IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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案の定、タイトルは違いますが予定通りの展開です。
今回は胸糞悪い内容となっておりますが、ご了承ください。



#47 襲撃の報酬

 悠夜がアネットを倒し、その場に置き去りにして飛んで行ったのを確認した男たち。その片割れで杖を持つ男は面白そうに笑っていた。

 

「さすがはSRs世界覇者。容赦ない破壊行動だな」

 

 男の視線の先にはアネットとボロボロになったラファール・リヴァイヴがあり、機体はダメージレベルE―――「修復不可 再開発要請」は間違いであろうと思えるほど原形をとどめていない。

 

「これが、リゼット様がお慕いする男の実力……」

「あくまでもこれは「黒鋼」での最大火力だろう。しかしあの菱形のユニットが拡散で撃てるのは意外だったな。さては「ハイゾ○ランチャー」の切り替えシステムも入れたか」

「………あなたはたまに意味不明なことを言いますね」

「ゲームの知識だぞ。それに搭乗者は意外なことにお前に似ている」

 

 男は一緒にいるジュールにそう返すと、ジュールは冷めた口調で返す。

 

「言っておきますが、それは偶然ですよ。私はあまりそういうのには興味はありません」

「……それは残念だな」

 

 本気で落胆する男を見たジュールはため息を吐く。以前と変わっていない、と。

 

「では戻ろうか。あの女は放置していても問題ないだろうし、お前はすぐにフランスに返さなければならないだろうからな」

「……あの方ならば、一人で大丈夫でしょう」

「彼女にとっての大舞台だ。信頼できる人間がいれば安心するだろう」

「……その結果、記者会見で愛の告白をする、なんてことにならなければいいのですが」

 

 ジュールの言葉が面白かったのか、男は再び笑い始めた。

 

「ですが、あなたの機体では少々問題が―――いえ。何でもありません」

 

 男に対して異を唱えようとしたジュールだが、いつの間にか出していた戦闘機を見てため息を吐く。

 

 ―――やはりこの人は別の意味での天災だな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教師部隊が来なかったのは、俺たちの戦う場所に問題があった。どうやら近くに―――そして俺がデュノアの関係者がいる場所の後ろがどうやらそうだったらしい。

 そのことを事情聴取中に言われたが、俺の思い過ごしでないならお前らが役に立った記憶がないのだがな。

 その事情聴取も終わり、部屋に帰ると洗面用の流し台に置かれている水切りラックに使ったと思われる食器が置かれていた。そこの一つを手に取ってミネラルウォーターを飲もうとしたら、どうやら彼女たちはどの布巾を使えばいいのかわからなかったらしく出しっぱなしにしている机を拭いていないというメモが冷蔵庫に貼られていた。とりあえず、合格ということにしよう。

 水を飲んでからコップを洗い、使用可能の布巾で机を拭いておく。

 

(……なんていうか、色々と濃かったな)

 

 短針が10を指そうとしている時計を見て改めて思う。

 考えてみれば、すべてはあの終業式の日から始まったんだよな。まさかそれがあの大惨事となり、今の俺を作っていて、容赦なく敵を倒せるようになるとは思わなかった。

 

(ま、気持ちよかったけどな!)

 

 段々と取返しが付かなくなってきている気がしなくもないが、今はこの幸せな状況を噛みしめよう。

 

(……そういえば、あの子は今何をしているんだろうか?)

 

 まぁまぁ強かった女の子のことを思い出す。ISに触れて一年にも満たない俺に負けた―――ってわけではないが、あの威力の攻撃を受けた以上、無事ではないだろう。個人的にはまたISで戦ってみたいと思うがな。

 などと思いながら俺はとある現実から逃れるために、着替えを持って風呂に入りに行くが、現実は現実。戻ってきたら見たくない現実がそこにあった。

 

(……………何でいるんだよ。しかも状態的にヤバい感じで!!)

 

 これは実際に起こったこと……いや、起こっていることだ。

 頬を染め、悶えて苦しそうにしている布仏が何故か……本当に何故か俺のベッドにいる。さっきから腕を自分の服の中に入れて何かをしているみたいで、熱中しているのか俺に気付いていないようだ。所々色っぽい声が聞こえているが、すぐに忘れたい。

 

「…………本音?」

 

 意を決して声をかけると、その動きは止まる。恐る恐る俺を見た本音は顔を赤くし、そのままの状態で逃げようとしたようだが、躓いてベッドの前に立つ俺に突っ込んでくる。

 

 ―――まぁ、なんていうか……ね

 

 いやぁ、強烈だった。

 気付いたのはいい。が、何より……というかなんというか……痛かった。

 そう。本音はそのままの状態で俺の大事な部分に激突し、接触事故を起こしたのだ。そしてさらに問題があり、本音はいち早く気が付いて俺を見ていたんだが、その眼は酔った状態に近い。

 

(………酒に弱いのか?)

 

 アルコールの匂いも相まって、俺はそう判断したが―――どうやらそれは間違いらしい。

 段々と息が荒くなっていき、今にも捕食されそうな雰囲気を出してくる。ちょっと待て。ここでそれはかなり洒落にならない気がするんだが。

 

(とりあえず、これをどうにかしないとな)

 

 一度本音をベッドに寝かせ、急いで洗面所のタオルを冷水で濡らして絞っていると、着信音が鳴り響いたので出ると、

 

『もう襲ったか?』

 

 ―――ブチッ

 

 反射的に電話を切った俺はタオルを四つに畳んで本音の頭に被せる。処置としては最悪かもしれないが、しばらくはこれで冷ますために本音の顔を揉んでおく。

 

「………ゆうやん?」

 

 どうやら本音は正気に戻ったらしいのでタオルをパージして近くのミニタンスに置いておく。

 

「大丈夫か? なんか変なポーズしているし、まるで発じょ―――」

 

 思わず言葉を切ってしまった。というのも俺が話した言葉で涙腺が崩壊したのか、涙を流し始める。

 

「………うぅううう」

「…あの、本音さん………」

「うぁああああんっっ!!」

 

 急に泣き始めた本音。あまりのことと対処の経験が乏しいので固まってしまったが、とりあえず子供をあやす方法の一つとして、体を抱きかかえて背中を軽くたたいてあげた。

 

 

 

 

 

 

 しばらくしてミネラルウォーターを与え、落ち着かせた。………のだが、泣き疲れたのか、そのまま寝てしまう。

 

(………楯無のベッドに移すか)

 

 面倒だからといってこの作業をないがしろにするのはまずい。

 まず俺のベッドに置きっぱなしのパターンは俺が地べたに寝るしかなくなり、そこで俺が楯無のベッドに寝る選択肢も出てくるか、色々と誤解(主に性欲関連で我慢できなくなったとか)を生むので却下。なので、その選択肢を選んだ。

 とりあえず本音を楯無のベッドに移動させ、入れっぱなしの手を出してあげる。何故かねばねばしているみたいなので、とりあえずそれは拭いておこう。

 それらを捨てて手を洗っていると、インターホンのチャイムが鳴る。

 

(もう10時だぞ。誰だ、こんな時に……)

 

 手を拭いてドアを開けると、見たくない相手がいた。

 

「あの、こんな時間になんですか? もう寝たいんですけど」

「………こんな、時間に…か?」

 

 思いのほか意外だったようだ。いつも朝早くに起きて体を動かしているのよ、俺。

 

「まぁいい。少しばかり用事ができてしまってな。向こうがお前とどうしても話をしたいと言うんだ」

「そんなもの、断ってくださいよ。こっちはこれから就寝だってのに……」

 

 というか人の都合くらい考えてほしいものだ。

 

「そういうわけにもいかない。40秒とは言わないが、できるだけ早く着替えろ」

「……あの、俺の意見は?」

「拒否権はない。今すぐだ」

「………ああ、もう。わかったよ。行けばいいんでしょ。行けば。制服? 私服?」

「……制服だな」

 

 何で塾に通うわけでもないのに夜に制服を着ないといけないのだろうか?

 そんな愚痴を内心こぼしながら、制服を少し緩めた状態で、身の回りの物を持って外に出る。鞄は自由だし、ミニサイズのショルダーバッグをかけている。

 通信室に連れてこられた俺は中に入ると、先客のボーデヴィッヒが俺を見た瞬間を顔を伏せる。あらかじめ用意していたのか、真ん中にポツンと残っている椅子に―――しかもボーデヴィッヒの隣に座ると震えていた。軍人なのに、今さら怖くなったとでもいうのだろうか?

 対して俺は結構だらりとしていて、椅子にもたれるのは普通で、わかりやすく言えばサイボーグが言うトレーニングレベルの特訓で頭が禿げた代わりに怪物相手に一発のパンチで終わらせることができるほど強くなった男とそのサイボーグが認定試験に合格した時のセミナーを受けた時の姿勢、とでも言えばいいだろうか。何せさっきの襲撃といい、本音のことで疲れているのに寝る間も惜しんできているんだ。少しくらいだらけてても良いだろう。

 

「桂木、姿勢を正せ。これから会うのは上の人間だ」

「………へいへい」

 

 堅苦しいのは嫌いなんだけどね。

 適当にしていると画面にホワイトボードに映像が投影され、何度かのコールの後にテレビ電話なのか相手の顔が映し出された。

 

『……私の姿は映っているな、織斑先生』

「はい」

 

 織斑先生がそう答えると、相手の男が話し始める。

 

『初めまして、二人目の操縦者「桂木悠夜」君。私はドイツ空軍IS部隊総括長を任せているブルーノ・ベルナー少将だ。君の高名はこちらにも聞き及んでいるよ』

「………どうも。桂木悠夜です」

 

 素っ気なく返すと、一瞬苦い顔をしていたベルナー少将とやらもすぐに笑顔になる。

 嫌な予感がした俺はスパイボールを起動させ、録音と録画を開始した。

 

『さて、先程の襲撃事件のことは耳にしている。本当にすまない」

「…………そうですね」

 

 ほかに言うこともなかったのでそう返すと、ベルナー少将の頬が引きつったのを俺は見逃さなかった。

 

『本来ならば他者を巻き込むことなく処理してくるよう命じたのだが、運悪く君に見つかってしまってね。すぐに処理を……ああ、勘違いしないでもらいたい。君を殺すということではなく、ただ君を気絶させ、ソレを処分してもらえれば良かったのだが―――』

「……はっきり言ってはどうですか? 「無駄に介入したせいで予定が狂ってしまった。どうしてくれる」って」

『………別に私が言いたいのはそういうことではない』

 

 図星を突かれたからか、少し返事が遅くなった。どうやらそれほどボーデヴィッヒの存在は疎ましいようだ。

 

『脱線してしまったな。話を戻させてもらおう』

 

 これ以上ちょっかいを出しても無駄だと判断した俺は特に返事を返すことをしなかった。

 

『さて、今回その襲撃事件としての謝罪を兼ねて大金をそちらに送らせてもらおう。ああ、返金を求めることはない。遠慮なく使ってくれ』

「……………」

 

 一応、言質を取ることに成功した。これならばもし「大人の癖に意見を変えるんですね」とか言ってやれるが、念のため使わないでおこう。

 ここらで俺は疑問に思っていたことを質問することにした。

 

「あなたは、そんなことのためにいつもこの時間に寝ている俺を呼び出したのか?」

『そうだ。高校生ならばこの時間には起きているだろう?』

「生憎、俺はこの時間には既に就寝している身でね。正直言って不愉快でしかない」

『ならば大丈夫だ。もう君との話は終わった。それに数少ない男と接触を図りたいというのは今では各国の思惑の一つ。興味を持つのは当然だろう? 何せ君とそこにいる織斑女史の弟君は女にしか使えないはずのISを動かしたんだ。そんな男に興味を持たない方がおかし―――』

「ISを動かす前までは「ISを動かすのは頭がおかしい奴が動かした」としか思っていなかっただけで、それ以上の興味は持てなかったがな」

 

 入試当日に教室の場所を探しているところまでなら、まだ情状酌量の余地はある。

 

『今では君もその仲間のわけだが……』

「止めてくれよ。あんなゴミ姉弟と一緒にされるなんて心外だ」

「………ほう。貴様は私のことをそう思っていたのか?」

「拒否している素人を強制的に出させた挙句、すぐにアンタの力で無理やり訓練機と練習場所を提供しない時点で女尊男卑思考の女(ゴミ)確定だろ?」

 

 大分前の話だが、俺は遠慮なく話題に出してやる。

 

「話を戻させてもらうが、俺がアンタの下らない戯言を聞いている間に疑問に感じていたんだが、何故関係ないはずのボーデヴィッヒがいる? そして―――さっきから何故VTシステムの話をしないんだ?」

『………何故それを知っている』

 

 目の色の変えた禿ことベルナー少将。どうやら俺がVTシステムのことを知らないと思っていたようだ。まぁ、この前まで一般人だった俺が知っていること自体おかしな話ではあるが。

 

「忘れているようだから言っておいてやるが、各国の重役を救ったのも、アンタの所のこの代表候補生を救ったのも、システム自体ぶっ壊したのもすべて俺だ。むしろ、あれだけしたのに教えられないってのは嫌だがな。

 で、ここから俺の推測なんだが、アレを作ったのはアンタらドイツが開発したものだったけど、織斑先生のデータで稼働させたらテストパイロットが死に、その記録映像が不幸なことに各国に流出。それですべての行為が凍結され破棄したが、何故かボーデヴィッヒの機体に搭載されていた。おそらく整備員が仕掛けたと思われるが、全員その様子がないので第三者の介入を予想している。もしくは整備員が一人いなくなったということか。それでボーデヴィッヒ自身にも問題があり、単独で仕掛けたことを理由に殺害を試みたが、俺やロシアの国家代表、さらにはフランスのクソババアにも出張られて刺客が任務に失敗した………って感じか」

 

 少々長くなったが、とりあえずこれで探りを入れる。

 

『一般人が勝手に推論を並べ立てないでいただこうか』

「はいはい。………で、いつになったらアンタは俺に謝罪してくれるんだ?」

『………VTシステムのことか? ならば、その分も後で君の―――』

「———まさか、俺とあの日本の代表候補生の戦いが、金如きの支払いで解決できるなんて思っているのか?」

 

 だとしたらこの上なく腹立たしいし、心外だ。

 

『高がいつでも会える相手と戦えなかっただけだろう。そんなことで無駄な時間を取らせるな』

 

 ———カチンッ

 

 何かが切れた俺は、椅子から立ち上がる。

 

「落ち着け桂木! ここで暴れたところで何もならないぞ!」

 

 そんなこと、言われなくてもわかっているし、最初から暴れる気はない。精々相手が暴走するくらいだろう。

 

「質問させてもらおうか」

『何かな?』

「アンタらドイツ軍にとって、この女はどういう存在だ? 聞いた話ではこいつはアンタらドイツ軍の少佐階級にいたはずだが」

 

 楯無から聞いていた情報を出しながらボーデヴィッヒを顎で指して尋ねると、男は笑った。

 

『彼女ならばVTシステムを使用したため、軍から追放。ならびにドイツ国籍を破棄させてもらった。現在は我々ドイツ軍の「物」でしかない』

「……ラウラを人間扱いしないつもりか?」

『彼女の出生に関しては君も知っているはずだろう? ならば、人としての価値を無くした彼女を形容するならば「物」以外の何物でもない」

 

 織斑先生の言葉を捌いたベルナー少将。本当ならば俺も彼女の出生に関して色々と言いたいが、ここは我慢しよう。

 

「………つまりそれは、「軍」の「財産」ってことだよな?」

 

 本当は俺の推理に対して付け足したいのだが、今は遠慮しておく。

 

『………そういうことになるな』

 

 思わず笑いそうになったが、我慢だ。ひたすら我慢。

 

「じゃあ、VTシステムと俺が決勝に行けなかった分としてこれをもらおうか」

 

 そう提案すると、織斑先生も、そして画面のベルナー少将も驚きを顕わにする。

 

「……何を企んでいる、桂木」

 

 十蔵さんと比べては可哀想になるほど貧相な殺気を向けて聞いて来る織斑先生。やれやれ、そういうことを聞く前にもっと自分と弟の教育に力を入れてもらいたいものだ。

 

「少しは自分で考えろよ。で、ベルナー将軍とやら。俺は今回のそちらの応対に関してかなりの不満を抱いている。特にアンタらドイツ軍は理由はどうあれ俺を殺そうとしたにも関わらず一切そのことに関しての謝罪をしない。例え今日の襲撃に関してはしたとしても、自分たちから出た危険なシステムに関しては一切なし。そちらから出たならば暴走したのも含めそちらが何らかの対処をすることが道理ではないだろうか?」

 

 そう。俺はVTシステムに関して一切の謝罪をされていないのだ。したのは金の話だけで、思い出してすぐに謝るということされていない。むしろ俺にとって簪との試合を邪魔されたのが一番嫌なことである。

 

『…………なるほど。つまり君は我々に誠意ある謝罪を求めている、と』

「そうなるな。確かに金は大事でもあるが、まずはそこからか。だが代表であるアンタはすぐに「お金で解決すればいい」と思い込み、俺の許容中に一番謝ってほしいことを「金」で解決しようとした。まさか「自信があるならば、さっさと攻撃すれば良かっただろうに」などとは思っていないだろうな? 俺はわざわざお前たちが教育したこの女が「手を出すな」というからあのような戦術を取る羽目になったんだ。文句ならば過去の自分たちに言え」

 

 よし、ギリギリボーデヴィッヒが「遺伝子強化素体(アドヴァンスド)」ということを知っていることは隠せているな。たぶんあれは国家機密レベルだから、事には慎重に当たるべきだろう。

 

「だが、今まで「少将」という立派な地位を築き上げたあなたが、今更自分の部下と年が変わらないどころか下の素人のガキに頭を下げたくはないだろう? だからその折衷案として俺はアンタがこの場で「物」と言ったこの女を所望する。本来ならばこの女を入れた上で「ドイツの税金すべてよこせ」と言いたくなるほどのことをされているが、今ならばこの少女を一人渡すだけで、襲撃の件の金は渡す予定だった金額の80%分で十分だ」

『それをするのにも、条件がある』

「……条件?」

『君がドイツ軍に入る、というのならば彼女は君の専属秘書として付けてやろう。仮にも彼女は元佐官で代表候補生、そして専用機持ちだった女だ。なんだったら、それだけじゃない。貴殿には部隊の一つをおもちゃとして使わせてやろう。いつでも好きな女を好きにできるぞ?』

 

 俺の言わんとしていることを理解したつもりでいるベルナー少将。どうやらベールは剥がれているようだ。

 

「いい加減にしろ、貴様ら! ラウラの人権を無視するつもりか!!」

『彼女はもう我々ドイツ軍の「物」だ』

 

 チラッと横を確認すると、鼻をすするのは我慢しているようだがラウラの足元には水溜りができつつある。

 

「俺に専用機は?」

『シュヴァルツェア・レーゲンを再開発する予定だ。AICを外さなければ、好きにカスタマイズしても良い。ああ、整備員も飛び切りいい女を派遣してやろう。どうだ? 好待遇だろ―――』

 

 そう聞いた瞬間、俺は満面な笑みを浮かべて言ってやった。

 

「確かにそうだ。今のご時世、男ならば喜んで飛び込むだろう―――だが、断る」

 

 やれやれ。これだから純粋の軍人は困る。

 確かに条件はいい。しかも専用機も持てる。持てるが―――スペックに問題があるんだよ。

 

『このチャンスを棒に振る気か?』

「俺が譲歩できる分は既に譲歩した。早く選んでくれ。男性軍人の性処理用の道具を手放して軍費を節約するか、それともこれに拘ってそれだけの金があればもっと人を雇えるということを棒に振って大量の謝罪金を俺に支払うか」

 

 相手にとって有益だと思わせるように言ってやる。敬語なんてとっくに捨てているのは最初から使う気がなかったからだ。

 

「まぁ、別にあなたがそこまでこのメスが良いというならば仕方がありません。ここはロリコンなあなたのために辞退し、早々に謝礼金をお支払いいただければ」

 

 ボーデヴィッヒが発言しないのは諦めか、ともかく彼女は黙っていた。同様に織斑先生も一言も話さなかったが、おそらくはこの会談が終わった後に俺に突っかかるだろう。

 そしてまた敬語を使ったのは侮辱だ。俺は―――政府や軍人、その配下の警察のような公務員などに敬意を払えるような人間ではない。

 

『私はそのような人間ではない! そんな貧相な体になど誰が発情するか!』

「では、謝礼金代わりとして了承していただけますか? 現時点でドイツ軍関係の責任はあなたでしょう?」

『………良いだろう。その代わり、先程の提示した金額で、だ』

「ええ。構いませんが……それ相応の謝礼を期待します。ああ、それと―――」

 

 敢えて思い出したかのように言い、忘れないで言ってやる。

 

「彼女が「人」として稼いだ分の金額はお忘れなく。ズルして横領しないように」

『言われるまでもない』

「それと今後は当然俺に、そしてこのメスに強制的な干渉を行わないように。必ず正規の手続きを取ってからの接触をお願いします」

『わかっている!』

 

 向こうから一方的に通信を切られたが、成果は上々―――いや、最高だ。

 確かに向こうからしてみればボーデヴィッヒは疫病神。そして女としても胸が未発達で年齢としてはもう大きくならない。だから簡単に手放したのだろう。ならばたっぷりと使わせてもらおう。

 

「———おい」

 

 後ろから殺気を放つ織斑先生。よっぽど俺とベルナー少将との会話が気に入らなかったと見える。

 

「先程の会話。貴様は本当に()()()をそのような目的で手に入れたのか?」

「だったら何だって言うんだ?」

 

 途端に拳が飛んでくるのでそれを掴んだ俺はそのまま一本背負いに入り、床に叩きつけた。意外そうに俺を見るが、俺ができないとでも思っていたのだろうか? 悪いが飛び蹴りと背負い投げ系は俺の得意技である。

 

「こいつは俺にとって報酬でしかない。その報酬をどう使おうが、一介の教師でしかないアンタに指図される謂れはない。それとも今時の教師というものは、プライベートにも口を出すのか? ならば―――先に自分の弟の愚かな思考を変えてからにしてもらおうか」

「………無理矢理されるのを、黙って見過ごせるか!」

「だったら最初から襲撃事件をテメェで解決しろや。解決するどころか邪魔しかしていないくせに、勝手に干渉してくるんじゃねえ!!」

 

 そう言って俺はボーデヴィッヒの腕を掴み、無理矢理その部屋から出て行った。




推奨BGM:わが﨟たし悪の華(ベルナー少将との会談)(後書き)

次回予告(もはや冗談)

悠夜「どうも桂木悠夜です。二人目の男性IS操縦者をやらせていただいております。黒鋼が勿体ないですが、ぶっちゃけ辞めれるならば今すぐ辞めたいです。

 次回 自称策士は自重しない 第48話 「少女の従性と利用価値」

これからも俺の活躍でいいのなら、読んでくださいね」_(_^_)_



ということで、なんだかんだでこの話で終われるだろうと思っていたのに2章が終わりません。
今回の次回予告は、超巨大男やどう見てもウイルス色の怪物や隕石すらもワンパンで終わらせてしまう男のアニメの次回予告を参考にしました。

おかしいな。この話で2章終わるはずだったのにな。

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