(さて、どうするべきか……)
思いのほか、新技ができた俺は早速黒鋼のステータスを確認する。
そもそも、空中戦は飛行形態で、陸は人型形態で戦えば何の問題もない。空中でも人型で戦うことはできるし、PICを駆使すれば陸と同じように動けるのが黒鋼の利点だ。正直なところ、これ以上の弄り様がない。そう言う意味では朱音ちゃんの仕事は完璧。今すぐ授業をサボって研究所に乗り込んだ髪がぐちゃぐちゃになるくらいに撫でてあげたいぐらいだ。
「兄様、少しいいでしょうか?」
何故かラウラがこっちに来ていた。
「あれ? 訓練機部門に出るんじゃないのか?」
「私は一応、専用機持ちですから。それにまた万が一があるかもしれません」
「やっぱりラウラもそう思う?」
ラウラは軽く頷く。それで辞退したようだが、個人的にはもう少し遊んでもいいと思うな。
「こう言っては何ですが、今の学園の最高戦力はメタルシリーズかフェイクスードです。とはいえフェイクスードは操縦者はともかく機体は心元ないのであまりに頼らない方がいいかと」
「聞かれたら厄介なことになるかもしれないけどな」
とはいえリベルトさんが操る機体はえげつないらしい。戦力としては期待大だ。
「それに、兄様と簪が専用機持ちとして参加するなら、私はすぐに二人を回復させる手段を持っていた方がいいでしょう」
「そうしてくれると助かる」
一つ、懸念するべきことがある。
それは二機の四神機の存在。そして三機以外に存在するもう一つの四神機。一番はこれだが、やはり他にあるとするなら、量産されている機兵やそのほかのIGPSの存在だ。
今のところ、四神機を除けばIGPSは三機。一人は例外として、あの時ミアを止めようとした二人は本気だった。
(………黒鋼で勝てるのか?)
ふと、そんな疑問が思い浮かぶ。
簪はどうやら力を使える。だが、楯無はおそらく使えない。そうなれば、IGPSの相手は苦しいだろう。
とはいえ亡国機業というところにも四神機が一機あるからなぁ。本当にどうしたものか。
「兄様?」
「ラウラか。どうした」
「いえ。何かすごく悩んでいるようなので……」
「あー、襲撃対策だよ。正直、どうしようかなって思って」
ルシフェリオンはいざとなれば使うしかないが、IS学園側である場合、観客を守ることは必須なので戦いにくい。
「話を振っておいてなんですが、あまり考え込まないでください。兄様はずっと戦っているのですから、たまには休息するのも手かと思います」
「いや、無理だろ」
「………そうですよね」
今にも泣きそうなラウラの頭に触れ、俺は撫でた。
「気にするな。これも力を持った者の宿命って奴だろ。……正直、学園の部隊はガチで使えない」
「そうですね。実際、あの時も私を助けてくれたのは兄様ですし」
どうやらVTシステムのことを思い出したらしい。でもあの時は結構俺もノリノリだった。
「……あまりいい手じゃないだろうけど、とりあえず確認しておくか」
「戦力ですか? 大会前にネタ晴らしをする者はいないと思いますが……」
「とはいえ、知っておいて損はないだろう。事実
「……学園側から反感は買うでしょうが、それもそうですね」
まぁ、上層部とやらに文句は言わせないけどな。まったく役に立ってないし。
「あなた、ふざけてますの!?」
最初にオルコットの所に言って事情を説明するとそう叫ばれた。
「至極マジメなんだが?」
「でしたらただのバカですわ! よりにもよって、大会前に「どんな武器を持っているか教えろ」だなんて―――」
「そうか。じゃあ、当日に襲撃事件が起こったら邪魔だからすぐにアンタを落とす」
そう言うとオルコットが睨んでくる。
「何ですって!? まさかあなた、キャノンボール・ファストで襲撃が起こると予想していますの!?」
「ああ。それも大規模な、な。最悪なことに、確認されている情報から向こうはそれなりの機体と大量の機兵を抱えている。ほかにもエスパータイプが数機。で、それで作戦もなしに戦うのは無理だと思ったんだよ」
俺と簪以外は。後、ラウラはギリギリセーフってところか。
「だとしても、どうしてあなたが指揮を? こういうのは本来は教員や生徒会長の仕事でしょう?」
「そいつが使えるならば、の話になるがな。楯無は数に入れても、訓練機は基本数に入れていない。どうせあいつら、あれだけの騒ぎがあってもまともに訓練を積んでないだろうよ」
そんな奴らの力なんて必要ない。どれだけ歴史を築こうとしても、実戦で足手纏いなら不必要だからだ。
もっと言えば、俺が指揮してもまだ言うことが聞かないだろうし。
「もっと言えば、一人気になる敵がいるからな」
「気になる敵?」
「オルコットも知っているだろう? リヴァイアサンという機体を使っていた奴のことだよ」
イフリートの使い手である暁とは会ったことで、多少腑に落ちないが関係者であることはわかる。
だが何故、何の細工もせず男としてばらしたんだ? 確かに同じIGPSなら隠さなくてもいいが、どうやら別組織らしいし、普通なら隠すだろう。
「………まさか、あなたが?」
ラウラを見ながらオルコットは尋ねると、彼女は平然と頷いた。
「相手の能力を考えれば当然の判断だ。兄様に押し付けることになるが」
「そこは気にするな。俺だってこの学園にいれば体が鈍るし、対等やそれ以上の奴と戦いたいと思うしな」
「さりげなくわたくしたちのことを馬鹿にしてません?」
「だって俺、簪はともかくラウラ相手にはお前らとは違って可愛すぎて攻撃できないし」
かと言って十蔵さんと戦って、調子に乗って暴れそうだからなぁ。それで万が一、十蔵さんが大怪我とかしたら一大事だ。朱音ちゃんはその惨状を知るや否や俺のことを軽蔑し、「お兄ちゃんなんて大っ嫌い!!」と俺に対して言うだろう。そうなったらもはや手遅れ。俺の心は荒んでしまい、何もかもやる気を失った俺はただただ歩くだけの人形と化してしまうことはわかりきっている。
(……考えてみると、俺にとって「萌え」とは切っても切り離せないものなんだな……)
何を今さら、と自分ですら思ってしまう。
考えてみれば、ラウラを救ったのは彼女に「萌え」の可能性を感じたからだ。だからこそ、多少無茶な交渉を臨み、手に入れたではないか。
俺は改めて、公共の場ということもお構いなくラウラを抱きしめた。
「に、兄様!? いくらなんでもここでは―――」
ああ、もう。反応が可愛すぎる。
周りの視線なんて気にせず、俺はくるくると回る。
「あ、あなた、神聖な学び舎で一体何を―――」
「ただのスキンシップだよ。まぁ、これくらいのことを普段からできないからお前らはいつまで経っても関係が進まないんだよ。まぁ、あんな雑魚のどこが良いんだか」
「い、一夏さんはあなたとは違いますわ!」
「そりゃあ、織斑は弱いしね~」
そう言って俺は回るのを止める。
「ところで、さっきから何か言いたそうだよな、織斑」
「………」
気付かれないと思ったのか、俺の後ろで驚きを顔に出す織斑。はっきり言ってこいつの気配はバレバレである。
「お前が弱いってことが気に食わないのか? それとも、お前の姉が弱いって言うのが気に食わないのか?」
「どっちもだ」
「でも実際、テメェは弱い。実力もそうだが、何よりも経験の差だ」
「……け、経験?」
まさか経験値が同じだと思ったのか? そんな馬鹿な。撃墜数を比べたら俺の方が上だということがすぐにわかるだろう。
「そして何より、お前の白式は素人向けじゃない。本来、兵器は状況に合わせて装備を変えるものだ。だが白式にはそれができない。その時点でお前は白式を捨て、別の機体を要求するべきだったんだが―――貴様は馬鹿だからそれにすら気付かなかった」
「………そう言う悠夜はどうだっていうんだよ!? 黒鋼だって飛行形態があるとか、どう考えても玄人向けだろ!?」
「そりゃあ、お前と違って俺はオタクだからな。魔法少女にはあまり手を出していないが、ロボットものだったら結構見てきたしプラモも作った。そもそも別種だがスタートラインが違いすぎる。後は、気持ちだな。そりゃあ、最初は飛行形態から人型形態に戻る時は意外に苦戦したが、あんなものは慣れだ」
そもそも黒鋼は、俺がリアル系の範疇で俺が操ることを前提に作られた機体だ。戦い方は最初からイメージができていたし、絶対防御があったからこそ、俺は攻撃に遠慮がない。……今となっては中に人が入っていようが関係ないが。
つまり社交的な織斑とは違って陰険で想像力を鍛えていた俺はテンションに身を任せて無理やり適応させたわけだ。
「ということでだ、織斑。お前は何かあれば篠ノ之との合流を急げ。そして篠ノ之、お前はあまり攻撃に参加するな」
「なっ!?」
何故かはわからないが、どうやら織斑と一緒にいたらしい篠ノ之は不満を見せる。戦闘狂とまではいかなくても、それなりに戦いにこだわりがある篠ノ之にとっては屈辱なのだろう。
「まず一つ、篠ノ之の紅椿には絢爛舞踏がある。そして二つ目、今度の場所はいくらIS用とはいえ範囲が限られているからだ」
「それがどうしたというのだ!? 私だって戦える!」
「……………」
今すぐ篠ノ之を監禁したくなった。もちろん、性的な行為をするわけではない。
この女はまず、ゲームにおいてヒーラーがどれだけ大切な位置にいるのかを身を以て知らせる必要がある。はっきり言おう。まずこの女にはISの授業よりも篠ノ之自身が築き上げた物を壊すべきだ。
「………兄様?」
心配そうに俺の顔を覗き込むように見るラウラ。俺はヤバい顔をしていたらしい。
「悪いな。つい、悪い癖が出た」
「―――ああ、全くだ」
後ろを見ると、織斑先生が殺気を放って立っていた。
「さっきから授業をサボって談義ばかりしているとはな。よほど私の授業がつまらないようだな」
「あ、織斑先生。すみませんが明日の夜辺りから一年生の専用機持ちで作戦会議をしたいのですが」
「今それを言いますの!?」
敢えて空気を読まずにそう発言すると、オルコットが焦りはじめる。だからこの女は大したことないっての。
「さっきから話していることか。当日の警備は―――」
「万全だ、だなんて本当に思っていますか? それとも轡木ラボから救援が来ると? もしくは訓練機しかいない部隊如きになんとかできるなんて思ってます? そもそも、向こうはISとか超能力を持っていて、無法者故に好き勝手できる反面、こっちは観客やこいつらが邪魔でルシフェリオンで無双できないんですよ? むしろ行事すべてを中止にするべきです」
そう言いながら俺は楯無にメールを送った。「今年度の行事すべてを中止にできないか」と。
「それができるなら苦労はしない」
「そうですか。じゃあ上に伝えておいてください。「これ以上、余計な真似をしたときは本気で国を地図から消しますよ」って」
「………そうだな、伝えておく―――が、今は授業だ。貴様こそ真面目に受けろ」
「気が向いたら―――って言ってもマジでやることがないんですがね」
すると懐からメロディが流れる。スマホを取り出した俺は、楯無からのメールを見て、「やっぱり」と思いながら画面を閉じた。
―――今更無理
「というわけで、第一回、第一学年専用機持ち対策会議を始める」
「ちょっと待ちなさい」
空き教室を間借りして集めた専用機持ち(一年限定)にいきなり本題を出すと、鈴音が待ったをかけた。
「重要な話があるって聞いたけど、対策会議って―――」
「無論、襲撃対策だ」
そう告げると鈴音は驚きを露わにする。簪はいたって普通だが、おそらく面白くないだろう。
「そう言えば、僕だけのけ者にしてそんな話してたよね」
酷いよとでも言いたげにジアンがそう言った。
俺はそれをあえて無視して宣言の真似事をする。
「もう既に各々感じていることだと思うが、今のIS学園にいる部隊ははっきり言って使い物にならない。クラス対抗戦、学年別トーナメント、……まぁ、臨海学校は別としても、学園祭時ははっきり言って醜態しか晒していない。なにせ、俺が生身で、そして剣一本で潰した機兵相手にISを装着していたのにも関わらず、苦戦していたからだ」
簪が何かを言いたそうな顔をしているが、それも無視だ。どうせ「あなたは特別だから」とでも言いたいのだろう。……って、ラウラに鈴音、オルコットも似たような顔をしていた。
「ならばどうすればいいか? 簡単だ。いつも通りだが自分の身を自分で守ればいい。だが相手ははっきり言って強い。おそらく、単独で戦ってまともに戦えるのは俺らメタルチームのみだ。特に織斑、そして篠ノ之は話にならない。前は織斑のみやられたが、篠ノ之、いずれお前もやられる」
「……絢爛舞踏を以てしても、か?」
「ああ。聞けば学園祭ではルシフェリオンと同等だという機体が二機も現れたという話だ。それが本当なら、出力次第ではISは操縦者諸共跡形もなく消せる」
「そ、それはいくらなんでもないだろ……」
織斑がそう言うが、実のところ洒落にならない。
ルシフェリオンの出力は二通りある。
武装出力と機体出力であり、どちらも100%の目盛りが設けられている。以前ゴスペルを倒した方の出力は武装出力のみで、機体出力は10%のままだ。
「ちょうど俺は消したい奴がいるからな。織斑、受けてみるか?」
「いや、いい……」
顔を引き攣らせる織斑を見て愉悦になったが、今は平静を装って話を続けようとした。だがその前にオルコットが挙手をする。
「あなたの話はわかりましたわ。ですが、何故これを教員や生徒会長に言わないんですの? 特に織斑先生には伝えるべきでは?」
「教員は教員で無駄なプライドを持っているからなぁ。それが厄介なんだよ」
やっぱりあの時、IS諸共教員だけは潰しておけば良かったかな。
「それにもう一つ、おそらく襲撃のタイミングは俺たちのレース前後と思われる」
「……アタシたちが、最大戦力だから?」
「その通りだ。絶好の機会は、俺たちのレース終了後の一年生の訓練機部門だな。確か、当日は各国の整備要員が来るんだろ?」
「うん。そう言えばリゼットも「是非行く」って」
後でいつでも送り返せるように段ボールの用意をしておこう。
「イギリスや中国はどうだ?」
「当然来ますわ!」
「アタシんところも同じくよ」
となれば、ますますその時ぐらいが危ういな。
「ということで各人、襲撃されることを前提に動けよ。特に織斑、お前は前科持ちなんだからな」
「楯無さんにも言われたんだけど………」
そう言って肩を落とす織斑を見て、何故かムカついた。
■■■
少年―――0は満足そうに自身の前に立つ機体を眺めていた。
色合いも何もかもが彼が今手にしている物と同じである。オリジナルとは違って赤い部分は紫になっていて、ますます悪役っぽさが出ていた。
「やはり、兄弟と言うものは似るようだね。結果的に同じ称号を手にしたんだから」
また、一部細部も異なっている。その点を含めれば原型が留めていないとも言えるだろう。
「マスター」
そう呼ばれた0は後ろを向く。いつもとは違って気怠さはなく、むしろ今から何かをしそうな雰囲気を出していた。
「私も行くことになった」
「……まったく。スコールは何を考えているんだか……」
「私から志願した。「アニマラー」の操作は「
「……あの無人機たちか」
0の言葉に頷くティア。
それを聞いてしまえば仕方ないと言わざる得ない。
「……まぁいいや。でもティア、万が一落とされそうになったら絶対に逃げるんだよ?」
「……もちろん」
そう言ってティアは0の首に腕を回す。それに応えるように0はティアとキスをした。
(……もうすぐだよ、桂木悠夜……いや、兄さん。もうすぐ、あなたと戦える)
その思いを感じ取ったのか、ティアは0に容赦なく頭突きを入れた。
元々、学園祭編までと違ってキャノンボール・ファスト編って容量が少ないし、簪の問題が早期に解決したことで6、7巻ってあまり触れることってないんですよね。
なので今の章と次の章は物語の進行がいつもより早い気がします
それはともかく、ようやく亡国側の兵器が何個か出せた。
※機体紹介
・仕狼
亡国機業に所属する「T」ことティアが使用する機体。ISかどうかは未だ不明だが、この機体によって「アニマラー」なる無人機を操作することができる。
・アニマラー
亡国機業の実行部隊「モノクローム・アバター」が抱えている無人機の名称。製作者はすべてティアであり、核となるコアは従来のISと遜色がないらしい。
しかし無人機故に機体に絶対防御がなく、やろうと思えば生身で撃墜可能。ただしそれを行うにしてもかなりの身体能力が必要であり、今のところ生身でできるのは陽子と悠夜の二人のみである(凶星VS破壊姫を参照のこと)