IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#118 突然の介入

 途中まで一緒だった簪、ラウラと別れて部屋に戻る。

 ドアを開けると視界に楯無を捉えた。

 

「おかえり」

「おかえり~」

 

 何故楯無が? っていうのも今更野暮か。

 今では同居を解除されているはずの彼女がここにいるのは、十中八九俺が言ったことに対して異論を唱えに来たか、簪のことだろう。

 平静を装いながら、俺は楯無に尋ねる。

 

「珍しいな。何か問題でもあったか?」

「そうね。どこかの問題児君が物凄いことを言って学園の治安を乱しているとか」

「だがそれは、決して外れているわけではないだろう?」

 

 そう言うと、楯無がため息を吐いた。

 実際彼女だってわかっているのだろう。本気と思われる雰囲気を醸し出した楯無は彼女の物らしいファイルを手に取って言った。

 

「正直、あなたが行動を起こしてくれて助かったと思うわ。現にアタシに言いに来た一人を半泣きになるまで言ったらすぐに申請書を出したもの」

「そいつは重畳。だが、訓練機は所詮足で纏いでしかないぞ」

 

 まぁ、俺が率先して集団行動をとらないからなんだが。

 なんて思っていると、楯無は俺に写真を差し出す。それを受け取った俺はベッドに座って確認すると、其処には金髪ロングで少々……いや、かなり際どいドレスと思われるものを着た女性が映っていた。その女性がカメラ目線でないことから、隠し撮りと思われる。

 

「……まさか俺に、この女性を口説いて来いなんて言わないよな?」

「流石にそんなことをしないわ。もう一度言うけど、あなたがさっき一年生の専用機持ちを集めて動いてくれるのはありがたいの」

「………話が見えないんだが」

 

 そう言うと楯無は一拍置いて言った。

 

「その女性、スコール・ミューゼルって言うんだけど―――今回襲撃してきた亡国機業(ファントム・タスク)の一員よ」

「……まさか、リーダーとか?」

「組織自体の、と言う意味では違うわ。でも、学園祭の襲撃時に男性と一緒に目撃されている」

「……それで、キャノンボール・ファストにも来るって言いたいのか?」

「ええ。彼女、結構な成金趣味らしいから」

 

 もしくは現場を指揮するためか。どっちにしろ、楯無の予想は理解できる。

 

「なるほどね。俺が一年生の指揮に集中してくれれば、自分は単機でこの女を狙えるってことか」

「そういうこと」

 

 頷く楯無を見て、俺はため息を吐く。

 

「って言うか、どうせなら俺がそいつを捕縛しようか?」

 

 どう考えても、そっちの方が適任だろう。

 さっきはああやって言い含めておいたが、実際にまともに動くなんて思っちゃいない。それならカリスマ性がある彼女の方がいいだろう。

 

「ううん。前のことを考えると、あなたにはいざという時に立ち回ってもらわないといけないから」

 

 いざという時―――リヴァイアサンかイフリート、もしくはまだ知らないもう一機のことだろうか。

 ともかくこれ以上のネタがない俺は、仕方なく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日が経ち、キャノンボール・ファスト当日を迎えた。

 俺は準備を済ませると、クソババアから「進捗状況を報告しろ」と連絡が入っていた。どう考えても、楯無か他の奴らとの恋愛事情だろう。いや、しないから。俺はあくまで、楯無は同い年の友人として、年下は妹としてしか見ないつもりだ。……思いっきり、キスとかしてるけどさ。

 

「悠夜さん」

 

 俺を呼びに来たらしい簪。あの日―――話をした日以降からあまり簪の肌を直視していない。今のようにISスーツの時は流石に除くが。

 

「悪い。もう時間か?」

「準備時間は、でも、正直行かなくてもいいと思う」

 

 そう言って簪は俺に抱き着く。

 

「……妹でも、これくらいはセーフ」

「あ、うん」

 

 血の繋がりはないから、実際はアウトです。

 そう。繋がりがないことを知っているからだろう。さっきから俺の股間が起きようとしている。

 

「……体は正直」

 

 顔を赤くしながら、いつの間に外したのか眼鏡がない状態で俺に顔を近付けてくる。俺は元からしていないからそのまま近付けるとキスをした。誰もいないしここでスルーしたら10分ぐらいは抱き着くのを止めないことを身を以て知っているからである。決して欲情したとかではない!

 

「やっぱり、俺に対する気持ちは変わらないってわけか?」

「うん。悠夜さんが王族だとか、そう言うのは元からない。知ったの、学年別トーナメントの後だから」

 

 そういえばあの時も盛大にキスをしましたね。

 そのことを思い出した俺は顔を赤くすると、簪は笑みを浮かべた。

 

「―――何をしている、さっさと―――な、なにをしているか!?」

「―――チッ」

 

 思いっきり舌打ちをする簪。あの、あなたは何をするつもりだったんですか?

 

「こ、こんな公共の施設でなんて破廉恥な―――」

「お前はどこのエロ漫画の風紀委員長だよ」

「これくらい普通。むしろ、中々発展しないあなたたち―――というか気づかない向こうが悪い」

 

 さりげなく織斑を馬鹿にする簪。それに対して怒りを露わにする篠ノ之。一触即発なムードが漂うが、フォローを入れることにした。

 

「大丈夫だって。篠ノ之も見た目だけは良い方なんだからいずれはいい人が現れるさ」

「ちょっと待て。それはつまり、お前らの見立てでは私は一夏と結ばれないと言うのか!?」

「結ばれる、結ばれない以前に、あの人は人の好意に気付かない時点で無理」

 

 簪のその言葉に怒りを露わにする篠ノ之だったが、無駄と思ったのかドアの方に向かう。

 

「一つ聞きたい。私たちは手加減をすればいいのか?」

「大会中も一切の手加減は抜きで、だ。あれだけの乱入騒ぎがあっても、外部から応援を寄越さないのはプライドか何かだろうし、観客を楽しませないと色々とうるさいだろう」

「……それもそうだな。このことは他の者にも伝えておこう」

 

 そう言われた時、俺は思わず信じられないと言わんばかりの目で彼女を見てしまった。

 

「まさか、篠ノ之が気を利かせただと!?」

「そ、その反応はおかしいだろう?!」

 

 盛大に突っ込まれたが、それでも篠ノ之の反応は意外だった。いや、マジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭とキャノンボール・ファストでは大きな違いが一つある。それは―――観客が外部から入りやすいかどうかだ。チケットは保護者はともかく一般では当日にしか売っておらず、一時間前にならなければ並ぶことはできないが、それでも特定の人物しか入れない学園祭とは違って収納される観客数は圧倒的だろう。

 そしてIS関連にはあまり興味がない数馬はようやく中に入り、さっきから先に来ているという友人の姿を探していた。見ると所々で汗をかいている。というのも先程までチケットを買い損ねたらしい女性に絡まれていたのだが、それを振り切って中に入ったのである。

 

(……弾は、他の人と一緒にいるって言ってたけど……)

 

 弾が家出をしていることと全容を数馬は知っていた。今日はステイ先の人と一緒にいることも聞いて臆したが、ステイ先の人が「一緒に見よう」と誘ってきたのである。

 

「数馬、こっちだ!」

 

 近くから聞き覚えがある声が聞こえ、数馬はそっちを見る。そこには友人の弾とおそらくステイ先の住人と思われる人間がいた。

 

「久しぶり、弾。……えっと」

「ああ、この人はギルベルト・アーベルさん。俺がお世話になっている家の執事をやってるんだ」

「どうも。君が御手洗数馬君だね」

「は、初めまして!」

 

 ギルベルトと数馬は握手する。そして座ると、あと一つ席が空いていることに気付いた。

 

「あれ? そこの人は……どこに行きましたか?」

「……ああ。おそらく用を足しているのでしょう。あまり触れない方が良いと思いますよ」

 

 ギルベルトに説明されたが数馬はどこか納得できない風だ。そんな彼にフォローのつもりなのか、弾は言った。

 

「まぁ、あの人なら誘拐されようが襲われようが問題はないって」

「………いや、何でそんな物騒なの?」

 

 数馬は知らないことだが、今日、弾はギルベルトのほかにもう一人―――陽子を連れてきていた。

 だが陽子は「知り合いを見つけたから」と別行動をとり始め、今そこにはいない。

 

「それよりも、御手洗君は確かISが好きじゃないと聞きましたが―――」

「そうなんです。ISは好きじゃないんですけど、今日は桂木さんが出るんで来たんです!」

 

 一瞬にしてミーハーになった数馬に、知り合い―――というか主人の孫だからかギルベルトは愛想笑いをする。

 

「今まで一度も生で見たことがないんですけど、確かあの人が使う黒鋼ってデザインは桂木さん自身が手掛けたものとか」

「ええ。知り合いがその手の情報が掴むのが得意なので話はよく聞きます。曰く、「エグイ」らしいですよ」

 

 それを聞いていた弾はギルベルトに対して「よくもぬけぬけと」と思っていた。

 弾は悠夜とギルベルトの関係を知っていた。その上で黙っていたのだが、少し離れた場所で仲が良い兄妹が通り過ぎるのを目撃した。すると妹と思われる少女が倒れ、それを見た兄が呆れと心配を含めて手を差し出す。

 その光景を見ていた弾は、自分たちも昔はそうだったことを思い出して何とも言えない気分になった。

 

 

 その頃、蘭の方はと言うと、

 

「ご、ごめんなさいっ」

 

 対面する女性に対して頭を下げていた。

 少し時間を遡る。なんだかんだであの騒ぎが有耶無耶になったこと、そして家族に話したら許可をもらったことで一夏の応援に来たのである。彼女は席を探していたが、視線を下げた状態で歩いたため、近づいていた女性とぶつかったのである。

 

「いえ、いいのよ。気にしないで」

 

 自分に非があり、怒られると思った蘭にとっては意外な言葉だった。彼女はもう一度頭を下げて急いでその場を去る。

 その姿を見ていた美しい金髪をなびかした女性は、後ろから感じる気配に動けなかった。

 

「―――随分と久しいのう。てっきり老けていると思ったぞ」

 

 その声の主が誰かすぐにわかった女性は内心舌打ちをする。

 

「それはこちらのセリフです。まぁ、あなたはまったく変わっていないようですが」

「そのおかげで、実年齢アラサーでも高校に通えたがな」

 

 その言葉に女性はため息を溢した。

 

「とはいえ、あまり暴れると直々に消されるのではないか?」

「あら? てっきりあなた自身が私を消しに来たかと思いましたわ」

「それもいいとは思ったじゃがのう。ワシは元々孫の罵倒……もとい、応援に来たのでの。お主を狩るつもりはさらさらないわい。とはいえ、お主の部下に対して八つ当たりはしたいとは思うがの」

 

 そう言った女―――陽子は殺気を少し出すが、すぐにそれを消した。

 

「まぁいい。精々悠夜の邪魔をするでないぞ」

 

 陽子はその場から消える。だが金髪の女性―――スコール・ミューゼルは気が気ではなかった。

 何故なら今回の行事にも介入する予定であり、今回の駒は特に悠夜にご執心だからである。

 

(でもまぁ、大丈夫でしょ)

 

 何を根拠にそう思ったのか、スコールはその場から移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二年生の部が始まり、それも佳境に入っているようだ。俺は侵入予測場所を復習してから黒鋼を展開して集合場所に来ると、織斑とオルコットが話をしていた。

 俺も機体のセットアップをしていると、後ろから誰かが近付いてくる。この気配は、イージスの二人か。

 

「どうしたんですか? 先輩とチビ助は別なんじゃ―――」

「チビ助言うな!」

「なんか、オレたちもこっちに出ることになった」

 

 事情を聞くと、どうやら三年生の一部が抗議したらしい。俺関係かというとそうでなく、どうやらサンドバッグにされるのが嫌で抗議したらしい。

 それで仕方なく、一部変更して無理やり参加させる様だ。

 

「機体の調整とか大丈夫なんですか? あの時、普通に巻き込まれていましたよね?」

「なんとかな。ギリギリ範囲から逃れることができて大きな損傷を受けることは回避した」

 

 それってつまり周りを見捨てたってことだよな。この人らひでぇ。

 

「―――あれ? 悠夜、その人たちって一体―――」

 

 どうやらイージスの二人に気付いたらしい。織斑以外の各々は二人を見て驚いていたが、とりあえず自己紹介をする。

 

「金髪で胸が大きい方はダリル・ケイシー先輩。アメリカの代表候補生で、大きいにもかかわらず以外に揉みやすい。で、こっちの小さいのが巷で「フォルたん」という愛称で親しまれているチビ助ことフォルテ・サファイア。普段はネコミミカチューシャを装備しているマスコット」

「「おい」」

 

 二人から同時に突っ込まれる。

 

「何でオレの紹介の大半が胸のことなんだよ!?」

「私に至ってはあることないこと言われてすぎなんですけど?!」

「先輩は先輩として、胸を使い方をそこの無駄乳三人衆に伝わればと思いまして。それとサファイアは今考え付いたな。「フォルたん」は前々から「こんな愛称で呼ばれてそう」とは思ってたけど」

「OK、今すぐここから退場してやるわ!」

 

 そう言ってフォルテ・サファイアは俺に敵意に向けてきたので、軽く彼女に仕掛けるとその場に停止した。

 

「サファイアの時間を止めたわけなんだけど、同人誌的にはここからエロルートに突入するつもりなんですけど、どうします?」

 

 いつも一緒にいるみたいだし、面倒だから先輩に譲ろうとするが先輩の表情は硬い。

 

「……そろそろ試合だし、そこまでにしてやれよ」

「……わかりました」

 

 まぁ、流石に手を出す気はさらさらないんだけど。

 なんて内心言い訳しながら彼女の封じを解く。うん、実は「時間を止める」なんて大層な芸当はどこぞのメイドじゃないんだから無理だ。

 

 ―――ワァアアアアアアッッッッ!!!

 

 完成に続き、結果が発表される。どうやら二年はサラ・ウェルキンと言う人が勝利したようだ。

 そして安全のためかラファール・リヴァイヴを装備している山田先生が俺たちを呼んだので、スタートラポイントへ移動した。

 

「悠夜さん」

 

 簪が俺を呼ぶ。さっきとは違って真剣な顔をして言った。

 

「この後に控える事もあるけど、負けるつもりはない」

「そいつは楽しみだ。精々あがいてくれ」

 

 同じメタルシリーズだからかなり警戒しているが、敢えてそれは隠しておく。

 するとイージスの二人は俺の隣に立った。そのせいか、他の専用機持ちがそっちを警戒するが、俺は甲龍の武装が気になった。本人からキャノンボール・ファスト仕様の装備が送られてきたと聞いていたが、胸部には自信がない大きく突き出されている他、四基のスラスターが増設されている。他にもジアンが最新型のウイング式スラスターが増設されている。まぁ、それでも俺は負けるつもりはない。

 

《それではみなさん、専用機持ち組のレースを開催します!》

 

 楯無がいないが、それに関しては織斑も含めて誰も突っ込まなかった。

 シグナルランプが点灯。三つのそれがすべて緑になると全員ほぼ同時にスタートを切る。

 

 

 ―――たった一人を除いて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の乱入。それは本人たちにも思うところがあった。

 本来なら専用の装備が準備されるであろう自分たちにはそれすらなかったが、ダリルは格の違いを教えるにはちょうどいいと思っていた。

 

(さて、仕掛けるか―――)

 

 好戦的な笑みを浮かべ、自身の機体に積まれているプロトタイプである「ダークフレイム」を使用しようとすると、一人足りないことに気付く。

 比較的に後ろにいる彼女は攻撃しやすいように陣取ったか、先に潰しておきたい「そいつ」がいなかった。

 

(―――まさか!?)

 

 慌てて後ろを見るダリル。スタートポイントにはまだ悠夜が黒鋼を展開した状態で―――笑っていた。

 

(―――ヤバい!?)

 

 そう思った時には既に手遅れ。黒鋼の両肩にある非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の《デストロイ》二基から熱線が発射された。




ようやく入りました、キャノンボール・ファスト。そしてまさかの居残り少年こと悠夜! と思いきや、満面の笑みで熱線発射!
これぞまさしく鬼畜の鑑ですね。周りがスラスターを点火する中、唯一砲口を温めていたんですから。

とはいえ、そううまくいかないのが現実なんですが(笑)

さて、次回どうなる?

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