IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

53 / 160
前回のタイトルを変更して、内容をお送りしています。

それと活動報告にも書きましたが、展開の都合上、簪の機体名を「風鋼」から「荒鋼」に変えました。

もし変更していない個所があれば連絡してくれるとありがたいです。


#53 法律って、なんだっけ?

 悠夜が銀のリスを破壊している頃、千冬に呼び出されたラウラは二人で廊下を歩いていた。

 

「……その、何だ。桂木とはうまくやっているのか?」

「はい。一応は……」

「一応?」

 

 言葉に引っかかりを覚えた千冬。ラウラは頷くと、ため息交じりに答える。

 

「私は彼の物として―――従者として共にいます。……いるのですが……あの方がすべて家事を終わらせてしまうのです!!」

 

 ラウラが悠夜のものになって今日の午後10時30分でちょうど一週間になる。先週の翌日、ラウラはすぐに荷物をまとめて悠夜の部屋に移り住むことになったのだが、同時にある程度の荷物を持った簪と遭遇することになった。

 聞くと簪は「悠夜と付き合っているから一緒に住む」と主張し始め、楯無がそれに反論。最初は「三人がベッドに入ることは難しい」ということになったが、簪が「自分たちは小さいから問題ない」と言い張った。実際、胸云々を見れば簪はどちらかといえば低い部類に入る。悠夜は一見すればヒョロ高いのでラウラと簪と一緒に寝るのは寝返りを打たなければ問題はないかったが、楯無はさらに「荷物を置く場所がない」ということになったが、「もう一つの部屋に大半は置いているから大丈夫」と言う簪に、楯無は涙する。

 だがそれに対して反対したのは他でも悠夜だった。

 悠夜は特記事項の最終項「男女の同衾について」を出した。それは「例外を除き、男女の同衾の一切を禁じる」というもので、つまり悠夜と簪の同居は禁じられているということになる。おそらくこれを楯無が言えば簪に嫌われると思ったのだろう、悠夜が代わりにこれを持ち出す代わりにあること言った。

 

 ―――じゃあ、楯無がいない時の代わりに護衛に来てよ

 

 楯無は生徒会の仕事も兼ねているため、何度か帰ってこなかった時がある。

 別に悠夜はそれに対して何も思わないが、このままでは男女だけでなく友人関係にも支障をきたすと思った唯一の折衷案であり、「例外」を認めさせられる行為でもあった。

 それでなんとかおさまったが、ラウラにさらなる問題が降りかかる。―――同居人が優秀すぎるのだ。

 普段から朝の5時には起きてランニングに行く悠夜。同じくらいに起きて追跡する楯無。夜に走るタイプのラウラは寝耳に水(そもそも一夏を殺すことしか頭になかった)といことと、何よりも普段からきっちりしているラウラにとってそうそう時間を変えることは難しいのである。

 ちなみに悠夜はラウラが走っている間に勉強をしていることが判明したため、それに合わせようとするラウラは行動が遅れ、気が付けば夕食になっているのである。

 その実態を聞いた千冬は驚きを隠せなかった。

 

「………そうか」

 

 千冬も悠夜をなめているわけではない。暴走したVTシステムをたった一機で討滅した実力だけを考えても三年前の自分と肩を並べるかどうかというレベルを持ち、(少なくとも千冬にとっては)高等な交渉術、さらに容赦ない口撃を加えると、かなりの強さを誇る。それに加え、家事ができると聞くと、できない千冬にとって敗北感を感じた。

 

「では、私はこれで失礼します」

「……ああ。何かあれば言ってくれ」

「大丈夫です。彼の元で不満を感じることはそれくらいですから」

 

 ―――スパイまがいのことはしたくない

 

 そう言うかのように返すラウラに対し、千冬は何も言えなくなる。

 

 

 ラウラは千冬と別れた後、そのまま用務員館へと向かう。部屋に入ると、そこには菊代はおらず、十蔵と代わりなのか一人の少女がいた。身長は同じくらいで白衣を着ている黒鋼と風鋼をこの世に体現した少女―――轡木朱音である。

 だが朱音はすぐに机に隠れ、その様子を見ていたラウラに十蔵が説明する。

 

「すみません。彼女は私の孫なのですが、昔色々ありまして………」

「そうですか」

 

 ラウラは朱音に近づき机の下で震える朱音の頭をそっと撫でた。

 

「私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。よろしくな」

「………じゃあ、これを叫んで」

 

 持っていたらしいメモ帳にカタカナで「コイ、サンダルフォン」と書いてラウラに見せる。

 

「さ、サンダルフォン……?」

「ダメ。もっと感情をこめて。自分の手下を呼ぶように」

「わかった。……「サンダルフォン!!」」

 

 すると朱音の手元で音が鳴り、次のページが書かれたメモ帳に今度は「リア充は死ね」と普通に書いた。

 

「織斑一夏に対して恨みをこめて」

「…「リア充は死ね!」」

 

 再び朱音の手元で音が鳴り、朱音は満足そうに頷いた。

 

「そろそろいいですか、朱音」

「うん。大丈夫」

 

 どうやらそれでラウラに対して親近感が湧いたらしく、今度はラウラの後ろに隠れて現れたため、十蔵はどこか遠い目をしてラウラを見ていたがそれも一瞬のことだった。

 

「ところで、用とは何でしょうか?」

「はい。報告と提案を持ち掛けに」

「…提案?」

 

 ラウラが首をかしげると、十蔵は頷く。

 

「はい。ですがまずは報告を―――ラウラ・ボーデヴィッヒさんがドイツに置いてきた荷物はすべてIS学園に運ばれてきました。とはいえ、あまり衣類はないのと支給されたものでドイツ軍にとって都合は悪いものはすべて省かれていますが、その分はこちらで用意した銀行口座に入っている日本通貨を使用してください。明後日の日曜日は臨海学校前の買い出し日として自動的に学校側から外出許可が出ますので、その時に買いに行ってはどうでしょう?」

 

 十蔵はラウラに通帳とカードを渡す。お礼を言いながらラウラは受け取るとすぐに鞄の中にしまった。

 

「臨海学校ですか。となれば水着でしょうが、学校指定の水着で十分なのでは……?」

 

 その言葉に十蔵は噴き、朱音が止める。

 

「そ、それはダメだよ! そんなダサい恰好でいったらただでさえ命知らずのバカな人たちが笑うのは目に見えてるから、絶対に買わないと。それに、お兄ちゃん……桂木悠夜に嫌われるかもしれな―――」

「なんだと!? それは本当か?!」

「うん。お兄ちゃんはスク水は襲うために敢えて着せるものだって言ってたもん」

 

 瞬間、二人に気づかれないレベルで十蔵は悠夜に対して殺意を漏らす。

 

「そ、それでは次からの水泳に出れないぞ!?」

「じゃあ、ついでにお兄ちゃんと買い物に行ってどんな水着やコスプレが好きなのかを調べればいいんだよ。さりげなく、ね」

「そ、そうだな。手伝ってくれ」

「いいよ。じゃあ、土曜日に一緒に寝て―――」

「ちょっと待ちなさい、朱音。今一緒に寝るって―――」

 

 提案の方の話をしようとした十蔵は、朱音の口から出た「一緒に寝る」という言葉に突っ込んでしまう。

 

「お兄ちゃんと一緒に寝て、一緒に買い物に行くの。いいでしょ? ここ最近、まともに外に出ていないから久々に出たいの」

「それはいいが……まさか彼と何度かそういうことをしているのか?」

「…………おじいちゃん。一緒に寝るって言ってもそんなことをしないよ」

「そうか。そうだよな」

 

 朱音の言葉に安心する十蔵だが、次の一言で激怒した。

 

「抱き着いているけど」

「ちょっと用事思い出した」

 

 そう言って出て行こうとする十蔵に朱音は「冗談だよ」って言った。

 

「お兄ちゃんは私に手を出さないもん。むしろ床に寝るから無理やりベッドに押し込んで逃げないようにしないといけないの!」

 

 その必死さに十蔵はため息をつき、朱音に忠告する。

 

「いいか。確かに彼は貴重な男性操縦者だが、だからと言って襲ってくるようならば言うんだぞ?」

「大丈夫だって。その時はちゃんと16歳になってからにするから」

「いや、そういう問題じゃないんだが……」

 

 業を煮やしたか、それともそろそろ止めるべきと判断したのか、ラウラは会話に入ることにした。

 

「それで、提案とは……」

「ああ、すみません。実はその提案はですね。我々轡木ラボに入所してもらおうと思うんですよ」

 

 その言葉にラウラは驚きを隠せなかった。

 

「つ、つまりそれは………」

「はい。それは我々と共に桂木悠夜を―――そしてこの子を守ってほしいのです」

 

 そう言って十蔵は朱音をラウラに近づける。さっきのことで朱音がすぐにラウラに近づき、抱きしめた。

 

「ただ、一つ聞かせていただけませんか? 先程の言葉で兄様―――桂木悠夜も含めていましたが―――」

「それに関しては今はお答えできません」

 

 その言葉が纏う空気を感じ取ったラウラは口を閉ざす。

 

「ですがいずれあなたも知ることになりますよ。彼と共にあるならば」

 

 その言葉を最後に、二人は契約の話に移るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとも酷い目にあった。

 あの後、話したくもない女と夜遅くまで会話しないといけないし、そもそも現状ではラウラがいるから女には困っていないのに、どうして俺がそれ以下の奴らに手を出さなければならないのか? 胸事情? 同居人がデカ乳ですが何か?

 そう。つまり今では女に対して何一つ不自由していない俺が、銀のリス以外であそこに来る理由はないし、現場検証に連れ出して確認したところ、台を用意して大体の位置に頭を近づけた織斑先生でも顔だけを覗かせていた篠ノ之の顔しか見ることができず、ましてや乳なんて見えることはなかった。

 それほどイライラしていたからであろう。眠るのは遅くなり、朝起きたら6時半だった。

 そんな少し遅めに起きた俺に一通のメールが届いていた。朱音ちゃんから、「今日の放課後、集まるように」ということらしい。

 

(明後日から行われる臨海学校でのテスト試験の装備を先に量子変換(インストール)するため、か。そいつは楽しみだ)

 

 今度はどんな武装が来るだろうか。どんな「トンデモ」だろうが「ゲテモノ」だろうが、すべて使いこなしてみせる! というか、使いこなさないと意味がない! 主に俺の存在意味が!

 

 楽しみにしすぎているせいか、その文面を見ていると横のベッドから指摘が入った。

 

「………随分と楽しそうね、簪ちゃんとのメール」

 

 かなり不機嫌そうな顔をする楯無。どうやら俺が笑っている理由をそっちと勘違いしたようだ。

 

「朱音ちゃんだよ。放課後、武装をインストールしたいから来てくれって」

「…それがどうしてニヤニヤすることになるのよ」

「だって朱音ちゃんは黒鋼の全機能を再現してくれているんだ。武装に期待してしまうのは当然だろ」

 

 もっとも、黒鋼には本来「アイゼン・パッケージ」という某分の悪い賭けが嫌いじゃなく、悪運が強い孤狼の機体をパッケージ化したものがあるのだが、それはすでに《デストロイ》と《リヴォルブ・ハウンド》、そして予定外だがヘッドギア《ヒートヘッドギア》で再現されている。ガトリングは《アイアンマッハ》あたりで代用すればいつでも切り札を切れるわけだ。

 

「それだと、まるで朱音ちゃんの技術だけが頼りじゃない?」

「………お前にはわかるまい。少し踏み込んだことがばれたらすぐに命が刈られるかもしれない恐怖を」

「なんか、ごめん」

 

 あの時のことすら実は許しておらず、今度踏み込んだら間違いなく死ぬかもしれないという恐怖を感じているのに。度々泊まっているが、俺からはしないようにしている。いやぁ、可愛いんだよ。そのまま押し倒しそうになるほど理性が崩壊しかけるんだよ。それで襲わないヘタレさよりも我慢して最後の砦の頑丈さを評価してもらいたい。

 

(そう考えると、いつも平然と一緒のベッドに寝ているラウラは貴重だな)

 

 そう思いながら俺はラウラの頬を軽くなでると、見ていられなかったのか楯無がテレビを点けた。

 

「え!? 悠夜君、ちょっとテレビ見て!」

「? 何なんだ、一体―――」

 

 言われながら俺は首をテレビに向けると、何故か俺のことを特集しているようで―――

 

「………「二人目は預言者? 自分がISを動かせることを前々から知っていた」? ………あ」

 

 心当たりが一つあったので思わずそんなことを言ってしまう。

 

「どうしたの?」

「いや、まさか………でもあり得ないだろ、そんなの」

 

 ということは、何故か俺のパソコンが勝手に調べられていることになる。

 そもそもあれは憂さ晴らしで書いたもので、設定はグチャグチャ。挙句あれは明らかに「インチキ」というか「異次元」というか、ともかく冗談半分で書きなぐったものでしかない。

 

「何か心当たりがあるの?」

「………まぁ、一応」

 

 親父は全部持って来たと思っているようだが、実のところパソコン周りは持ってきてくれていない。必要ないと思ったのか、代わりにノートパソコンは持て来てくれているのだ。………たぶんだが、いつもみたいにテストタイプ。

 

「いや、昔さ。虐められていた時につい「この設定ならアリじゃね?」って感じで小説を書いたことがあるんだよ。二人の男性IS操縦者が現れて、一人はイケメンで大金持ちで運動神経がいい、所謂なんでもできるタイプで、もう一人は容姿、運動、勉強すべてダメで、ISを動かしてもまともに動くどころかすぐに落下するっての」

「………織斑君のところはお金持ちってわけではないけど、確かにそれなりには合っているわね」

「実際、プロローグだけを書いただけだぜ? 散々虐められて、何度も撃たれて、そしたら目の前に神々しい巨大ロボ……って言っても一般的なリアルタイプの20m前後のものだけど、それを動かして誰も助けてくれなかったIS学園をはじめ、自衛隊、IS委員会、そして女権団本部、そして鎮圧に来たISを操縦者ごと破壊するっていう」

 

 ちなみにその虐められた人間には多少周りを巻き込んでちょっとした仕返しをしてやった。

 

「……まぁ、なんというか………」

「災い転じて福を成すっていうか、棚から牡丹餅っていうか、それを引用してゲーム大会に出たら世界大会で優勝したんだけどな」

「それは凄いですね」

 

 いつの間に起きたのか、ラウラはパジャマ姿でそう言った。

 ちなみに彼女は最初、素っ裸で寝ていたのだが楯無のお古をもらってそれを着ているため、少しダボダボの服を着ている……それがさらに可愛さを引き出しているんだが。

 

「おはようございます。兄様。更識楯無」

「ラウラちゃん。私のことは「お姉ちゃん」でも―――」

 

 するとラウラは楯無を睨み、俺に抱き着いて来る。

 

「パジャマのことは感謝するが、それとこれとは話は別だ」

 

 楯無はしょんぼりとなるが、俺の興味は既にテレビに向いていた。

 今では黒歴史の設定資料やモデルの絵が平然と公開されており、俺のボルテージは溜まる一方である。

 

「楯無。外出許可をくれないか?」

「………もしかして、誘っているのかもしれないわよ? 罠という可能性は捨てきれない」

「……だとしてもだ。一度家に帰った方がいいと思ってな」

 

 自分の家に帰るだけでも罠の可能性があるだなんてな。正直困る。

 

「……わかったわ。すぐに十蔵さんに掛け合ってみる」

「頼む」

「私の分もだ」

 

 どうやらラウラも行く気らしいが、正直ラウラはまずいと思う。

 現在、ラウラは限定的な「自由国籍」保持者となっており、宙ぶらりんの状態だ。仮にもドイツで代表候補生、そして軍人をしていた彼女が外に出るなど危険すぎる。せめて武装携行の許可を得てから―――

 

「……悠夜君はともかく、ラウラちゃんはわからないわ。一応学園内では「桂木悠夜の身内」ってことで通っているけど、学園からしてみれば「外国」になる日本をそう簡単に歩かせるわけにはいかないわ」

 

 「明日は別だけどね」と続ける楯無の言葉に、ラウラは不服そうな顔をした。

 

「悪いな、ラウラ。明日ならともかく今回は遠足みたいなものじゃないから」

「………わかりました。だが、できるなら頼む」

「わかったわ。それとこれは、十蔵さん経由で朱音ちゃんに伝えてもらうことにしましょう。納得はしてもらえると思うけど、念のためね」

「……そうだな」

 

 何はともあれ、平然と流出している個人情報を止めなければならない。それと、あの機体がIS扱いなのは個人的なプライドとしてかなり困るからな。




次回予定(予告じゃない時点で察してください)

唐突の帰京を果たすことになった悠夜。そこには意外のようなそうでもないような人たちが待機していて……。

自称策士は自重しない 第54話

「別れを告げた地へ」

そこで少年は、新たなる出会いをする。




ということで久々の更新です。大体、これがいつも通りだったり。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。