IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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長らくお待たせいたしました。第三章、開始です。


第3章 降臨するのは中二病
#51 女性観察は普通、失礼にあたる


 たくさんの閃光———実際は弾丸だが、それらが俺に向かって飛んでくるが、それよりも俺が駆るバイクがその場を早く通過する。これは俺のテクではなく、純粋にバイクの機動性が高いからだ。普段は普通二輪の法廷速度を守っているが、本気を出せばそれくらい余裕で越える。

 これは中学の間にバイトして得た給料と世界大会に優勝した時の資金を銀行に預けず、家にある親父が誕生日にくれた超頑丈の金庫の中にコツコツと入れておいた金で免許を取得したお祝いとしてくれたものだ。

 

「今だ、行け!」

 

 坂道を瞬間時速500㎞を出して駆け上がり、上へと飛ぶ。跳ぶんじゃない。飛ぶんだ。地面から離れた瞬間、俺は声を大にして叫んだ。

 

「ペガサスモード!」

 

 色合いからしてダークペガサスといったところか。漆色の翼を展開したバイクはそのまま空を駆け、飛んでくる銃弾を回避し続ける。

 一体どういう原理で飛んでいるのかはわからないが、少なくとも俺の意志通り飛んでくれるようだ。おそらくだが、今俺の頭についている二つの黒いピンが俺の思考を読んで動いていると思う。「バイクを乗るときには頭にピンと付けろ」なんて言われた時に「何言ってんだ、このおっさん」と思ったが、今は盛大に感謝したい。

 保育所を超えてその先にある工事現場に向かって着地する。メーターを見たら既にメモリが「E」に近づいているからだ。昨日エネルギーをチャージしたばかりなのにこんなに減っているのは空を飛んでいると思ったからだ。

 

 ———だが、その選択が間違いだった。

 

 着地した俺はそこから逃げるために道路に出ようとすると、大きな警察車両が現れて行き場を遮る。もう一度飛ぼうにも、エネルギーが残り少ない。

 

「退いてくれ! 俺は追われているんだ!!」

 

 だが一向に退く気配がない。なんとか隙間を見つけて離脱しようとしたが、警察車両からドラマで見る機動隊員が現れた。

 思わず俺はUターンしてそこから逃げる。すると一台の車両がこっちに俺を引こうとするので回避する。

 

「そこの男! 今すぐ死ね!」

「———は?」

 

 理解できなかった。いや、たぶんしようとせず、心のどこかで助けてくれると信じていたのだろう。

 だけどそんなことはなく、一発のミサイルがこっちに飛んでくる。

 爆発音を最後に俺の体は吹き飛んだ―――だがそれを否定するように背中に衝撃が走り、ゴロゴロと転がる。恐る恐る目を開けると、機動隊員が俺を囲んでいて、おそらくボスと思われる女性がこっちを睨んでいた。

 

「しぶといわね。まるでゴキブリみたい」

 

 ———ふざけるな

 

 そう叫びたかったが思いとどまる。幸い軽傷だったようだし、もう一度バイクを起こして逃げようと考えて無事を祈って辺りを見回す。いつできたかわからないクレーターの中を探すと、そこには俺の愛機《ダークペガス》と思われる残骸が横たわっていた。

 

「銃を貸しなさい。今すぐ彼を殺すわ」

「ですが、相手はまだ子供です!」

「関係ないわ」

 

 上でそんな会話が聞こえていたが、そんなことはどうでも良かった。ただ警察が憎くて、殺したいと思った。

 

 

 

 

 

 だが、それは夢だ。いや、正しくは過去だろう。

 蒸し暑さからか、俺は薄っすらと瞼を開く。いつも通りの自室。さっきのようなものは何もない。

 

(………またか)

 

 正直な話、あれ以後の記憶はリーダーと思われる女が俺に向けて発砲した辺りからなくなっている。生きているということは俺に当たらなかったということだろう。ちなみにあの後、ホテルで軟禁されていた。

 

(…ってか、寝汗がすごいな)

 

 全身から汗が出ている。が、考えてみればこれはさっきの夢だけが原因ではないんだろう。

 

(……ラウラはともかく、何で簪がここにいるんだよ!?)

 

 ラウラは俺の所有物(学内では俺の義理の妹)となったが、簪は別だ。何故か学年別トーナメントで優勝したからと言って俺と付き合うことを堂々と宣言したのである。さらに言えば本音もだが、その辺りのことはしないのか簪のように室内に侵入するということはない。というか楯無、一応お前の仕事って侵入者の排除だよな?

 そう思いながら楯無を見ると、「もう、簪ちゃんったら」と寝言を言いながら掛け布団を丸めて抱き枕にしているが、それに頬をスリスリさせている。どこぞの電気ネズミをはじめとする電気タイプの生物共とは違って麻痺することはないが、あまり耐性がない俺にすれば間違いなく麻痺状態となるだろう。

 現実逃避をしながら時計を確認すると、時刻は5時を少し回ったところだ。丁度いい時間だし、夏仕様のジャージに着替えて外に出た。この時間でも何人かは既に廊下をうろついているのは、俺と同じで走りに行ったり自主練に行ったりするからだろう。中には俺と同じように木刀を携帯する生徒もいる。

 そいつらが俺を視認すると、全員が俺をまるで腫物を見るような目を向けてきた。

 

「何であの留年野郎が起きてるのよ」

「一生墓で寝てればいいのに」

 

 酷い言われようであるが、ここまで言われているのには少なからずこちらにも非があるのは確かだ。……もっとも俺は反省する気はさらさらないし、その表れか提示されている反省文なんて職員室にあるコピー機の上に叩き付けた挙句、言ってやった。

 

 ―――反省? 場を乱したのは確かに悪いとは思いましたが、そもそもアンタ等女が馬鹿げた思考とアンタの弟が馬鹿げた発言をするからでしょう? ああ、別にアレが俺に謝りに来ることなんて望んじゃいません。そもそも、今の状態で謝られたってどうせ同じことの繰り返しなんですから無駄ですよ。というか俺に反省させる前に自分の愚かさを反省してください。親がいないなら親戚に頼るなり、親戚がいないならキチンと常識を身に着けることができる場所に預ければいいでしょう? 別に俺がすべて正しいという考えは持っていませんが、あなたたちははっきり言って異常だ。ああ、さっきから殺気を出している先生方、ビットを満足に動かせないイギリスの代表候補生みたいに決闘を挑んでくるのは構いませんが、その方法はこちらで決めさせていただきますね。ご心配なく、ISに関係する方法を提示しますよ

 

 放課後に呼び出されて「反省文を書け」なんて言われたからそう言ってあげ、挙句に決闘を受け付けるから方法はこちらで選ばせろと言っておいた。これで当面俺に喧嘩を売ってくる奴はそういないだろう。だって過去を調べるだろうし。

 その間に俺はかつての愛機を失っているので代わりの機体を開発しているのである。最近ではラウラも俺のしていることに興味を持ち始め、今では一人でアニメを見ているほどだ。

 外に出て音楽を聴きながら走り始めると、ふと思い出したことがある。

 

(そういえば、最近勉強してないな)

 

 俺がやらかして明日でちょうど一週間が過ぎたことになるが、ラウラの世話を焼いていたり、どんな機体を代用しようかとか考えていたらもう金曜日だ。

 今日から頑張ろうと思っていると、誰かに見られている気がして振り向くと、俗に言われる「押し付け」の被害にあった。

 

「………」

「あ、悪い」

 

 俺の体勢がキツいことに気づいてくれた犯人ことダリル・ケイシー先輩が俺から少し離れてくれる。

 

「……何の用ですか? 今のこの状況で俺と会話するのはあまりお勧めしませんが?」

「オレはあまりそういうことは気にしないから問題ないんだ」

「あ、そう」

 

 相変わらず大きな胸だが、あれだけ大きいと色々使い道がありそうだ。……例えば、さっき俺にしたみたいにジャンプして突撃して窒息させる、とかな。

 ランニング目的の奴らの邪魔になると思い、俺は近くのベンチに移動すると先輩もついてくる。

 

「で、一体何の用ですかね?」

「え? そこは「これから休憩するから邪魔するな、雌豚が」とかじゃないのか?」

「………あの、もうランニングに戻っていいですか?」

「すまん。冗談だ」

 

 わりと真剣な顔をしてそんなことを言ってくる。

 

「実はさ、今度のテストに出てくる「古文」と「漢文」を教えてほしいんだ。ものすごく難しいんだよ、アレ」

「……あー」

 

 わからなくもない。俺だってあの二つは苦手な部類だ。

 

「…別にいいですけど、それならば虚…布仏先輩に頼めばいいのでは? もしくは他の生徒に」

 

 実際は一つ下だが、二学年も下の―――それも男に頼むのは女の世界じゃ恥ずべき行為だろうに。それにだ、さっきから周りの視線が超ウザい。

 

「アイツは生徒会の仕事で忙しいだろ? それにオレ、フォルテ以外の女がちょっと怖くて」

「………え?」

 

 意外だな。てっきり後輩とかの面倒見がいいかと―――

 

「フォルテの場合は「イージス」のコンビとして組んでいるし、自由選択でまだ2年のカリキュラムではそこまでいかないし」

「それで予め知ってそうで、面識があって専用機を出せば勝てるであろう俺に頼ってきた、と」

「そうだけど、最後のはないからな? 純粋に桂木ならばわかりやすく教えてくれるだろうと思ったんだよ」

 

 ……悪い気はしないな、正直な話。

 男の前で涙を流しているので少しは疑うべきかもしれないが、教えるぐらいならば問題ないだろう。

 

「……わかりました。では昼休みに屋上のテラスを使いましょう。言うまでもなくラウラも来ますが」

「……ああ、構わない」

 

 不服そうに答えるということは、ラウラはお呼びではないのだろうが……自然に来るんだよなぁ。

 

「ああ、一応予定が入ったことは伝えるつもりですが、もしかしたらほかのメンツも来るかもしれないので」

「………だ、大丈夫だ。障害は布仏の妹くらいだろうから」

 

 何の障害だよ、何の。

 そんなことを疑問に思っていると、ケイシー先輩はこう言った。

 

「でも悪いな。今度なんでもするから」

「あまり女性が男に対して「なんでもする」なんて言ってはいけませんよ」

「へ?」

 

 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのか、彼女はどこか間抜けな返事をする。

 すると何をどう思ったのか、顔を青くして俺の予想斜め上のことを聞いてきた。

 

「もしかして、オレって魅力ないのか?」

「なんでそうなった」

「いや、女だらけの学園にいるから、性欲とストレスが溜まっていると思って」

 

 高が勉強を教えるだけなのに、なんとも釣り合わないことを言ってくるのだろうか。当然ながら俺に向かって周りの女子から殺気が放たれ始める。俺にじゃなくて、するのは目の前にいる先輩にするべきだろうに。

 

「………やっぱりオレには魅力がないのか……」

「…少し、観察させてもらいますね」

 

 改めてダリル・ケイシーを観察する。胸などはかなりの大きさがあるが、正直な話、座り方がなっていない。男というものは常に女性に対してある種の憧れを持っているものだ。

 

「育ちを重視する人にはあまり良い印象は持たれないですね」

「………」

「まぁ、先輩の場合はどちらかといえばギャップで攻めるタイプと思いますので、年下とかには姉さん女房、年上からは手のかかる年下という印象をもたれるでしょう」

「お前は好きか?」

「………」

 

 ………まぁ、いずれ離れるだろうし意味がないから素直に答えるが。

 

「そうですね。俺は割りと好きですよ。何せ俺の場合は男女問わずに自分に害がなく、見ていて苦にならない人ならば誰でもいいですよ」

「そ、その割にはあまり胸とか嫌がるよな」

「………そりゃあ、下手すれば死にますからね。窒息とか解剖とかで」

「……その、ごめん」

 

 悲壮感を感じ取ってくれたのか、先輩は察してくれたようだ。

 

「なので今後は控えてくださいね。あんなスキンシップは好きな人にしてください」

「………」

 

 あの、無言はやめてほしいんだが。

 

「わかった。ともかく後でな」

 

 そう言って先輩はとっとと帰っていく。理解してくれて何よりだ。

 俺もその場から離れてランニングを再開することにした。

 

 

 

 

 

 結論から言って、ケイシー先輩の古語力は十分に修正が可能だった。

 わかりやすく言えば「はべり」などの意味を理解していないので、俺が過去に作った古語表を写させている。

 

「あの、これってコピーを取ればいいんじゃ……」

「知っていますか? 個人差によりますが、コピーを暗記するよりも何度も繰り返しやったほうが定着するんですよ。なので、一日に一表作りましょう。それが終わったなら問題集の問題をノートに写してクリアしていってください。それで赤点回避は余裕ですよ」

「………」

「あ、日本史や世界史を取っているなら、区間に分けてノートに書いて行ってください。大体、二、三日に一回、分けた区間を書いていけばいいんですよ。やろうと思えば縄文から安土桃山まで一時間でできます」

「………えっと、そんなやり方で高得点とれるのか?」

「取りましたけど?」

 

 そう言うとケイシー先輩は顔を青くした。

 

「いやぁ、中学の最初の点数を赤点を取ってから義母に俺の趣味を散々コケおろされたのがムカついたんですけど、趣味のほうが当然楽しいので時間をどう有効活用すればと模索した結果、こういうやり方を編み出したわけです。まぁ、ケイシー先輩は女なのでまったくもって問題ありません」

「……その根拠は?」

「男である俺ができたんです。女にできないわけがないでしょう?」

 

 最初は苦労したなぁ。なにせ早く書けないし、書いても読めないしで色々試行錯誤した結果、該当するゲームをしたらなお覚えやすくなったんだっけ?

 

「あの、オレはできればイージーモードがいいなぁ?」

「おもしろい冗談ですね、先輩」

「……………」

 

 「オレ、テストが終わったら学園内にいる女尊男卑を駆逐するんだぁ」と悲壮感を漂わせながら頑張るケイシー先輩。そんな彼女を、少し離れたところから見る奴らがいた。

 

「女尊男卑をあんな使い方するなんて、悠夜さん、おそろしい」

「先輩を先輩と思われる鬼畜ぶりだね~」

「桂木! 覚悟ッ!」

 

 後ろからサファイア先輩が飛び掛かるので体を少しズラして彼女の耳に息を吹きかける。すると脱力した彼女は着地しても足が震えていた。

 

「別にこの時間にやり切れって言っているわけではないですし、一日でテスト範囲をすべて一行に書けばいいだけです。なんでしたら、使うタイミングなどは問題集などで覚えていけばいいでしょ」

「………その手があったか」

 

 と言っているケイシー先輩が持ってきた袋に何かが近づいていたので見ると、機械でできた銀色のリスがいた。

 

(……死してなお、迷惑をかけるのかよ)

 

 とりあえずそれを回収し、アクセサリとして常に携帯している球型捕縛籠に入れて小さくしておく。たまに電源がないやつもあるから後で解体するに限るからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは大きな会場だった。その中の一つで大きなホールからまだ若い女性―――というよりも少女が現れる。少女は服装もそうだが何よりも胸部が16にもならないというのにかなり大きいため、すれ違う男がたまにその胸部へと視線を向ける。だが少女にとってそんなものはどうでもよかった。

 

(………ふざけるな)

 

 グシャリ、と彼女の手の中にある資料が音を立てて握りつぶされる。そこには彼女が考えたマルチフォーム・スーツのことが書かれていたが、どれもこれも奇想天外のことだった。

 涙をこらえながら歩いていたか、それとも悔しさに試行が占拠されていたからか、ともかく彼女は何かにぶつかる。感触からして人間だと理解した少女だが、何も言うことなくその人間を睨んだ。

 

 ―――ぷっ

 

 少女がぶつかった相手の口から出てきたのは笑いで、それが少女は不愉快に感じた。

 その様子をその人間―――男は気づいたのか、慌てて謝罪する。

 

「笑ってしまってすまない。だが勘違いしないでくれ。僕は別に君が「さっきの意味不明の能力を持ったパワードスーツ」の説明をしていたからじゃないことだけは理解してほしい」

「……じゃあなんで笑った」

「いやぁ、さっきから君のことを見ていてね。注意力散漫になっているみたいだったから少し試させてもらったのさ」

 

 陽気な男はそう答え、さらに言った。

 

「ああ、勘違いしないでくれたまえ。別に君の体に触れたくて偶然を装って君に接近したわけではないよ。ただあれだけ扱き下ろされた今の君が人にぶつかった時にどんな反応をするのかを予想していたんだけど、僕が予想した「半殺し」を見事に外れた後に「いやぁ、半殺しはないなぁ」と思って少し前の僕に笑ったんだよ。やっぱり「半殺し」はないよねぇ」

 

 すると少女はそのままの体位から右足で男の首を攻撃しようとするが、男は慣れた手つきでそれを受け止めた。

 

「なるほど。君は喧嘩も得意なのか。じゃあ僕たち組まないかい? 科学探偵コンビとして」

「……は?」

「ああ、科学探偵って言うのはね、表は科学者、裏では探偵として活躍するってことで、残念ながら科学を駆使して事件を解決することは稀なんだ」

 

 そう言った男性はゆっくりと掴んでいる足を降ろす。

 

「でもあまり嫁入り前の女の子が足を上げるのはおすすめしないな。はしたないって思われちゃうよ?」

「………石ころ同然の奴が私と釣り合うとでも?」

「わぁおっ、君も中二病?」

 

 少女の発言に男性は歓喜した。少女だけでなく、周りの大人たちが男に対して引いているが、彼はお構いなしに話を続ける。

 

「ああ、勘違いしないでくれたまえ。僕は中二病を否定する気はない。むしろ中二病というものを否定するとはただの馬鹿でしかないんだ。中二病こそ、真のアイディア人間と言えるからさ!」

「………何を言っているの、おっさん」

「よくわかったね。実は15歳の時から子供がいたから若く見られがちだけど、実際はもうおっさんなんだ。でも何故か最近女性に言い寄られるんだ。まぁ、男としては悪い気はしないが、妻子持ちとしては正直な話、ね」

 

 ———どうでもいい

 

 そう思った少女はその場から離れようとするが、男はそれを遮った。

 

「良ければ君に対して批評を言いたいんだけど、ちょっとそこの喫茶店でお茶をどうだい? あ、実はさっきの科学者たちに思われているらしいんだけど、僕はどうやら変わっているようでね。ハッキリ言ってありきたりな発明なんざすべて1だ。見る価値もない。だけど君は違う。君が提唱した宇宙開発はもちろん、軍事やほかにも使えると思ったさ」

「………軍事になんて―――」

「ん? 嫌だった? ああ、ごめん。てっきり忘れていたよ。あれほどのロマンの塊だから、合体攻撃なんざ当たり前だとか思っていた。さ、ともかく僕の批評を聞いてくれよ。君からすれば凡人かもしれないけど、凡人のアイディアだって捨てたものじゃない。ただ、遅いだけさ、いつでもね」

 

 半ば無理矢理少女は男に連れられて店の中に入る。

 少女は驚いていた。当然、普段の少女のことを知る唯一の友人にして親友の人間がそれを見れば驚きのあまり口をあんぐりと開けていただろう。

 二人は喫茶店に入り、適当に座る。

 

「さぁ、好きなものを頼みたまえ。遠慮することはない。ただでさえ大人に混じって君は発表したんだ。君をこき下ろしたゴミの言葉なんざ無視すればいい。そしてこれは僕のおごり。あ、お姉さん僕には砂糖10個……なんてね。カフェオレを頼む。君―――いや、束君は何がいい?」

「………何でもいい」

「じゃあ、彼女にはミルクで―――」

「おい!」

 

 少女―――束はすかさず突っ込むと、男性は笑った。

 

「冗談だよ。だが君は発表で声が疲れているはずだ。麦茶を」

「………あの、誘拐?」

「残念。僕が彼女に対して批評するのさ」

「ええっ!?」

 

 男性の言葉に対してウエイトレスは驚いた。そのウエイトレスだけでなく、周りの科学者たちも驚いている。

 

「すまない、束君。何故かこの人たちは僕が批評したら大袈裟な反応をするんだよ。まったく、わけがわからないよ」

「それはあなたが―――」

「すまない。これからは外野は黙っていてくれたまえ」

 

 急に周りは黙り、男性は満足そうに頷いた。

 

「さて、君が相手にされなかった理由は君も既に理解しているだろう? 実映はもちろん、後は君の発表の方法だろうね。君は歳不相応に発表が下手だった。後は何よりも年齢だろうね」

「………やっぱり」

 

 少女の言葉に男性は「ほう」と小さく言葉を発する。

 

「予想はしていたのかい?」

「……うん」

「そう。やはり君は賢いね。ならば―――君にここから逆転する方法を教えてあげよう」

「……へ?」

 

 束に男性は遠慮なく言い放つ。

 

「見せればいいんだよ。あのバカでタコで頭でっかちな味噌っかす共に」

 

 笑いながら男性はそう言うと同時に頭を掴まれる。

 

「ほう。それは我々に対する侮辱か?」

「これはこれは……もう味噌っかすの下らない評論会は終わったんですか?」

 

 詫び入れる様子を見せない男性。

 

「今すぐ来い」

「わかりましたよ。君、会計は後でこちらで払うよ。すまないな、束君。どうやら外せない用事のようだ」

「……別に」

 

 束がそう答えると、男性が束の耳元に口を持ってきて言った。

 

「ああ、一つだけ君に伝えよう」

 

 再び頭を掴まれた男性だが、構わずに続ける。

 

「君は今回のことでいずれインフィニット・ストラトスとやらを世界に大々的に発表し、この世は確変する。君は一足先に行ってしまうわけだ」

「いいから来い」

 

 するとウザったいと思ったのか、頭を掴まれている男性は腕を掴んで無理矢理話した。

 

「だが、そう遠くない未来、君の天下を潰す者が現れるだろう。それも君の常識を遥かに超えた機体と共に、君を絶望に叩き伏す。その時君がどんな選択をするのか楽しみだよ」

 

 後ろから伸びてくる腕を弾き、男性は名刺を束の胸に飛ばした。

 

「僕の名前は桂間(かつらま)修吾(しゅうご)。君の最高傑作を叩き潰すであろう機体の製作者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《―――おっだらぁ、タマァ取ったらんかぁ!!》

 

 目を覚ましたその女性の耳には一番嬉しい着信音が鳴り響いた。

 嬉しいはずなんだが目を覚ましたばかりなのだからか、動きが悪い。

 やっと取れたと思ったときには既に切れた後だったが、それほど大事な話があったのか相手はまた電話をかけてきた。

 今度はすぐに出ると、その女性は既に戻ったテンションで電話に出る。

 

「やあやあやあ! 久しぶりだねえぇ! ずっとず―――っと待ってたよ! というか遅すぎて本当に連絡が来るか心配だったよ!」

 

 電話の相手はそのテンションに対し低い音で話しかけた。

 

『………姉さん。お願いがあります』

「うんうん。用件はわかっているよ。欲しいんだよね? オンリーワンにして代用無き物(オルタナティブ・ゼロ)、箒ちゃんの専用機が。モッチロン用意してあるよ! 最高性能(ハイエンド)にして規格外仕様(オーバースペック)。そして、白き騎士(ナイト)と並び立つもの―――『紅椿(あかつばき)』を。それで、二人目とコブを倒したいんだよねぇ~」

『………すべて、知っていたんですね』

「だって私、天才だし。箒ちゃんのことは四六時中見張っているからねぇ」

 

 本当はそれ以上に二人のことが邪魔だと思っているが、そう言った瞬間、最愛の妹に軽蔑されるのが目に見えているからか、女性―――篠ノ之束はそれ以上のことが言わなかった。

 

『……わかりました。後で千冬さんに連絡して発見次第、本気で痛めつけていいと本人から連絡があったことを報告しておきます』

「あっれぇ? もしかして私、箒ちゃんに紅椿を渡した瞬間に殺されちゃう系?」

『………』

 

 束は柄にもなく冷や汗をかき始めるが、それもほんの少しだけだった。

 

『では』

 

 そう言って箒は電話を切り、「だ、ダイジョブダイジョブ……」と束は人知れず呟くのだった。




ということで今回は特別大サービス(なんてことはないけどね)9000越えだったりします。ギリギリ3日中に投稿できました。

次回予定

銀のリスを拾った悠夜は放課後すぐに解体すると、材質が固いことに気付いた。そして検査の結果、使われていたのがIS装甲だと知る。

自称策士は自重しない 第52話

「銀のリスを探せ」

難易度ルナティックのケイドロを制覇せよ!


いつかはしたかった話。

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