IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#32 土曜日のある日

 更識の専用機作成に朱音ちゃんが手を貸し始めて4日が過ぎた頃、土曜日の午前授業を終えた俺は一番にアリーナに向かって黒鋼を展開していた。

 周辺には朱音ちゃんが作ったホログラム投影機から俺がよく知る機体が姿を現す。

 

(……今日はグ○か)

 

 カスタムじゃないか否かはこの際問題ではない。

 《ヒート剣》を出した敵は《フィンガーバルカン》を撃ちながらジグザグに移動をはじめ、攪乱する。

 それをバッグで回避すると土煙が舞い、正面から《ヒート剣》が現れてそれを回避する。そして《アイアンマッハ》を展開し、《ヒート剣》を持つ右手を一撃で破壊した。

 《アイアンマッハ》も《フレアマッハ》もどちらも連射性を上げたライフル銃だ。とあるアニメで見る三点バーストなるものはさすがにできないが、オートリロード式なので初心者にも優しい銃である。そのため、センサー・リンクが付いているISならば85%の確率で当てられる。スパ○ボやポケ○ンでこの数値は信用ならないが、リアルでは結構信頼できる。

 

「そこ!」

 

 右手で注意を逸らさせて、敵のコクピットの部分めがけて《アイアンマッハ》を、頭部のモノアイには8つあるビットを展開して狙い撃った。コクピットは少しずれたが、何故かビットの狙いは正確で外さない。

 

《試合終了。並びに、システムを終了します》

 

 ホログラムを回収し、先程の戦闘データを朱音ちゃんに送る。

 更識の専用機は朱音ちゃんが手を貸してから順調に進んでおり、今度の月曜日に試験作動をする予定らしい。そのための稼働データらしいが、果たして俺のデータが役に立つだろうかと思いつつ、俺は月城さんに連絡を入れた。

 

「受け入れ可能にしていただいて大丈夫です。協力、ありがとうございます」

『わかったわ』

 

 アリーナの土曜日と日曜日は少し変わっている。使用上限は一応決まってはいるが、

 

ちなみにさっき俺は月城さんに頼んでこれから来る人たちに少し止めて置いてもらったのだ。いくらISと変わらないサイズとはいえ、見たことがない機体が現れたらパニックになる恐れがある。ただでさえこの学園のロボットアニメ浸透率が低いんだ。……ISを動かしているなら多少は参考になるというのにな。俺は毎日「大辞典」や「大百科」で流用できるかを探しているだけなのに、どうして日頃から文句ばかり言われなければならないのかわからない。キモイなど言われるが、鷹なんとかに聞いた話だと「女の子はあまりロボットアニメを見ない」らしい。その場で「頭大丈夫か?」と言いそうになったのをどれだけ我慢したか。

 

(……女の子と言えば)

 

 月曜日に転校してきたシャルル・デュノア。知り合いに同じ「デュノア」の姓を持つ二つ下の女(なので日本で言うと中学3年生)がいるが、おそらく会社の益に絡んでいるから教えてもらえないな。

 

(まぁ、十中八九女だろうけどな)

 

 おそらくは俺たちのデータだろうな。男性操縦者のデータは貴重らしいし。

 

「———悠夜じゃないか! おーい!!」

 

 考え事をしていたら聞きたくない声が耳に入ってきた。

 後ろを向くと織斑が白式を展開している状態で俺に対して手を振っている。

 

「悠夜も一緒に練習しないか? みんなでやった方が楽しいし」

 

 その言葉に後ろにいる約二名が殺気立っているんだがな。そして凰は二人と俺を見て俺に対して同情の眼差しを向けている。

 

「気が乗らないからパスだ」

「そう言わずにさ、それにシャルルだって寂しがってたんだぜ。絶対みんなでやった方がいいって!」

 

 どうやら姉弟揃って拒否権はないらしい。全く、ふざけた奴らだ。織斑ってのはどこか頭がおかしい奴しかいないようだな。

 

「で、そのデュノアがいないようだが?」

「トイレだってさ。いずれ後から来るだろ。そんなことより模擬戦しようぜ! 俺、お前とやったことないし」

「そういうことならわたくしもさせて頂きますわ。あの戦いは結局うやむやになりましたし」

「当然、私も参加させてもらう」

「———じゃあ、僕もいいかな?」

 

 どうやらデュノアも合流したようだ。やれやれ、まったくこいつらは。

 

「じゃあ、ちょうど4人がしたいようだからそれぞれタッグを組んでやれ。場所は開けてやる」

「俺はお前とやりたいんだよ!」

 

 その発言で後から来た腐女子が歓喜した。後ろで「攻め」やら「受け」やら聞こえてくるので今すぐ機体をぶち壊したい気分である。

 俺の気配を察知したのか、凰がため息を吐いてフォローした。

 

「別にやりたくない人を無理やりやらせたって満足のいく結果が出せれるわけないし、先にそっちでやって悠夜のやる気を出させればいいんじゃない?」

「そうだな。じゃあシャルル、やるか」

「そうだね。じゃあ桂木君、見ててね」

 

 途端に歓喜が上がったので、俺は黒いノートにデュノアの名前を足して「正」の字を最初の「一」を書き足した。無自覚とはいえ、よもや腐女子如きの餌にされるとは。

 

「悠夜、それって何のノート? もしかしてデス―――」

「似たようなものだな。これに名前を書かれた奴は俺の策やそうでない因果で大抵は酷い目に合ってる」

「なにそれ怖い」

 

 ある意味未来予知のノートでもある。……まぁ、書いた俺自身が俺以外の手で痛い目を見た時に驚いているが。

 

「……アタシの名前は書いた?」

「書いてないけど、お前の不幸と言ったら織斑に振られ―――」

 

 凰に口を塞がれる。俺としてはある意味役得だが、凰にとってはどうなんだ。

 ちなみに織斑とデュノアは今二人で戦闘しており、デュノアの分析のために俺はそれを録画していた。凰の場合はデータがあるし、オルコットは以前に織斑との戦闘記録をダビングしているので問題はない。もっとも、織斑も篠ノ之も眼中にないが。

 

(デュノア、男性操縦者の割には結構動けているな)

 

 証拠としては不十分だろうが、それでも録画する価値はある。

 

(というか織斑はデュノアのことをどう思っているんだ?)

 

 いくら何でもタイミングも、そして操縦技能も高すぎる。4月の時点で来ない方がおかしい。………まぁ、家が「デュノア」ということもあって2か月間集中的に練習していたのかもしれないが。

 もしここで怪しまずに普通に友達として接しているのならば、ただのアホだ。

 とか考えていると凰は篠ノ之とオルコットに誘拐されており、もうそろそろ二人の戦いも終わりそうだ。というか織斑、本当に突っ込むしかできないのか。シールドもないし、やられっぱなしだ。

 やがて二人は戦闘を終え、俺がいるピットへと着地した。

 

「どうだった? やる気出た?」

「いや、ただ織斑の武装が剣一本って、やっぱり異常だなと」

「でも仕方ないんだよ。容量がないってことらしいし」

 

 何その異常は。朱音ちゃんに見せたい気分だが、朱音ちゃんが織斑の毒牙にかかることがないようにしないといけないので拒否だ。

 

「で、一夏。結局何で負けたのかわかる?」

「そ、それは……やっぱり俺が弱いから?」

「それもあるけどね。一夏の場合、オルコットさんや凰さんも含めて勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

 

 さりげなく厳しいことを言うデュノア。あまりにもさりげなかったので、織斑はそのことに気付いていないようだ。

 

「そ、そうなのか? 一応わかっているつもりだったんだが……」

「わかっているって言っても知識でってだけだろ。さっきデュノアと戦っていた時もほとんど間合いを詰められてなかったし」

「そ、それはそうだけど……。瞬時加速(イグニッション・ブースト)も読まれてたしな」

 

 やっぱりこういう反省会ってのは好きだな。織斑を虐められるから特に。

 

「一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ」

 

 織斑が持つとただの欠陥品としか聞こえないから不思議である。そういうのって、サブウェポンとしてビットかミサイルを積むはずなのにな。

 

「特に一夏の瞬時加速って、直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」

「直線的か……うーん」

「あ、でも瞬時加速中はあんまり無理に軌道を変えたりしない方がいいよ。空気抵抗とか圧力の問題で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」

「……なるほど」

 

 デュノアの説明はわかりやすいな。更識(姉)や朱音ちゃんの方が上だが。そして織斑はまるで救世主を見ている顔をしていた。

 

「……織斑、お前はなんて顔をしているんだ。ハッキリ言って気持ち悪いから殴らせろ」

「ちょっ!? 違うって! ただ俺は、シャルルの説明がわかりやすくて嬉しいんだよ!」

「その言い方だとまるで、これまでの教師は説明が偏りすぎて理解できなかったみたいな言い方だな」

 

 予測して言ってやると、何故か後ろに控えていた奴らが異議を唱えてきた。

 

「ちょっと待て! それではまるで私の説明がわかりにくいと言いたいのか! 貴様らは!」

「否定しますわ! わたくしの理路整然とした説明の何が不満だというの!?」

「………」

 

 凰が口を開いたと思ったら、先程の三人とは対照的な反応を見せる。

 

「もしかして、感覚とかじゃわからなかった?」

「ああ」

 

 今の、結構萌える部分だと思ってしまうほど可愛かったんだがな。どうやら織斑には効かないようだ。

 

「そういえば、一夏の白式って後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

 

 話を逸らすためか、デュノアは話の続きをするように誘導する。

 

「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域(バススロット)が空いてないらしい。だから量子変換(インストール)は無理だって言われた」

 

 だからってそこで諦めるなよ。ただでさえ弱いんだから、盾の一つや二つ入れておいた方が良いだろうに。

 大体、盾がない機体なんてスーパー系の機体だけで十分だ。リアルに相当するISに盾無しだとかなり機動力が必要になる。

 

「たぶんだけど、それって単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)で容量を使っているからだよ」

「ワンオフ・アビリティーっていうと……えーと、なんだっけ?」

 

 何で第一形態(ファーストフォーム)で持っている奴がワンオフを知らないんだよ。

 

「言葉通り、唯一使用(ワンオフ)特殊才能(アビリティー)だよ。各ISが操縦者と最高状態の相性になった時に自然発生する能力のこと」

 

 そういえば、複数持ちっているのか? 今度更識のどっちかにでも聞いてみよ。

 

「でも普通は第二形態(セカンドフォーム)から発現するんだよ。それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いから、それ以外の特殊能力を複数の人間に使えるようにしたのが、第三世代型IS。オルコットさんのブルー・ティアーズと凰さんの衝撃砲がそうだよ」

 

 そういえば、更識姉を交えてブルー・ティアーズの考察をしている時にビットに関して未だに量産されていないことに驚いたな。女たちにあんなに威張っているのに、未だに大抵のエース機に積まれているビットが量産されていないことに驚きを隠せなかった。

 

「なるほど。それで、白式のワンオフってやっぱり『零落白夜』なのか?」

 

 あの燃費は悪い諸刃の剣が必殺技ってのは、素人には難しいだろうに。

 

「白式は第一形態なのにアビリティーがあるっていうだけでものすごい異常事態だよ。前例が全くないからね。しかも、その能力って織斑先生……初代『ブリュンヒルデ』が使っていたISと同じだよね?」

 

 ちなみに「ブリュンヒルデ」というのは、ISの世界大会「モンド・グロッソ」の総合優勝者に与えられる称号らしい。モンド・グロッソは二回行われているのに、大抵は織斑先生を指すという意味不明な現象が起きている。

 

「まぁ、姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」

「ううん。姉弟だからってだけじゃ理由にならないと思う。さっきも言ったけど、ISと操縦者の相性が重要だから、いくら再現しようとしても意図的にできるものじゃないだよ」

「………いや、案外そういう線だったりしてな」

「「え?」」

 

 俺が口を挟むと、二人が意外そうな顔で俺を見る。

 

「何だ?」

「さっきも言ったけど、そういうことってないよ―――」

「デュノアは来たばかりだから知らないが、織斑姉弟ってかなり似てる部分が多いんだよ。他人の意見は無視をする。自分が正しいと信じて他人の意見は無視する」

「同じことを二回言ってるけど?!」

「それくらいこの姉弟は人の話を聞かないんだよ」

 

 するとそれを否定するように織斑は口を挟んだ。

 

「俺、人の意見を無視した覚えないぞ」

 

 さっき無視したのに何を言ってんだ、こいつは。

 トーナメント前に恐怖を植え付けようかと考えていると、後ろから凰が俺を呼んできたので渋々離れてそっちに言った。

 

「……何の用だよ」

「不穏な空気が漂ってきたから離れさせたのよ。全く、今度は何が理由よ」

「織斑姉弟は人の意見を聞かないって話をしていただけだ」

「…………はぁ」

 

 盛大にため息を吐く凰。何か間違ったことを言っただろうか?

 

「アンタねぇ、いくら何でも本人の前でそんなこと言ったらダメでしょうが!!」

「別にいいだろ。鳥頭だからすぐ忘れるだろうし」

「………一度忘れられている身としては否定できない」

「ハハハ」

 

 空笑いをしてやると、凰から拳が飛んできたので回避する。

 

「また当たらなかったわ。回避能力高すぎよ、アンタ。何でISじゃ当てれるのに生身じゃ一度も当たらないのよ」

「ゾンビ鬼を命がけでやったらそれなりの回避能力は身に着くさ」

 

 更識の攻撃は当たるから。

 

「普通、鬼ごっこでそんな回避能力鍛えられないわよ」

「タッチされたら負けも同然だからな。最後まで残るってのはある意味勲章だったから。その点、最初から鬼だと4,5人タッチして仲間を集めたら後は一人を屋上から双眼鏡で監視させてトランシーバーで―――」

「それ本当に鬼ごっこだったの!?」

 

 俺がトランシーバーを持ってこないときはやる気がないときだから、率先してやらせたがっていたが、したらしたらで一人一人確実に陣形を狭めて捕らえたからなぁ。アニメを見たらこれくらいはできる……たぶん。

 二人で会話をしていると、篠ノ之とオルコットが俺たちを見て微笑ましそうにしていた。どうやらデュノアと織斑の方はもういいようだ。

 とか思っていると、デュノアの専用機の話が聞こえてきた。

 

「———本当に同じ機体なのか?」

「ああ、僕のは専用機だからかなり弄ってあるよ。正式にはこの子の名前は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。基本装備(プリセット)をいくつか外して、そのうえで拡張領域を倍にしてある」

「倍!? そりゃまたすごいな……。ちょっと分けてほしいくらいだ」

 

 二人の話を聞いていると、本当に羨ましく感じる。俺なんて朱音ちゃんの装備が俺の趣味と合い過ぎて、ラボの専用フォルダから常に迷いに迷って選んでいるからな。その変わりと言っていいのか、IS学園のはテンプレすぎるから微妙な感じがする。

 

「あははは。あげられたらいいんだけどね。そんなカスタム機だから今は量子変換してある装備だけでも20くらいはあるよ」

 

 ………これは随分と攻略が難しそうだな。

 正直な話、俺にとって武装が多い相手ほどやりにくい。武装によって戦闘パターンが変わるし、すぐにこっちの戦術に対応されるからだ。それにさっきの対戦を見る限り、デュノアの展開スピードは結構早い。

 

(下手な高出力機よりもよっぽどキツイな。織斑が雑魚にしか見えない)

 

 ちなみに俺にとって織斑はただのサンドバッグだ。一撃一撃の攻撃が高いだろうが、突っ込むだけの奴に絶対に負けねえよ。それに今度のトーナメントでは痛い目を見るなんて生ぬるいことで済ませる気はない。

 なんてことを考えていると、フィールドの中にいる女たちが騒ぎ始めた。

 

「ねぇ、ちょっとアレ……」

「うそ、ドイツの第三世代型だ」

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

 そして最も厄介な一人、ラウラ・ボーデヴィッヒが現れた。

 ボーデヴィッヒは転校してきたからというもの、初日のアレを除けばクラスの誰とも関わる気はない様だ。度々ボーデヴィッヒの隣に座るデュノアが話しかけているが、一睨みで沈めているのは記憶に新しい。布仏曰く、俺とボーデヴィッヒの間には何とも言えないダークカオスが広がっているらしい。

 

「おい」

 

 容姿だけだとかなりレベルが高いであろうボーデヴィッヒはISの開放回線(オープン・チャネル)で敵視している織斑に話しかけた。その間、奴のISを観察していたが、どう見ても奴の右肩にある長い筒は要注意だろう。

 

「………なんだよ」

 

 誰に対しても優しく接するトラブル・テンペストこと織斑がぶっきらぼうに答える。さすがに初日に殴られたら気に入らないだろう。俺はこれとこれの姉とバカの代表候補生のおかげで初日から面倒な目に合っているからな。挙句の果てにボコられるという意味不明な展開だから。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

「嫌だ。理由がねえよ」

「貴様にはなくても私にはある。貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成し得ただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない」

 

 一体何の話だろうか? 近くにいる凰に聞くと、信じられないって顔をされた。

 

「三年前、結構大騒ぎされたじゃない!」

「三年前って言ったら、俺は朝にランニングするか足りなくなったプラモの材料を買いに行くかぐらいしか外の情報を知る機会がなかったんだが?」

「まさか、引きこもり?」

「事情を知らない奴からしてみればそういうことになるんだろうな」

 

 後は新譜のレンタル開始日にレンタルショップに行くか、バイトか。

 

「まぁ、暮らし方なんて人それぞれだし、口出す気はないけどさ………」

「言っておくけど、ちゃんと学校には行ってたからな?」

 

 休んだ日ってないんじゃないかってレベルで。

 

「また今度な」

「ふん。ならば―――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 するとさっき注目していた右肩の筒が起動し、ロックオンする。……何故か俺に。

 そして発射された球体が俺めがけて飛んできた。どうやら随分と織斑の性格を理解しているようだな。

 俺は凰を抱えて回避しようと思ったがすぐに思考を変え、凰を後ろに下げてナイフを展開して真っ二つにした。

 

「何っ!?」

 

 周りがざわつくが、その中で一番驚いたのはボーデヴィッヒだったようだ。

 

「貴様、今何をした!」

「いや、ただ切っただけだが」

 

 まさか俺もナイフで砲弾を切れるとは思わなかった。かなり切れ味が鋭いようだ。

 

「あ、ありがとう……」

「どういたしまして」

 

 後ろの凰にそう言ってから俺はボーデヴィッヒの方を向く。

 

「………まさか砲弾を切るとは思わなかった。貴様の評価を改めなければならないな」

「ただこのナイフが特殊なだけだから気にするな。偶然だ、偶然」

 

 後で性的興奮で覚醒する主人公のライトノベルが、朱音ちゃんの部屋に並んでいるか確認しに行かなければならないな。何故か俺は出入り自由だし、彼女が帰った時に俺がいたら飛びついてくるし。

 

「まぁいい。織斑一夏、貴様を倒す!」

 

 今度は実力行使で来たようで、ボーデヴィッヒのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』の籠手部分からビームが伸びる。それを今度はデュノアが割って入り、防いだ。

 そして押し返すと、素早く銃器を展開してそれをボーデヴィッヒに向ける。

 

「こんな空間でいきなり戦闘をしようだなんて、ドイツ人は随分と沸点が低いんだね。ビールだけではなく頭もホッとなのかな?」

「貴様……だが――」

 

 俺は凰から少し離れ、そこから跳んで二人の間に入る。

 

「はい、ストップ。さっきハイパーセンサーで確認したら教員が来てたからもうそろそろ引いた方がいいぜ」

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 相変わらず遅い……いや、今回は早いのか?

 

「………ふん。今日は引こう」

 

 これ以上騒ぎを起こしたところで、どう考えても俺が負けるのは目に見えているので引き止めずに見送った。本当は織斑の出汁に俺を使おうとしたことで逆らえないように調教したいところだが、こんなところで俺の機体情報をさらすわけにはいかない。

 

「一夏、大丈夫? 桂木君も……」

「あ、ああ。助かったよ」

「…………」

 

 何だろう。デュノアが妙に俺のことを警戒している気がする。俺としては初日以外に関わることなんてそれほどなかったので何もしていないんだが。

 

「今日はもう上がろうか。どのみちもうアリーナの交代時間だしね」

「おう。そうだな。あ、銃サンキュ。いろいろと参考になった」

「それなら良かった」

 

 さて、俺もそろそろ上がるか。朱音ちゃんと話し合う話題もあるし。十蔵さんは嫌そうだが、何故か晴美さんと菊代さんには「是非とも時間がある時は会ってほしい」って言われてるし。

 

「えっと……じゃあ、先に着替えて戻ってて」

 

 言われた通りってわけではないが、着替えるために先に行こうとしたが織斑が来なかった。

 

「たまには一緒に着替えようぜ」

「い、イヤ」

「つれないことを言うなよ」

「つれないっていうか、どうして一夏は僕と着替えたいの?」

「というかどうしてシャルルは俺と着替えたがらないんだ?」

 

 どうやらデュノアが織斑と一緒に着替えないらしい。普通なら「別に一人でだろうがいいだろ」と思うが、デュノアの場合だとどうしても怪しく感じる。

 

「どうしてって……その、は、恥ずかしいから……」

 

 表面上は納得しておくが、心中では怪しんでおこう。

 そう思って先に行こうとすると、織斑はすごい事を言った。

 

「慣れれば大丈夫。さあ、一緒に着替えようぜ」

「いや、えっと、えーと……」

 

 この際、デュノアが女であってほしいと切に願い始める俺がいる。というか女だと見ていられないので助け舟を出すことにした。

 

「なるほど。織斑はやっぱりホモだったというわけか」

「俺はホモじゃねえ!! というか「やっぱり」ってどういうことだよ!」

 

 すぐさま否定する織斑だが、残念ながら傍から見ればそうには感じない。

 

「もしくはあれか? 自分と他人の例のアレを見比べて優越感に浸ろうってか? だとしたらお前はやっぱり最低な奴だな。いや、最低な変態だな。今すぐ死ねばいいのに」

「だからやっぱりってなんだよ!!」

「可哀想なデュノア。自分より大きければ切られ、小さければ掘られる。あ、俺はノーマルだから安心しろ。あさってからお前らの席にちゃんと傘マークを書いておいてやる」

 

 ホモカップル、ここに爆誕! って感じで。

 

「悠夜! 適当なことを言ってると怒るぞ!!」

「アンタが妙なやり取りをするからでしょうが!!」

 

 凰のチョップという名の突っ込みが入った。

 

「こ、コホン! ……どうしても誰かと着替えたいとおっしゃるのでしたら、そうですわね。気が進みませんが仕方がありませんわ。わ、わたくしが一緒に着替えて差し上げ………」

「こっちも着替えに行くぞ。セシリア、早く来い」

 

 大和撫子の皮を被った悪魔がお嬢様の皮を被ったビッチを連れて行った。性格上、男女が同じ部屋で着替えることを良しとしないらしい。

 

「暴力っていうのはこういうのを言うのよ! ……あ」

 

 そして凰がナックル的突っ込みを入れて、「やってしまった」という顔をしていた。どうやら普通の女の子になるのはまだかかるようだ。




今日と明日が地獄なので誰か助けてください。

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