IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#8 精神疲労には女学生を

 都内やその周辺にはたくさんのシンボルが存在する。東京タワーにスカイツリー、東京ディズ○ーリゾートもその代表格だろう。

 そしてこの十年でまた一つ、先程上げた三種とは別に新たなシンボルが創設された。

 

 ―――女性権利主張団体

 

 通称「女権団」の本部が都内に置かれており、日本の男尊女卑の時代には「女性にも平等な権利を」と動き続けた団体だった。だがそれは昔のことで、今では日本を主に「女性優遇制度」が施行された国には規模に違いがあれど存在する大規模の団体となっていた。

 その本部総帥の女性は視察という名目で紛れ込ませた四人の代表に結果を聞いていた。

 

「それで、あのゴミの容態は?」

「IS学園内にある設備で5日の入院だそうです。そして学園長が訓練機ですが専用機として無期限で貸し出す動きを見せています」

 

 すると総帥はまさしく「計画通り」といわんばかりに笑顔を見せる。

 

「そう、ご苦労様。これは謝礼よ」

 

 総帥は机の引き出しから四人分の封筒を取り出し、代表に渡す。

 その代表は「ありがとうございます」礼を述べつつ受け取り、その部屋を一礼して出て行った。

 本来ISを男ごときが扱うなんて心苦しい(ただし千冬の弟の一夏は別)ことだが、総帥が敢えてそうなるように仕向けたのは理由があった。見せしめである。

 ISは国家代表となった者に支給されるようになっている。それを代表候補生の時点で持てるのは運もそうだが何よりも実力があるからだ。セシリア・オルコットの場合はBT適性がAという運が大きいだろう。だが、一定レベルの実力は有していたので専用機『ブルー・ティアーズ』が支給された。

 そのセシリアが油断していてビットの操作が満足なレベルに達していなかろうと、動かせることが判明して二ヶ月、そして操作時間は20分しかなかった一夏が善戦できたことには変わりない。

 間違いなく千冬と同等かそれ以上のレベルの操縦者になるだろう一夏。だが、悠夜は今のところその兆しは見られない。比べられ、罵られることは当然。そしてやがて逃げだす。それまでの辛抱だと自分に言い聞かせる。

 そして総帥は投影型PCで投影されたキーボードを叩き、ある映像を出した。

 現在は眠っており、最終調整を行っている()の調整情況を確認した。さっき始めたばかりだからか、長期に渡るためとも説明されていたので進行状況を見てたいして進んでいないが、気にせずに別のことに意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………やっと着いた)

 

 どこかの錬金術師みたいに右腕と左足が機能していないのは、ここまでの道のりで理解した。

 現在は夕方。それも木曜日と来ている。荷物は予め運んでくれていたのか、戻ってきていた。

 

「………ああ」

 

 水曜日から月曜日まで朝型にランニングをしていたから少しはマシになっていると思ったが、どうやらそうでもなかったみたいだ。

 そのことで少し落胆しながら、俺はベッドに入る。

 

(……………予想はしていたけど、まさかあの時とはなぁ)

 

 というかIS学園って警備が厳重じゃなかったか? あんな簡単に進入されるとか、本気で警備の見直しが必要だと思った。

 

(右手は辛うじて動かせる…か)

 

 腕はともかく、指はなんとか動かせるみたいだ。なんとかペンは使えるみたいだ。

 椅子を引き、鞄を持って中身を出してノートを探す。

 

「……これか」

 

 教科書を出して月曜日に習ったところを復習する。一人だと一日中ゲームをするんだが、今回ばかりは事情が事情なので即急に勉強を開始する。

 IS条約もまだすべて覚えていないし、やることは一杯だ。……一杯、だが…。

 

(………やる気が起きない)

 

 当然といえば当然かもしれない。あんなことをされてそれでも原因の一端でもあるISのことを学ぼうという気にはなれなかった。

 そこでふと、一つのプラモデルが目に入る。作ったはいいが、詳細な設定とかはまだやってなかったことを思い出した俺は、気分転換にそれに取り掛かることにした。

 

 今、世界にはIS技術を流用したロボットバトルゲーム「スーパー・ロボッツ・バーサス」通称:SRs(エス・アール・エス)が存在する。

 それは元々クロスオーバーゲームで作品・分類関係なくロボットが登場して戦わせるゲームだったが、アーケードの方が改修され、どこかのアニメみたいにプラモデルとその設定を専用タブレット端末に入れ、セットすることで出来栄えと設定で性能を割り出される。

 つまり文字通り自分の実力が反映されるゲームであり、俺はその第一回大会に優勝したことがある。………まぁ、世界規模を余裕で破壊できるグラ○ゾンを初めとしたとんでも兵器の集合体なんてものを使えば誰だって優勝できるだろう。性能はじゃじゃ馬なので扱うのに苦労するが。

 なので今度はリアル系を中心とした、可変と換装を使ったプラモを作っている。もっとも、後は設定を整えて一緒にしておけば問題はないわけだ。

 

「よし、保存完了!」

 

 パソコンからタブレットを取り外してそのプラモが入っているケースに、添える形で入れる。

 そして体を拭く為タオルを濡らそうと台所へ向かうと、なにやら人影が見えた。

 

 ―――ゾクッ

 

 嫌な予感がしてそこから離れ、印鑑など大切なものとプラモが入ったケースを窓から捨てた。

 最後に鞄と制服を持ってそこから飛ぶ。

 

 ―――ドォオオオオオンッッッ!!!

 

 爆発が背中を襲い、予定よりも遠くに飛んだ俺は着地をミスして左足から落ちる。

 激痛が走ったものの、なんとか無事のようだ。

 何もする気が起きなかった俺はその場で呆然としていると、校舎や寮から足音が響いてきた。

 やがて消火活動が始まり、俺はそれをただ眺めているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(………朝か)

 

 ふと気がついた悠夜は窓から朝日が差したのに気付き、辺りを見回す。

 昨日から呆然としたままで悠夜は覚えていないが、鎮圧後、ただ燃え尽きた家の跡を見続ける悠夜を千冬が手元に置くことにしたのだ。幸い、生徒会以外の生徒はいなかったので懸念するべき人間からの反論は無かった。

 だが正気に戻ったのもつかの間、悠夜は再び部屋のある一角を見続ける。

 しばらくして目を覚ました千冬は上体を起こし、曲げた右足を抱えて一角を見つめる悠夜に気付いた。

 

「おはよう、桂木」

「…………」

 

 悠夜は挨拶を無視し、ただ一角を見つめている。

 だがそこは千冬にとっては今すぐに目を逸らさせたい場所でもあった。

 

(………仕方ないか)

 

 今は気が済むまで為すままにさせておこうと思った千冬はベッドから降りて昨日の内に副担任の山田真耶から受け取ったおにぎりを温めて自分の分を食べる。

 

(しかしこのままというのも流石に問題か)

 

 千冬にとって年下の男を預かることは弟の一夏がいたこともあって問題はないが、世間体から見れば大問題だ。なによりも護衛目的で傍に置いている男であり、安易に自分が離れるのも良くない。

 しかし千冬にも授業があり、今日はIS実習に関するコマが一つとはいえある。その後はIS関連に詳しい人物の一人として千冬は授業に同行しなければならない。

 

(………だからと言って更識に頼むのもな)

 

 生徒会長の更識楯無を思い出すが、千冬は彼女にも授業があることを思い出してどうしたものかと悩む。昨日は自分の傍に自分から置いておくことを申し出たら周りからの反対を押し切ったが、今となって少し後悔していた。

 

(……休むか)

 

 千冬はそう思って早速連絡をしようとすると、ドアチャイムが室内に鳴り響く。

 近くにいたからかすぐにドアの方へと行き開けると、そこには制服を着た本音の姿があった。

 

「…布仏か。こんな朝早くにどうした?」

「桂木君に会いに来ました~」

 

 いつも通り、本当にいつも通り笑顔を見せる本音。

 

「……良いだろう。だが、今の桂木は正気ではない。対応は慎重に、な」

「わかりました~」

 

 入室の許可を得て本音は入室する。

 造りは一人部屋なので多少変更されているが、広さはほとんど変わらない。千冬は奥で寝ている為、悠夜は本来ならば廊下側で寝ていることになる。

 未だに呆然としている悠夜を見た本音は持ってきていた鞄を置き、悠夜に近づいた。

 

(………かっつん)

 

 痛々しく見える悠夜を本音は触れようとする。千冬から見てもその本音の行動に慈愛を感じたが―――

 

 ―――ガッ

 

 本音の手を掴み、腕力のみで本音を回して床に伏せさせた悠夜は馬乗りになり本音の首を絞めた。

 すぐに反応した千冬は悠夜を蹴り飛ばす。そのまま悠夜は背中から千冬が隠したガラクタの巣窟に激突した。

 

「かっつん! 先生、止めてください」

「し、しかし……」

 

 蹴り飛ばした先はともかく、今のは明らかに悠夜に非があるだろう。だが本音はこれ以上の攻撃を止めるように言い、また悠夜に近づく。

 だが悠夜は本音に殴りかかろうとした。

 それを本音は予め予想していたのか、激しさがない静かで最小限の動作で避けた。

 

「死ねッ!!」

 

 悠夜はそう叫びつつ刈り上げるように左足を早く上げる。それでも本音に当たることはなく、それでバランスを崩したのか後ろに倒れた。

 本音は悠夜が上体を起こしたところで馬乗りになり、悠夜を抱きしめる。

 それはまるで聞き訳がない子供を怒らずあやす母親のようだった。

 

「ごめんね……」

 

 悲しさを思わせる声が悠夜の耳に届く。その声に千冬は意識が飛ばされそうになり、自分を殴ることで正気を保った。

 

「………もう我慢しなくていいんだよ」

 

 そう言われた悠夜は本音を躊躇い無く抱き寄せた。

 その姿はまるで母親又は姉に懐く小さな子供のようだった。

 

 これは本音が持つ特殊能力「ヒールプレイス」である。とはいえ本音が魔法使いというわけではない。普通の人間だが本音の存在自体が癒しの効果があるようだ。

 そのせいで悠夜の心は安らぎ、後遺症の一種として本音に甘えるように寄り添ったのである。

 

「織斑先生、桂木君を保健室に連れて行ってください」

「………ああ」

 

 本音のその効力を初めて見た千冬は呆然としていたが、声をかけられて正気に戻り、悠夜を保健室へと運ぶのだった。


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