IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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指が動いて仕方がない。


#129 動き始める運命の時

「待たせたわね、悠夜君」

 

 生徒会長モードで現れる楯無。だが何だろう、物凄く違和感しか感じられない。そして何より、ISスーツ姿は目に毒だと思われる。

 

「初戦は鈴音ちゃんとフォルテちゃんの二人だけど、頭に入ってる?」

「もちろんだ。二人に共通することは貧乳……つまり、胸を指摘して怒らせ、集中力を乱して仕留める」

 

 途端に後ろから頭を抑えられた。

 

「……今の答え、どこからどこまで本気なのかしら……?」

「じょ、冗談だ。いくらなんでもそんなことはしない。だが人間は体に触れられることに対して耐性がない。ならばそれを利用して相手を怯ませ、攻撃するのも一つの手―――」

「次、そんなことを言ったら殴るわよ。《蒼流旋》で」

「それは洒落か? 洒落なのか?」

「あなたのしていることをもう一度よく思い返すことね」

 

 でも良い案だと思うけどな。だって向こう……特にフォルテ・サファイアは絶対にないと思う。……そして、ダリル・ケイシー先輩もだ。

 

「いやでも、やっぱり触って怯ませて一方的に攻撃するのはスカッとする―――」

「忘れているかもしれないけど、これはあくまで二人組(ツーマンセル)での有事の際の―――」

 

 楯無の言葉を遮る形で、途端に〈黒鋼〉から警告は発せられる。

 俺はすぐに〈黒鋼〉を起動してアリーナ内の廊下に出ると人を轢かないように上側を通って外へと向かった。

 

「―――悠夜君!」

 

 後ろから楯無が追ってくるが、俺は気にせず上を向くと、いつも通りの数が攻めてきていた。

 

「ターゲット……マルチロック!」

 

 〈黒鋼〉の全射撃機能を起動させ、可能な限り狙いを付けて撃った。

 何故こんなにも早く知ることができたか、それは朱音ちゃんが万能すぎるからだ。彼女が遠慮なく防衛システムを開発し、いち早く異変を知ることができたのだ。ちなみにこれはメタルシリーズと全フェイクスードにしか搭載されていないシステムで、楯無の〈ミステリアス・レイディ〉には搭載できなかった。

 

「全生徒、並びに教員に次ぐ。またどこかの誰かが仕掛けてきやがった。専用機持ちは可能な限り対処に望め。非戦闘員はシェルターへ! 全員協力してさっさと避難するようにしろ!」

 

 数は100……100だと!? どれだけ来てんだよ!? まさか、篠ノ之束と亡国機業が結託して同時に攻めてきたとかじゃねえだろうな!?

 各所に分断していき、落とされながら30体はこっちに来た。ラウラは簪のサポートへと回るように指示しているし、フェイクスード隊は他の奴らのカバーを最優先にしている。つまり―――俺たちは二人で30機を相手にしなくてはいけないことになる。

 

「楯無、学園最強の称号は伊達じゃないだろうな」

「あなたたちに立場を奪われつつあるけどね。舐めないでよ!」

 

 どうやら士気は十分あるようだ。

 俺も〈ルシフェリオン〉に展開し変えようと思ったが、

 

「……展開ができない、だと?」

「どうしたの?」

「〈ルシフェリオン〉が展開できない! 前なら〈黒鋼〉と入れ違えの形でできたのに!?」

 

 突然のことに半ばパニックになるが、頭を振って冷静になる。展開できないならないものねだりしたってしょうがない。《蒼竜》を展開する。

 さらに試し打ちだ。左手に黒い球体を精製して、バラバラに飛ばすが、あれ? できる?

 

(一体、何がどうなっているんだ……?)

 

 まぁいい。力を使えるなら今はそれを使おう。

 一度試してみたかったのがある。《蒼竜》の刃を精製し、其処に黒いオーラを顕現させ、騎士のような格好をした機体を斬った。

 

(……無人機!?)

 

 冷静に考えろ。学園祭でもキャノンボールでも無人機はたくさんいた。

 だが何だろう。こいつからはあの二つのイベントとは違う何かを感じる。

 

 ―――おそらく、これはゴーレムね

 

 唐突に誰かがそう言った。楯無とは声が違う。

 

 ―――この製作者は篠ノ之束よ

 

 何故そんなことがわかるかは知らないが、今は倒すしかないだろ。

 

「悠夜君! 上!」

 

 楯無に言われて俺はそこから移動すると、言われた通り上から何かが降ってきた。

 

「………デカいな」

 

 それもそのはず、その降ってきた機体の全長は従来のISを余裕で凌駕している。目測10mくらいだろうか。

 するとそのデカい機体は左腕をこっちに向けて熱線を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、学園用の作戦指令室では彼女らの戦争が起こっていた。

 学園が襲撃されたのである。だが周囲には特殊なジャミングが施されており、最新鋭であるはずの指令室に備わっている機能のほとんどが封じられていた。

 すると、唯一生きている教員用の格納庫から通信が入る。千冬はそれに出ると、画面には真耶が映し出された。

 

『織斑先生! 敵機の姿を確認しました!』

 

 言いながら何かを送信していた真耶は、情報を開示した。そこに映し出されていた画像は、これまで見たことがないタイプのものが映っている。

 彼女らがいる格納庫も一新されていて、そこから無人偵察機を送り込むことができるなど、千冬がいる管制室とほとんど変わらないことが可能だ。いわば、第二の学園用作戦指令室と言うべきだろう。

 第一指令室での状況を知った千冬だが、真耶に状況を知らせる前に行ってくれたことに心から感謝していた。

 画像からわかるのは、クラス対抗戦で悠夜が一機、そして一夏と鈴音、セシリアの三人で倒した一機の物に似た特徴を持つタイプだ。それを千冬は「発展機」と断定し、すぐに指示を送る。

 

「山田先生、準備ができ次第すぐに出撃を。戦闘に入っているであろう専用機持ちたちの救助をお願いします。それと、例の機体は―――」

『現在、最終調整をしているところです。織斑先生もすぐに準備をしてください!』

 

 だが、千冬はその言葉にすぐに返事をすることができなかった。

 千冬がこれまであらゆる襲撃の際、自ら出撃をすることができなかったのは二つの理由がある。一つは「想定外の事態の対処における実質的な指揮」をするため。そして二つ目は、千冬の動きに付いてこれるほどの機体が開発されなかったことだ。かつて、彼女には〈暮桜〉という第一世代機があったが、今はある事情で使用することができなくなっている。

 そのため、今では自分を超えたと言っても過言ではない悠夜が使用する〈黒鋼〉の開発者が所属する「轡木研究所」での開発の許可がIS委員会からつい先日降りたが、念には念を入れ、入念な調整を行っていたため今も調整をしているのである。

 

「―――では、ここの指揮は私が取りましょう」

 

 ドアが開く音がして、聞き覚えのない声にその場にいる教員・生徒たちは驚いてそちらを向く。唯一、三年主席の虚だけは平然と復旧作業に当たっていた。

 

「轡木さん、それに学園長も……何故ここに。それに指揮は―――」

「適材適所、と言うものですよ。生憎、私にISを動かすことはできませんが、あなたにはそれができる。ならば、出るべきでしょう……?」

「ですが―――」

 

 教員の一人が立ち上がり、十蔵に意見しようとしたが―――途端に動けなくなった。

 十蔵は確かに能力者だ。だが、能力を使わなくとも女性一人を睨むだけで動けなくすることくらいできる。今では悠夜の援助を行ったことで疎ましく思われているが、かつては陽子と並んで世界から危険視されている存在である彼には、これくらいのことは朝飯前である。

 

「何か、言いましたか?」

「………なんでもありません。作業に戻ります」

 

 そう言って教員は座り、全員がその行動に沈黙した。その教員は女尊男卑思考の人間では色濃い人間であるためだからだ。

 

「布仏さん。〈黒鋼〉並びに〈ミステリアス・レイディ〉の反応は追えるようになりましたか?」

「はい。分布を出します」

 

 大画面に二つの味方の識別コードと、アンノウンのコード―――そしてそのエネルギーの強さが表される。中でも一機、一際大きなものがあるが、おそらくそれがさっき現れた巨大ISだろう。

 

「織斑先生。あなたは機体を受領後、すぐに桂木君と更識さんの救援に向かってください」

「わかりました」

 

 返事するとすぐに千冬は指令室を出る。その背中を見送った菊代は十蔵に言った。

 

「彼女だけでいいのですか? 場合によっては彼女では手に負えない状況になるかと」

「わかっている。だが、リベルトたちを下手に動かしたところでどうにもならん」

 

 その会話が何を示しているのか知るのは、その場では虚だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、簪たちの方では―――無人機が一瞬で破壊されていた。

 

「……す、スゲェ」

 

 簪が《銀氷》を抜き、その場で回転して一瞬で斬り飛ばしたのである。少し離れた場所では、ラウラが一機ずつだが、確実に《アスカロン》で破壊していた。

 

「ラウラ! 後どれぐらい?」

「まだ5機残っている! ―――何か来るぞ!」

 

 すると上から悠夜たちとは形が違う巨大ISが現れる。胸部に三つの方向があり、すべての指に光が溜められている一夏がそれを確認すると、すぐに倒すために向かっていく―――が、それよりも早く簪が飛んでいた。

 

「簪!」

 

 ラウラが《アスカロン》を簪に飛ばす。簪はプラズマビーム砲《襲穿》を展開して胸部にある三つの内二つの砲口を破壊。中央の砲口を受け取った《アスカロン》で破壊した。その直前、〈荒鋼〉の周囲にドリル状の水が現れて、機体を貫く。

 さらにもう一度《襲穿》を展開し、何度も攻撃して破壊する。そしてラウラの様子を確認した簪はすぐに《アスカロン》を投げ返した。ラウラはそれを受け取ると、接近していた機体を破壊する。

 

「くそ、この―――」

 

 簪は一夏の方に意識を向ける。見ると、最後の一機に苦戦しているようで、簪はすぐに無人機の後ろから《銀氷》で斬りつけ、破壊した。

 

「さ、サンキュー。でもよくあの大きいのを一人で倒せたな」

「別に。あれくらいできて当たり前」

 

 彼女の「当たり前」の基準が明らかに常人とは違うのだが、一夏はそのことを知らないため特に指摘しない。

 

「簪。この辺りの来たものはすべて破壊できたようだ。どうする?」

「打ち合わせ通りすればいい。先に他の人の救援に向かう」

「そうだな。ここからだと誰が―――」

 

 一夏が「誰が近いか」と聞こうとした瞬間、上から全員が知った声が聞こえてきた。

 

「みなさん、大丈夫ですか!?」

「大丈夫です。他の生徒の救援は完了していますが?」

「いえ。最初に見つけたのがあなた方三人なんです」

 

 山田先生がそう説明する。先程、巨大ISを見つけ、追っているところに三人がいたという話である。

 

「わかりました。では私たちは「フレイムソード」の二人を探しに行きます。先生方も一緒に来てください」

「え? バラバラに行った方が効率が良いだろ?」

 

 簪が指示をすると、一夏が意見をしてそれに便乗するように教員の一人が言った。

 

「それに、さっきもう一機の巨大ISもいたわ。そっちを倒すのが良いんじゃないかしら?」

「そんなことをしたら、悠夜さんに敵諸共撃ち抜かれますよ。彼も私と同じで、満足できる敵がいなくて嘆くぐらいですから。それに、山田先生だってわかっているでしょう? 彼がそう簡単に死なないしよほどのことが無ければ暴走しないということは」

「……それはそうですけど……」

 

 言葉を濁しながら答える真耶に対して、簪は言った。

 

「今は教師としてのプライドよりも、戦力評価をキッチリしてください。彼よりも先に篠ノ之さんを回収することが先決です。彼女がいれば、エネルギーの供給問題は解決できるでしょう」

「………わかりました」

 

 内心、悠夜のことを心配する真耶だが、彼女だって十分理解している。これまでの襲撃も、なんだかんだで悠夜が活躍し、収拾をつけているのが悠夜だということを。

 途端に彼女らの上の、簪とラウラ、そして真耶が知っている物が通過した。それを見た真耶は特に顔を青くし、飛んでいく先を見て倒れそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、とある場所で女性が、IS学園の惨状を見て笑っていた。

 今なお、笑顔を浮かべながら次々と破壊していく無人機たちを見て何とも思わないようで、その光景に今か今かと待ち続けている。

 

「ねぇクーちゃん。クーちゃんはさ、この男に負けたんだよね?」

「……はい。そのせいで私は―――」

「うんうん。大丈夫。後のことは束さん、わかってるから」

 

 そう言って束は高速でキーボードを打ち、次々と発射していく。既に彼女が作ったカタパルトから、今日だけで500は超える数の無人機を放っていた。

 だがそれでも、彼女が作っていた過程でできたガラクタばかりである。それでも中には展開装甲を搭載しているものもあるので世界にとっては十分価値があるものばかりだ。

 

「束様は、桂木悠夜のことをどう思われるのですか?」

 

 「クーちゃん」と呼ばれた少女は束に質問すると、束は満面な笑みを浮かべて行った。

 その笑顔は傍から見ればとても美しいものに見えるが、それはあくまで「一般人からすれば」の話である。そして、一般人ではない彼女は、その笑みはどういう意味かをすぐに理解した。

 

「正直なところ、別にどうだっていいんだけどね―――でも、あの血筋は本当に邪魔なんだよ」

 

 一瞬、前髪がはだけて悠夜の顔が顕わになる。すると束からどす黒い殺気が現れ、少女は息ができなくなった。

 

「…………殺さなきゃ」

 

 そう言って束は本命である機体を射出し、IS学園に向かわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠夜と楯無のコンビは、まさしく最強の名に相応しいとすら言えるほどだった。

 メタルシリーズに比べ、目指していた物が違うと言っても〈ミステリアス・レイディ〉のスペックは同じ第三世代型とはいえ大きく劣る。だが、それを感じさせないほどの動きを見せるのは、楯無のスペックが高いのだ。

 悠夜に言われて楯無は能力を使っていないが、それでも水辺に近いからかナノマシンを海中に送ってさらに高水圧の水を飛ばして攻撃する。

 悠夜は時には変形し、先程受け取った砲撃パッケージ〈ディザスター〉で無人機を一掃し、全射撃武装を収納すると一瞬で距離を詰めて〈ダークカリバー〉で巨大ISを両断。さらに楯無に近付く敵を〈ダークカリバー〉と《蒼竜》にダークオーラを纏わせて十字に薙ぎ払った。これで、全機撃墜したことになる。

 

「楯無、無事か!」

 

 〈黒鋼〉を〈ミステリアス・レイディ〉の近くに着陸させた悠夜。楯無は「大丈夫よ」と答えていたが、その表情は暗い。それもそのはず、自分よりも後に始めた悠夜が、今では自分を超えるほどの操縦者になっているのだ。心中は穏やかではない。

 

「しかし、今日はかなりの団体さんだったな」

「…ええ、そうね」

 

 楯無の返事に覇気がないと感じ取った悠夜は、頬を掴んで伸ばす。

 すると唐突にそんなことをされた楯無はすぐに両手を弾いた。

 

「何をするのよ」

「なんか元気がなさそうだったからさ。まさか、さっきの戦いだけで疲れたとかじゃあるまいし」

 

 その言葉に楯無はますます不機嫌になるが、悠夜は構わず続けようとした。

 そんな時だった。〈黒鋼〉、〈ミステリアス・レイディ〉二機のハイパーセンサーからアラーム鳴り響く。

 

「また、性懲りもなく来たか」

 

 一機が悠夜の近くに着地する。

 その機体はさっきまでの物とは違う。かなり製作に力が入れられているのが一目でわかった悠夜は警戒を強めた、先程収納した〈ダークカリバー〉を展開した。

 同時に展開装甲を使用して先程の物とは違い高速に移動した。その機体は悠夜を驚かせるほどの速さで接近し、斬ろうした機体を何とか止めた。

 

「パワーも段違いかよ。楯無、こいつは―――」

 

 ―――俺に任せて他の奴らの救援に行け

 

 そう行こうとしたが、後ろから何かがこすり、響く音が聞こえたので悠夜は顔を向けた。

 

(まだいたのか!?)

 

 悠夜はすぐに機体をいなして楯無のフォローに入ろうと考える―――が、行動するよりも早く内臓が潰れるような、そんな気持ち悪い音が彼の耳に届いた。

 

「―――え?」

 

 嫌な予感がして楯無の方へと意識を向ける悠夜。彼が見たのは―――三機目の敵機の刃が、楯無の体を貫いた後だった。




いや、ホント指が動いて止まりません。
誰か助けて(笑)

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