「いっけぇッ!!」
中国製第三世代IS「
ISが持てる中での大型で、しかも上級者向けって書かれてあったから当たり前というか当たり前なのだがな。
「動き、止まってるわよ!」
連続で光り、俺に向って何かが飛んでくる。それを手足を捨て、ボディと顔を中心に守る。
衝撃で少しは減るものの、シールドエネルギーがざっくり減らされることはないだろう。
(でもまぁ、攻撃を受けているだけじゃ何もできな―――!!)
攻撃が止んだかと思ったら盾から飛び出すように凰が大型青龍刀《双天牙月》を連結させた状態で姿を現す。
そして俺に斬りかかろうとするが、それよりも前に盾を滑り込ませてガードした。
「防ぐだけじゃ勝てないわよ!」
「言われなくても―――」
そう言ってアサルトライフル《
それが気に食わなかったのか、凰は武器を下して止めを宣言した。
「ああ、もう。止め止め!」
「はぁ?」
大きな声で叫ぶ凰に対して俺は疑問を浮かべると、バランスを崩してそのまま落下する。
地面に当たる瞬間、意識を集中させてギリギリ滞空する。そして凰は俺の隣に着地した。
「………アンタ、よくそれでさっきまで浮いていられたわね」
「さっきまで集中できていたからな。お前が変なことを言うまで」
そう返すと凰はキッと俺を睨んだ。
「アンタ、手加減してたでしょ」
「よくわかったな」
「当たり前でしょ。いくら初心者でも……というか初心者なのに正確にアタシの左をギリギリ当たるかどうかの位置を撃ってたじゃない!」
俺はため息を吐いて凰に誇るように返した。
「今まで戦闘に無縁だった人間がすぐに戦えるわけがないだろ」
「でも、ISには絶対防御があるんだし………」
そう言われるが、そんなことを言われてもそう簡単に「はい、そうですか」と頷けるわけがない。
大体、ISの走行自体が少なすぎるんだ。これが全身装甲だったら躊躇いなく攻撃できる可能性があるというのに。
(………いや、無理か)
人が中に乗っていることがわかっている時点で俺は攻撃できないだろうな。うん。絶対。
「ま、とりあえず一つだけわかったことがあるわ」
「何だよ」
「心が思いっきり戦闘に向いてないのよ、アンタ」
言われた俺はわけがわからず首を傾げた。
「さっき戦ったのをこっちで改めて振り返ってみたけど、アンタの動きはまるで何かから自分を守るような戦いをしていたのよ。でも、同時に攻撃されるのを甘んじて受けているって感じだった」
「………へぇ」
正直驚きを隠せない。
俺が攻撃を防ぐのをそんな解釈されるとは思わなかった。
(………でもこのままじゃ、さすがにまずいよな)
正直なところ、ISで戦えなくても問題ない。でもそれじゃあ体を張ってもらったケイシー先輩に面目が立たない。
(………ちょうどいいか)
ちょうど試したいこともできたし、俺は凰に再戦を申し込むことにした。
■■■
エネルギーを補給した俺たちは再びアリーナ内に滞空する。
「次、手加減したら承知しないからね」
「できるだけ努力するさ」
開始のブザーが鳴ると同時に凰が突っ込んでくる。さっきと同じパターンだった。
俺はそれに対し、近接ブレード《葵》を同時に6本展開した。
「それはちょっと、無駄じゃないかしら?」
「だと思うだろ?」
俺は今、人差し指と中指、中指と薬指、薬指と小指のそれぞれ間に《葵》を、それを両手で行っていた。
だけどそれは凰が言った通り無駄であり、そしてこうやって持つ方法は一般人ならば持続しない。
繰り出される《双天牙月》がぶつかると同時に力を緩め、自分が上に逃げると同時にすべてを放す。
「逃がさないわ!」
甲龍に搭載されている第三世代兵器《
「また同じパターンね!」
凰はすぐに俺の右から回り込もうとするが、それよりも早く盾を凰に向けてぶん投げた。
「ちょっと変えたからって―――」
盾を回避して俺に《龍砲》を向ける凰。
———ガシャンッ
自分の手元から聞きたくない音が聞こえながらもそれを凰に向け、引き金を引いた。
銃口から発射された弾丸が一直線に凰の横を通り過ぎ、彼女の顔がこわばった。
「い、今の―――」
「スラッグ弾だよ。しかもIS用。さっき言ってたように絶対防御で守られるから衝撃だけしかないだろうけど―――
———内臓ぶちまける感触を味わえるかもしれないね」
自然と凰が恐怖する顔を楽しんでいる自分がいる。
だけど凰は恐怖を振り払い、お返しとばかり《龍砲》によって精製された衝撃弾を小威力で連射してくる。
俺はブーメランを両手に一本ずつ展開して時間差を開けて投げた。
「そんな武器が当たるわけない―――」
そっちに意識を割かせるのが目的だと気づいた凰は避けると同時に俺を探す。もはや飛行に慣れ始めてる俺はスピードを上げており、さっきの戦闘の倍のスピードで移動し始めていた。感覚的に早く感じるだろう。
「逃がさないわ!」
衝撃砲は砲身と砲弾が見えないと聞いたことがあるが、それでも最終的にはこっちに当てるように狙うはずだ。
(ならば、的を絞らせないようにすればいい)
上、上、下、右、右、左、下、上、左とランダムに動いて凰を戸惑わせる。
「ちょ、ちょこまかと!!」
「それが俺のとりえなんでね!」
そうじゃなければ冗談抜きで今頃ここにいない。
凰がイライラし始めたころを見計らい、俺は凰の後ろから奇襲をかけた。
「そこ!!」
———ギンッ!!
俺はとっさに《葵》を展開して《双天牙月》を受け止めた。
(こいつ、反応が早い)
ただの考えなしのバカではないな。戦闘に慣れてるからか、対応が早い。
「落ちなさい!」
《双天牙月》で俺を押すと同時にアンロック・ユニットのハッチが開き、見えない砲弾が連射される。それを《バウンド》で防ぎながらも―――そのまま突撃した。
「はいっ?!」
予想外だったのか、凰の動きは硬直する。その隙に俺は盾でそのまま突撃をかけて凰の顔面を潰そうとした。
———ガンッ!!
砲弾で押された挙句に《バウンド》と凰の間を《双天牙月》が割り込むように入ってきて、防がれた。
そこで俺は凰に聞こえるように降参を宣言した。
■■■
時間も時間だったので俺たちは整備ロボに任せて休憩室に移動し、さっきの戦闘の反省会を始めることにした。
「アンタ、思ったよりやるわね。しかも盾で突撃なんて度肝を抜かれたわ」
「そりゃどうも」
そう返しながら俺は折り畳み縮小式ホワイトボードを出してさっきの凰の欠点を出す。
「今回戦ってわかったが、凰は突然の行動には弱いな。まぁそれはほとんどの奴に言えるが」
「それもそうだけど、いくらなんでも盾で特攻は考えられないわよ」
確かにそうかもしれないが、今回ばかりはそうも言ってられない。
俺は練習前に探していた動画を、空中投影ディスプレイに映して凰に見せる。
「これって」
「織斑の初陣戦の戦闘動画だ」
そこには初めての操縦にも関わらずに平然と操縦する織斑の姿があった。
「ちなみに織斑はこれが三回目の搭乗らしい。まぁ、実際のところ1回目と変わらないだろうが」
そう答えると凰は何でもないように言った。
「別に珍しいことじゃないわよ。アイツ、なんだかんだでやると決めたことはやり遂げているし。それに、もしかしてそういう才能とかがあるんじゃない?」
「だからって不必要に喧嘩を売って俺まで巻き込んだことに違和感を感じないのはどうかと思うけどな」
愚痴をこぼすと凰は織斑をフォローするように言った。
ともかく今は織斑対策をすることだ。織斑からオルコットに代わることは滅多にないことだからしなくても大丈夫だろう。
「話は戻すが、問題はそこだ。この動きを見て思ったが、織斑はまともなことを教えてもらっていないからか、イレギュラーな動きをする」
「……言われてみればそうね。あと、武装が近接ブレードだけみたいね」
「……いくら初心者って言っても銃は使おうとするもんな」
当たる当たらないかはともかく、普通の人間ならば銃メインで使うオルコット相手には銃を使って警戒し、距離を詰めるだろう。
だが映像の織斑はそれを一切せず、映像でもオルコットに指摘されて「これしかない」と言った。
「言った」
「言ったわね」
俺と凰は次いでそう言い、織斑が武装を追加するかどうかを予想した。
(いや、するのか?)
オルコット辺りが入れ知恵をしているならばもしかしたらとは思うが、織斑の近くには篠ノ之もいるし、「男など、剣一本で十分だ」とか言いそうだ。
「ということは織斑のISにはこれだけしか搭載されていないのか」
「でも、いくら何でもそれはないんじゃない? 譲渡されたばかりならばともかく、それにこれって初期設定でしょ」
「………でも、初心者が一日や二日練習したところでまともな射撃センスを身に着けられると思うか?」
「ないわね」
だとすれば後は織斑のISの機動力を警戒すればいいだけの話か。
(凰は嫌がるかもしれないが、挑発の仕方でも教えておこうか)
そうすれば間違いなく勝てるだろと思い、俺は凰にそう提案しようとすると、後ろから聞き覚えのある声に怒鳴られた。
「あなたたち、一体そこで何をしていますの!?」
振り向くとそこにはオルコットがおり、俺たちを確認したからか少し睨んでいる。
「ゲッ、アンタは―――」
「俺たちが何をしていようがオルコットには関係ないだろうが。別に性行為をしているわけじゃないんだし」
恥じらいなくそう答えると凰もオルコットも顔を赤くした。しかしオルコットは何かに気づいたかのような顔をして、ツカツカとこっちに近づいて俺が持つ空中投影ディスプレイを取ろうとしたのでそれを回避する。
「その映像、あの時の戦いですわね。どうして彼女に見せる必要があるんですの?」
「とか言って、本当は理由を察しているんだろ?」
意地悪く聞き返すと、オルコットは俺を睨みつけた。
「まさか、わたくしたちを裏切りましたの?」
「俗にそう言われるだろうな。ま、一組に俺の味方がいるわけがないがな」
「ですが一夏さんはあなたのことを友達と思っていますわ!」
「それは向こうが勝手に思ってるだけだろ。俺はアレが友人だなんて一度も思ったことはない」
というかありえない。経歴や自分がやったことを見直してからそう思ってもらいたい。
「まさか、ここまで落ちるとは思いませんでしたわ。最低ですわね、あなた」
「何とでも言え。ま、言ったところで何かが変わるとは思わないけどな」
するとオルコットは何かを呟いてどこかへと行った。「ルシー」がどうこう言っていたが、何のことだろう。
「……本当によかったの?」
「別にいいさ。クラスに敵しかいないし」
まぁ、オルコットが何をしたところで俺に何か影響があるのかと言われれば「ほとんどない」だしな。
とはいえこのまま話すような雰囲気ではないので一時解散ということになった。