IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#55 特別技術開発局

 なんとか追っ払うことに成功した俺は、汚された部屋を片付けた。ちょうどいらないものもあったし、これを機にまとめて捨てる。

 そんなことをしていたら夕方になり、晩飯は朱音ちゃんと取ることになっているのでこのまま帰ることになった。

 そして俺は一度部屋に戻り、ラフな格好で轡木ラボに訪れる。そのまま朱音ちゃんの部屋に向かおうとすると、金属同士がぶつかりあう音がしたかと思うと、スパナがこっちに転がってきていた。

 俺は反射的にそれを受け止めると、作業着に身を包んだ男がこちらにやってきた。紫色の髪をしていて、朗らかな顔をしている。

 

「悪い悪い、大丈夫だったか?」

「ええ。ちょうど手前で止まったので」

「そうか。それは良かった」

 

 本人からは意外にも普通じゃない何かを感じるが、気のせいだろうか?

 

「って、君は二人目の男性操縦者!?」

 

 どうやら俺の存在を今気付いたようだ。

 すると何人かがこっちに気付いたようだが、何ともない風に作業に戻る。度々ここに通っているからか、俺の価値は落ちているらしい。

 

「ええ、まぁ」

「うわぁ。生で初めて見た」

「———ちょっとアラン! さっさと戻ってきなさい!」

 

 向こうから上司と思われる女性が叫んでいる。どうやらこれも日常茶飯事のようで、周りは「またか」という雰囲気で作業を再開した。

 

「……大変そうですね」

「ああ。アイツ、何かと理由を付けて俺を呼ぶんだぜ? 荷物運びとか、料理の味見とか。この前の料理とか最悪で―――」

「ア~ラ~ン~?」

 

 いつの間にこっちに来たのか、銀髪の女性がアランと呼ばれた男性の背後に忍び寄っていた。「女性」や「男性」とは言っているが、どちらも俺とそこまで年齢は変わらないと思う。

 

「ゲッ!? レオナ……」

「ほら、早く整備に戻るわよ。ごめんなさいね、桂木君。また休みの日に」

「……はい……え?」

 

 レオナと呼ばれた女性はそう言ってアランさんを連れていく。アランさんも文句は言いながらもそこまで不平を言っていないことから仲は良いのだろう。どこか二人が微笑ましく感じた。

 俺もとりあえずそこから移動して朱音ちゃんの部屋に向かう。後一度曲がればいいというところで男性が現れた。

 

「おや、あなたは……まさかこんなところで会うとは」

「……えっと、あなたは?」

 

 思わず尋ねると、彼は特に気にすることなく自己紹介を始めた。

 

「初めまして。私はリベルト・バリーニです。あなたは黒鋼の操縦者である桂木悠夜さんですね。任務中でも、あなたのご活躍を耳にしていました。なんでも、暴走状態のVTシステムをたった一人で倒したとか」

「それは黒鋼の出来が良かっただけですよ。俺の力ではありません」

 

 謙遜したつもりはないが、どうやらバリーニさんはそれをそうとったらしい。

 

「謙遜する必要はありませんよ。私もこの年でかなりの修羅場をくぐりましたからわかります。あなたには底知れぬ強さがある」

「………」

 

 一瞬、失礼ながらも「電波系」と思ってしまったが、何やら彼からは只者ではない気配を感じる。

 

「では、私はこれで」

 

 そう言ってバリーニさんは俺の横を通り、さっきまで俺がいた格納庫の方へと進んでいった。流石は只者が集まらない轡木ラボ。ああいうようなちょっとヤバそうな人が歩いていても不思議ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 格納庫に着いたリベルトは辺りを見回してから、目当てのものの方に歩く。目的地の周りには先ほどの二人―――アランとレオナがおり、ところどころむき出しになっている部分の調整をしているようだ。

 

「ゼクスの様子はどうだ、二人とも」

「ずいぶんと手酷くやられましたね。隊長らしくない」

「それほど相手の連携がうまかったんだ」

 

 レオナの言葉にリベルトは笑って答える。

 

「それって俺とレオナ以上だったですか!?」

 

 無邪気に尋ねるアランに対し、リカルドは「さぁ」と答えた。

 

「どうかな? ……と言いたいところだが、あいにくのところ向こうの方が強いだろう。もっとも、勝てるかどうかはアラン次第ということだが」

「いやいや、そんなことはないですよ」

 

 アランはそう答え、整備に戻る。

 リベルトが工具を持ち、アランがしている部分の近くの整備を始めた。

 

「先ほど、桂木悠夜と出会ったよ」

「俺たちも出会いましたよ。でもあの男が本当にあんな風になるんでしょうか?」

 

 アランの質問に対し、リベルトは笑いながら答えた。

 

「だからこそだろう。先程の彼は思いのほか隙がなかった。おかしいだろう? 私と違って彼は一般人だったはずなのに」

「でも、それって警察に殺されかけたとかでしょう?」

「おそらくね。だとしても楽しみだよ。いつか本気の彼と戦える日が」

 

 リベルトの雰囲気を感じ取ったアランはため息を吐き、彼の愛機―――ゼクスリッターの整備の手を再び進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 何故男の人が朱音ちゃんの部屋から出て来たのかはわからないが、とりあえず朱音ちゃんの部屋に行くことにした。しかし気のせいかな? さっきの人がどこかのウインドさんに似ている気がしなくもない。あの人がISに乗れるなら、問答無用であれを乗せたいⅠかⅢかは朱音ちゃん次第ということで。

 

(なんて冗談は置いといて)

 

 相変わらず無機質な廊下が終わり、その先のドアをノックする。するとドアが自動的に開き、中からスタンバイをしていたのか朱音ちゃんが飛び出してきた。

 それを受け止めた俺は、すりすりと顔を擦ってくるのをやめさせた。

 

「悪かったな。用事をすっぽかして」

「ううん。事情が事情だったもん。仕方ないよ」

 

 本当に彼女は貴重だと思う。織斑のところなんて理由を聞かずに即攻撃が当たり前だからな。その点、こっちはそういう心配はないからある意味恵まれているだろう。あと、どこかの妹みたいに無意識に鳩尾を頭突きされる心配はないし。

 

「そういえば、今日はラウラや簪も来ているんだよな?」

「かんちゃんは明日に本音ちゃんと出かけるから、その準備のため帰ったよ。それに荒鋼の場合、OSのアップデートだけだし」

 

 「黒鋼はいっぱいあるけどね」と言われたが、新たなるロマンのために時間がなくなっても構わない。

 

「で、ラウラは?」

「お勉強中」

 

 見ると、ラウラは朱音の机を借りて参考資料を見て必要なものをまとめているようだ。俺が入ってくる音にすら気付かないとは、かなりの集中力と言える。

 

「なるほど。デュ○ルという機体は距離を選ばないタイプのようだな。これを参考するのもありか」

 

 表紙から察するに、種系の資料を読んでいるらしい。ということはラウラがラボ製のISを持ってしまったら「びゃくしき~!!」とどこぞの銀髪ツンデレ隊長みたいになるのか。いや、なってたな。

 そんなことを思い出しつつ、俺は思わずラウラの頭を撫でた。

 

「に、兄様!? いつの間に―――」

「さっきだよ。にしてもすごいな。これ、全部朱音ちゃんの私物か?」

「う、うん。気分転換にって、師匠やお母さんが買ってくれたの。前の大会の時もこれを参考にした」

「へぇ」

 

 朱音ちゃんみたいなのなら、普通そこはぬいぐるみとかだろうに。まぁでもおかげで黒鋼や荒鋼があるわけだし、そういうことは言わないでおこう。別に「完全清楚」ではなくて「頑張っているけどダメダメ」とかの方が正直萌える。

 

「……変?」

「全然。今日日これくらいせずにISで強くなれるとは思わない方がいいだろってレベルだと思うし、同じ趣味を持ってる方が断然好きだな―――」

 

 すると朱音ちゃんは顔を赤くし、俺も俺であの時のことを思い出す。

 いやいやいや、クールになれ、桂木悠夜。高があれしきのことで顔を赤くするな―――って無理だわ。

 だが朱音ちゃんは空気を読んだのか、頭を振ってラウラに言った。

 

「じゃあラウラ、ちょっとお兄ちゃんと黒鋼の改造をしてくるね」

「わかった。すまないがもう少しこの参考資料を借りさせてくれ」

「いいよ。破かない限り好きに使って」

 

 そう言って朱音ちゃんはさりげなく俺の腕を掴んで格納庫の方へと出るドアを開ける。二人でそこを通ると階段を下った。

 

「じゃあ、黒鋼を展開して」

「わかった」

 

 第3整備エリアの中で黒鋼を展開すると、朱音ちゃんは投影されたディスプレイを操作して黒鋼をアームで固定し、コクピットドアをしている装甲を開く。降りて少し離れると、彼女は肩の装甲を機械で操作して解除した。

 

「今回は前々から考案していた装甲に変えるわ」

「どんなものなんだ?」

「ビームブーメラ―――」

 

 そこまで聞いていた俺は、あまりの嬉しさに思わず朱音ちゃんに抱き着いていた。

 

「お、お兄ちゃん!?」

「ありがとう………本当にありがとう!」

「ぶ、ブーメランを追加しただけでこのテンションなの!?」

 

 当たり前だ。ましてやアレだぞ? 色々重荷を乗せられた挙句、主人公なのに敵キャラでもはや持て余して放置されていた奴の機体とかむしろ俺得なんだからな。

 おそらく「デ」から始まるあの機体が専用機だったら似合わないキャラを演じている自信がある。

 ……なんとか冷静になった俺は、朱音ちゃんから離れることにした。朱音ちゃんはちょっと悲しそうにしていたが、これ以上はさすがに殺される。

 

「いやぁ、やっぱり嬉しい。あの攻撃、実は憧れてたんだよ」

「それだけじゃないよ。なんと飛行形態時限定だけど、突撃する時にAICを応用してバリアを展開できるように設定しておいた。これで飛行形態時に相手にタックルできるようになったよ」

「………そうか」

 

 脳内で家族宅急便を思い出す。最終的にはとんでもないことになるが、主人公の初期機体が飛行形態で突撃する様を見て「いつか俺もこんなことをしてみたい」と思ったことがあるが、そもそもIS自体に飛行形態は必要ないからできないと思っていた。それが、こんなところでチャンスに恵まれるとは。

 ちなみに本当は今すぐ朱音ちゃんを抱きしめたいレベルなんだが、さっきしてしまったので自重している。

 

「あと、換装パッケージが完成したからテストしてきてほしいの。かんちゃんも一応はできるけど、荒鋼だと機動強化型の「ロンディーネ」しか使えないの」

 

 ………確かにそうだな。

 俺の黒鋼と簪の荒鋼では少しばかり構造が違う。作った人間が違うのもそうだが、黒鋼は本来あの機体性能に上乗せする形で近接型パッケージの「シュヴェルト」、砲撃型パッケージの「ディザスター」、機動型パッケージの「ロンディーネ」を使用して、様々戦地を駆ける……という設定だ。

 言うなれば、俺はリアルを追及したけどさらに化け物を生み出してしまったわけだ。…………ホント、チートでしかないな。

 だが荒鋼は背部に大きな翼がある。黒鋼にもあるが、あれはあくまでも補助のようなものだ。

 

「なるほどね」

「それにどうせならばたくさんのデータが欲しいってのが本音」

「ははっ。まぁいいさ。これも黒鋼を貸し出した交換条件ってことで」

 

 そう言うと朱音ちゃんは笑い、二人で調整に入る。と言っても俺は荷物運びぐらいで大した役に立たないが。

 パッケージを乗せた台を運ぶために別個のガレージ内に入り、一台一台押し出す。そして渡されたマニュアルを見ながら調整に使うコードを指していくと、朱音ちゃんが投影されたキーボードを打っていく。

 

「———精が出ますね」

 

 さっき聞いた声の方を見ると、バリーニさんがこっちに入ってきていた。確かここは朱音ちゃん専用のドッグなので関係者以外は立ち入り禁止のはずだがな。

 

「リベルトさん、どうしたんですか?」

「いえ。こちらで作業音が聞こえたので気になって見に来てしまいました」

 

 そう言いながらこちらに歩いて来る。後ろには同じく興味からか、先程の二人が入ってきていた。

 

「あの~」

「すみません、技術長。私たちは下がります」

「いいよ。黒鋼は公開しているし、いずれ三人とも会ってもらおうとも思っていたし。お兄ちゃん、ラウラを呼んできてもらっていい?」

「わかった」

 

 朱音ちゃんの部屋に戻り、勉強中のラウラを呼んで戻る。

 

「ん? あなたは先程の」

「あれ? 知り合い?」

「ええ。兄様が来る前に朱音と少々打ち合わせをしていたようです。別室でしていたので内容はわかりませんが」

 

 まぁ、色々と事情があるのだろう。

 様々なことを経験してきた俺は、あまり深入りしないように考える。

 

「改めまして。私はこの特別技術開発局で副局長をさせていただいています。リベルト・バリーニです」

「私はレオナ・ボルツ。ここでテストパイロットをさせてもらっているわ」

「お、俺はアラン・バスラーです。技術員をしています」

 

 なんというか、対照的な二人だな。おどおどしているけど、ああいうのは絶対何かある。

 

「あとはかんちゃんを含めたメンバーで特別技術開発局なの。私は局長と技術長を兼任しているわ」

「へ、へぇ………」

 

 たぶん黒鋼を受領した時からなんだろうけどな。今まで自分がどこの部署にいるかなんて知らなかった。

 

「これからも会う機会があると思うから仲良くしてね」

 

 その一言に全員が返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突だったが顔合わせを終えた全員は、そのまま黒鋼の調整に入る。悠夜はアランが技術員ということもあって特に興味を持ったようだ。

 その隙に朱音は全員から少し離れ、自室に戻って机の引き出しからインカムを出す。すると―――

 

「久しぶり」

 

 目の前に現れた長い黒髪の少女に対し、朱音はそう言った。

 今、彼女の部屋は厳重にロックされており、誰も入れない状態になっている。

 

「その様子だと、心配していたことは終わったようね」

 

 少女はそう言うと朱音は頷いた。

 

「うん。なんとかお兄ちゃんにばれない様に誤魔化せた、と思う」

「たぶん大丈夫。彼とのリンクは完全に絶ってないからわかるけど、今はアランという男の方に行っているわよ。前々から技術員志望だったからそのせいかしら?」

 

 少女の言葉に朱音はムッとしたが、すぐに頬を擦って表情を元に戻した。

 

「でも、あなたも大変ね。本当に言いたいことを言えないなんて。ちょっと同情するわ」

「………でも、これは絶対に言えないよ。あの三人もお祖父ちゃんの部下っていうか、知り合いだし―――特にリベルトさんはお祖父ちゃんの懐刀だから信用して言ったけど………」

 

 途端に朱音の顔が暗くなり、それを見逃さなかった少女はため息を吐いた。

 

「何であれ、今は黙っておくべきよ。あなたがもう一つのコアを開発したなんてことは……」

「………そうだね。自分が女だから保身に走るためみたいで嫌だけど、しばらく黙っておく」

 

 とそこで朱音はふとした疑問を少女に尋ねた。

 

「ところで、どう? 新しいプログラムの方は」

 

 すると少女の周りにディスプレイが投影された。そこには様々なデータが表示されている。

 

「……順調よ。こちらでもミスがあり次第あなたに送信するつもりだけど、今のところは問題ないわね」

「良かった。何かあったらすぐに言ってね。お兄ちゃんには悪いけど、私にはあなたがいなければあんなことはできないんだから」

 

 そう、朱音はどこか寂しそうに言い、少女は朱音に対して優しく微笑むのだった。




次回はいよいよデート回。お待たせしました、みなさん!

できれば年内に後一回は投稿したい。

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