IS~自称策士は自重しない~   作:reizen

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#114 風の来襲

 悠夜とぶつかった少女―――暁は唖然としていた。

 

(ちょっ、どうしてユウ兄がこんなところにいるのよ!?)

 

 以前の襲撃事件を終え、久々の休暇を満喫するために彼女らもレゾナンスへと赴いていた。メンバーは暁のほかに男が二人、そしてミア―――そう、ミアもいるのだ。

 

 ミアが解放されることが約束された瞬間、はっきりと仕事をこなすようになった。

 自分の着替えは気が付けばできている状態だし、凄いことに朝起きたら既に朝食が出来上がっている状態……食事ができているのはいつものことだが、いつもよりも豪華なのだ。

 これが嫌味とかそう言うのではないことは暁も理解している……というか明らかに喜んでいるのだ。

 

(もし今の状況で出会ったら、間違いなく置いて行かれる!)

 

 別に暁が料理ができないとか、そういうわけではない。暁自身、ミアとの生活には慣れているし、何より同年代で姉のような存在に予定より早く出て行ってほしくないのだ。

 

(ここまでこれば大丈夫ね)

 

 レゾナンスから少し離れたビル群の一つの屋上に降り立った暁は周囲に誰もいないことを確認してからしゃがんだ。

 

(……あれ? そう言えば、ユウ兄は―――)

 

 自分が置いたはずの兄を見ると、いつの間にか自分の首筋に手が添えられていた。

 だが数秒すると、その手が離される。

 

「……どういうつもり?」

「考えてみれば、俺をどうこうするつもりなら最初から焦った顔をして俺をどこかに移動することはないだろ。あそこには俺たちどちらかがいたら都合が悪い何かがいる。………もう一人の、緑色の髪の方か?」

「…………」

 

 返事を返さない暁を見て悠夜は図星を突いたと思ったが、暁は別のことを考えていた。

 

(………やっぱり、記憶がないんだ)

 

 それを言葉にするのを躊躇った暁は、そっと悠夜に抱き着いた。

 悠夜は暁にことを詳しくは知らない。

 襲撃者であり、以前逃がした相手ぐらいで、後はルシフェリオンと同等の機体を持っている程度の認識しかないが、流石にビルが所狭しと存在する地帯で世界崩壊待ったなしの戦闘をするのは気が引けたということもある。

 だが、急に抱き着かれるのは予想外だったようで、体を停止させてしまったが、悠夜は何故か「それほど悪くない」と感じてしまった。

 

(……というより、懐かしい……?)

 

 疑問を感じながら、悠夜はそっと暁の頭に手を置くと、殺気を感じた悠夜は暁を抱えたままそこから飛んだ。

 

「………簪?」

「何、してるの……?」

 

 瞬時に「ヤバい」と思った悠夜。だが簪は怒りを露わにしている状態で、容赦なく力を使った。

 水の鞭が悠夜―――ではなく暁を攻撃しようとするが、暁は悠夜から離れて水を水蒸気に変えた。

 

「容赦ないわね、更識簪」

「…敵に情けをかけるほうがおかしい」

 

 そう言って簪は悠夜を睨むが、悠夜は目を逸らした。

 

(………気持ちはわからなくはないけど)

 

 内心そう思う簪だが、それでもやはり彼女はさっきの光景を見て素直に喜べないでいる。

 

「って言うか、一体どうやってここに!?」

「……ある程度なら、力を使って色々できるから」

 

 それを聞いた暁は驚きを露わにする。

 簪が使用できるのは水。水を使用して得物を切断したり物を受け止めたりすることもできるが、神樹人は王族と言う例外を除けば一つの能力の派生しか使えない。さらに言えば能力のコントロールはかなりの訓練が必要なのだ。水を司るヴァダーの末裔とはいえ、その技術が廃っている家の人間が使えるなど暁は知らなかった。

 

「どうやら情報を正す必要があるわね」

「……あと、手伝ってもらった」

「………はい?」

 

 瞬間、暁はその場にいるはずの人間が消えていることに気付き、簪は水球を作って撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、俺は織斑を馬鹿にできないのではないかと度々思うことがある。

 目の前にいる少女……の割に胸はかなりデカいレベルなのだが、それはともかく、目の前にいる襲撃者は俺を見て戦闘態勢を取っていた。しかもそれは通常の方ではなく、間違いなくX指定の物だろう。

 

「まさか、あの女がユウ様の情報を売ってくれるとは。これはチャンスですね。ということで、失礼します!」

「何が―――って、させるか!!」

 

 俺の服を掴んで脱がせようとするその女の目はマジのつもりなのか、血走っていた。

 

「ちょっと待て! 何が一体どうなってるんだよ、おい!? っていうか外! ここは外だから!」

「些細な問題です!」

「全然些細な問題じゃないんだけど!?」

 

 というか、何でこの人はここまで積極的になってんだよ!? というか、どこかで見たことがある……あ。

 

「アンタ、この前の襲撃者!?」

「はい! ですが、私はユウ様に敵対するつもりはありませんよ?」

「そう言う問題じゃないと思うけど……」

「どちらかと言えば、今すぐユウ様の部屋に突撃して飼われたいぐらいです」

「真顔でなんてことを言ってんだよ!?」

 

 リゼットのことが脳裏に浮かんだ。この女といい、リゼットといい、もう少しまともなのはいないのだろうか。

 

(というか、そもそも襲撃者がこんなところにいて良いのだろうか?)

 

 全然良くない。むしろ問題視することだろう。

 俺はすぐに準備をして距離を取ろうとするが、それを先読みしたのか、女性は俺にキスしようとしたところで何かに吹き飛ばされた。

 

「悠夜さん」

「…簪、それに………」

 

 そう言えば俺、彼女らの名前を知らない。

 いや、敵なんだし知る必要はないと言えばないんだが、呼ぶときにはどうしても不便だな。

 

「暁だよ、ユウ兄」

「……………あの、いや、なんでもない……」

 

 俺に妹はいないと突っ込みそうになったけど、同居人の大半が年下であり、幸那は義理とはいえ戸籍上は妹なのでごまかすことにした。

 

「……そっちも学園祭で襲撃した奴だよな? そんなのがどうしてこんなところに?」

「買い物よ。どこかの誰かさんが連れてきてはいけないのを連れてきてしまったから、お釈迦だけど」

「私たちはデート」

 

 さりげなくそう言った簪。その言葉に反応したのか、さっき倒された女性は起き上がった。

 

「で、デデデ……デート?!」

「何か問題でも?」

「問題大ありです! そもそも、ユウ様を独占しようだなんて―――」

「なんだったら、今すぐ入籍しても問題ない」

「おーい、日本の法律だと俺はまだ無理だからなぁ」

 

 そもそも俺はまだ17だから。後半年以上待たなければならない。

 そう説明する前に、簪は平然と言った。

 

「間違った。今すぐセッ―――」

「はいはい。とりあえず簪は黙っておこうねぇ」

 

 すぐさま簪の後ろに移動した俺は無理やり口を塞ぐと、何故か女性はそれを羨ましそうに見ていた。

 

「で、こっちはミア……」

「お嬢様。やっぱりあの時に―――」

「もう、それを言わないの」

 

 二人は二人の事情があるらしい。

 しかしなんだ。さっきから簪が妙に勝ち誇っている気がするんだが。そして対照的にミアさんは物凄く不機嫌なんだが。

 

「………ともかく、一度ここから離れよう。いくら何でもビルの屋上は寒い」

「……そうね」

 

 9月下旬とはいえ、俺たちがいる20階の高層ビルは流石に寒かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずレゾナンスにあるカフェに入った俺たちは、それぞれ学園組と襲撃者組に分かれて座っていた。

 

(本当、どうしてこうなった)

 

 まるで炎のような紅蓮の髪に、冷徹を思わせる濃い青に変わっている髪、さらに俺の前にはさっきからある意味不愉快な視線を送ってくる緑色の髪。傍から見ればハーレム……いや、修羅場か。

 本来ならあの場で別れれば良かったのだが、どうせなら情報を引き出そうと思ったのだ。話してくれる保証はないが、簪経由で楯無に俺たちが会っていたのはばれるだろうし、どうせなら弁解できる材料を用意しようという魂胆である。

 

「で、ユウ兄。IS学園ってそんなに守る価値ある? 何だったらユウ兄が必要としている人を全員連れ去ることはできるけど?」

 

 さっきまでの低いテンションはどこに行ったのか、暁と名乗った少女はどこか楽しそうに言った。

 

「そうなると企業単位なんだよなぁ。勝手に移動させたら怒る人もいるだろうし……」

「そんなことよりもユウ様。お付き合いしている人っているんですか?」

「私としてる」

 

 ミアさん……もとい、ミアがバッサリと他人を切るような発言をしたかと思ったら簪が爆弾発言をした。

 

「もっと言えば、悠夜さんは私だけとじゃなくたくさんの人と寝てる」

「おい待て。今の年齢でその発言はマズい」

「流石はユウ様。ですが少ないですね。ざっと100人と寝ているのかと思っていましたが」

 

 何気なく爆弾発言をするミアに、俺は思わず手を振って否定した。

 

「いくらなんでも俺にそこまでの価値はないっての。そもそも俺、そこまで人気ってわけじゃないし」

「………はい?」

「そう言えば、悠夜さんの素顔がばれてもそこまで変化はなかった」

 

 そうなのだ。むしろ女装が似合いすぎるとか、それによる嫉妬で以前の倍は恨みが綴られた手紙が生徒会室に送られてくると楯無が愚痴を溢していたほどだ。

 すると何故かミアは机を叩いて立ち上がる。

 

「変化が……ない? あのゴミ共はユウ様の価値がわかってないの!?」

「落ち着きなさい、ミア。ここで目立つのは避けたいわ」

「ですが―――」

「まぁ、気持ちはわからなくはないけどね。でも考えてみなさい。今のユウ兄が本気を出したら、IS学園は完全に崩壊するのよ? 恨んでいた相手が神の所業とも言えることをして、気が付けば自分たちは死んでいたとか、最高な展開じゃない」

 

 暁の不気味な笑みに既視感を感じるが、今はスルーしておこう。

 というか平然と俺を歩く核兵器みたいなことを言ってるけど、俺はそこまで危険視されるようなことはしていない! ―――と、残念ながら宣言できないな。

 

「………ところで聞きたいんだが、二人は俺の何なんだ?」

 

 自分でも空気を読めないことを言ったなぁと思ったけど、ずっと気になっていたことだ。

 

「私はユウ様の奴隷です!」

「妹」

 

 ミアのせいで無駄に注目を集め始める。「奴隷?」「奴隷って言った?」と騒ぎ立てられる。

 何人かがこっちを見てきたので、軽く睨みを利かせて黙らせた。

 

 

 

 

 そこからは、本当に沈黙していた。

 俺はこれ以上、墓穴を掘らせないために。簪はそれに倣ってか一言も話そうとしないし、二人もあまりそういうことはいないつもりらしい。

 とりあえず食事を済ませた俺たちは誰が支払いをするかと言う話になったのだが、俺が全員分出そうとすると割り勘と言う話になりそうだったので、伝票をパクって先に支払いを済ませて外に出ると、珍しい光景があった。

 

(五反田の奴、何をやってんだ?)

 

 織斑と何故か一緒にいる五反田弾の姿を確認した俺は、とりあえず電話をかける。

 

『もしもし。すみません、今ちょっとそれどころじゃ―――』

「まぁ、いかにもってぐらいに修羅場だもんな」

『え? どこかにいるんですか?』

「何も考えずにともかく左見てみろ」

 

 言われた通りに視線を移動する五反田。すると俺の姿を見つけたらしく、驚きを露わにした。

 織斑もそれに釣られたのか視線を移動すると、俺の姿を確認したらしい。まぁ、運が悪いことに俺がいる店と奴らがいる場所には道路があり、近くには横断歩道がない。幸いなことに屋根があるので残りの三人には悪いが一足先に俺は跳ぶことにした。

 急に現れたように見えたのだろう。五反田たちは俺が現れるとすぐに驚きを露わにする。

 

「………一夏さん、この女性は……」

「おい蘭! この人男! 男だから!」

 

 弾が俺を恐れながらそう言った。

 蘭と呼ばれた女は「何言ってんのよ」と返すが、とりあえず言ってやる。

 

「織斑、お前中学生に手を出す趣味があったのかよ。日頃から女をとっかえひっかえしているとは思ったけど、中学生はないわー」

 

 ちなみに俺の場合は手を出しているわけではない。織斑と違って手は出していないからな。

 

「ち、ちげぇって。俺はそんな―――それにとっかえひっかえってそんなこと、したことないぞ!?」

「歩くセックスマンが何を言うか」

「一体何の話だよ!?」

 

 振っておいてなんだが、相変わらず妙なテンションで接してくるな。

 

「あ、知ってる? こいつとうとう、部活後の女子に手を出す趣味に走るらしいって話」

「そうなんですか!? 前からかなりの問題児だと思ってましたけど、そこまでになってるなんて……」

「ちょっと待てよ弾! 前から問題児ってどういうことだ!?」

「………ほら、この反応なんですよ? おかしくありません?」

「同じ男として、別の意味で嫌だな」

 

 蔑む目で織斑を見る。織斑は織斑で助けを求めるつもりなのか、篠ノ之や五反田の妹に視線を移すが、心当たりがあるのか二人とも目を逸らした。

 

「で、一体なんで修羅場を展開していたんだ? 織斑に寝取られた?」

「…いえ、実はですね……」

「そんなことよりお兄! いつまで家出してんのよ!」

 

 理由を聞こうとすると、妹さんが割って入ってくる。

 その発言に織斑も驚きを露わにした。篠ノ之は一人蚊帳の外だが、珍しく大人しくしている。

 

「ちょ、弾! 家出ってどういうことだよ!?」

「……まぁ、色々あったんだよ」

「色々? 知ってるんだからね、お兄がお母さんやお祖父ちゃんに私をIS学園に入学させないように掛け合ったって」

「え?」

 

 ということは、とうとう言ったのか?

 その意味を込めて俺は五反田の方に振り向くと、気まずそうに顔を逸らした。

 

「ちょっと、お兄!」

「まぁまぁ、ちょっと落ち着けって。あまりぎゃあぎゃあ喚いたって君のお兄さんの考えが変わるわけでもない」

「あなたは黙っててください! ちょっと―――」

 

 手を伸ばそうとする妹さんの腕を俺がはじいた。

 

「……何をするんですか?」

「なぁに。状況を察した上で行動したまでだ。ところで織斑、この二人が関わっていることで、お前はまた余計なことをしてないだろうな?」

「またってなんだよ!? ……ただ、キャノンボール・ファストのチケットを渡そうとしただけで―――」

「十分余計なことだろうが」

 

 俺は盛大にため息を吐いた。

 ここまで来てはもう取り返しが付かないレベルだろう。というか普通に考えてあんな目にあったら周りは遠ざけるっての。

 

「どこが余計なことなんだよ。蘭はIS学園に志望するつもりなんだぜ」

「これ以上、足手まといを増やすな」

「足手まといって何ですか!?」

 

 真面目な話、俺は一部を除いて大半が足手まといだと思っている。

 そもそも、相手の力量は理解できないわ、当たり散らすわ、もはや邪魔だわ、何であいつら、生きてられるんだろう?

 

「大体私、適性え―――」

 

 俺は反射的に口を抑えた。

 本来なら殴り飛ばして黙らせるつもりだが、こうすることですぐに黙らせることができるからだ。

 

「汚い! もう、何するんですか!?」

「―――誰の手が汚いですって?」

 

 ―――ガシッ

 

 急に妹さんの頭が何者か……というか、思いっきりさっきまで一緒にいた自称奴隷ことミアが握りしめる。

 

「貴様は―――」

「悪い。そのまま気絶させてくれ」

「かしこまりました」

 

 そう言って赤子の手をひねるように妹さんを気絶させるミア。五反田は慌てるが、何故かそれだけで特に俺を責めようとしない。

 

「一体どういうことだ。何故貴様がここにいる!?」

「不用意な攻撃は止めた方が良いかと。場合によっては彼女を殺しますよ?」

「!? 卑怯だぞ!」

 

 織斑がそう言うと、ミアは一瞥して不気味に笑った。

 

「………悪い、五反田弾。事情が変わった。おそらくお前の妹はIS学園に入学させた方が良いかもしれない」

「……説明してもらえませんか?」

「ISの適性がAって、かなり少ないんだ。努力とかで変動するらしいけど、それでもBが大半。現に今年度入学は俺と篠ノ之以外はBらしいからな。もし天然のAが現れた場合、本気で取りに来る可能性がある。いや、もうマークされているだろうな。そしてもし、操縦者として見込みがなければ、後は理解できるだろ?」

 

 そう言うと五反田は顔を引き攣らせた。

 五反田は妹から馬鹿にされているが、そこまで馬鹿ではない。どこかのイケメンの方がよっぽど馬鹿だ。

 

「ともかく、事情はどうあれもう一度ちゃんと話をした方が良い。なんだったら、今度は俺が同行して―――」

 

 説明していると、織斑が俺らの横を通ってどこかに行った。

 

「一夏!?」

「…もう面倒です。ここにいる全員、まとめて殺します」

 

 そう物騒なことを言ったミアは右手を掲げ、織斑に向けって風を飛ばした。


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