身体能力は高くなっていて、壁すらも壊すことができたわけか。
(………でも、あんまり気にしなくていいな)
結局、本気を出そうと思った時だけ勝手にリミッターが外れる仕組みだし、別段それで困ったこともない。
だから俺は隣にいる本音を撫で、現実逃避するのだった。
■■■
もしこの状況にいた女たちが目を覚ましたら、誰しも声を揃えて言うだろう。
———計算外だ、と
それほど目の前にいる男性が異様な力を発揮し、仲間を全員倒したのである。
仲間の内には空手や剣道などの有段者、他にも喧嘩が強く少しは名が通っている存在がいる。しかし、目の前に立っている男は平然と攻撃し、たった一撃で再起不能にしたのだ。
「……もう、良いですか?」
気怠そうにそう言った男性は唯一意識がある女性に対してそう声をかけると、女性は何度も頷く。
「もうやめた方が良いですよ。私以外にもこんなふうにあなた方を再起不能にするのも造作もない人間なんて他にもいる。もっとも、私は敢えて生かしてあげているのですが」
そう言い残した男性はそのまま何事もなかったかのように森から出て、髪を上げた。
するとタイミングよく一人の女性が浴衣姿で現れた。
「随分と遊んでいたようだね」
さっきとは雰囲気が変わった声で、浴衣姿で身体に凹凸、そして長く緑色の髪に金色の瞳をした女性に話しかける。その女性にはガラスのような透き通った首輪をしているが、暗い夜道では目立たないものだ。その女性は焼きそばとたこ焼きが入った袋を二つ持っていて、一つを男性に渡す。
「あなた様の分を買ってきました。お一つどうでしょう?」
「頂くよ。ただ、君自身の手から」
そう言って男性は近くに開いている席を探す。すると森の中に入る前にはカップル……というよりも兄妹のような二人組が座っていた席が空いていて、その二人が他の三人と一緒に歩いていく姿を確認する。
「丁度空いているし、あそこに座ろう」
「わかりました」
男性は女性が持っていた袋をさりげなく二つ取り、椅子に座る。
「先程の方々はどうでした?」
「全然だめだ。やはりこの日本ではもう目ぼしい戦力はいないようだよ。まぁ、例外はいるが全員が学園側だからね」
「………そうですか」
女性は割り箸を割って、20代の社会人にしては少々幼い格好をしている男性のために焼きそばを運ぶ。
「それにもう、彼らは限界だろう」
しばらく噛んで飲み込んだ男性はそう言うと、女性は小さく頷いた。
「特にあの子はもう限界です。今日も連れて来なくて正解でした。連れてくればおそらく―――」
「見つけ次第連行、だろう。だがまぁ、それも仕方ない。元々僕らの反逆に付き合わされて10年も好きな人と離れさせられていたんだ。暴走しても仕方がない。でもそのおかげであの少年は我々の切り札に成り得た。その点だけは石原郁江に感謝しているよ」
「その娘が好意を寄せているようですが?」
「放置で構わない。むしろ良かったじゃないか、終わる前に男の価値に気付けて」
クスクスと笑いながら話す男性に、女性は「ええ」と答えた。
「さて、あの組織はどう動くか」
「例え動いたとしても、大したことができないでしょう?」
「いや、意外にできるよ。なにせあそこが、黒鋼の情報を狂わせたのだから」
二人は示し合わせたように笑い、その祭りを楽しむ。
———それがまるで、最後に味わうものだと感じさせるほどに
目を覚ました少年は今の時間がいつか把握し、立ち上がる。
するとタイミングを見計らったのか、それともたまたまか、水が入ったコップが差し出された。
「……ありがとう」
少年はそれを受け取り、口に含むとほぼ同時に目の前に何かが遮った。
「……限界か」
「うん。ちょっと眠い」
「ちょっとじゃないだろ。わざわざアレを開発するだけでどれだけ起きてんだよ」
そう言って少年は上半身をベッドに預ける少女を引き寄せ、自分の隣に寝かせた。
「……会議があるから、起きなきゃ」
少女は立ち上がろうとするが、すぐに力が抜けてベッドに倒れた。
少年はその少女の姿を見て「仕方ない」と思い、背中を持って抱えようとすると、
———バンッ!
「おい、貴様らいつまで………」
突然現れた黒髪の少女が乱入してきた。
「………いつまでべったりしている。もう会議が始まるぞ」
「シスコン帰れ」
背中が支えられている少女が乱入者にそう言うと、その乱入者はすぐさまISを展開して武器を突きつけるつもりだった。
だがそれよりも早く乱入者の周り筒状のビットが展開され、それらが一斉に乱入者に狙いを定めた。さらに周辺にバリアが発生する。
「いつ殺しても問題ない、マスター」
「殺さないからな」
するとビットが解除され、同時にバリアが解除されるが乱入者は動けないでいた。
「……ティア、AICを解除してやれ」
「………」
ティアと呼ばれた少女は何の動作もしなかったが、急に乱入者が動き始めた。
「貴様―――」
「M、お前もだ。言われたくないならあんな雑魚に執着するなよ」
「……何だと?」
Mと呼ばれた少女は少年を睨むが、少年は相手にせずティアと呼んだ少女を抱えて部屋を出ようと移動する。
「行くぞM」
「わかっている」
三人は外に出て隣の部屋に入る。そこにはどこかの会社が会議室として使うような形になっていて、並べられた椅子と机が一体となったものが5つ用意され、その内右2つの席が女性で占められている。さらにそことは別に眼鏡をかけた女性が立っていて、遅れて来たらしい三人を睨んだ。
「遅いですよ、三人とも」
「すいません。寝過ごしました」
「………」
前に立つ女性は特に少年をしつこく睨む。
「スコール、本当に彼が?」
「ええ、ここの最高戦力よ。あなただって知っているでしょう」
「ですが………」
それを聞いた少年は席に座りつつ、堂々と言った。
「なんなら僕の実力を試してみる? もっとも、ただの伝達係でしかないあなたが3秒も持つとは思えないけどね」
殺気が一瞬で充満する。それを感じたスコールと呼ばれた女性も消すように殺気を出し、相殺する。
「……いえ、いいです」
それを感じたのだろう。前に立つ女性は断ると少年は殺気を消した。
「で、調査結果はどうだったんだ?」
「やはり皆さんの予想通りでした。今度の学園祭で最大の障害となるのは、この人でしょう」
すると空中投影ディスプレイにある人物が表示される。それを見ると二人が笑い、一人は反応を見せず、一人は舌打ちをした。
「こいつが本当に強いのかよ」
「強いわよ。それもおそらくM以上に」
「……ほう」
Mは表示された存在を睨む。
「スコール、Mが嫉妬してます~。ご機嫌取るために表示を織斑千冬に切り替えることにお勧めします~」
「T、貴様、殺すぞ」
「やれるものならやってみろ~」
「こらこら、二人とも」
MとTがそれぞれ武装を展開した瞬間、二人の間にバリアが展開された。
「いい加減にしなさい。話が進みません」
「チッ」
「せんせ~、Mが舌打ちしました~」
「Tもいい加減になさい」
スコールに注意されたことでTは少年の腕にしがみつく。
「……これだからガキは」
「黙れババア」「黙れ最弱」
MもTも共通の敵だからか、ほぼ同時にそう言った。
するとスコールの隣に座る黒髪の女性が立ち上がった。
「上等だ! テメェら表出ろ」
「オータム」
「………クソが」
スコールに言われて大人しく座るオータム。そしてオータムは八つ当たり気味に前に立つ女性に尋ねる。
「んで、何で情報部はその男が最大の障害なんだよ」
「それは、ダークカリバーとルシフェリオンの存在です」
「でもそれは一応は早々出せないようになっているでしょ? でも出した場合は僕が戦うよ。僕の機体ぐらいしか、性能的に止められるのはいないから」
少年は自信満々に言うと、オータムは少年を睨んだ。
「だから頑張って捕まえてね、オータム。
「はっ! 言われなくてもわかっているよ」
オータムの反応を見ながら少年は内心笑っていた。だがそれは表に出していないため、誰一人として少年の異常に気付いていない。
その一人でもある前に立つ女性は彼らに別の情報を伝える。
「それともう一つ、ここ最近、HIDEとの小競り合いが続いています」
途端にその場所の空気が変わった。さっきまでお互い殺気をぶつけ合った者たちは一点に前に立つ女性に集中する。
「L、あなたは彼らが出てくると思っているのかしら?」
「はい。今回の作戦にも支障が出るくらいには……そのためのTでしょう?」
Lは真ん中に座るTを見て言うと、Tは頷いた。
「大丈夫。IS学園を余裕で壊せるくらいには作れた。前と同じで良いんでしょ、スコール?」
「ええ。上等よ。ちゃんと前みたいに自爆装置も作って置いてね」
「のーぷろぐれむ」
そう言ってTは拳を作り、親指だけを上げる。
「でもしょうじき、私も戦いたいなぁ~」
「僕としては遠慮してもらいたいけどね」
少年がそう言うとスコールはからかうように言った。
「あら、自分の大切な人が死ぬような目に遭わせたくないってこと?」
「うん。前のようにイギリスやアメリカを攻めるって言うならともかく、今度の戦場は化け物が住んでいるんだ。組織的にも、僕個人としてもTが出るのは嫌だな」
すると少年はTの唇にキスをする。最初、Tも驚いた様子だったがすぐにそのまま受け入れるどころか自分から少年の首に腕を回す。スコール以外の女たちが引きながら見ていると、少年から離した。
「若いのはいいけど、そう言うのは後にして頂戴ね、
「そうするよ」
Tは名残惜しそうに0と呼ばれた少年から離れて着席した。
「全くもう、あなたたちは……」
「これでもまだいいでしょう。そこに映る彼―――桂木悠夜や織斑一夏に比べれば。まぁ、織斑一夏の方が酷いわけだけど」
「前者は理解、後者は無自覚」
仲が良い二人を見てLは盛大なため息を吐く。
「そういえばL、No.Kの様子はどうなの?」
「あれならば以前、本部の地下に存在しています」
「……それは良かったわ。あれまで彼の手に渡っていたら、こっちは滅んじゃうもの」
「だね」
まるでわかっているようなスコールと0を見て、オータムは嫉妬の眼差しを0に向ける。それを知ってか知らずか、スコールはディスプレイのLと挟むような位置で立った。
「良い? 今度の任務はIS学園の襲撃よ。当然ながら防衛は固いけど、それでもあそこにいるのは大半が素人とはいえ、油断しないでね。目標は織斑一夏をメインとしたIS奪取。可能なら篠ノ之箒からも奪取して頂戴。ただ、桂木悠夜が出て来たら迷わず逃げること」
「はん! そんな任務、余裕で終わらせてやるぜ」
オータムの言葉に誰も鼓舞せず、そこにはどこからか失笑が漏れた。
IS学園島に唯一存在する私用研究所―――轡木ラボの特殊格納庫には3機の機体が並んでいる。一つは騎士のような形をしていて、その隣には高機動型パッケージであるロンディーネの発展型スラスターを装備した一本角が付いたものが、そしてその隣に大型ウイングが備わった機体があった。本来ならもう一つ並んでいるはずだが、それは既に持ち主の手に渡っている。
騎士のような人型機械にはリベルトがいて、今もなお整備を行っていた。
「リベルト兄さん、もう上がろうぜ」
「アラン、あなたこそもうちょっと調整しなさいよ。どうせ適当でしょ!」
もはや夫婦としてラボ内に知れ渡っているアランとレオナ。その二人の様子を見て、リベルトは笑みを向けて二人に言った。
「二人はもう上がりなさい。アランは明日、レオナに手伝ってもらいながら整備を終わらならね」
「う……やっぱりもうちょっとやってからにするよ。悪ぃ、レオナ。手伝って」
「…もう、しょうがないわね」
二人は一本角の機体の調整を始める。その様子を見てリベルトは機体のコクピットに座って調整を続けた。
(この機体は今度の学園祭にまで完成させないといけないでね。どうやらそろそろお嬢様が狙われるかもしれないので)
———この機体は、そのためのものなのだから
リベルトは二人に気付かれないように呟きながら、さらに調整を続ける。彼の顔は徐々に笑顔ができ、今か今かと完成を待ちわびているのだ。
(しかし、あの方も随分なことをしようとする)
あの方とは、十蔵のことを指す。実は彼らはギルベルトと一緒にいた者たちであり、本来ならここにいるのはレオナではなくギルベルトだったのだが、陽子が是非と言ってギルベルトを引き取ったのだ。
その時の光景は未だに忘れられない。それほどまで大事だった友人が一人の子供……もとい、老人のわがままで生きる場所が変わってしまったのだから。
(とはいえ、感謝していますがね。おかげで私の理想を叶えることができる)
再び邪悪な笑みを浮かべるリベルト。そしてそれが実現するまで、残り一か月もなかった。
ということでこれで第一部が終了し、今度から第二部が始まります。そしてお待ちかねの五章―――それは学園祭!
そしてようやく、みなさんお待ちかねのイベントが起こるかもしれない章でもあります! たぶんどこで入るかは予想が付くと思いますがね。