IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#154 掃討作戦の闇

 あれから数日、朱音たち轡木ラボの面々の本気で準備を終えた俺たちは京都に訪れていた。

 

 

「ところでよぉ、桂木。何でB班はこのメンバーなんだ?」

 

 ケイシー先輩が聞いてくるが、そんなものは凄く簡単なことだ。

 

「単純にサファイアを適当に放置して2人だけでデートにしゃれ込もうと思っただけですが?」

「……………」

「あ、今の冗談ですから」

 

 おかしい。今のは「ハハハ、何言ってんだよお前」とか返してくるところのはずなのに、何故か先輩は固まっただけだ。

 

「な、何だ。冗談かよ。マジな顔したから本気かと思ったぜ」

「まぁ、俺が本気出せば専用機持ちだろうがなんだろうが、代表候補生の1人や2人と結婚するなんて簡単にできるんですけどね」

 

 ちなみにこれは本気である。まだ実験はしてないが、いずれ鈴音を中国から掻っ攫うつもりだ。

 

「………」

「どーせ冗談に決まってるっスよ、先輩」

「だ、だよな…ハハハハ」

 

 そういえば学園祭の時も今感じでフリーズしていたよな。もしかして、見た目の割にはそういう経験はなかったりするのか? ………IS学園って噂ではレズの巣窟ってのも聞いたことがあるから慣れているものと思ったが。

 

「先輩ってあんまり恋愛関係の耐性ってないですよね?」

「ま、まぁな。代表候補生っていってチヤホヤする人はいるけど、結局は実力主義だし枕営業なんてもんは存在しないからさ」

 

 一応、国防はかかっているわけだからエロいことで決めても後悔するのはその国だしな。それはそれで仕方がないというわけか。

 

「じゃあ、適当に回りますか。できればさっさと誰かが現れてくれたらありがたいんですけどね」

「随分と自信満々だな」

「そりゃあ、弟とその従者以外は基本雑魚ですからね」

 

 とか言いながら、実はスコール・ミューゼルを一番警戒している。なにせあの女は四元属家の一つの炎の一族「ミューゼル」家の現当主とも言われているからだ。

 

「おーい、悠夜!」

 

 何故か呼び方が元に戻っている織斑に、面白くなさそうな顔をする篠ノ之とオルコット。ちなみに織斑はラウラに叩かれて気絶した。

 

「そういえばあのハリセン、一体何でできてるんだ?」

「プラスチックですが、ラウラを実家に連れて帰った時に凄い特訓をさせたんでレベルアップしたんです。たぶん今なら織斑先生相手でもそれなりに渡り合えるんじゃないですか?」

「そいつは化け物だな」

 

 さっきから話題に入っていないフォルテ・サファイアことフォルたんは何をしているのかというとみたらし団子を食べている。その様子が可愛かったので先輩の協力のもと、フォルたんを抱えた状態で慌てふためく状況を写真に収めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は何を考えている。今は作戦行動中だぞ」

「え? でも悠夜はいつも通りに過ごせって言ってたぜ?」

「だからと言って別の班のメンバーに声をかけるなど言語道断だ!」

 

 気絶から復帰した一夏は悠夜たちとは少し離れた場所でラウラに説教されていた。

 

「もうそれくらいでは良いではありませんか、ボーデヴィッヒさん。一夏さんも反省はしていますし」

「それは甘やかしすぎだ。大体、こいつは今回の任務を盛大に勘違いしている」

「いや、でもさ。実際一緒に行動していた方が相手も簡単に倒せると思うんだが」

「馬鹿か貴様は」

 

 まるでゴミを見るような目を一夏に向けるラウラ。

 

「我々がいたら、兄様の足かせにしかならない」

「我々……ということはボーデヴィッヒも含むのか?」

 

 箒が質問するとラウラは頷く。

 

「ああ、そうだ。兄様が本気を出せば私は足元にも及ばん」

「そうなのか? てっきりラウラって悠夜と同じくらい―――」

「それは兄様に失礼だ。私なんて兄様の愛玩動物程度がお似合いだろう」

 

 そう言ってからラウラは引き続き一夏に対して説教をしようとした瞬間、「雨鋼」のハイパーセンサーが敵機を補足する。

 

「全員、ISを展開しろ。敵が来るぞ」

 

 ラウラはいち早く「雨鋼」を展開し、3人もそれに続く。

 途端に京都中に警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し前のことだった。

 C班にの4人は適当な喫茶店でお茶をしていると、シャルロットが話題を切り出す。

 

「あの、ガンヘルドさん……」

「なぁに?」

「その、前にサーバスさんから招待状が届いたんです。母がレヴェルにいるって……」

「いるわよ」

「………何故、母はそこにいるんですか?」

 

 その質問にミアはどう答えるべきか迷っていた。だがそれも数分のことで、ミアは特に気にした風でもなく伝える。

 

「簡単な話よ。リゼット・デュノアがHIDEにコンタクトを取り、フランスから逃がした」

「でも、助け出したんならフランス内の病院でも良かったじゃないですか」

「難しいでしょうね。元々、アネット・デュノアは投資家でデュノア社以外の様々な会社にコネがあり、病院の一部の人間にも顔が利くほどよ。おそらく見つかって戻されることを恐れたんでしょうね、リゼットは。だからどの世界にも劣らないどころか勝てる軍事国家だったレヴェルに要請した。病院内では酷かったはよ。女医なんてほとんどいないし、男性だと過去のトラウマで物を壊すし……ああ、安心して。今は安定してるから」

 

 その時のことを思い出したのか、ミアは遠い目をして空を見上げる。

 

「ところで、あなたは決心したの?」

「……何がですか?」

「ジュール・クレマンと結婚して、デュノア社を手中に収める決心」

 

 唐突に結婚話を持ち込まれ、そのことにあまり耐性がない鈴音は驚く。簪は平然としていて、ゆったりと抹茶を味わっていた。

 

「………その話ですか」

「資金面に関してはレヴェルがしばらく面倒を見るそうよ。私はユウ様以外は興味ないからその辺りのことは姉任せだけど。別に話に乗っても良いと思うけどね」

「でも、私は一夏のことが―――」

「諦めた方が良いんじゃないかしら?」

 

 否定のスタイルを取るミアにシャルロットは睨むが、ミアはどこ吹く風と受け流す。

 

「勘違いしないでね。あなたの人生はあなたが決めることだけど、外れの道を進んで苦労するのはあなたよ。まぁ、私も直感的にユウ様を好きになったから人のことは言えないけど、数少ない男性IS操縦者と共にいるっていうのはそれほど難しいことなの。本人はまったく気づいてないみたいだけど、IS委員会の一部は「織斑一夏を実験体にするべき」って声も上がっているみたいね」

「……なるほど。篠ノ之束が死んだ今、織斑君を守るのは織斑先生だけ。一教員なんてどうとでもできる」

 

 簪のその言葉にシャルロットは顔を青くした。

 

「そういうこと。だから、乗り換えるなら早い内の方が―――」

 

 途端に喫茶店内に警報が鳴り響き、全員が立ち上がる。

 

「来たわね。全員、先に出撃しておいて」

「え? アンタは―――」

 

 ミアは財布を取り出して、1500円を置いた。

 

「どうせもう終わったし」

 

 さらにミアは金が落ちないように固定し、いち早く外に出て「風鋼」を展開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、仮設本陣では教員が作業を行っていた。

 

「全システムオールグリーン」

「異常は見当たりません」

「そうか。では、ディメンションバリアを展開しろ」

 

 千冬の指示で教員の一人がエンターキーを押す。すると京都中にエネルギーバリアーが展開されていった。

 

「まさか、こんなシステムを作り上げることができる奴が束以外にいるとは思わなかったぞ」

「あそこのラボは桂木悠夜という超人を囲っていますからね。彼自身も唯一認めてくれた場所として力の提供を惜しみなくしていますから」

「………まったく。こんな防御壁、IS学園名義でなければ使用不可だ」

 

 ただでさえ、ISで戦闘行為を行おうとしている。そんな異常事態を容認するIS委員会もそうだが、これだけ強固な防御壁を一研究所が所有しているとすれば、各国から問題として取り上げられるだろう。

 そこまで予想した千冬はため息を吐くと、教員の一人が千冬に言う。

 

「織斑先生、様々なタイプのISがこちらに向かってきています」

「数は?」

「およそ50機」

「な、何ですかこれ!?」

 

 別の教員が悲鳴を上げる。

 

「一体どうした」

「見てもらった方が早いかと。映像、出します」

 

 複数の空中投影ディスプレイで形成された大型ディスプレイに映像が映し出される。そこにはとても信じられないほど大きな機体の姿があった。

 

「…桂木との回線を開け」

「わかりま―――」

 

 だが既に見ていたのか、悠夜から回線が開かれた。

 

『織斑先生、アンタら3人は雑魚の方を頼む。俺はあのデカ物を倒しに行く』

「たった3人でか?」

『いや、今2人に減った』

「ちょっと待て。誰がいなくなった?」

『ダリル・ケイシー。おそらく織斑辺りを潰しに行ったと思うが、今はサファイアと一緒にいる』

『ちょ、どこ触って―――』

『騒ぐな。胸揉むぞ』

『揉んだら殺す!』

 

 一体どういう持ち方をしているのか気になった教員らだが、すぐに仕事に戻る。

 

「ではその巨大ISは任せるぞ」

『了解した』

 

 そう言って悠夜から通信を切る。瞬間、千冬は舌打ちした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 にしても、流石というかなんというか、数が多すぎるな。

 周りにいる奴らをダークカリバーで倒しながら巨大ISの方に向かっていると、俵持ちをしているサファイアが暴れる。

 

「いい加減に離せ!」

「ホントお前、先輩が……というかレインがいるかいないかで性格変わるよな」

 

 一度どこかの屋上に移動してからサファイアを降ろすと、すぐにバリアーを張って防いだ。

 

「―――流石兄さん、不意打ちにも平然と察知するね」

「相変わらず性格悪いよなぁ、お前も」

 

 流石は本の虫。色々と知識を得てひねくれたことだけはある。

 

「ところで、あの機体を止めるつもりはないのか?」

「僕としては帰ってもらえなくてさ。ティアは強情だから。……ところで、それって兄さんの愛玩動物?」

「ちょっ、誰がこんな奴の愛玩動物にならないといけないんスか!?」

「いや、女性としては超優良物件だと思うよ。たくさん妻がいるとはいえ、みな等しく愛して王になるのは確定なんだから」

 

 ちょっ、おま、なんでバラした!?

 サファイアが信じられんと言わんばかりの顔をして俺を見る。

 

「ど、どういうことッスか!? お、王って、キング?」

「そう。その桂木悠夜こそが、いずれ世界そのものを統治し、ありとあらゆる女を侍らかすハーレムキングとなるのさ!」

「何でテメェが答えている上に余計な脚色がされてんだよ!?」

「あ、ちなみにティアは渡さないから」

「いらねえよ! というかさっさとあのデカ物を止めろ!」

 

 まったく。何でいきなりあんなデカ物を投入してんだよ!? 実は中にオルコットが入っているオチじゃねえよな。うん、ねえな。あれは声が一緒なだけだ。

 

「ねぇティア、悪いんだけど撤退してくれないかな? 君がいたら僕と兄さんが戦えないからさ」

『わかった』

 

 外部スピーカーから少女の声が聞こえたかと思ったら、そのデカ物は全方向にビームを放った。幸い、ディメンションバリアを展開しているおかげで被害は街に被害が出ることはないが、俺たちIS操縦者はそうはいかない。

 さらにデカ物から何かが放出されていく。あれは……IS!?

 

「こいつは随分と本気だな」

「まぁね。なんだって総力戦だから」

「総力戦だと?」

「スコールが本気でIS学園を潰そうとしているんだよ」

 

 ……これは何でまた。

 個人間秘匿通信でサファイアに逃げるように言う。彼女は自身のIS「コールド・ブラッド」を展開してすぐさま飛び去った。

 

「あらら、薄情だね」

「邪魔だからな。お前だって嫌だろう、他の奴らに邪魔されるのは」

「否定しないね。それよりも聞かなくていいのかい?」

「……スコール・ミューゼルがIS学園を潰そうとしている理由か?」

「うん。いや、正しくは―――ISを推進しているすべての国、かな。兄さんはミューゼルが純血主義だと言うことは知ってるかい?」

 

 初耳なんですが……。

 表情を顔に出すと、レイは言葉を続ける。

 

「特にスコールはその筆頭でね。彼女、ああ見えて実年齢はかなり上でね。聞いた話によると神樹国が襲撃された時のことを知っているらしい」

「……面白い冗談だな」

「しかも、当時の王様に恋をしていたらしくてね。びっくりしたよ。当時の王様は兵士の一人に刺されていたようだよ」

 

 スコール・ミューゼルの年齢は知らないが、もしかして子孫を殺そうとでも言うのか?

 

「だから余計に殺意が湧いたんじゃない? 今回の作戦も、織斑一夏と織斑千冬の2人を殺すためだってさ」

「………なるほどな。やっぱりそっちに流れていたのか」

「………気付いてたんだ。気付いててレインを泳がしていたわけ?」

 

 敢えて驚いた風を見せるレイ。俺は一度息を吐いて言った。

 

「まぁ、ダリル・ケイシーがレイン・ミューゼルだってつながるまでしばらくかかったけどな。金髪なんてどこにでもいるし、何よりも……胸の形が大きすぎるだろ」

「あ、そこなんだ」

「忘れていると思うけどな、俺は10年間も本当のことを忘れた挙句にやれ王になれだとか言われてんだぞ。挙句にかつての国を復活させてほしいとかわがままにもほどがあるだろ」

 

 まぁ、俺に庶民の生活を体験させてまともな政治をさせることは目的ってのはわかるが………それはまぁ、別にいいだろう。

 

「さて、長話はここまでだ。ティアちゃんを撤退させたってことは、お前は戦うつもりでここに来たんだろう?」

「もちろんだよ。さぁ、始めようか」

 

 お互いの身体に光が放たれ、俺は「黒鋼」を、レイは「リヴァイアサン」を装着する。

 

「やっぱりそっちで来たか。彼女の言う通り、本当に「ルシフェリオン」は使えないみたいだね」

「だからって遠慮はいらねぇ。技は使えるんだからな」

 

 俺は《バイル・ゲヴェール》を展開して弾丸や熱線ではなく、黒い球体を瞬時に作り出して撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは突然のことだった。

 無人機を掃討している一夏。一般のISで簡単に倒せるのは動きが単調ということもあるが、彼の持つ『零落白夜』が破壊に一役買っているからである。

 そんな彼に黒炎がぶつかり、爆発が起こる。

 

「一夏!?」

「織斑、無事か!? 一体どこから―――」

 

 すると、周囲に黒い炎が現れて一夏に、そしてラウラ、箒、セシリアに向かって飛ぶ。

 ラウラはAICを使って防ぎ、箒、セシリアは機動力を活かして回避した。

 

「………そういうことか。織斑、篠ノ之、オルコット。緊急事態だ。ダリル・ケイシーが裏切った」

「何!?」

「どうしてですの?!」

「いや、裏切ったとは違うな。あの女は元々亡国機業側で、スパイとしてこっちに潜り込んでいたらしい」

 

 ラウラは悠夜から譲ってもらった《蒼竜》を展開して構える。

 

「ちょっと待て。何でラウラがそんなことを知ってんだよ」

「……兄様が知っていた。過去に1度会っていたようだが、確信は持ってなかったらしい」

「確信を持ってなかったって………」

「そもそも、兄様自身が亡国機業の内情を知ったのは最近だからな。ともかく、今言えるのは面倒な的なこの時になって寝返ったということだ」

 

「―――ご名答だぜ、遺伝子強化素体」

 

 ―――ダンッ!!

 

 ビルの上にIS「ヘル・ハウンドver2.8」が着地する。そして、ラウラたちに向かって炎の球を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムカつくわ」

「……何が」

 

 少し離れたところで無人機を掃討していたミアは呟くように言うと、近くにいた簪が反応する。

 

「私ね、自分で言うのもなんだけどそれなりに強い自覚があるの」

「それは同意するけど……何かあった?」

「あれ」

 

 ミアは一点を指さすと、簪が納得した。

 ビルの上にいたのは蜘蛛型のIS「アラクネ」であり、こっちに近付いてきている。

 

「………不満なの?」

「超不満。何で私が、あんな雑魚と戦わないといけないのよ!!」

 

 そう叫びながら風の球体を作り上げて無人機を吹き飛ばして破壊していった。




グダグダ回から一転してバトル回へ。ディメンションバリアは「ISによる破壊を回避」ではなく「悠夜が暴れまわった余波での破壊を防ぐ」ものです。ここ重要! ………ではないですね、はい。




ついに始まった亡国機業との最終決戦。
雪崩れ込む大量の無人機、あふれ出る大量の無人機。どこもかしこもISだらけになる京都。
そしてついに、「モノクローム・アバター」のエースが戦場に顔を出す。

自称策士は自重しない 第155話

「圧倒的な差」


「力を封じられたあなたなんて、私の敵ではないわ」
「甘く見るなよ、スコール・ミューゼル」

 2つのISが激突し、戦いは渾沌へと進む。

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