IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#133 怒りの報い

 どれくらい時間が経っただろうか。

 今はもう回収されて何もないクレーターだが、そこでは取り残された物があったのである。そう、黒鋼の待機状態だ。

 それに触れた朱音は、砂を払って呼びかける。

 

「……起きて、クロ」

 

 すると指輪がひとりでに浮かび上がり、少女の姿を形成した。

 

「とんだ災難だわ。ホント、死ぬかと思った」

「でも、あれが全力なんだよね?」

「……たぶん」

 

 未だ消えぬ黒い何かを見ながら二人は会話をしていると、クロは朱音から離れて自身の装甲を展開した。だが、

 

「……やっぱり、人の形を作ることはできても機体は動かせないわね」

 

 悔しそうにそう言ったクロに対して、朱音はある提案をした。

 

「じゃあ、私を乗せてよ」

「……はい?」

 

 まさかそんなことを言われると思っていなかったからか、本気で驚くクロをよそに朱音は言葉を続ける。

 

「誰かが乗らないと、例え自我があっても〈黒鋼〉は動かないんでしょう? だったら、黒鋼のことを知っている私が乗る」

「本気!? これから行くのは事実上の死地よ! 下手すれば、あの男の攻撃に巻き込まれて死ぬかもしれないのに―――」

「そのつもりはないよ」

 

 自信満々に答える朱音。あまりない胸を張るが、「それでも」と反対するクロに問答無用で乗り込んだ。

 

「つべこべ言わない。行くよ」

「……もう。どうなっても知らないわよ」

 

 そう言って装甲を閉じて再調整を始めるクロ。そして飛行形態へと変形してまっすぐ黒い何かへと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはまるで悪夢とすら感じさせるほどだった。

 ラボ内ではアラームがやかましく鳴り響く。防衛機能を働かせて迎撃するが、ISを一撃を落とせるほどの威力が全く効かないのである。

 そう、悠夜が転移した先は―――篠ノ之束が開発した浮遊移動ホーム型ラボの上空。ある物以外は何もないが、悠夜は空を攻撃したかと思うと、一撃で透明化機能を破壊したのである。

 そしてそのまま庭部分に着地した悠夜に対して遠慮なく攻撃するも、すべて金色の筋が入った〈ダークカリバー〉に防がれるか切り伏せられるかのどちらかだ。悠夜は、庭を蹴りながらその威力で消滅させていく。

 

「散れ」

 

 本来、家へはドアを通るものだが悠夜は壁をぶち抜いて破壊した。すると中には無人機が待ち構えていたが―――破壊するのにまったく時間がかからなかった。

 すると前方が光り、熱線が迫るも悠夜の前にワニ型の頭部が現れて口を開けると吸い込み始める。放出が終了したのか、攻撃が終了すると頭部が霧散してウイングスラスターの先端から放出する光が大きくなり、施設を破壊していく。

 

 ―――だが、それこそ罠としては本命だった

 

 後ろから何かが振り下ろされるのを感じた悠夜は後ろに刀身を移動させて受け止め、すぐに弾き飛ばす。相手を見た悠夜は意外そうな顔をするが、すぐに〈ダークカリバー〉を向けて高出力の熱線を連続して射出して迎撃した。

 

「これは意外だな。ドイツの雌犬がこんなところで何をしている」

「……今の私は、束様の忠実な僕」

「あの程度の弱者に付くとは、ラウラと違って見る目がなさすぎるだろ。まぁいいけど。どうでもいいし」

 

 少女―――クロエは二本の展開し、それを投げる。

 

干将(かんしょう)莫耶(ばくや)か。まさか、あの英雄の技ならば俺に勝てると思ったのか? ―――ふざけるな」

 

 悠夜が話をしている間、クロエはこれでもかと言わんばかりに武器を精製して放り投げては爆発を起こさせる。施設は破壊されていくが、どうやらこれは証拠隠滅も兼ねているらしい。

 それに気付いた悠夜はすぐさま距離を詰めるともう一つの反応に気付いて方向転換をする。しかし、クロエには二つの体が生まれたようにしか見えなかった。

 

 ―――まさか、これは―――

 

 クロエの視界が光に覆われ、彼女は吹き飛んでいった。

 その姿を眺めていた悠夜だが、殺気を感じて別の方を向く。

 

「…………お前」

「ようやく出てきたか」

 

 白いウサギ型のISを纏った篠ノ之束。その人が今も悠夜に殺気を飛ばす。だが彼女のそれすらも、悠夜にとっては気持ち悪い泥を浴びているようなだけだ。

 

「随分と遅かったな。見る目がないだけでなく戦うすらできないとは、よほどろくな相手と戦えなかったと見える。いや、最後のは俺も同じか」

「わざわざ私が、あんなゴミ女を殺されただけで喚く蛆虫を相手にするわけないじゃん」

「俺が蛆虫なら、貴様の友人や妹、そしてその妹が惚れている奴は全裸待機しているだけのプランクトンだな。まぁ、あんな奴らの裸で喜ぶのはお前と同等のそこらに転がっている人属程度だがな」

 

 馬鹿にするように笑みを見せながら述べる悠夜。その言葉が束をイラつかせた。

 

「まさか、この天才である束さんをそこらへんにいる人間と同等だとでも言うつもり?」

「そのまさかだ」

 

 ―――当たり前だろう?

 

 その意味を含めつつ、悠夜は言い切る。途端に、束の後ろから今まで見たことがない熱線が飛んだ。

 

「―――冗談はそれくらいにしなよ。有象無象の分際で……」

 

 瞬間、熱線が空中に静止した。

 

「……え?」

「………有象無象……か」

 

 周囲の空気が変わり、束が装着しているうさ耳が静かに落下した。

 

「―――身の程を知れよ、雑種ッ!!」

 

 ―――一瞬だった

 

 静止したビームは霧散し、悠夜を囲むように黒い何かが複数現れる。すると、そこから黒い稲妻が飛び出して束に向かって飛んだ。

 それを間一髪で回避した―――かに思われたが、束のIS〈白兎〉の装甲の一部が吹き飛んでいる。どうやら軌道を逸らしたようだ。

 本来、自然現象を物理的に軌道を変えることなんてできない。だが、神樹人はそれを行うことができた。そして悠夜は、その中でもありとあらゆる法則を無視し、自分の思い通りのことを実現する力を持っている。それ故に「選定の鞘」と呼ばれるあの金の鞘に選ばれ、本来ある事情から封印され続けていた〈ルシフェリオン〉のリミッターを解除することができたのだ。ちなみに〈夜叉〉、〈リヴァイアサン〉、〈イフリート〉も一定のリミッターは施されているものの、〈ルシフェリオン〉のように変化することもなければ、封印具としての役割を担うことがないのだ。つまり〈ルシフェリオン〉は四神機の中で唯一様々なものを施されているのだ。その理由は「悠夜を今の状況にさせないため」という理由である。

 

「―――己の無力さを呪え、己の弱さを呪え、己の無謀さを呪え!」

 

 悠夜の後ろから、黒い巨人が出現する。それが持っていた大木を薙ぎ払ったかと思うと、束のラボのほとんどが吹き飛ぶ。

 そして巨人が黒いエネルギーへと変換され、悠夜に憑依……いや、戻ったというべきだろう。そしてそれにより、悠夜から放出される。

 天井が吹き飛んだことで悠夜に直接黒い稲妻が落ちるが、それを床にぶつけたことで落下を始めた島が分割して吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女の視線の先には同じ人を想う二人がいる。

 

 ―――もし、話しかけられたらいいのに

 

 だがそうしないのはその少女が極度の人見知りだからとか、決してそう言うわけではない。見えないのだ。

 何故なら彼女もクロと同種であり、それ故に本来ならこうして移動することすらできない程度の存在である。しかしどういうことか、その少女は幽霊程度の存在として顕現していた。

 

 ―――ガゴンッ

 

 急に少女がいる場所が揺れ、移動を始める。「挟まれる」と思った少女はすぐにそこから離れると、何かに躓いて派手に金属の上にこけてしまった。

 その音が聞こえたのか、二人はそっちの方を向いた。

 

「…いたたた……」

 

 自分でもあそこまで派手にこけるとは思っていなかったのか、少女はどこか擦りむいたところがないか確認しながら立ち上がると、見事に二人と目が合った。

 しばらくそのままだったが、その二人が信じられないと言いたそうな目で少女を見ていたので、それに気付いた少女は少し移動する。だが、少女の予想に反して二人は視線を移動させてじっと少女を見ていた。

 

「……見えてる?」

 

 二人はまったく同時に頷く。すると自分が今どういう状況にあるか把握した少女は咳払いすると、何事もなかったかのように提案した。

 

 ―――私を使わない? と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、アンノウンが崩落を始めました!」

 

 作戦室では隊員の一人がその場にいる全員にそう告げる。イーリスたちもその様子は見ていたので知っており、彼女はすぐに指示を飛ばす。

 

「全員、すぐに出撃準備! おそらくあそこはウサギの住処だ!」

 

 その声に同時に返事をした隊員たちはすぐに外に出る。アルドは通信士官の一人からインカムの予備を受け取り、すぐに全員に指示を出した。

 

「出撃待て! 何かおかしい」

『どうした?』

「黒い何かも降りてきた。おそらく、そいつがウサギの住処を荒らした本人だろ。こちらで少し様子を―――」

 

 そこまで言ったアルドの耳にノイズ音が響く。それを聞いて彼は何度かイーリスを呼びかけるが、全く返答がない。

 

「クソッ! ISとの通信機能をダウンさせてきたか。一体どこのどいつ―――」

 

 黒い何かに視線を移すアルドは、それが誰か一瞬わからなかった。しかし、纏っているものから推測した彼は、その正体を予想して驚く。

 

「………ヤベェ。ISでどうこうできる相手じゃねえ」

「どうしましたか? アレはそれほどまで危険な存在なのですか?」

「おそらくアレは細部は違うが〈ルシフェリオン〉だ。ほら、ヒーローものの敵って大体あんな能力を手に入れたりするだろ? 簡単に言えばそんなもの―――」

 

 そこまで言ったアルドはふと、脳裏に過ぎった。

 

 ―――ここにいたら、自分たちも危ないのではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なん……何なんだよ、お前! 何で束さんがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!」

 

 基地を失い、〈白兎〉の装甲の大部分が先程の攻撃で失っている束は叫ぶ。それまでに、今の束の余裕はなかった。

 

「アンタは俺を怒らせた。それが―――死因だ」

 

 一瞬で束との距離を詰め、倒れた顔に向かって蹴りを入れる。弱かったのか、そこまでは跳ばなかった。

 

「……馬鹿に……してぇ!!」

 

 束が起き上がり、悠夜に接近する。だが悠夜の姿がぶれ、束の腹に拳が入っていた。

 そのまま空へと飛ばされる束。〈ダークカリバー〉を手にした悠夜は突撃して斬った。そのせいか、束の左腕が吹き飛ぶ。

 

「―――ブレード、パージ」

 

 その言葉に呼応し、〈ダークカリバー〉の刀身が縦に4本に分離する。それらがバラバラの軌道を描いて束に攻撃を浴びせた。

 刀身がなくなった〈ダークカリバー〉。だが、悠夜は構わずそれを投げると、中央から新たな、そして巨大な非実体の刀身が精製された。

 そして悠夜も宙を舞う。その際、周囲を破壊するほどの衝撃破が起こった。

 

「精々抗え、雑種!」

 

 悠夜が分身をしたため、姿が増える。だがその分身はただの分身ではない。限りなく実体に近い非実体というべきだろう。

 悠夜は元々、運動不足を解消するために走りに行く以外は家でゴロゴロするか〈ルシフェリオン〉の製作に力を入れているぐらいだった。故に、彼の部屋にはあらゆる漫画が揃っている。つまり、ありとあらゆる設定を頭に入れることができ、今こうして役に立っているのだ。

 本体である悠夜AとC、Dはそのまま突っ込み、B、Eは魔法陣を展開して弾幕を張る。その攻撃パターンは分身と本体を巻き込みかねないのだが、悠夜たちはそれを余裕で回避した。何故なら今の彼らにはある能力が備わっているのだ。

 

 ―――サードアイ・システムという、第三の瞳が

 

 流石の悠夜でもその能力を保持することは叶わなかったが、それでも後ろからの攻撃にもこうして対応できるという事実は変わらない。

 Aが上へと飛ぶと、そのままCとDは加速して束に殴る蹴るの暴力を行う。

 束は何とか防ごうとするが、衝撃とビットからのビーム攻撃によって絢爛舞踏で回復しても追いつかないほどだ。いや、むしろまだ耐えているのが流石と言わざる得ないだろう。おそらく国家代表でも最初の数発を受けただけで下手すれば即死である。

 

 ―――さて、A…本体はどこに行ったのか

 

「―――これで終わりだ」

 

 ―――答えは、その必要はない、だ

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの舞台となっている地図にない基地(イレイズド)の基地内では警報が鳴り続いていた。

 アルドは上空に浮かぶシャレにならないものを確認してしまう。それはおそらく、基地諸共吹き飛ばしかねない攻撃だと一目でわかってしまったのだ。

 

「そんな……我々の装備では対処不可能だなんて……」

「これが……世界の終わり……」

 

 周りの兵たちはもはや諦めムード。アルドは何か声をかけたかったが、とても励ませる状況ではない。

 

(あの野郎! 俺たちは眼中にないってのかよ!)

 

 毒を吐いていると、まだ生きているモニターに他国の機体が映った。

 

 

 

 

「―――ユウ君」

 

 今にも黒い巨大球体を束にぶつけようとしていたところに、悠夜の耳に聞き覚えがある声が聞こえた。

 思わず振り向いた悠夜がその姿を確認した時、同時に球体と分身たちが霧散して〈ダークカリバー〉が元の姿で悠夜の元に戻ってきた。

 

「………奈々……!」

 

 一瞬だった。一瞬で悠夜はその場から動き、髪が伸びた状態の奈々を抱きしめ、唇を奪う。1分はキスしていたか、悠夜の方から口を離して感触を味わうためにもう一度抱きしめた。

 

「良かった。奈々、生きてたんだね」

「うん。なんとか」

「良かった………嘘でしょ、()

 

 そう言われた簪は驚きのあまり目を開くが、悠夜は構わず続ける。

 

「やっぱり。キスしただけでわかった……でも、どうし……て………」

 

 悠夜は目を閉じ、そのまま寝てしまう。疲れ……いや、彼は眠らされたのだ。

 基地の上に落下した束は何とか着地すると、悠夜から〈ルシフェリオン〉が解除されたのを確認して対IS用RPGを展開して引き金を引く―――前のことだった。

 束の肉体を何かが貫通する。

 

「……これ……クーちゃん……」

 

 恐る恐る後ろを向く束。そこには、〈黒鍵〉を装着したクロエ、そして〈夜叉〉を纏った剣嗣がいた。だがクロエの行動は剣嗣も驚いており、怪訝な顔をしている。

 

「さよならです、束様。あなたの役目はもう終わりました」

「………う……そ……」

「終わりなんです」

 

 そう言ってクロエは束の体にプラスチック爆弾を取り付け、爆破させた。

 爆風からそれぞれ異なる手段で身を守る。

 

「………意外だな。まさかそんなことをするとは」

「もう、彼女の存在は必要ありませんので」

 

 クロエの姿がぶれ、その場からいなくなる。剣嗣自身も無駄に追うことはせず、悠夜を連れて帰ろうと考えていると途端に銃を向けた。彼が悠夜の方に視線を向けると、そこでも同じように銃を向けられている。

 

「悪ぃが、お前らを拘束させてもらうぜ」

 

 ダリルがそう言うと、剣嗣はため息を吐いて答える。

 

「すまないが、今回は見逃してくれ……って言っても無理か」

「ああ。こちらにもメンツがある」

「……そうか。では―――こちらも強硬手段を取らせてもらうとしよう」

 

 剣嗣が戦闘態勢を取ると、剣嗣、簪、そして悠夜の足元に黒い何かが現れた。

 三人は急に発生したそれに入ると、アメリカ勢は為す術もなく逃がしてしまう、という結果に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どう、クロ?」

 

 事の成り行きを見終わった朱音、そしてクロ。〈黒鋼〉を飛行形態のまま空中に静止していたので、IS学園に向けて移動を開始する。

 

「……正直、空しいわ。せっかくあの女が死んだって言うのに」

 

 小人サイズになって朱音の肩に座っているクロはそう答える。

 何度かそんな話を聞いている朱音だが、今までまともに聞いてこなかったのはクロに気を使ってである。

 

「……これからどうしましょうか」

 

 クロは小さく呟くように言ったつもりだが、朱音の耳にはよく聞こえていた。しかし今は何も言わず、アクセルを踏んで急いでIS学園に戻ることを選択したのである。




真面目な話、勉強しているせいでクオリティが下がっていると言うことは自覚していますが、これからもどんどん書くつもりなので見捨てないでいただけるとありがたいです。プロットを練るよりもシンプルに数を作っていく方が良いんだ。そう思います。

ということで次回は、解決(?)編

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