第二次会談とやらが開かれた。
その会議はフランスのクロヴィス・ジアン氏が唯一俺と(ものすごく微々たるものだが)交流があるということ、また、ある程度十蔵さんから俺の扱い方を聞いているという点で主に先導しており、周りはたまに口を挟む、というやり取りをしていた。
そして今回の会議で決めたことは―――
・ルシフェリオンの運用
・奪取したデータの取り扱い方法
・俺の結婚云々
―――である。
まず軽くルシフェリオンはISどころか地球すらを余裕で消せる力があることを説明して、福音戦でのメーター履歴を見せると意外に納得してくれた。考えてみれば以前はデータ提示をするか否かで揉め、挙句俺を気絶させて簪すら誘拐する羽目になったんだ。振り返ってみれば俺の説明の仕方が悪かったこともあってその方法を一部変えてみた。そして今度はこっちが「ルシフェリオンの使用は極力控える」ことと「練習時は必ず「轡木十蔵」のみを付ける」ことを提案した。極力控えるってのは、「ムカつくから」という理由で展開しないことを約束、そして二つの条件のどちらかを満たした場合のみの使用することを約束した。一つは先程上げた通り、「轡木十蔵の監視の下での使用」。そしてもう一つは、
『緊急時での使用が認められたの?』
『ああ。特に最近、学園で色々と問題があったからな。俺が使用するISが戦闘不能になるか、ISでの鎮圧が困難と判断した場合のみ使用を許可。その場合は最高でも30%~50%が上限の出力制限が義務付けられた』
そう楯無に説明すると、「確かにね」と頷いた。
『情けないことだけど、私が間に合わない時もあるしね。でもどうして50%なの? 確か福音相手には30%で勝てたのよね?』
『大体50%ぐらいがルシフェリオンの攻撃を地球が耐えられるから』
『………そういうことね』
納得してくれたようで、俺は次の説明に移った。
『で、次は奪取したデータなんだけど』
『本当にルシフェリオンには驚かされたわ。まさかケーブルを通じてデータを奪えるなんて』
『俺も知った時には驚いたよ。特定の機械が無ければデータを閲覧できないし、その機械も俺しか扱えないから実質俺にしかデータを見ることができないしな』
……まさかあのアタッシュケースパソコンがそれだとはな。
『あの会議で何が揉めたかと言うとそれなんだよな。未だ試作段階のデータすら取ってしまったから、ルシフェリオンのデータをよこせとか言ってきて』
『……自業自得よね、それ』
『「別にいいじゃないですか。それともあなたたちに黒鋼以上の機体を作れるんですか? 複数の第三世代兵器が搭載されているのですが」と言ったら黙ったが』
『……もう涙目ね』
いやぁ、だって「あんな変人が集まる研究所が作った機体のどこが遅れているのよ!」とか言うから、ついイラッてきちゃって。朱音ちゃんは天使だし、そもそも本気出せば国を消し飛すだろうし……十蔵さんが。
『全く。あまり問題を起こさないでよ』
『でも結局俺が解決してるじゃん』
『………そ、それは……その……』
隣にいる楯無の顔を見ると、そのまま体全体が見えてしまい慌てて俺は顔を逸らした。
(…………ヤバいほど似合い過ぎてて目に毒だな、これは)
いつもと違い、露出が激しい服を着る同伴者。さっき「中にはスパッツを履いている」と言っていたが、そうとは思わせないほどの格好をしていた。
上は白いワンピースを着ていて、その上には水色のカーディガンを羽織っているためそれほど露出を感じさせない。さらに下はフラットシューズを履いている。
(ああ、もうヤバい)
絶対、こいつに対してこんな感情を持つまいと思っていた。
持ってしまったら同居なんかできない。毎晩毎晩馬鹿みたいに襲おうとすると思っていたからだ。
(どうしてこんなに可愛いんだよ、こいつ)
周りがテストだなんだと騒いでいる中、俺は楯無と一緒にモノレールに乗っていて、一人で悶々としていた。
始まりは十蔵さんの言葉だった。
「明日はテスト最終日ですが、二人で出かけてみてはどうでしょう?」
「え?」
IS学園のテストは一般の高校よりも長い。何せ一般科目だけでなく、ISに関する科目が学科5個と実践2個(機動テストと戦闘テスト)もあるからだ。……もっともそれは関連度が高いため、一緒にした方が便利且つわかりやすいが。
だがそれはあくまでも周りだけで、俺は難癖付けられるのを回避するため既に終わらせている。そのため、暇である。
(二人ということは、朱音ちゃんとかな?)
朱音ちゃんは今も中学生だが、それ以上に働かされている気がしなくもない。今は黒鋼の改修に着手してくれているが、俺としては雷鋼もあるし、いざとなればルシフェリオンも使うからゆっくりしてもらいたいものだ。
そしておそらく、彼女は俺よりも給料をもらっているがここは俺が出そう。日頃の感謝を込めて、身体的スキンシップと言えば聞こえは悪いだろうが、要はハグとか撫で撫でとかするつもりだ。
「わかりました。満足してもらうよう、心がけます」
「…おや、珍しいですね。てっきりあなたは「面倒なので大丈夫です。色々あったのでゆっくりします」と言うのかと思いました」
「テストが終わったら3日間の休みにテスト返却と終業式でしょう? こういう機会がなければ構うことができないのですから、利用させてもらいますよ」
「……まぁ、そういうことなら」
そんな感じで理事長直々に外出許可をもらった俺は、相手に失礼のないようにちゃんとした服装(ただし髪は少し切った程度で眼鏡はレンズが曇っていないのに変えたのみ)にして一時間以上前に来てレゾナンス周辺の店に行くと、しばらくして来たのは楯無だった。
……冷静に考えてみれば、あの人が俺と朱音ちゃんを率先してデートさせるわけがなかった。
しかも俺と楯無は同居中だし、準備しているところを思いっきり見られているわけである。さらに悪いことに、今ラウラは簪と本音の部屋に居候している。
(ヤバい。どうしよう……ネタがない)
会話が、出てこないのだ。
お互い黙り込んでしまい、モノレールから降りてもしばらく黙っていた。まぁ、あれだ。さっきまでプレイべート・チャネルで会議のことを話していたんだが、ある部分に差し掛かったので俺が会話を止めたんだが。
———だって重婚を認められちまったからな。ホント、マジでどうなってんのこの世界
「で、どこ行こうか?」
「決めてなかったの? あれだけ気合い入れてたのに……」
……こいつ、容赦なく触れてほしくないところに触れてきやがる。
まぁ、朱音ちゃんと出かけると勘違いしていた俺が全面的に悪いと言えば悪いのだが。ちなみに朱音ちゃんと行くのだったら、ホビーショップだな。
「一応、候補はあってだなぁ」
「じゃあ、どこに行くの?」
「………」
…服屋は着て来たものを否定するだろうからな。本人からそういうことを言わない限りアウトだろう。いや、俺の服を買うことを考えたら女として楯無に付いてきてもらうのもありかもしれない。
(まぁ、この容姿で服を買うことはないだろうけどさ)
悲しいことにもう成長は終わったのか、ここ一年で服のサイズが変更することはなかった。
「そういう楯無はどこに行きたいんだ?」
「……ホビーショップ。実は前々から行きたかったんだけど、噂ではIS操縦者の写真とかが売られているって話だから……」
そういえば、その辺りのことはあまり知らなんだよな。IS自体興味がなかったから。
でも楯無にもあのゲームの良さは知ってもらいたいし、いい機会かもしれないな。
「……じゃあ、いつもの所に行くか」
「そうね」
俺は内心恥ずかしく、同時に嬉しく思いながらいつもの店「オターズ」へと足を運ぶ。
そこは近辺ではかなりのプラモが分野問わず置かれている店なので、楯無の機体を意識するならば例のアレも置いてあるはずだ。
そう思ってすぐにそっちに向かうと、
「———あれ? もしかしてユアさんですか?」
どこかで聞いたことがあるトーンだと思って振り向く。どうやら記憶は正しかったようで、プラモコーナーには見覚えのある奴がいた。
「……もしかして、マス?」
「ええ。覚えていてくれたんですか?」
「そりゃあ、かなり精密となったルシフェリオンを振って壊そうとしたからな」
すると何かに蹴られた時のようなうめき声を上げるマス。まぁ、アバターネームなんだが……。
「初めまして、御手洗数馬です。実は友達もいまして―――」
「おい、数馬。誰と話して……あ」
「………バンダナカップルの片割れ?」
「アイツとは兄妹です!」
偶然だな。こんなところで再開するとは。同じところをテリトリーにしていると言っても、会う確率なんて低いだろうに。
「俺は五反田弾です。その、以前は妹が失礼なことを……」
「あぁ、別にいいよ。俺の………妹みたいなのが殺そうともしたし。君もここにってことはSRsに興味が?」
「はい! ……って言っても数馬はユアさんみたいに上手くはできませんけど……」
「いや、技術は自然と磨かれるものだ。数をこなしていれば意外に自分が納得がいく形に仕上がっていることが多い。むしろこういうのはたくさんアイデアを出してやった方が良い。方法は多少曲がってはいるが、そうしてルシフェリオンを作ったんだからな」
先輩風を吹かせてそんなことを言っていると、後ろからいきなり何かが突撃してきた。
それを受けた俺は数秒置いて後ろを向く。
「………楯無」
「もう、悠夜君。彼女を置いて何してるのよ。ナン―――」
「楯無。俺はいくら寛容でも、自分自身が(BLの)ネタにされるのは嫌いなんだ……わかるな?」
「うん。ごめん。だからちょっとこのアイアンクローを外してほしいなぁ……」
するならば、知らぬが内に、やってくれ。
心中で5・7・5を作っていると、気を遣ったのかマス…もとい御手洗数馬は俺に言った。
「す、すみません。彼女がいるって知らなくて……」
「いや、こいつは―――」
「いいのよ。見た目からして彼女とかいなさそうだもん」
「見た目通りビッチなお前がそれを言うか?」
———パンッ!
お互いがアイアンクローをしようとしていたのか、手がぶつかってしまう。
「それはどういう意味かしら?」
「そのままの意味だが?」
今にも喧嘩しそう―――しかし考えてみればある意味いつも通りな感じに戻っていると、奥の方から何かが騒いでいた。
気になって覗いてみると、どうやら大人の女が中・高生ぐらいの少年のプラモデルを壊しているらしい。会話の内容から「だから男はいらないのよ」とか聞こえてきたので、持ってきていた新型を出すことにした。
「悪いな、楯無。ちょっと行ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
しかし、よもや俺の前でこんなことをするとはな。精々、その女には犠牲になっていただくとしよう。
■■■
悠夜が新型のプラモを出して割って入っている時、五反田弾は恐る恐る楯無に声をかけた。
「あの、もしかしてロシアの国家代表の更識楯無さんですか?」
「……ええ。よく知ってるわね」
「そ、そりゃあ、動かしてそう期間がない人が国家代表になったって聞いてましたから」
会話は小声でしていることもあってあまり周りには聞こえていないが、楯無の容姿自体レベルが高いため徐々に周りは気付いていた。
「でも、確か今日までIS学園でテストが行われていますよね? 何であなたがここに……? それに確か彼も―――」
「うん。IS学園の生徒よ。私たちはちょっと事情があって先にテストを受けていたから休みなの」
そう説明すると弾は小さく「テストの日を選べるのかよ……」と呟く。
すると悠夜が姿を現し、楯無に「待たせたな」と言った。
「終わった」
「ああ。余裕過ぎて話にならない。ま、あの程度なら他の奴らの練習相手にちょうどいいんじゃないか? 弱いけど」
―――いくら新型とは言え、世界最強となった男を相手に完敗って普通じゃない?
数馬は内心そんなことを思っていたが、敢えて口にしなかった。
「……あ、あの……」
先程の少年が悠夜に声をかける。
「悪いな。もう少し早くこの辺りにいたら無事だったかもしれないのに」
「い、いえ。僕が弱かっただけですから……」
少年は小さな声でそう言うと、悠夜は少年の頭を軽く小突く。
「君はそのプラモデルを一生懸命作ったんだろう? それを天変地異ならばともかく勝ったからという理由で壊していい理由にはならない。それをやった向こうが悪い」
そう説明する様子を見て楯無は思った。
(………悠夜君って、基本的に世渡りは上手いわね)
年下には時に厳しく時に優しく、場によっては相手を褒めたり注意をしたり、さらに説明は基本的にわかりやすい。年上には(一部を除いて)しっかり敬語を使うが、それでいて下手に出ることはあまりせず、言いたいことはしっかりと言うことは多い。
(もし悠夜君が虚ちゃんと同い年でIS学園に来たら、どうなっていたかしら……?)
———自分も、簪ちゃんのように扱ってくれたかしら?
自分の顔が赤くなることを感じていたが、楯無は―――
「ねぇ、悠夜君」
「ん?」
「———私のこと、どう思ってる?」
———思い切って聞いてみた。
■■■
「悪いんだが、連絡先の交換したら今日は解散でいいか?」
「そんなに好きなんですか?」
「IS操縦者ってモテるんですか? 俺と変わってくださいよ!」
「御手洗の質問はノーコメントで。それと五反田、モテるのは織斑だけだ」
気が付けば遠い目をしていたらしく、二人から同情的な視線を向けられる。
「すみません。俺、軽率でした」
「いや、いいさ。でもま、多少はモテるかな……本気で人柄を見てくれる人だけだが」
そう説明すると、「うわぁ」とでも言いたいのか同情的な視線を向けるのを止めない二人。
「でも冗談抜きで殺されかけているからな、俺」
「それ、ホントなんですか?」
御手洗が気になったのか聞いて来るので俺は頷く。
「いやぁ、ホントホント。まぁ、今ではほとんどないけどな。で、悪いんだが……」
「あ、すみません。お邪魔でしたね」
「では、連絡先を教えてもらえませんか? あ、売りませんからね?」
「大丈夫。売ったら4年前みたいな哀れなメス豚みたいに社会的に抹殺してやるから」
笑いながらそう言うと二人は顔を青くしたが、とりあえず連絡先を交換して解散した。本人に呼ばれていることもあって俺は改めて楯無用のを選ぼうと返事をしながら振り向くと、
「———私のこと、どう思っているの?」
そんなことを唐突に聞かれた。
すると楯無は目の色と同じなんじゃないかと思ってしまうほど顔を赤くする。
(何でそんなことを―――まさか、今までのことを勝手に悔やんでいるのか?)
正直な話、これまで楯無の力を借りたことは一回しかない。ほとんどが俺は自分自身の力で解決したと思っている。……製作者がいたからってのは敢えて無視したらって話だがな。
(俺があまり話さないのは、嫌っていると思っているのか……?)
はっきり言おう。そんなことはない。
楯無は少ない時間を割いてまで俺にISのことを教えてくれている。それに正直な話、楯無だったら今の服はともかく普段は気が楽だった。
だからこそ、俺は正直なことを言った。
「今まで異性として意識しなかったわけじゃない。でもお前は、
すると楯無は顔からリアルに煙が吹き始める。
「ちょっ、な、なんてこと言うのよ!?」
「思ったことを言ったまでだ。ってか何だ、こっちまで恥ずかしくなってきた」
「それはこっちの台詞よ! ほら、さっさと選んでよ! 時間は有限なのよ!」
「……へいへい」
照れ隠しに八つ当たりして来る楯無を「可愛い」と思いながら、俺は先にアホの後を付いて行った。
■■■
悠夜と楯無が恥ずかしい漫才を繰り広げているのを、一人の女が離れた場所から見ていた。
その女性は騒がしいその場で唯一それの会話を聞いており、人知れず拳を握る。
「…………やっぱり……ムカつく」
誰にも聞こえないように小さな声で呟く。
「……許さない。……更識楯無…いや、
楯無の名前は世襲だが、当時もっとも有力だった楯無は幼名を隠して生きて来た。そのため知る者は限られていて、少なくともその女と同年代ぐらいで知っているのは虚と本音ぐらいである。
楯無の幼名を知る女は殺気を漏らさない程度に睨み、またひっそりと呟いた。
「今度会ったら、真意を聞き次第―――殺す」
ということで、いい感じに締めくくって一学期編を終了します。
今度からは夏休みですが、舞台は一時日本を離れて前々から考えていたことをしたいと思います。
慌しかった一学期が終わり、大半の生徒たちは帰省をしていた。
その一人であるセシリア・オルコットはたまたま立ち寄ったゲームセンターで一人の男性と出会うことになる。
自称策士は自重しない 第79話
「白銀の狙撃王子」
「図が高い雑魚を狙い撃つ!」