IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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タイトル詐欺感、拭えない。


#52 銀のリスを探せ

 HRが終わると同時に俺は部屋へと直行した。ケイシー先輩に貸したノートと古語辞典がなくなったのと、入学したての頃に比べて筋肉が増えたのでその分早くなっている気がする。

 それはともかく、俺は部屋に入るとすぐにロリババアが持ってきてくれた工具を出して分解しにかかる。まさかこんなところで親父の脱走した機械を処理することになるとは思わなかった。幸い暴走する恐れはなさそうだし、分解に時間はかからないだろ―――

 

 ———コンコンコン

 

 いざ、分解と思って捕獲していた銀のリスを再び籠に戻し、音がする方へと歩む。

 カーテンを開けると、そこには先程から窓を叩いているリスがいた。しかも銀色。

 

(…………あの野郎)

 

 窓を開けてるとリスは中に入ろうとするので掴む。さっきから嫌な予感がするのでババアが持って来たものと親父が持って来たものをまとめた箱を漁った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ———おかしい

 

 一言で言えば「機械だらけの地下室」と言える場所。そこで束とあるモニターを見つめていた。

 

「何でかなぁ~」

 

 そう言いながらも常人を軽く超えるほどのスピードでキーボードを打つ束。彼女の周りには何体かの銀のリスが束に集まっているが、それでも彼女はまだキーボードを叩いている。

 空中に投影されている画面はIS学園の一部分で、そこに赤い点があるが、ある一点の場所で反応が消えている。

 

 ———時間帯、場所、どちらも悠夜が奇しくも銀のリスを捕縛した時と場所を示していた

 

「事故? でもIS用装甲でできているし、故障なんてあり得ないし………」

 

 そう。悠夜が父親の修吾が作って悪戯で開放したと思っている銀のリスは束が作って悠夜をはじめとする彼女の妹―――箒の障害となるであろう人物を監視するために解き放っていたのである。

 普通ならばステルス機能が備わっているリスたちが見つかることがないのだが、悠夜が見つけられたのは彼がかけている眼鏡が原因だ。

 

「………何かいる?」

 

 だが、その思考はすぐに「箒ちゃんが危ない!」に変わり、彼女はIS学園の全セキュリティーシステムのハッキングを開始した。

 そちら意識を裂き始めたからだろうか、彼女は学園にいるリスが捕縛され始めていることには気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「見つけた!!」

 

 俺はすぐさま持っていた網でそれをひっかけ、捕縛する。さっきから周りが俺の方に変質者でも見るような目で見てくるが、雑魚に構っている暇はない。

 小さな動きで素早く網を右から左に振るうが、捕まえられたのは一匹のみ。もう一匹は上手く回避したようだ。

 

「逃がすか!」

 

 ホルダーから拳銃を取り出し、どこぞの狼系スーパーパイロットの如く移動先を読んで引き金を引く。先端にサイレンサーが付いているからそこまで大きな音は出ず、弾丸が走った。

 リスは紙一重でかわすが、電流が走ったようにビクビクと震えて倒れる。

 今放った弾丸は特別製で、名前は「ニードルエレキトラップ」というらしく、半径50㎝以内にいる動くものに対して容赦なく針を伸ばして捕え、電流を走らせる。説明書によると、動く機械に対しては波長を乱す電波を流しているらしく、それで動きを止めているようだ。

 

(さすが親父が作ったものだな)

 

 安全設計で作られていて、発射された位置から後ろは攻撃しないようにできているらしい。なので撃つ時は先頭にいる奴が撃たないといけないし、撃つ時は仲間は下がらないといけない。

 二匹目を回収した俺はそれを伸縮可能の捕縛用の網に入れる。するとガサガサと音を立てたのでそっちに銃を向ける。

 

「……何をしているんだ、お前は」

 

 森の中に入るためか、白いジャージ姿をしている織斑先生が現れた。対して俺は標準装備の眼鏡に動きやすい様に特殊な加工をされているズボンに、上は夏用ジャージ(私物)だ。

 

「親父が悪戯で銀のリスをバラまいていたからその回収をしているんだよ。まったく、他人の迷惑を考えろっての」

 

 数年前に大変なことをした俺が言うのもなんだがな。もっともあれは向こうからしたことだから非は向こうにあると思っている。

 

「………桂木も、苦労しているんだな」

 

 と、何故か真剣に同情され始めた俺は、思わず真剣に言ってしまった。

 

「ちょっと先生。そんな真面目に言われたら正直引いてしまうんですが……」

「いや、なに。私も似たような経験をしているからな」

「あー、もしかして篠ノ之束ってやつでしたっけ?」

 

 そう返すと、何を思ったのか今度は心配そうに俺を見てくる。

 

「………テストに出るぞ。小テストの成績を見る限りは上位に食い込めるだろうが、大丈夫か?」

「俺の心配をする前に電話帳と間違えて参考書を捨てるあなたの馬鹿な弟の心配でもしてはどうでしょう」

「………確かにな」

 

 どうやら姉もその辺りに不安要素はあるようだ。だったら個人的に教えればいいのに。とはいえ織斑先生は堅物だろうからそんなことはしないと思う。

 

「で、お前が言う銀のリスとやらはどんな形をしているんだ?」

「………え?」

「別に見返りを求めているわけではないぞ。教師として、生徒が困っていることを解決することは当然だろう?」

 

 正直な話、その辺りのことは全く信用していないが……まぁ、いいだろう。この女と付き合うという点でのメリットは「入れ替われないレベルで強い」ということだしな。上には上がいるが、その上もロリぐらいなものなので問題はないと思われる。

 

「ほら、こういうのだよ」

 

 網の中から一匹(?)取り出して見せると、織斑先生は訝しげに俺を見た。

 

「ふざけているのか? 何もいないだろう」

「………はい?」

 

 ふざけているわけではない。俺の反応で気付いた織斑先生は「まさか」とつぶやき、

 

「少しその眼鏡を貸してくれないか?」

「……いいですけど」

 

 本当は貸したくないけどね。

 一度リスを戻し、賭けている眼鏡を渡す。すると織斑先生は顔を引きつらせた。

 

「……桂木、この件は私に任せてくれないか? 悪い様にはしない」

「お断りします」

 

 眼鏡を素早く回収し、眼鏡をかける。

 おそらく彼女はこのリスのことを知っているのだろう。つまり、これはちょっとヤバいものなのかもしれない。

 だが冷静に考えてみれば、何かレアなものが手に入るかもしれない。

 

「では、これで」

 

 俺はすぐにそこから離脱。いくら織斑先生とはいえ俺の逃げ足には付いてこれまい。だが―――

 

「待て、桂木!」

 

 ………いやいや、ちょっと待て。俺、今いるところは木だよ? だけど何で付いてこれてるの?

 

「いいか! それを今すぐ渡せ! こちらで処分する!」

「ふざけるな! それはこちらの仕事―――ってか使える材質があるのにみすみす手放せるか!」

 

 本音を言うと、せっかく良質なアクセサリをこんなところで奪われてたまらない。何せグレードを下げるようなことをしているのだから、少しでも優秀な装甲が欲しいんです!

 

「ざ、材質?」

「そうだ。せっかく新しい(プラモ)ロボを作ろうとしているのに………こうなったら―――」

 

 俺は閃光弾を出して織斑先生に向けて投げる。彼女がそれを叩き落そうとした瞬間に光り、その機に乗じて俺はそこから離脱する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(くそっ! 逃げられたか!)

 

 ダンッ―――と千冬は近くの木を殴る。

 彼女がここまでする理由は純粋に悠夜のことが心配だからだ。何故なら今悠夜が捕まえているリスは悠夜の父―――修吾が悪戯で放ったものではなく、あれは束が監視用に放った銀リス。千冬にとって危険そのものであり、処分するべきものであると思っているのである。

 

(ともかく、なんとかして桂木からあのリス共を回収し、処分しなければ………)

 

 彼女にとって生徒の評価に興味がない。小さい頃は破天荒な束とつるんでいたことから「変人」や「いい子」という評価が付き、中学生になってすぐに剣道で全国優勝を果たしたことで「生意気な後輩」といじめられかけたが剣で返り討ちにし、高校ではモンド・グロッソで優勝したことで周りから(彼女にとって戸惑う相手でもある)ファンやスポンサーなどに集まられたことで、自分の周りに人が集まることに慣れていた。むしろ、彼女にとって悠夜のように対等に渡り合おうとする人間は新鮮だった。

 

(……やっぱり、似ているな)

 

 千冬は足を止めてそう思う。彼女の脳裏には悠夜とは違う男の顔が浮かんでいた。

 

(……一度問い詰めてみたいが、ともかく今は桂木を止めるか)

 

 その持ち主であろう束と連絡を取ろうとした千冬だが、それをすれば何らかの形で悠夜の存在を知り、排除するかもしれないという疑念が出てきているためすぐに却下。やはり自分で止めることに決めた千冬は真耶に連絡する。

 

「山田先生、桂木を探してもらいたいのですが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、勘違いに勘違いが混じった状況で箒の携帯電話が鳴る。

 彼女は二つの携帯電話を持っており、一つは政府から支給された物、もう一つは差出人不明の物だったが、唯一登録されていたのが束だけだったので誰が送った来たのかすぐにわかった。

 

「………一体何なんだ?」

 

 箒は小さい頃、しばらく政府に管理されていた束が脱走したのがきっかけで重要人物保護プラグラムが適用され、剣道の試合を欠場をすることになっている。それから携帯電話以外の一切の音沙汰がなかった束とは疎遠となり、接するのが怖くなっていた。

 

「……何ですか?」

『箒ちゃん。今私が念のために放っておいたロボットが次々と倒れていて、そっちに向かってるから今すぐそこらにいる雑魚を盾にして逃げて』

 

 それだけ言って電話を切る束。今日は箒の周りに誰もおらず、箒自身も訓練機を借りられなかったことから一夏たちとは別行動を取っている。久々に来た剣道場は箒に対して戸惑いを見せたが、表面だけはいい顔を作り受け入れてくれた。実際は部活動が強制されているIS学園でも放課後のIS訓練があるので全員が毎日来ない部活でも、一人目の男性IS操縦者というイケメンに構ってサボり続けている箒に対していい感情を見せていない。

 現在は部活が終わり、剣道場の奥にある更衣室で着替えていた。

 

(………千冬さんに聞いてみるか)

 

 これまた何故か入っている千冬の番号にかけると、数回コールして千冬が出た。

 

『篠ノ之か。ちょうどいいところにかけてきてくれたな』

「………?」

 

 箒は嫌な予感がしたが、首を振って聞くことにした。

 

「どうしましたか?」

『実はな。あの馬鹿のおもちゃが学園中にばらまいていたんだが……』

「あー……」

 

 千冬が何を言おうとしているのか察した箒は顔をひきつらせた。

 

『それでだが―――』

「きゃ―――!?」

 

 言葉を遮るように更衣室内で悲鳴が上がる。

 

『な、何だ今の悲鳴は―――』

 

 千冬の声を遮るかのように箒の周りから次々と悲鳴が上がる。すると、箒の尻にも何とも言えない感触が襲った。

 

(!? な、何だ!?)

『おい! 一体何がどうなっている!?』

 

 千冬が聞こえるが箒にとってそれどころではない。

 

「すみません! また後でかけなおします」

 

 そう言って箒は電話を切り、次の感触が襲うまで嫌だが我慢すると、彼女の近くの小窓から音が立つと同時に自分の胸に何かが乗った気がした。

 音がした方を見ると、窓には手が見えている。さっきから鍵を開けろと言わんばかりに鍵を指していた。

 箒は大人しく開けると、そこから男の声が聞こえる。

 

「親切にどうも。一つ聞きたいんだけど、銀のリスって見なかった? 実は結構近くに反応があるからもしかしたら中にいるかもなんで……入らせてもらっていい?」

 

 その声の主は視線を外しており、中を見ないようにしている。

 

「……桂木、貴様、こんなところで何をしている?」

「いやぁ、最近溜まりに溜まっているから久々に発散したいと思っているところにちょうどいいのがいて、それを使おうとしているんだけど………え? 篠ノ之―――」

 

 箒と気付いた悠夜は思わず顔を上に上げると、さっきまで着替えの途中だったからか半裸の―――少なくとも上にはブラジャー以外何も付けていない箒と視線が合う。もっとも悠夜がいる位置と箒のいる位置の高さは違い、内部が高く設定されているので悠夜からは箒しか見えておらず、今の状態なんて知りもしない。

 

「………何故、こんなところにいる?」

「………」

 

 今、悠夜の中である思考を巡らせていた。

 

 ———こいつ、確かものすごく馬鹿で自分が正しいと思っているタイプだよな?

 

 悠夜も人のことを言えないが、少なくとも「正しいことを言っても信じてもらえるか」を考えており、そのために返事が遅れた。それもあるが、何よりも銀色のリスは悠夜以外には見えないので、内部でトラブルが起きていれば経験上、悠夜のせいになりかねないのだ。

 やがて「正直に話そう」と思った悠夜は説明した。

 

「銀色のリスを追ってきたんだよ。そいつが出す波長パターンからここに一体いるって知ったからみんな出てもらって捜索させてもらおうと―――」

「………ほう」

 

 だが、箒は明らかに悠夜のことを警戒していた。

 というのも先程から彼女は悠夜が言った「溜まっている」という言葉に違和感を感じており、恋愛をしていることもあって「成人指定の方を指している」と勘違いしている。何よりも―――

 

「異性の更衣室を荒らそうとは、良い度胸だな貴様ぁ!!」

 

 今の箒———そして後ろにいる女たちは先入観で既に悠夜を悪と決めつけていたため、人の話を聞いていなかった。

 既に着替えている女たちは制服姿のまま移動しており、出入り口から悠夜のところへ囲むように現れた。

 

「………えーと……つまりこれって、怪我を負う覚悟はできているって認識でいいんだよな?」

「黙りなさい、覗き魔。大人しく連行されなさい!」

 

 一人が悠夜に対してそう言うと、悠夜は頭に手を置いて「やれやれ」と言った。

 

「観念したわね? 今よ!」

 

 一人が飛び出すとそれに続いて武闘派―――主に女尊男卑思考を持つ女たちが飛び出すが、悠夜はすかさずライターを出して持っていた爆竹に火を点けて投げた。すると音が鳴り響き、襲ってきた生徒の一人がやけどを、また別の生徒の竹刀に火が点いた。

 

「卑怯よ、あなた!」

「忘れているようならば教えてやる。()()()()()()()()()

 

 ———男は以前強かった。故に女は従い、いつしか男は「女に手を出してはいけない」という風潮が現れた

 ———しかしそれは昔のこと。今は女は強い。男は守られる立場にある

 

 偏った考え方だと理解している悠夜だが、その考えを変えることはない。

 

「大体、俺は俺の理想を求めて駆けているだけで、お前らの更衣室を荒らして下着を盗もうなんて最初から思っていないさ」

「り、理想? でも、どうせエロいことでしょうが!」

 

 好戦的な一人に対して悠夜は鼻で笑う。

 

「やはり今の女というものは愚か極まりない存在だな。俺の理想は常に一点のみの究極の最強。果てしない理想。その体現でしかない。今やそれを現実とできる装置があるのに、思春期にかまけて女の恥部を追いかけるなどまさしく愚の骨頂でしかない! 我が理想すら体現できないものに身を捧げ、威張る愚者共が、我が道を阻むな!!」

 

 勢いとノリで中二病を発病させながら述べる悠夜に対し、あまりの真剣さに女子たちは箒も含めて委縮する。その隙に悠夜はその包囲網を抜けると、入れ違いに千冬が現れた。

 

「………なんだ、この騒ぎは」

 

 そして剣道部員に事情を聞き、ため息を吐いた千冬は悠夜を呼び出すが無視され続ける。結局、千冬が疲れていながらも幸せそうな顔を浮かべながら帰ってくる悠夜を午後6時ぐらいに捕まえ、銀のリスについて交渉をするのだった。




というわけで第52話、終了しました。
実はこの話自体にあまり意味はなかったりしますが、どうでもいいレベルの伏線になっていたりします。

それと最近、バイトが忙しくなったので更新が遅れます。リアルは大事にするタイプなんですが、命は大事になりそうです。




次回予定(予告じゃないことで察して)

悠夜が銀のリスを探している間、十蔵に呼び出されたラウラは用務員館に呼び出されていた。

自称策士は自重しない 第53話

「歓迎しますよ、ラウラさん」

とりあえず、疲れは溜まる一方ですby reizen

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