IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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今回は珍しく長いです


#125 ただひたすら追い詰める

 たまに思うのだが、簪って結構好き勝手にしているよな。結果的に俺にプラスに働いているわけだし、ノータッチでいいのかと思っているが。

 とはいえ、今はそんなことを言っている暇なんてないがな。

 

「………ということでラウラ」

「はい。私は幸那の家庭教師としてここで勉強を教えます」

 

 ……元々成績はいいから、あまり必要ないと思うけど。仲良くしてくれたら幸いだ。

 

 

 

 

 今日は日曜日。外出許可をもらった俺は実家に戻っていた。

 幸いなことにISを使わなくてもいい。テレポートとかはまだ練習したことがないから、ペガスを使って空を飛んで戻ってきた。

 ドアの鍵を開けると、ちょうど出かける準備をしていたらしい五反田弾が靴を履いていた。

 

「あ、おはようございます。今日はよろしくお願いします…えっと、()()さん」

「……まさか、本当に家にいるなんてね……幸那と何もなかったわよね?」

「俺には一夏と違ってラッキースケベな体質はありません」

 

 というか、あの体質者が他に何人もいてたまるか。

 

「ともかく、行きましょうか?」

「……ええ」

 

 ちなみに俺は女装モード「悠子」になっている。今日は文化祭であった二年生と言う設定で弾と一緒に五反田家に訪れることになっている。

 

「じゃあ、ラウラ。幸那のことをお願いね」

「わかりました」

 

 楯無のことは後で良いと判断した俺はラウラに幸那の足止めを頼み、俺たちは早速五反田家に向かった。

 

 

 

 

 

 正直な話、別に俺が行かなくても良かったのではないかと思う。俺が反応しなくても、弾はある程度成長していたようだし。

 

(しっかし、せっかく孫息子のご帰還だと言うのに随分な歓迎の仕方だこと)

 

 俺たちは敵……というか客に囲まれている。

 

「テメェ! 妹を放っておいて今更帰ってくるたぁどういうつもりだぁ?」

「しかもわけぇ姉ちゃん連れて帰ってきやがって! テメェだけずりぃいんだよ!」

「よぉ姉ちゃん、良かったら俺の相手をしてくれねぇか?」

 

 どうやら、この時間はガラの悪い連中が陣取っているみたいだ。これで客が減らないのは、店主の暴力によるものだそうだ。

 最初は働いている女性二人が弾の姿を見て驚きを露わにして、それから客が迫ってきた。一人、なんか口説いてくる男がいるけど、俺は男に興味ない。

 

「ごめんなさい。今日はここの家の人に用があって来たの。悪いけど道を開けてもらえないかしら?」

「……何?」

「そうねぇ。わけは、妹さんのIS学園入学させようとする母親と祖父を説得に来たと言うところかしら? だからごめんなさい。今すぐ退いてくれませんか?」

 

 だけど、どうやら退く気はないらしい。全員が俺たち―――と言うより弾の方に詰め寄る。

 だが肝心の弾は何とも思っていないらしい。

 

「すみません、悠子さん。一度出直しませんか? 今だと営業中なので邪魔になりますし。何よりも邪魔者が多いですし」

 

 すると客たちがより迫ってくる。

 

「そうね。じゃあ、帰りましょうか」

 

 本当は嫌だが、弾の手をつないで外に出る。これで第一段階の挑発は成功したと言っても良いだろう。

 

 まず、嫌な存在を「勝ち組」と認識させる。特にこれは織斑に恋をしている妹に対する嫌がらせだ。

 考えてみてほしい。今まで自分を虐げてきた相手のせいで人生を無茶苦茶にされて勇気がなくチクることができない中、その相手が段々と勝ち組になっていく様を見るのは本当に嫌だろう。まさしく何様だと言いたくなるものだ。特に織斑は攻略しにくい相手。自分に自信がある彼女が頑張っているさなか、学校をサボって財を無駄にした挙句、いとも簡単に彼女を作ってデートをしているのだ。ましてはその相手はミスコン獲得者。しかもただのミスコンではない。IS学園という美少女率ナンバーワンの学校でのミスコンに輝いた相手だ。つまり(自分で言うのもなんだが)事実上高レベルの美人である。さらに家事スキルの大半を占め、主婦としても生きていける存在。本当に自分で言うのもなんだが完璧なステータスを持っている女を彼女にしているのである。……まぁ、弾もそれなりにかっこいいんと思うんだけどな。

 特に母親に関しては大激怒だ。「無駄」とは言い過ぎかもしれないが、それなりに学費を払っているのにほとんど無駄にしているのだから。

 

 しばらく時間が経ち、「準備中」になっている札を確認して俺たちは再度中に入る。

 中には待ってましたと言わんばかりに待機する三人がいた。父親は数年単位の出張をしているので、中々帰ってこないらしい。

 

「悪いのだけれど、しばらく出て行ってくれないかしら?」

 

 母親と思われる女性にそう言われたが、こっちも丁寧に返す。

 

「それはできません。私は本日、弾君の援護をするためにこちらに伺いましたので」

「……援護?」

「はい。どうやら、娘さんの五反田蘭さんがIS学園に入学を希望しているとか。それを止めさせるための援護に来たのです」

 

 五反田蘭が驚き、兄である弾を睨む。……やっぱり、あの時冗談で言ったことを実行に移すべきだったか。

 

「それは家族の問題よ。この子とどういう関係かは知らないけど、あなたには関係ないこと―――」

「聞けば、あなた方は彼の言葉に耳を貸さなず、ただ蘭さんの入学を許可しているとか」

「それはあなたには関係ないでしょ」

 

 早速食いついてきてくれる。まずますと言ったところか。

 

「おめぇさん。アンタがこの話に介入して一体何の得があるってんだ?」

「得、ですか? 敢えて言うなら、家庭内での彼の立ち場の回復です。むしろあなた方は彼を誇るべきですよ。虐げてくる妹のためにIS学園というものがどういうところかを調査してきたのです。だと言うのに、あなた方はそれを無視するなんて………よほど、頭がおかしいと見えます」

 

 女二人が立ち上がると、同じように、そして二人よりも早く立ち上がった弾が俺の前に移動した。

 

「弾、あなた。ここ半月ほど学校に行ってないみたいね。毎日家に電話がかかってきたわ。一体どうつもり? 成績もまともに取れないあなたが―――」

「その代わり、俺はとんでもない力を得たけどな。そして色々としごかれた……」

 

 遠い目をし始める弾を小突いて正気に戻す。

 

「ですが、弾君の説明では不足し、納得できなかった部分もあるでしょう。だから今回、IS学園に所属する私が助っ人に来たのです」

 

 瞬間、三人が俺の方を驚いて向く。

 

「……IS学園……所属?」

「はい。今年で二年生になります」

 

 途端に空気が変わった。まさか目の前に立つ女に見える男がそうだと思わなかったのだろう。

 

「ああ、ご安心を。あなた方の態度や評価が変わることはありません。「あそこの家は男に厳しい」って言ったところで今の世の中のことを考えると普通と判断されるでしょう。学園には、この家を超えるほど酷い方々がたくさんいますから」

 

 その言葉に安堵したようだ。

 

「では聞かせてください。どうしてあなたはIS学園にいながら兄の味方をするんですか?」

「理由としては、あなたの入学する動機が気に入らないという点です。聞けば、あなたは一年の織斑一夏君がクラスメイトと同居をしているのがきっかけだそうですね」

「何か問題が?」

「問題はあります。ですがその前に、五反田蘭さん、あなたはキャノンボール・ファストを見に来られていたようですが、それでもIS学園に入学する気ですか?」

 

 早速手札を切らせてもらった。

 するとあのことを思い出したのか、少し顔を青くするが彼女は言った。

 

「もちろんです」

「では、あなたは今まで虐められたことは?」

「ありません」

「……聞けば、あなたは非常に成績が優秀だそうですね。先程見たように、実家のお手伝いをするほどの余裕があると見える」

「そのように教育を施してきましたから」

 

 今度は母親の方が答えた。……っていうか神樹人なのか? 母親というよりも姉の方が印象強い。

 

「確かに、蘭さんが通っている「聖マリアンヌ女学院」は大学まで行けるエスカレーター式で、IS学園に匹敵するほどの高学歴学校。そんなところに通っているなら、適応も十分早いと見込めるでしょう。では最後に、あなたはIS学園に入学して、何かしたいことがありますか?」

「やりたいことでしたら―――」

「先に言っておきますが、あなたが思いを寄せている織斑一夏君は専用機持ちの中でも最弱。そして彼自身、自分が弱いことを自覚していません。ましてや彼は他人を守ることを信条にしているようですが、機体も集団相手に戦うのに向いていません。そして何より、彼にはその技量はありません」

 

 そう断言すると、女二人は苦い顔をする。

 すると、爺さんが厳しい表情で口を開いた。

 

「そこまで一夏の酷く言うが、お前さんの技量はどうなんだい?」

「………技量、ですか」

 

 俺は思わず唸る。このまま行けば、弾とこの爺さんを戦わせられなくなる気がしたのだ。

 どうしようかと本気で悩んでいると、弾が言った。

 

「祖父ちゃん、その前に俺と手合せしてくれ」

「何?」

「弾、あなた―――」

「学校サボっていたことは悪いと思ったけど、そこの頑固ジジイを俺の手で潰さないと意見を押し通すことはできないと思ってな。もちろん、休んだ分の倍は勉強したさ……10回ぐらい死にかけたけど」

「………」

 

 あのババア、俺の友人になんてことをしてんだよ!?

 呆れながらが頭を抱えていると、爺さんがニヤリと笑って言った。

 

「良いぜ。表出ろや」

 

 それを聞いた弾は少し身を引いたが、俺はそっと耳打ちして落ち着かせてやる。

 

「大丈夫。これまでの相手を思い出すのよ」

「……そ、そうですね」

 

 一度深呼吸して瞼を閉じ、落ち着いたのか瞼を開けて先に外に出る。

 俺は椅子をどけてついていくと、三人も外に出た。

 

「覚悟はいいか、クソガキ」

「それはこっちのセリフ―――だっ!」

 

 コンクリートを蹴って前に出る弾。爺さんの方は動かず、その場で待つ。

 瞬間、少し前に移動して弾が振りかぶる拳を避けるように腕を残して移動する。カウンター狙いだ。

 だが当たる瞬間、弾はその腕を踏んで上に飛ぶと同時に顔面を膝で攻撃する。

 

「お祖父ちゃん!」

「お父さん!?」

 

 まさか弾の攻撃が当たるとは思っていなかったのだろう。ジジイの方もバランスを失い、後ろに倒れるが受け身を取って後頭部に当たるのは阻止された。

 だが、背中を地に着けたのは弾にとって大きく、着地と同時にターンして思いっきり頭を蹴った。

 

「このガキャ―――」

 

 無理やり立ち上がる爺さん。そして怒りを露わにして思いっきり殴りかかってくるのを少ない動きで回避。出された右腕がすぐに動かせさせないように左腕のジャブを入れる。

 

「テメェ!!」

 

 今度は左腕が迫る。回避するが間に合わずつかまり、そのまま壁に激突しそうになるが、内側に回って自ら「石」になって躓かせた。

 

「うぉっ!?!」

 

 自らも食らうが、それでも油断していた爺さんには効果が発揮される。バランスを崩して他人の塀に激突しそうになるのを、俺が止めた。

 

「―――これいくらいでいいのではないのでしょうか? これ以上するなら、壁に激突する程度ではすみませんよ?」

 

 鎖で受け止めてから爺さんにそう言うと、歯軋りしながら「わぁったよ」と答えて弾を解放する。

 

「……弾、あなた……学校サボってどうしてこんなことを―――」

「それはあなた方が原因でしょう」

 

 弾が答える前に俺が答える。

 

「あまり他人の家庭環境に口出しするのは趣味ではありませんが、今の時代だからこそ成績が悪いなどの理由で子供を見捨てるのは止めておいた方が良い。このように、いざという時にあなた方が予想もしない力を手に入れている可能性もあるのです。特に、あなたたちが女性であるならなおさらですよ。時に五反田蘭さん、篠ノ之束博士が世界に配布したISコアの数はいくつか答えられますか?」

「……よ、467個」

「正解です。まぁ、これは基礎問題なので答えて当たり前なのですが……では、世界の人口は約何人?」

「……た、確か70億人?」

「単純に計算して、70を2で割れば35。つまり、女性は約35億人いることになります。そして、すべてがIS操縦者になるのを夢見て努力しているとすれば、35億人がたった467個のISを奪うことになるの。IS学園で学べる生徒が「エリート」呼ばわりされているのは、大半の授業がISに割り当てられている分、より有利に時間を割ける。でもね、実際はそうじゃない。訓練機を使用できるのは、学園の生徒三学年含めて日によって差はあるけど30人ぐらい。特に一年生は中々回って来ないのもあるし、教員は女尊男卑という「男より強い」というプライドの塊。それなのに本当に使えず、むしろ全員解雇して血の気が多いのを入れた方がマシなんじゃないかと思うぐらいよ。それにあなただって、この前のことはよく知っているでしょう? 去年まではともかく、今年は特に酷い。おそらく、二人の男子のせいね。特に裏の人間はもう理解していると思うわ。「桂木悠夜を相手にするより、織斑一夏の方が楽だ」って。つまり不用意に織斑一夏君に近付けば、あなたも無事では済まないわ」

 

 途中で愚痴を混ぜてしまったが、どうやら女二人は気付いていないようだ。

 

「するてぇと、アンタは蘭に「これ以上、一夏に近付くな」と言いたいのか?」

「はい、そうです。……ここから先は聞かれてマズい話になりますし、中でお話ししませんか?」

 

 本当は結界を張ればどこだろうと関係ないが、外だと結界から出ると急に人が現れたように見える……と思う。

 なので中に入るように言うと、母親は爺さんの治療をしながら聞き始めた。俺たち三人は席に座って話を始める。当然、結界を張って時間制限を設けるのも忘れない。

 

「さて、五反田蘭さん。さっきはあなたの説得に来たって言ったけど、本当はその説得でも様々な理由があるの」

「さ、様々な理由、ですか?」

「そう。私はただあなたを止めに来たのではない。場合によってはあなたはIS学園に入学せざる得ないわ」

 

 弾は驚きを露わにするが、手を挙げて制す。意味を理解したのか、黙った。

 

「弾君から聞いたけど、あなたのIS適性は「A」のようね」

「はい。それもあって、IS学園に入学しようと思いまして………」

「IS適性が「A」の人って、世界中で100人もいないって知ってる?」

「そうなんですか? 私はてっきりもっといるのかと―――」

「中には訓練を重ねて「A」になった人もいるって話もあるけど、何もしていない時点で「A」というのは珍しい話なの。「S」ランクだと10人もいないって話だけどね。ともかく、「A」だと希少な分、様々な特典がもらえるの。毎年7月に行われる臨海学校ぐらいまでに専用機が支給される可能性もあるわ」

 

 現に楯無がまだ生徒会長でない頃、日本から専用機を支給すると言う話があったらしい。

 

「でもね、それによって妬みや恨みを買うこともある。「ちょっと適性があるからって」、「そんな理由でもらえるなんて」ってね。今年は一人、専用機をある筋からもらっていたけど、表沙汰になっていないだけだけで彼女に対して嫉妬を向けている人間はいたわ。当然よね。何かが評価されたわけじゃない。その生徒よりも上の成績を納めた人間はたくさんいる。なのに、何で彼女が? わかっていると思うけど、同じ国の代表候補生から執拗な虐めが始まる可能性もある。あなたはそれに耐えられる?」

「そ……それは……」

「言っておくけど、人を一人本気で潰そうと思えば案外できるものよ。あなたの家が定食屋であるなら、その評価を塗り替えればいいだけ。特に何も知らないニートやフリーターは面白がってするでしょうね。特に男のフリーターの大半が女尊男卑の影響が強くて働きたくても働けない現状にあるのだから」

 

 今では女が優先的に取られることが多いって話だから。それに自分の腕を信じて別分野だったISの整備業をしていた人間が、触れて高が数年程度のIS学園生のためにリストラされたって話も聞くし。そんな状況でコネと適性でISをゲットしたら、炎上して周りに被害が起きるのは必然とも言えるだろう。

 

「だから先輩として言っておくわ。よく考えて結論を出しなさい。高がひと時とも言える恋愛、そして量産できるほどの情報が開示されていない兵器として捨ててもおかしくはないレベルの物に対する憧れだけで高校生活を無駄にするか。それとも今まで通りの生活をして、これまで通りの道を歩んで安定的な企業に就職するか。場合によっては公立高校に入学して、新たな恋愛をしてもいい。あなたは―――というよりもあなた方は弾君のことを否定しているけど、彼はあなたのことを思って行動をしているのよ。それに、本気で戦って女が男に勝てると思ってるの? 今の女が立ち場だけ。私のような例外を除けば、基礎体力で女が男に勝てないわ。そうじゃなかったら、性的暴行を加えられるわけがない」

 

 そう言うと、妹は弾を軽蔑するように見るが、それを机を叩いて止めさせた。

 そのこともあって怯えるように見てくる妹。とはいえこれ以上必要はないか。

 席を立って、俺は最後に母親と祖父の方に立つ。

 

「五反田弾君は本日をもって家出を終了し、これからはここで暮らすとのことです。それが受け入れられないなら、彼とは今後会わないように取り計らない、彼の物と位置付けたものはすべて回収します。必要とあらば絶縁させて、然るべき手続きを行って新たに彼の能力を生かしてくれる親も保護者も紹介しましょう。私には何人か心当たりもありますしね。ただ、お忘れなきよう。今は女の立場が上になっているだけに過ぎず、法律では男の人権も十分保障されています。望めば彼に最適な環境を与えることも可能だと言うことですよ。それはあなた方にとっても困ること―――」

 

 するとドアから誰かが入ってきた。何やら怪しげな格好をする人間だが、政府関係ではなさそうだ。

 

「五反田ぁ! テメェ、金の用意はできてんだろうなぁ!!」

 

 …………えーと。パターン的にガラの悪い人に絡まれている感じだよな?

 どうしようか……というか、二度と抗えないように少々痛めつけようかと思っていると、ガラの悪い人たちの後ろからハツラツな声が響く。

 

「ただいま~」

「え?」「は?」「嘘だろ!?」「………嘘」

 

 四人が信じられないと言わんばかりに各々声を出す五反田家。見ると、髪が黒い男性の容姿は以前の俺のように悪いと言わざる得ない感じだった。……どこかで見たことがあるような気がしなくもないが、どこだったか?

 

「おいテメェ。今こっちが取り込み中だ。とっとと失せろ」

「あ~、やっと帰れたよ~。いや、悪いねぇ。研究がかなり長引いちゃってさ。あ、弾。大きくなったね。もう僕を超えた?」

「おいオッサン―――」

 

 伸ばされた腕が茶髪の男性に向かって飛ぶ。それを受け止めて阻止すると、視線がこっちに向けられ始めた。

 

「おいねぇちゃん。邪魔してんじゃねぇ」

「待て。それよりもその女を捕まえろ」

「へい」

 

 言われてすぐに囲み始める。にしても、やっぱり俺、裏家業相手に余裕すぎるだろ。

 

「おい五反田、この女を解放してほしかったら大人しく慰謝料出せや!」

「………あの、人質を今すぐ解放した方がいいと思うんですけど…」

 

 おい弾! 今それを言っちゃだめ!

 

「あぁ? 何言ってんだガキ! こいつは―――」

「あ、もしかして君、悠夜君!?」

 

 そして茶髪の人は何で俺の本名を知ってるんだ?!

 その声で他の全員も一気に俺の方に注目する。一応、囲まれているというのに茶髪の男性は平然と俺の所に近付いてきた。

 

「あ、やっぱり悠夜君だ。久しぶり」

「………えっと……」

「ほら、覚えてない? 桂間主任の部下で、「反田(はんだ)(じん)」っていたでしょ?」

「………あ!」

 

 そう言えばこの人、家族に会えるからって思いっきり酔った人だ。うわぁ、かれこれ7年ぶりだ。

 

「お久しぶりです、反田さん」

「うんうん、久しぶり。でも何で女装? それに声も女性だし、もしかして主任が趣味で開発してた変声機を使ってる?」

「ちょっと色々と訳ありで……」

「いやぁ、でも凄く似合ってるよ。ホント、違和感ないくらい」

 

 ………IS学園でミスコン取ったとか言ったら、卒倒するだろうな。

 二人で話していると、やーさんが5人、五反田家の4人が呆然としていた。

 

「………親父、もしかして知り合いなのか?」

 

 先に復帰したらしい弾がそう尋ねると、反田さん……もとい、仁さんは「うんうん」と頷いて答えた。

 

「だって彼、小学生の時から色々やらかして、中学生の時に日本に来ていたマフィアをたった一人で倒した猛者だからさ。そりゃあ、うちの会社では主任並に有名人で、三月には警察機動隊をたった一人で壊滅しているし」

 

 一瞬でその場が凍りついたように見えた。

 

「……あの、それって言っちゃっていいんですか?」

「別に良いと思うけど。あ、そうそう! ほら、この子が君の妻にしようとしていた娘の蘭。可愛いでしょう?」

「……………」

 

 そう言えば、そんな話をしていたなぁ。あの時は本気にしてなかったし、というかよく酔っていた時に事を覚えているなぁ。

 当の本人らは言うまでも困惑している。

 

「おいテメェら! さっきから無視してんじゃねぇ!」

「あの、反田さん。そう言うのは後で―――さっきからヤバそうな人が―――」

「良いって、良いって。蓮、悪いんだけど食事を―――」

 

 すると椅子が蹴られ、それが妹の方に飛んでいく。とっさに弾が割って入ろうとするが、弾の前で椅子は止まった。

 

「おいテメェら、さっきから調子に乗りやがって。俺らは泣く子も黙るナキヤ組やぞ! それを無視するったぁ、どんな目に遭わされても良いってことだよなぁ?」

「……やれると、思っているんですか?」

 

 仁さんから離れ、俺はナキヤ組構成員の前に立った。

 

「なんだ、変態。テメェみたいな勘違い野郎はとっとと帰れや!」

「はいはい。あなたたちの言い分は外で聞きます。ですから、ここは大人しく外へ―――」

 

 ―――ゴッ!

 

 突然、ぶん殴られた俺はそのまま倒れる。すると構成員の一人が俺の腹部を踏んだ。

 

「は! ゴミ野郎が粋がって―――」

 

 ―――ゴキッ!!

 

 とりあえず、殴った奴の右腕は脱臼させておく。そしてそのまま地面に叩きつけて、俺はそいつの顔を踏んだ。

 

「―――やれやれ、小物風情が随分と粋がってくれる」

 

 変声機を使わず、そのままの声で話し始めた。

 

「……あの、悠夜さん、女装はもういいんですか?」

「ああ。そもそも反田さんのせいで俺が男だってバレたようなもんだからな。別にいいだろ」

「………テメェ、まさか」

 

 構成員の一人が俺に気付いたようだ。

 

「何で……何で男性IS操縦者がこんなところにいるんだよ!?」

「そうか。だったら殺せ! ISが無い今なら殺せる!」

 

 銃声が鳴り響く。それが俺の頭にぶつかったが、それは凹んで地面に落ちた。

 

「………いってぇな」

「……何で銃が利かない?!」

「そう言う体質なんだよ、俺は」

 

 今度はこっちの番だ。

 俺は男の一人を思いっきり殴り飛ばす。だがこのままでは厨房の方に行くので、鎖を使って引き戻して重力で引き戸を開けて外に投げた。

 

「さて、次は誰だ? 生憎こっちは救いようのないゴミ野郎のせいでイライラしてるんだ。なぁ? テメェらって強いんだろ? だったら俺と―――俺の気が済むまで遊ぼうぜ?」

 

 そう言うと何人かがビビり始める。どうやら期待はできなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五反田蘭はその惨状を生み出した男に心から恐怖を抱いていた。

 相手は以前、営業妨害をした奴らで、そいつらは厳が殴って追い出したのだが、今回は慰謝料を請求しに来たらしい。一人を捕まえて吐かせたところ、悠夜が身の毛がよだつほどの満面な笑みを浮かべて言った。

 

 ―――じゃあ、金さえ払ったらサンドバッグになってくれるよな?

 

 ちなみにその男がそれを吐くまで3本の指があり得ない方向に曲げられている。さらに銃弾は聞かず、殴ればたった一発でも気絶するほどの威力を持つ拳だ。男たちはすぐさま降参して、今も理不尽な誓約書にサインを押すか押さないか迫られている。ある意味、酷い男である。

 

「……ねぇ、お兄。何であの人を連れてこれたの?」

「………この惨状を見れば思えないかもしれないけど、本当に良い人なんだ……普段は」

 

 ―――そんな風には見えない

 

 だが蘭は、さっきまで冷静に自分に対して説得と説明をする女性……もとい、男性を見ているため、完全に否定することはできなかった。

 さらに父から説明を受けたところ、あの「ルシフェリオン」で優勝したのも彼だという。そんなチート人間が説得に来たことすら受け止めきれなくなっている彼女の思考はさらなる混乱を生んだ。そして、その恐ろしさから思い始めたのだ。

 

 ―――IS学園の入学、もう少し考えようかな




ということで、目の前でその恐ろしさを目の当たりにした彼女は本気で考え始めました。相手はヤーさん。銃弾利かない。人は吹っ飛ぶ。ISのおかげと言われればそれまでですが、今の彼女にそんな余裕なんてありませんでした。



・キャラ紹介

五反田 仁(ごたんだ/じん)
原作未登場の弾と蘭の父親。原作準拠だったら多分彼は入り婿である。……たぶん。
「反田」は所属する企業で使用している偽名。修吾の部下で、何度か悠夜と交流がある。また、酔っぱらった勢いで蘭を嫁にという話をしているが、悠夜に本気にされていなかった。企業の研究部に所属していて、数年単位で帰ってこない。

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