IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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お待たせしました。束の間の休息中に投稿しました。
今度はいつ投稿できるだろうか……。


第2章 世の理を外したコンセプト
#22 轡木ラボに訪問しました


 朝。五日も寝ていればさすがに眠くないのか、朝日が出るかどうかという時間に瞼開けた俺は寝なおすために トイレに行こうと考えた。

 

(……考えてみれば、もう5月も下旬ってところか)

 

 もうすぐ6月に入ろうとするため、朝日が昇るのも早い。そしてトレーニングは今は禁じられているから寝るしかない。

 とりあえず立ち上がろうと左手をベッドに付くと、何故かそこだけモチモチしていた。

 

(……こんな枕、あったっけ?)

 

 しかし何だろうな。枕の割に妙な人のぬくもりを感じるんだが。

 とりあえず別の場所についてベッドから出て、トイレに入る。少しして綺麗に手を洗ってから空気が勢いよく出る装置に当ててペーパータオルで拭き、ベッドに戻る。

 

(……何だ、抱き枕か)

 

 というかまるでぬいぐるみだな。抱き枕としては珍しいが、俺は何故か抱き着き癖があるみたいだからありがたく使わせてもらおう。

 そう思って俺はそれを引き寄せようとしたが、何故か動かなかった。

 

(……えっと)

 

 というか妙な温かみを感じるというおまけ付きである。

 気になってぬいぐるみの顔を探すと、そこには見覚えのある奴の顔が描かれている…いや、存在していた。

 

(まさか……布仏?!」

「ふみゅ?」

 

 ふみゅってなんだよ、ふみゅって。

 しかしどういうことだ。どうして布仏がこんなところにいる?

 もしかしたら昼かもしれないと思って時計を見直すと、やっぱり朝の4時だった。

 

「みゅ~。なにぃ、()()()()

 

 ゆうやんって誰!? ……まぁ、名前からして俺なんだろうけどさ。

 

「今すぐ帰れ」

「え~。もうちょっと~」

 

 そう言って力尽きたのか再び寝息を立てる布仏。俺はため息をもう一度寝ようとしたが、その前に掛け布団を布仏に被せてから別の場所に移動しようとした。

 

「う~」

 

 ———がしっ

 

 急に俺の服が引っ張られ、バランスを崩す。その元を見ると布仏が俺の服を引っ張っている。

 

「………はぁ」

 

 考えてみれば布仏ってかなり強いんだった。

 確かに俺は自分で言うのもなんだが所属不明機…というよりも無人機を倒したとはいえ生身では本気を出せない。考えてみればこの学校に通う奴らと違って身体能力が優れているわけではないし、逃げ足が早いといっても結局は何の解決にもならない。

 仕方なく俺はベッドに入り、できるだけ布仏とは距離を開けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が目を覚ました翌日。朝から検査を受けていた俺は昼頃になって轡木理事長の娘―――轡木晴美(はるみ)さんに退院許可が出た。

 そして教室に行くと睨みつけられる。俺に気付いたらしい布仏がこっちにやってきたが「寝たい」と言ったので遠慮してくれてそのままいつもいるグループに戻っていった。

 さらに時間が進み、本日最終時間が終わって俺は部屋に戻りシャワーを浴びて身支度をした。と言ってもラフな格好に何故か親父が用意していた黒色の作業着も着替えが入ったナップザック。筆記用具に警棒、そして足首・手首にそれぞれ重りを付けているが。知らない人が見たらリストバンドとサポーターをしている風に見えるだろう。しかもこれ、不思議なことに数値を設定するだけで重くなる優れものだ。最初から飛ばしたら体を壊すかもしれないので0.5㎏からスタートして、3日後には1㎏にする予定だ。

 そんなこんなで本校舎職員棟の生徒会室の前に移動した俺はドアをノックする。中に更識楯無という親しい奴……かどうかはさておき、知り合いがいるが今回は4回ノックした。

 

『———どうぞ』

 

 中から返事が聞こえ、ドアを開けつつ「失礼します」と言って中に入る。中には言うまでもなく人はいたが、初対面の人間だった。

 

「初めまして、桂木悠夜君」

「は、初めまして」

 

 まともな挨拶なので少し驚いている。

 こう言ってはなんだが、俺はここに来るまでまともな挨拶を同世代はおろか教師にすらされたことがない。まぁ、山田真耶という例外はいるが。

 

「どうしました?」

「…いえ、なんでもないです」

 

 この人、絶対モテるだろうな。父親はさぞ心配だろう。

 

「何か?」

「あ、いえ……部外者かもしれない俺が聞くのもあれなんですが……その……」

 

 どこのどちら様なんだろうか。挨拶しただけで安易に人の評価を高くしてはいけないのだろうが、何故かこの人に対してはそんなことをしてしまう。

 

(俺も随分と他人に優しくなったな……)

 

 よほど轡木さんの言葉を信用してしまったんだろう。………いくら更識のテリトリーの中にいるとはいえ安易すぎるがな。

 

「私は布仏虚です。いつも妹がお世話になっています」

 

 そう言われて俺の脳内に昨日の狐が脳内に出てきた。だからか、目の前にいる女生徒とあの狐が姉妹だということが中々結びつかない。

 

(まさかあのマイペース女にこんな姉がいるとは)

 

 妹とは違って姉は真面目そうなので姉妹のDNAが気になる今日この頃。

 

「こ、こちらこそ」

 

 癒し関係に関しては、俺は彼女以外知らない。

 

「さて、行きましょうか」

 

 布仏先輩の後を追いつつ生徒会室のさらに奥を進むと行き止まりだったが、先輩はそれを気にせず進んでいく。俺もその後を追っていると、布仏が壁に触れていた。

 すると一部の壁が下がり、スライドする。

 

「……駅?」

「そうです。ここからはもう一人と一緒です」

 

 ということなので俺は中に入ると、後ろから何かにぶつかられたので振り向くと、そこには布仏(妹)がいた。

 

「では、妹をお願いします」

 

 そう言って先輩はドアを閉めた。

 

「……一体どうなってんだ、ここは」

「あんまり深く考えない方がいいんじゃないかな~」

 

 間延びした声で布仏はそういうと、何のためらいもなくコンソールを操作していく。

 

(勝手に操作していいのか?)

 

 操作が終わったのか、布仏は中に入って運転席に入り、また操作を始める。

 

「何してるのゆうやん。乗って~」

「お、おう」

 

 モノレールに乗ると動き始め、そのまま移動する。

 

「って、お前が操縦してんのかよ!?」

「さすがにコンピュータに任せるよ~。できるけど」

 

 ………できるんだ、運転。

 度を超えるギャップを突き付けられつつも、俺は昨日のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――轡木ラボのテストパイロットをしませんか?」

 

 唐突に言われた俺はどういうことか一瞬理解できなかった。

 いやいや、普通に考えてほしいんだが、動かして間もない俺が急にテストパイロットってのはおかしいだろう。実績なんて残してな……残していない……よな?

 

(心当たりなんて、あの時ぐらいだよな?)

 

 所属不明機……もとい無人機を撃退したぐらいしか評価がないだろう。あれもおそらく世間では武装のおかげと思われているだろうが。まぁ、あれぐらいの武装の威力だったら倒せるだろう。というかあんなのがあれば誰だってテンションがハイになってあそこまで潰せるだろ。

 

「深く考えなくていいですよ、桂木君。ただあなたは周りとは違い、試験に合格しただけなのですから」

「………えっと、どういうことですか?」

 

 いつの間に試験がされていたんだろうか。というか合格って。

 

「実はあの暴走事件の時、職員の一人があなたに目を付けてパッケージシューターという戦闘機を飛ばしていたんです」

「……そんな名前だったんですね」

 

 実はあの時、そこから飛んできたバックパックの前に移動した俺はそのままドッキングして武装を手に入れた。これは知識で知っていたことで、戦闘機の先端から何かが外れた時にピンときたのである。

 

「あまりにも素直に、そしてわかっているかのように攻撃したのでその職員曰く、「合格」と」

「へぇ。だとしたら随分と簡単な試験ですね。戦闘中の換装ってのは、アニメを見たら否応なくわかる気がするはずですが」

 

 まぁ、場合によっては換装の使用とか、パーツパージだけとかだったりするが。

 大体、状況によってバックパックを変えるなんて戦術的に当たり前だろうと思う。

 

「ですがこの学園だとあまりいないんですよ。悲しいことにね」

 

 轡木さんがそう言うとため息を吐いた。

 一体どういうことだろうか? あんなにテンションが上がる換装方法なんてどこを探してもないと思うんだが。

 

量子変換(インストール)して送ればいいだけの話では、らしいです」

「効率的に考えたらそっちの方が早いですね」

 

 言われてみれば、確かにISには「量子変換」という機能があり、それによって武装の出し入れが可能だ。

 効率を考えればそっちの方が確かに便利なのは間違いない。しかし、

 

「明らかにロマンを理解できていないですね。戦闘中に落とされるかどうかの瀬戸際で、装着し、打開するカッコよさを理解できないのにISを使うなど、論外です。そんな奴らにパッケージはおろか専用機―――いえ、IS自体必要ないです。とっとと消えてもらいたいですね」

「そこまで言いますか……」

 

 俺の物言いに驚いた反応を見せる轡木さん。だってそうじゃない。あのアニメを見ていくらご都合とはいえ危機を脱出したシーンは最高にカッコよかった。

 

「ともかくですね。後日ラボの方に来てください。そこであなたにテストパイロットの手続きと専用機の受領を―――」

「え? 今なんて言いました!?」

 

 専用機、って聞こえたと思ったが、いくらなんでも違うだろう。

 だが俺の予想を裏切るように、轡木さんは言った。

 

「専用機の受領です」

「…………せ、専用機?!」

 

 思わず叫んでしまった。

 おいおい、ちょっと待て。いくらなんでも破格の待遇じゃないのか?

 

「何か不都合でも?」

「………いえ、不都合というよりも、なんて言うのか、あんなことだけで専用機ってやっぱり問題じゃありませんか? いくら俺だけ反応を示したからって、そんなことで専用機を手配されては、さすがに示しがつかないのでは?」

「………その件に関しては後程話ましょう。では後日、ラボの方で」

 

 

 

 

 そう言って轡木さんは帰っていった。

 そんなこともあり、俺は今ラボに向かっていた。

 

(でも、何で俺に専用機なんて……)

 

 確かに自分の身は自分で守るためってことで打鉄の手配はされていた。でもスペックは低いは、正直言うと使いにくい。大体、初期設定で近接ブレードとアサルトライフルというだけってのは困ることだ。大体、あれだけ威張っておいて小型独立兵器を搭載している機体の量産ぐらいはしていると思っていたが、どうやらそういうこともなさそうだ。

 

(……まぁ、動かせたとしてもゲームの中でだけだが)

 

 こっちでも動かせる保証はないが、それでもあってほしいものである。

 

「どうしたの、ゆうやん?」

 

 考え事をしていたからか、布仏が接近していたことに気付かなかった。

 

「どうしたって、何が?」

「さっきから難しそうな顔をしてたから心配したんだよ~」

 

 そう言って俺の頭の上に腕を伸ばす布仏。俺はそれを降ろして布仏の頭に手を置く。

 

「そうか。でももう気にしなくていい。俺の気になんてしていたら、お前まではぶられるぞ」

「……別にいいもん」

 

 そんなことを言っているとモノレールの速度が落ち始める。どうやらもうそろそろ目的地に着くらしい。

 やがて動きが止まり、ドアが開いたので俺たちは降りた。

 

「よく来ましたね、お二人とも」

 

 既に轡木さんが待機していた。

 

「いえ。お待たせすみません。………っていうか―――」

「ああ。これに関してはちゃんと許可は得てますよ」

 

 「私の、ですけど」ってそれって許可を得たというのか?

 気にしないことにして話を進めることにした。

 

「では付いてきてください」

 

 俺たちは十蔵さんの後ろをついていき、中に入っていく。

 道中、白衣や作業着を着た職員たちが仕事をしているのが見え、職員が度々十蔵に気付いては「おはようございます」と言いながら作業を再開していった。

 どうやら彼らは打鉄をいじっているようだ。

 

「……あれって、もしかして俺のですか?」

「はい。あのゴタゴタでかなりダメージを負っていたようで。念入りに修繕を行わせています。まぁ、あなたには関係ありませんが」

「いや、あるでしょ」

 

 俺の未熟さでこれを壊したわけなんだし。

 改めて自分の弱さを痛感していると、轡木さんは言った。

 

「いえ。私たちの認識が甘かったんですよ。あなたは織斑君とは違い、大した後ろ盾を持っているわけではありません。故にきちんとした専用機を用意するべきでした。これも私が甘く見ていたことです。許してくれ、とは言いませんよ」

「いや、単純に俺…私の実力がないからであって、轡木さんが責任を感じることではないと思いますが……」

 

 ちなみに俺の祖母がこんな人と知り合いだなんて最近知ったことで、後ろ盾になってくれなんて頼んだことがないからだろう。まぁ、頼んでも「めんどい」の一言で終わりそうな予感がする。そもそもアレが後ろ盾というのは不安でしかないし、最近はやっぱり親子だからか放浪癖が出て、ここ半年ほど会話をしていない。

 

(最後に会ったのって、去年の夏休みだからなぁ)

 

 基本的に年賀状とか面倒だと思っているからか、お互い出さないし。それにあの人は携帯電話も問題なく使える。

 

「それにあなたの能力を発揮したとしても、打鉄の性能が性能ですのでそこまで満足に戦えなかったと思います。どこまで行ってもあれは量産型でしかありませんし、あなたが()()()()になるにはそれなりの武装が必要だということがわかりましたから」

 

 言われて俺はあの時のことが脳裏に過った。

 気にせず進んでいると、轡木さんは俺たちに止まる合図をしたので停止する。何か変な感じがするところで、懐から何かを取り出した轡木さんはそれを飛ばすと、レーザーがそれを貫いた。

 

「……やはりですか」

 

 何かを呟いた轡木さん。

 すると急にディスプレイが展開され、そこに日本語が表示されていく。

 

【コノサキ、タチイリキンシ】

 

 隣でため息を漏らす轡木さん。

 

「どうしてもダメですか? あの機体を受領しに来たのですが……」

【………】

 

 沈黙しているようだ。一体どういうことなんだろうか?

 俺が聞く前に向こうのディスプレイが指示を出した。

 

【ソウジュウシャダケナラ】

「……わかりました」

 

 轡木さんは俺の方を向いた。

 

「ということです。すみませんが、ここから一人になります」

「…はぁ」

 

 どうやらこの先に行くにはそれなりの覚悟が必要だ。

 

「それとですね―――」

【ハヤク、コイ】

 

 さっきから感じていた変な感じが消え、俺はそのまま進んでいった。


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