IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#4 お茶目な教師

 SHRが終わり、俺はさっそく「織斑千冬」という女を調べた。

 

(第一回世界覇者が、今はクズ教師かよ)

 

 ISの世界大会―――モンドグロッソ。

 6年前から開催されて以降、3年に1回のテンポで開催されている世界大会の第一回覇者。まさしくこの世界の権化と言っても過言ではない存在だろう。少なくとも、今日一日の態度を見てそう思う。

 

「なぁ、ちょっといいか」

 

 ため息を吐いて鞄に勉強道具を入れていると、俺とは違う男の声が聞こえた。どうやら織斑が来たようだ。

 ちなみに今日は朝に入学式と始業式があったため、昼から三時間授業という一般校と変わらないカリキュラムだった。…まぁ、それが4月に入ってすぐの平日に行われなかったらもっと良かったのだが。

 まぁ、これが今日最後の会話チャンスとなれば接してくるだろう。俺はその気0なんだけど。

 

「………」

「何か、怒っている?」

「だったら何か?」

 

 苛立ちが最高潮に達しているからか敬語は抜けていた。

 

「いや、でも俺一人しか推薦されなかったから、悠夜を推薦したわけで……」

「………」

 

 ありがた迷惑って言葉を知らないようだ、この男は。

 無言で立ち上がり、鞄を持って帰ろうとする。

 

「ま、待てよ」

 

 制止の声を無視して教室を出ようとすると、そこでバッタリと山田先生と会った。

 

「良かった。まだ残っていてくれたんですね」

「今から帰ります」

「え? ちょっと待ってください!」

 

 睨みながら振り向くと、何故か安心したような顔をする山田先生。

 

「何ですか? もう帰りたいんですが」

 

 政府の人間からは部屋を用意するとは言われていたが、ただでさえ判明が遅かったんだ。一日や二日で部屋を用意できるとは到底思えない。

 

「そのですね、寮の部屋が決まったのでそのお知らせに来ました」

「………」

 

 信じられず、思わず目が点になる。

 

「それで、織斑君と一緒に説明したのですが、いいですか?」

「………わかりました」

 

 ものすごく不本意だけど、いくら使えないと認定しているとはいえこの話は聞いておくべきだと思う。

 ちなみにこの学園は寮生活を強制している。というのもISは兵器の面としても見られているので、その操縦者や技術者を守る為と言われているが、別の面で見ると女に対して恨みを持つ男たちの魔の手から国防に関わる女たちを守る為という意味もあると思われる。制服姿で帰る女生徒たちに手を出さないという保障はないし、専用機持ちと言っても数は高が知れているだろうし、使っても人が多いと上手く立ち回れないどころか人質を取られる可能性もあるし。うん。相変わらずネガティブ思考は絶好調だ。

 

「俺の部屋、まだ決まってないんじゃなかったのでは? 前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」

 

 俺の場合は政府の役員に連れられてホテルで停泊するという状況だけど。というか普通に考えて織斑を自宅からの登校はないのではないだろうか? 姉がアレとはいえ、教師である以上自由になる時間は少ないだろうし。

 

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理やり変更したらしいです。……二人はその辺りのこと、何か政府から聞いてますか?」

 

 俺は首を振り、織斑は「いいえ」と答えた。

 

「それと政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを学園側は最優先したみたいです。一ヶ月もすればそれぞれの個室の方が用意できるはずですから、しばらくは相部屋で我慢してください」

「……あの、山田先生、耳に息がかかってくすぐったいんですが」

 

 と、さっきから織斑のみに耳打ちしている山田先生に織斑はそう言った。

 

「あっ、いや、これはその、別にわざとかではなくてですねっ………」

 

 必死に弁解する山田先生。たぶんこの人は天然だな。

 

「いや、わかってますけど…。それで、部屋はわかりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備できないですし、今日はもう帰っていいですか?」

 

 普通、山田先生みたいな人にそんなことされたら喜ぶものなんだろうが、どうやらこいつは日ごろからやっているから耐性が付いているようだ。ナイフを買って明日刺そう―――といつもならしているところだが、生憎今は一度失敗すれば奈落の底だから自重します。……もともとできないのに何を言っているのだか。

 

「あ、いえ、荷物なら―――」

「私が手配をしておいてやった。ありがたく思え」

 

 ゴミ教師が現れた。ここはゴミ箱じゃないんだけどなぁ。

 

「ど、どうもありがとうございます……」

「まぁ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」

 

 ………え?

 普通、ゲームとかパソコンとか色々あるだろ? 何でそれだけ? 人としてありえないだろ。

 

(自分の分は自分で用意するに限るな)

 

 俺の部屋の中にあったものはすべてこっちに持ってきたから、趣味とかの面もばっちりだ。

 

「今日はもう終わりなのでこの後は部屋に行ってくださいね。夕食は六時から八時、寮の一年生食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間は異なりますが、お二人は今のところ使えません」

 

 つまり後々使えるようになると言うことか。

 なんて思っていると織斑の口から信じられない言葉が飛び出した。

 

「え? 何でですか?」

 

 それを聞いた俺は織斑から距離を取る。机三個分は移動した。

 

「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

「あー……」

 

 ようやく理解したらしい。もうこんな奴と一緒だなんて嫌だ。

 

「おっ、織斑君っ、女子とお風呂に入りたいんですか!? だ、ダメですよ!」

「い、いや、入りたくないです」

 

 否定する織斑。今度は山田先生が変なことを言い出した。

 

「ええっ? 女の子に興味がないんですか!? そ、それはそれで問題のような……」

 

 フライパンであの女の頭をカチ割りたい。

 だけどここは耳元で大きな音を出すことで我慢することにしよう。

 

「い、いきなり何するんですか?」

「さっさと鍵を渡すなんなりしてくれませんかね? 正直、これ以上あなたたちの下らない茶番に付き合わせるなら窓から外に投げることも考えないといけないんですけど」

 

 周りが俺と織斑でネタにする中で堂々と言い放つと、急に静まり返る。そしてこっちに厳しい視線が飛んでくるが、どうでも良かった。

 

(たぶん、あの主人公もこんな心境だったんだろうな)

 

 好きな人を目の前で殺され、そいつを殺したら上官に殴られ、その上官に裏切られ、殺した奴が別の機体に乗って現れたら、そりゃああんな風になるわ。たぶん彼とはいい話ができるだろう。

 ……とか思ってたら別の奴から殴られそうな気がする。

 

「わ、わかりました。でも桂木君の部屋の場所が少し特殊な位置にあるので付いてきてもらっていいですか?」

「わかりました」

 

 山田先生に連れられて、俺は自分の部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の世の中、男の立場は低い。

 ここに来てからそのことを一層自覚したのだけれど、流石に最低限の人権ぐらいは守られているものと思っていた時期が俺にもあった。

 

「あ、あのぉ………」

 

 目の前に建っている物を見て絶句している俺に声をかけてくる山田先生。正直、この女教師が天然だろうがなんだろうが、半殺しにしたい気分だ。

 ふと、後ろを見る。そこには高級そうな雰囲気が感じられるが、もう一度視線を戻した先のは、どう考えてもそれとはかけ離れている。

 

(織斑と部屋が別なのはいい。一緒にしていたら間違いなく殺していたからな)

 

 今日の一連の原因である織斑の息の根を止めるのはたぶん容易いし、あんな無神経なゴミ虫と同居させられるなら間違いなく向こうを追い出している。姉が出てきてもたぶん中に入れることはないだろう。

 だけどこれは……この扱いは人としてどうなんだ?

 

「この差は一体なんですかね?」

「さ、さぁ……」

 

 そう返事する山田先生。さぁって、この女は教師だよな?

 

「鍵、開けてもらえません?」

「は、はい!」

 

 すぐに鍵を開けてもらい、中に入る。ガスコンロやカーテン、エアコンなどは常備されていたので安心した。

 

(壁もそれなりにしっかりしているし、床も綺麗だ)

 

 一応は申し分ない。ベッドも布団付きで準備されている―――なんだ。外見とは違って意外と準備されている。

 

(……シャワーとかはあるのか?)

 

 心配になった俺は玄関と思われる場所で靴を脱ぎ、散策する。どう見ても後付けだと思われるが、それでもないよりかはマシだろう。

 

「驚きましたか?」

 

 さっきまでのオドオドはどこへ行ったのか、山田先生は「ドッキリ大成功」という看板を持っていた。……その看板はどこから出したのだろうかと疑問に思ったが、それよりもすぐにずれて持ち直すたびに胸が揺れるのでそっちに目が行った。

 

「なるほど。演技だったんですか」

「はい。桂木君が緊張をしている様子でしたので、解す助けになれたらと思ったんです」

 

 満面な笑みで笑顔を向ける山田先生。この好意で「使えない奴」から「お茶目な教師」に評価がアップした。

 

「た、確かに桂木君の評価は悪いですけど、先生は先生なりに手助けするつもりですのでいつでも頼ってくださいね!」

 

 「会議がありますので、ではまた」と言って校舎の方に戻っていく山田先生。ひとまずハニトラの危険性はないみたいだが、比較的警戒は必要みたいだ。……特にあの胸は思春期真っ盛りの俺には刺激が強すぎる。

 とりあえず中に入って置かれている荷物郡の荷解きから始めることにした。

 

(おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい……は!?)

 

 しばらくこの煩悩は続く。


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