IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#33 デュノアの秘密

 フランスのとある場所にて、4人で構成されたある一団がデュノア家が所有するある一軒の家の前に集まり、代表者と思われる男がインターホンを押す。

 するとゲートが開き、一団はそのまままっすぐに進んでいった。

 その一団の人間たちは色は違えど、背中に同じデザインのロゴがある。そこには「HIDE」と記載されているが、どうやらそれが彼らの組織名のようだった。

 

「お待ちしておりましたわ、みなさん」

 

 すると彼らは歩みを止め、視線の先にいる二人の姿を見る。一人はデュノア社に所属し、もう一人の執事をしているジュール・クレマン。そしてもう一人は今回の彼らの依頼主―――

 

「もう既にわたくしのことはご存じと思いますが、初めまして。シルヴァン・デュノアの次女、リゼット・デュノアですわ。本日は遠路はるばるご苦労様です」

「お初にお目にかかります。私は独立国家レヴェルの軍事組織の代表「サーバス」と申します」

「レヴェル……聞いたことがない国ですわね」

「でしょうね。レヴェルはつい最近できた国であり、存在する場所も知らせていませんので。まぁ、勝手に国と名乗っているだけのちっぽけな国ですよ」

 

 するとリゼットは「なるほど」と答え、握手を求めるように右手を差し出す。サーバスもそれに応えて同じように右手を差し出して握手をした。

 

「しかし意外でした。次期社長候補のあなたが骨を好む方だとは」

「念のためにお聞きしますが、冗談ですわね」

「ええ。あなたを試させていただきました。まさか密偵として送り込んだその執事の正体を看破するとは思いませんでしたので」

 

 それを聞いたリゼットは自慢げに笑う。

 サーバスは指を鳴らすと、白いジャケットで彩られた男は持っていたスーツケースを持って前に差し出す。

 

「こちらに目当てのものが入っております。ご確認を」

 

 リゼットはそのスーツケースの中を見ると、すぐに閉めた。

 

「………」

「お嬢様。気分が優れないのでしたらベッドで横におなりください」

「だ、大丈夫ですわ」

 

 改めてリゼットは中身を確認する。そこには人体の骨が存在しており、もう一度閉めた。

 

「ご安心を。中には人間に必要な人骨が入っております。もっとも、使い方次第では例え1本かけていても問題ありませんが」

 

 笑いながらそう答えるサーバスの顔は女性が100人いれば80%は振り返るだろうと思えるほどのいいものだった。所謂イケメンである。

 そんなイケメンに励まされたからか、リゼットは再び生気を取り戻した。

 

「ありがとうございます。では、報酬としてここを拠点として利用してはいかがでしょう。どうせあの二人も消えるのですから、一か月程度バレることはありませんわ」

「そうですか。ならばお借りしましょう。そろそろ諸国にも拠点の一つや二つはほしいと思っていましたから」

 

 サーバスはそう答えると、リゼットはすぐに口を開く。

 

「ならば、すみませんがもう一つ聞いてもらいたいことがありますの」

「…なんでしょうか?」

 

 驚いたサーバスだが、それに気付かれないように真顔で尋ねる。

 

「ジュールからあなた方の国の医療文化がどの国とも発達していると聞きました。なので、とある女性の治療をお願いしたいのです。ジュール」

「……わかりました」

 

 ジュールは一度下がる。すると家の裏手から予め準備されていたのだろうか、車椅子に拘束されているだけでなく、アイマスクに轡をかまされた女性が現れた。

 

「この方は?」

「先ほどの依頼はついで。本題はこちらの方の社会復帰のために尽力を尽くしてほしいのです」

 

 真剣な顔でリゼットはそう言い、サーバスは一度瞼を閉ざしてから開け、返事をした。

 

「わかりました。この方の治療に尽力を尽くさせましょう。ミア、彼女をジュールから引き取って君とヘリだけで国へ戻ってくれ」

「わかりました」

 

 ミアという名の女性はジュールからその女性を預かり、来た道を戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏のシャワーは格別だと思うのは俺だけだろうか。

 思いの外冷や汗をかいていた俺はシャワーを浴びていると、後ろから何やら歓喜が聞こえてきたがしたがスルーし、バスタオルで一通り拭いてから出ると誰もいなかった。織斑がいないのはともかく、デュノアはまだ外にでもいるのだろうか。

 

「……3時か」

 

 学校があるから下手に電話をしても迷惑だろうし、メールでもいつ返事が返ってくるかという問題だ。

 

(更識に相談するべきだろうな)

 

 とはいえ何か被害があったわけでもないし、もう少し様子を見るか。もし攻撃した時には倒してISを回収した後にISスーツを破いて腹辺りに何か「拾ってください」とでも書いておけば悲惨な人生を送れるだろう。もしくはフランスに賠償請求すれば金を貰えるか?

 着替えを袋に入れ、帰ろうと更衣室を出ようとすると女物のハンカチを見つけた。

 

「………何だ、これ」

 

 通常、男が持つハンカチというのはこの歳になるとパターンが決まる。暗めが多く、ダンディな雰囲気の柄を持つことが多いのだが、このピンクのハート柄はどうなんだろうか? いや、ないな。いくら織斑でもこんなハート柄のハンカチを持つわけがない。

 失礼と思いつつ名前を探すと、そこにはこれとない証拠があった。

 

「………」

 

 妹も結構変わっていると思っていたが、兄の方も相当だな。いや、義兄か?

 ともかくそのハンカチを広げ、証拠写真を撮ってから鞄に入れて織斑たちの部屋に向かうことにした。

 

(これは要相談だな)

 

 思春期真っ盛りの男が間違えて妹のものを持ってくるのだろうか。そもそもデュノアには怪しい部分があるからな。証拠写真はあるからひとまず返そう。

 

(返すときの言い訳はどうすればいいだろうか?)

 

 ……推理したからってことにすればいいか。それならばある程度は大丈夫だろう。

 そして寮へと移動した俺は、おそらく人生初である織斑の部屋のドアをノックする。

 

「は、はい! ちょっと待ってくれ!」

 

 よほど慌てているのか、中から慌てた声が聞こえてきた。

 ドアが開くと織斑が顔を出した。

 

「ゆ、悠夜?!」

「何だ? まるで俺が来てはいけない時に来たみたいだな」

「そ、そんなことはないぞ! うん!」

 

 ふと思い出した俺は小型の球体を起動させて床に落とす。すると眼鏡が連動して左だけ視界が変わった。

 球体はそのまま進み、手前のベッドの中に入る。

 

「で、どうしたんだ? 悠夜がここに来るなんて珍しいな!」

(挙動不審すぎるぞ)「デュノアが忘れ物をしたんで届けに来てやったんだよ」

 

 そう言って俺はデュノアのハンカチを織斑に渡した。するとそのハンカチを見て織斑はますます焦りだした。

 

「こ、これって女物だろ!? どうしてこれがシャルルのだって―――」

「お前みたいなホモとは違ってデュノアはあの容姿で接し方が紳士だぞ? 「あなたのを使ってますよ」というアピールの一つや二つ、するだろ」

「そ、そうだよな。シャルルって紳士だもんな」

 

 普通いないだろ、そんな奴。自分で言っておいてなんだが。

 

「じゃあな、デュノアに渡しておいてくれ」

「あ、ああ。って、ちょっと待て!」

 

 織斑が俺を呼び止めるので振り向くと、真剣な面持ちをしていた。

 

「実は大切な話があるんだ。だから、ちょっと寄ってくれないか」

「つまりそれは死にたいってことでいいのか?」

「なんでそうなる?!」

 

 そりゃあ、お前にホモ疑惑が浮かび上がっているからな。実はデュノアとは演技で、本当は既に調教済みで今度は俺を狙っているっていう予測がすぐにできてしまっているからだ。

 

「悪いがこっちにも用事があるんだ。お前の大事な話なんざ聞く気はない。じゃあな」

 

 そう言って俺は早足でそこから去り、すぐに自分の部屋に入った。

 そこで盗聴モードにして左目で織斑たちの様子を確認すると、デュノアの胸が何故か大きくなっているのでその証拠写真を持参しているPCに画像データとして送る。

 これは親父が開発小型盗聴器兼カメラ。名前はスパイボール。女尊男卑対策として、証拠を残すために開発したもので、盗聴だけでも映像だけでも残せる高性能スパイグッズだ。二年前の誕生日にこれをもらった。

 

『ったく。悠夜の奴……それで…その…』

『う、うん』

 

 どうやら二人は本題に入るようだ。ぜひ話してもらおうか。

 

『何で男のフリなんてしてたんだ?』

『それは……実家の方からそうしろって言われて……』

 

 その間の話を聞いている間、俺はデュノア社のこと検索をかける。見たところ、順調のようだがな。大体、デュノア社って言えば量産型シェアで第三位だからそれほど切羽詰まっているわけはないと思うが。異星人の脅威が迫ってる新○暦じゃあるまいし。

 

『実家っていうと、デュノア社の―――』

『そう。僕の父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ』

 

 まぁ、裏事情には詳しくないからどうなっているかなんざ知らないが、よほど切羽詰まっているようだ。こんな間抜けな策を講じるとはな。

 

『命令って……親だろう? 何でそんな―――』

『僕はね、一夏。愛人の子なんだよ』

 

 瞬間、織斑たちの部屋の空気が凍り付いた……気がした。

 

『引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなった時にね、父の部下がやってきたの。それでいろいろと検査をする過程でIS適応が高いことがわかって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやることになってね』

 

 なるほど。リゼットからは姉や兄のことは聞いたことがないからな。大体リゼットが日本に滞在したのは一年間、その直後ぐらいだろうか。

 

『父にあったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしているだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時は酷かったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね』

 

 カメラを拡大させてデュノアの顔を見ると、愛想笑いとすぐにわかった。

 

『それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの』

『え? だってデュノア社って量産機ISのシェアが世界第三位って悠夜が言ってたけど……』

『間違ってないよ。でも結局はリヴァイヴは第二世代型なんだ。ISの開発ってのはものすごくお金がかかるんだ。ほとんどの企業は国からの支援があってやっとなりたっているところばかりだよ。それでフランスは欧州連合の東郷防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。第三世代型の開発は急務なの。国防のためもあるけど、資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨なことになるんだよ』

 

 本当にすべてを話してくれるな。尋問をする手間が省けるというものだ。

 ちなみに朱音ちゃん曰く欧州連合では次期主力機の選定中だそうで、そのためにオルコットとボーデヴィッヒは送られてきたんだそうだ。

 

『話を戻すね。それでデュノア社でも第三世代型を開発していたんだけど、元々遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、中々形にならなかったんだよ。それで政府からの通達で予算を大幅にカットされたの。そして次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット。その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったの』

 

 ……そんな簡単にカットするか?

 確かにフランスにはデュノア社以外にも会社はあるが、最後発とはいえ量産型の開発に成功しているのだ。おそらく何か理由があるのだろう。

 

『なんとなく話はわかったが、それがどうして男装に繋がるんだ?』

『簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。それに―――同じ男子ならば日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人たちのデータを取れるだろう……って。つまりは白式を優先的に、そして新たに出現した第三世代の黒鋼…及び両操縦者のデータを盗んでいるんだよ。僕は』

 

 どうやらその社長はかなり見る目がなかったようで何よりだ。黒鋼のデータなんて取られたらマジで洒落にならないからな。

 

『とまあ、そんなところかな。でも一夏にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ……潰れるか他企業の傘下に入るか、どの道今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいい事かな』

 

 デュノア社は間違いなく他社の傘下に入るだろうな。第二世代とはいえ量産型には成功しているだろうし。

 

『なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今まで嘘ついててごめん』

 

 謝ったところで犯罪が軽減するというわけではないがな。

 

『いいのか、それで』

『え?』

 

 唐突に織斑が何かを言い始める。

 

『それでいいのか? いいはずがないだろ。親がなんだって言うんだ。どうして親だからってだけで子供の自由を奪う権利がある。おかしいだろ、そんなものは!』

『い、一夏……?』

 

 急に熱くなる織斑。一体どうしたというのだろうか。

 

『親がいなけりゃ子供は生まれない。そりゃそうだろうよ。でも、だからって、親が子供に何もしていいなんて、そんな馬鹿なことがあるか! 生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはずだ。それを、親なんかに邪魔される謂れなんてないはずだ!』

 

 ………こいつは親に何かされたのか? いや、それならば人間不信になっているはずだ。

 

『どうしたの、一夏、変だよ?』

『あ、ああ……悪い。つい熱くなってしまって』

『いいけど……本当にどうしたの?』

『……俺も親に捨てられたからさ』

 

 ………そんなの、関係あるか?

 確かに俺には親はいたが、まともに「これが親だ」と思う奴ではなかったし、バイトも自分でやって携帯代もほとんど充てていた。やろうと思えば、親がいるいない関わらず成長はできる。特に今は子供に対する支援制度は充実し始めているのだからな。

 

『でも今はそんなことは関係ない。それに、シャルルを助ける手立てだったらある』

 

 そう言って織斑は生徒手帳を開いた。

 

『『特記事項第21項、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家、企業、組織、団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』。これならこの学園にいる三年間なら無事だろ』

 

 そして俺はオルコットが乱入するまで放置しておき、その辺りで録画を終了した。後はスパイボールに戻ってくるように指示を出した。これはメガネと連動しているのでできることらしく、手放したくない理由の一つである。

 俺は早速更識に報告するために電話をかけることにした。罪悪感なんてものはない。ハーレムとかそんなものには興味がないが、織斑はこっちに害を為す意味では目障りでしかないからな。

 電話帳から更識の番号を探していると、タイミングがいいのか鍵が開錠される音がして、ドアが開く。制服姿の更識(姉)が姿を現した。

 

「ただいま。ちょっと話があるんだけど、いいかしら?」

「おそらくそれは俺が探っていることと関係しているだろうから、先にシャワーでも浴びてきたらどうだ? 薄化粧とはいえ少しは落ちてるだろ。飯を作っておくから」

 

 そう言って俺は米櫃から米を出し、米を洗ってから炊飯器に移して水を張り、炊かせる。

 

「……そう。じゃあ、お願いね」

 

 仔細を聞くことは止めた更識はタンスから着替えを出してシャワー室に入る。最近は暑くなってきたからか、週に3,4回ぐらいしか風呂に入っていない。ちなみにシャワー室とコンロがある廊下は洗面室を挟んでいるが結構近いので音だけで性欲が刺激されたのは最初の頃、今ではそこまでではない。

 今日はポークソテーにして、一緒にトマトときゅうり、レタスの野菜添えにしようと思いながら冷蔵庫に眠っている野菜を取り出した。




今回はスパイ活動をしているという点からこのように展開させていただきました。ほとんどコピペです。

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